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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第18章 魔境で
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第385話 撤収

 飛龍の出現の報告を受けて驚きの色を隠さないギルドマスターのジャン=ジャックだったが、すでにマジックレディスによって討伐されたと聞き、安堵のため息を漏らす。

 万が一、飛龍が森をでたら、最初に襲うのはこのロワールの町で、上空から強力なブレス攻撃を受けたらあっという間に壊滅してしまうであろう。

 それだけで済まない。近隣の町も危険である。

 この大陸の都市は、七大転生人の1人である大建築家フランク・ライトが確立した土魔法による城塞壁工法のおかげで、相当な強度を持つ城壁に守られている。しかし、これらの城壁は地を往く魔物から町を守るためのもので、それだけに限定するのなら弱いスタンピードにも耐えるほど優れたものであるが、空を舞う魔物は古来、ほとんど存在しない。まして、空から攻撃を加える飛龍などよほど深い山脈の奥にいかないと見かけることすら殆どない。

 だから、万が一飛龍が町を襲うようなことがあれば、対抗手段らしい対抗手段が無いのだった。


「で、飛龍の素材はどうした?」


 当初の恐怖が去ると、一瞬で商売の話になるのは、こうした町でギルドマスターをつとめるジャン=ジャックらしいふてぶてしさでもある。


「ああ、フロリアが収納におさめているよ」


 フロリアが素材の状況を口で説明すると、「それは後で見せて貰いたい。で、ここで売ってくれるんだろうな」とジャン=ジャック。


「その積りだが、これについては2割増しはちょっとまずいんだ」


 流石にこれだけの大物ともなると、金の流れがどうしても、ギルド内で知られてしまうし、ベテランの冒険者の間にも広がるのは避けられない。

 そうなると、密約でマジックレディスだけ2割増しで素材の買い取りをする、という約束を知られることになり、そうした密約無しでこの狩り場に来ているラウーロやカルメーラに対して具合が悪い。


「だから、その分、何か別の形で補填しておくれよ」


 そうでなければ、フライハイトブルクに持って行って売却するというと、それは国際問題になるのでやめてくれとジャン=ジャック。

 もちろん、大物はその町のギルドでは買い取れない程であれば、もっと大きな町に運ぶということはあるが、国境を超えて運ぶとなると問題になる可能性がある。

 ましてや飛龍ほどの獲物だと当分の間、町が活気づくほどの経済効果があるのでそれをみすみす他国に運ばれると後で揉めることになるのは容易に想像がつく。


 アドリアもそれは分かっていて言っている。ただ、2割分を何らかの形で分捕るために釘を刺しただけである。


「森の中で魔物が大移動しているのなら、ちょっと危ないな。冒険者達に町に戻るように信号を打ち上げることにする。アドリア達もしばらくは町に居てくれよ」


「分かっているさ。だけど、これから仲間を迎えに往くから、夜まではまた出かけるよ」


「それは構わない。気をつけてな」


 こうしてギルドを出ると、すぐにまた町の大門を出て、大鷲を呼び出す。

 モンブランが森の上空を警戒している眷属の報告を教えてくれるが、魔法使い達は順調に歩みを進めている。魔物が集まってきている中を突破するので、進路を塞ぐ魔物だけを討伐して先を急いでいるのだが、それでもすでに大物に分類される魔物を20頭以上片付けて収納袋におさめているそうだ。


「フロリア、悪いけど休ませて貰うよ」


 空に上ってひと目がなくなるとそう云うアドリアのため、亜空間の扉をあける。


 大鷲の背から、扉の中に転がり込むと、アドリアは「6時間ぐらい経ったら、ブラウニーに起こして貰うから、適当に扉を開けておくれよ」と言いながらフラフラと奥に消えていく。


 一列縦隊になって、森の中の細い道を進む一行に合流したのは5分程先であった。

 木々の枝が邪魔になるので、上空から飛び降りて、モルガーナ達の横に着地する。


「ご苦労さん、フィオ。姐さんはどうした?」


「いろいろと用事がありまして……。それと、先に休んでいます」


 パーティ以外の魔法使いが居るので、どこで休んでいるかは言わない。これだけ聞けば、町でギルドと相談してから先に行きつけのホテルで休んでいるものと思うであろう。


 一行は先頭にトパーズの眷属が5頭、その後にマジックレディスの3人、中央部にカルメーラとメンバー2人、その後がラウーロで、殿にトパーズの眷属の残り5頭で、ニャン丸はあちこちを飛び回っている。

