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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第19章 故国
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第388話 帰還と出発

 ロワールを出て1週間後にマジックレディス一行はフライハイトブルクに帰還した(という体で、フライハイトブルクの大門近くのひと目につかない場所に転移した)。

 そして、もっともらしく馬車とゴーレム馬で大門に着くと、そこでそうした仮装用のギミックをしまって、徒歩で市内に入ったのだった。

 

 すでに噂が届いていて、門番には「今度はドラゴンスレイヤーですね!!」と声を掛けられる。

 いや実際には、以前に水龍を討伐した時点でドラゴンスレイヤーを名乗っても差し支えないのだったが、アドリアが「さすがの目立たがり屋の私も、伝説のSランク冒険者と同じ称号を名乗るほど自信家じゃないさ」と言って、雷撃のアドリアのままだったのだ。

 今回も、そのような声を掛けてきた門番には「大げさなのはやめとくれよ」と笑って返答するのみであった。


 パーティホームに戻る前に、先に皆で冒険者ギルドに行くことにした。

 普通なら疲れた体で帰還なのですぐに家に戻るものなのだろうが、何しろ彼女たちは訓練の後にはたっぷりの休養とごちそうを楽しんでいたので、元気いっぱいである。

 ギルドに着くと、市内をぶらぶら歩いていた一行に先行して知らせがギルドに届いていたので、建物に入るなり、「おかえりなさい!! ドラゴンスレイヤー!」とちょうど居合わせた仲の良い女冒険者や、かつてマジックレディスに所属していた女魔法使い達が拍手で出迎える。


 フロリアは身の縮む思いで、思わずモルガーナの背に隠れるが、そのモルガーナが「フィオちゃん、なんで隠れるのさ! 飛龍を討伐したのは姐さんとフィオちゃんの2人で私たちは見てただけじゃん」と大声で指摘すると、フロリアの腕を掴んでみんなの眼の前に立たせるのだった。


「おおっ」


 ギルド内にどよめきが起こる。

 

「あの娘がまたやったのか」「空を飛ぶ相手だからな。大鷲で飛べるのは強いさ」「あの年でドラゴンスレイヤーを名乗れるなんて、10代のうちにSランクに上がれるんじゃないのか」「粉をかけるんなら、今のうちだな」


 様々な声が聞こえてくる。

 程なく、マルセロとオリエッタが会うというので、2階に呼ばれてホッとしたフロリアだった。


 オリエッタの執務室に入ると、マルセロも同席していた。


「おや、若い娘達が頑張ってくれたみたいだねえ。ジャン=ジャックからも知らせがあったよ」


とマルセロは機嫌が良かった。


「まあ、飛龍の解体はうちでやりたかったけど、あればっかりは仕方ないね。商業ギルドのアルバーノ爺さんは残念がっていたけどね」


 フライハイトブルク程の大都市でも飛龍一頭分の解体と素材の売却を行うとなると、大きなお祭りレベルの騒ぎになり、それだけの金が動く。

 できれば自分のところでやりたかったのだが、大きな金が動くだけに他の国のギルドで納品するのが暗黙のルールのところ、横から掻っ攫うとクレームの元だ。

 ましてや、フラール王国とは通常時でさえ、モルドル河対岸のカイゼル王国との関係もあって喧嘩も接近もしたくない相手なのだ。最近は、そのフラール王国貴族の娘とフライハイトブルクの名家の跡継ぎとの婚約話が水面下で進行中だったのが流れてしまい、あちこちの派閥の様々な思惑が入り乱れていたのだ。

 そんな時に揉めるネタが増えるぐらいなら、飛龍に手を出すことなど無い、というのが冒険者ギルドの意見であった。


 むしろマルセロは、怒りの山周辺の森の魔物の異常発生の方に興味が深そうであった。

 ロワールの町の冒険者ギルドの見解は「飛龍やトロールという超大物の魔物が出現したために、ところてん式に縄張りを追い出された大物魔物の引き起こしたものってことだけど、直接闘ったあんた達もそれで良いと思うのかい?」とマルセロが聞いた。


 アドリア達はもちろん、それで異存はないと答えた。

 マルセロも急にトロールや黒龍のような大物が出現したのに何か理由があるのかも、という漠然とした不安があっただけで、実際に現場に居たアドリア達がそう答えたのでそれで納得した。

 年をとると、色々と心配性になるものでねえ。というのがマルセロの感慨であった。


 こうしてギルドを後にした一行は、パーティホームに帰ってくる。

 パメラおばさんが出迎えてくれて、「いよいよあんた達も歴史に名を残すような大物パーティになってきたね」と喜ぶ。


 その日と翌日は、元パーティメンバーだった女魔法使いや、親交のあるパーティの中でフライハイトブルクに居た連中が押し寄せてきて、宴会になる。

 町の大商人や金持ちだけが住む、閑静な高級住宅街の中の一区画を占めるパーティホームなだけに、あまりお上品ではない冒険者たちの大騒ぎの宴会は周囲にどう思われたものか? ただ、誰もクレームをつけて来ないのは、町の英雄に苦情を入れて逆に悪者扱いされるのを避けたのかも知れない。


 やっと落ち着いたところで、またギルドまで出向いて、パーティが独自に「怒りの山」周辺の狩り場で倒した魔物の納品をした。

 もともと、現地のロワールで相場の2割増しで買い取りという密約だったが、飛龍やトロールをはじめ、あまりに獲物が多すぎて、相場そのものが値崩れしてしまったのでギルマスのジャン=ジャックの了解のもと、フライハイトブルクに持ち帰ったのだ。

 フライハイトブルクでもロワールの影響で若干の値崩れはあったが、数が多かっただけに十分な実入りになった。

 それに加えて飛龍の素材の買い取り分がやっと確定して入金されているし、「赤いバラ」の救援の代金などなど諸々の収入まで合わせると、けっこうな金額になった。


「フロリアの嬢ちゃんや。あんたもそろそろ、自分の資金の運用ってもんを考えた方が良いと思うぞ。細かいことはルイーザに聞くと良い。それでその気になったら、私に言えば、改めて商業ギルドのピエトロに話を通すよ」


とマルセロが言った。


 アドリアもパーティの資産や個人資金を、けっこう運用している。とは言っても、難しいことはしていない。商業ギルドが勧めてくる投資案件や不動産などにお金を出すだけ。普通はそんな大雑把な投資などしたら、良いカモにされるだけなのだが、マジックレディスぐらいの大物となると話は別だ。

 町の英雄として広告塔になるし、彼らが大物を討伐すれば大きな金が動く商売が発生するし、町の安全保障にも役立つ。

 商売のプロ中のプロが絶対に儲かる案件を厳選して持ってくるのだ。損をするどころか、運用だけでもアドリアもパーティも相当な利益を出している。


 マルセロは、フロリアにもそうした美味しい投資案件を世話すると言っているのだ。

 フロリアの口座に入っている資金がそろそろ洒落にならない金額にまで膨れ上がったという面もあるのは間違いないが、それ以上にフロリアを長くこの町に本拠を置くように留める対策の一つなのである。


 投資の話はまた改めてすることになって、一行はパーティホームに戻る。

 アドリアは使用人を集めて、自分たちはまた骨休めに別荘に行く、皆も交代で特別休暇を取ると良い、と言ってボーナスを支給したのだった。

 アドリアの別荘は、フライハイトブルクからほど近い海辺にあり、周囲の人間もここがアドリアの別荘とは知らない。エンマが以前、傷ついた体を癒やした場所でもある。

 パーティホームの使用人の中でもパメラおばさんだけがこの別荘のことを知っていて、何かあれば連絡を入れる、ということにして一行は翌朝、ふたたびフライハイトブルクをあとにしたのだった。


 もちろん、この別荘に滞在するというのは皆で日本を訪れている間の"アリバイづくり"のためである。

 別荘の管理人のおじさんには因果を含めて、誰かが訪ねてきても何も知らないと答えるように頼む。パメラおばさんからの連絡の場合は、パーティホームにねずみ型ロボットを多数配置しているので、おばさんが使いを出せばすぐにセバスチャン経由で報告が来るので、使いが別荘到着前までには誰かが戻ってくる、ということにしたのだ。


「ギルドを始め、至る所にねずみの諜報網を張り巡らせております。何かの異変が発生してパーティホームに連絡の依頼が来る前には、こちらで詳細をご報告出来ますので、ご安心下さい」


 セバスチャンの言葉である。


 そうして、別荘の一室に転移魔法陣を設置すると、そこから皆で一旦、ベルクヴェルク基地に飛ぶ。

 

 いよいよ、日本を訪問出来るということで皆、どこか浮ついた気分になっている。普段は冷静なルイーザやソーニャも、日本の町の様子を映したニュース映像を見ながら、どんな服装にするか、たくさんの衣装をとっかえひっかえしては、鏡に映している。


 セバスチャンは池袋駅の近くで、マンションの一室を民泊として貸し出している物件を押さえていた。


 それとそれぞれのパスポートを偽造していた。

 だんだん、違法行為に慣らされていく……という思いのフロリアであったが、確かに何らかの身分証明書が無いと面倒事に巻き込まれそうである。


「で、アメリカのパスポートになってるけど、私たち誰も英語なんか喋れないよ」


いつも読んでくださってありがとうございます。



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