 フロリアはカルメーラのパーティのミカエラとモラレスに、徒歩で町に戻るのではなく、大鷲で移送すると提案する。

 いくら強力な治癒魔法で怪我を治し、体力回復用のポーションを数本ずつ飲んだとはいっても、普通ならば瀕死の重傷を負ってさほど時間が経っていない。かなり辛い筈である。

 カルメーラもその提案を受け入れて、2人に先に戻るように言うが、2人とも「カルメーラを置いて、先に戻る訳にはいかない。たとえ役立たずであっても、俺たちはカルメーラから離れない」と主張したので、そのまま徒歩で戻ることになった。仲間を亡くしたばかりで、さらにパーティリーダーと離れるのは辛かったのであろう。


 それでフロリアも含めて、森の中を歩いてロワールまで戻ったのだが、最奥部から途中数回の休みを挟んで、8時間ちかくも掛かったのであった。途中で、町から森の冒険者達に帰還を促す信号弾が続けて何発も空高く上がったのが、木々の間から視認できた。


 魔法使い達は身体強化魔法を使えば、こうした強行軍にも耐えられる。フロリアだって、普段の移動も休憩は亜空間で快適に休めるが、徒歩数時間程度は別に珍しく無い。

 今日はそれがちょっと長めだっただけで、別になんとも無いのだ。

 むしろ怪我あがりのミカエラとモラレスも遅れること無く、その行軍に付いてこれたのは流石である。

 大盾使いのミカエラは元々、非魔法使いの冒険者としてはそれなりに名前の売れた冒険者で、カルメーラにスカウトされて「赤いバラ」に加入したのだったが、モラレスは冒険者ではなくゴーレムのメンテナンスができるメカニックというだけでパーティに入ったという男で、加入前は冒険者ですら無かった。それなのに、この行軍についてこれるのはよほど心に思うものがあったのであろう。


 ロワールの大門に着いたのはすでに陽はとっぷりと暮れた後であったが、まだ大門は大きく開かれていて、光魔法の魔導具で煌々と照らされていて、門衛も普段よりも多く配置されていた。

 他にも数組のパーティが居合わせたが、簡単な問答だけでどんどん町に入れている。


 大門に近づく前にトパーズの従魔は送還して、魔法使い達だけになっている。

 それぞれ名前を名乗ると、マジックレディスに反応して、門番が「ギルドの職員が来てますよ」と教えてくれた。


「判りました。他のパーティの帰還状況はどうですか?」とルイーザ。


「浅いところのパーティはほぼもどっているんですが、深奥部に入ったパーティはまだいくつか戻っていませんね。

 ところで飛龍が出たって噂ですが、本当ですか?」


「出たよ、オジサン。でも、この娘が討伐したから心配要らないよ!!」


とモルガーナがフロリアの肩を抱く。


「ええっ!! 飛龍を討伐したのかい、お嬢ちゃん」


「い、いえ!! 倒したのは、アドリアの姐さんです!!」


 モルガーナの変ないじりに慌てるフロリア。門番は、さすがに雷撃のアドリアの名前をよく知っていたので、それで納得していた。


 門を入ったところに冒険者ギルドの職員が詰めていた。冒険者達の帰還状況をチェックしていたのだが、マジックレディスの顔を見たら、ギルドマスターが待っているのでギルドに顔を出して欲しいとの伝言を伝えてきたので、カルメーラたちとラウーロはここで分かれることにした。

 カルメーラは、ギルド職員がいる前で、明日の朝にギルドで待ち合わせたいとマジックレディスとラウーロに対して申し出た。


 救助の報酬に、パーティメンバー2人の治癒魔法の代金、そして獲物の割り分の相談をしたいとのことであった。

 あえて、職員がいる前でそうした言葉を口に出すということは、当たり前であるがごまかす積りはないという意味である。

 流石に名前の売れた冒険者達はそんなことはないのだが、ともすれば他に他人の居ない場所での臨時の救助要請などは後で報酬を踏み倒すことが無いとは言えないのだった。


 カルメーラ達とラウーロがそれぞれ去って、マジックレディス一行はギルドに向かう。大して遠くない場所にギルドはあるのだが、あえて少し遠回りしてひと目につかないところでアドリアを亜空間から出す。


「たっぷり寝たからスッキリしたよ。状況はどうだい?」


 ルイーザが手早く説明する。その後でマジックレディス一行でギルドに向かった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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