第380話 孤高の魔法使い1
そうしてお昼近くまで狩りをしたマジックレディス一行は長めの昼休みに入る。他の冒険者が活動する時間帯なので、なるべくかちあわないように亜空間に入って過ごすのだ。今回はマジックレディスが新武器のグロックに慣れるための慣熟訓練という意味合いもあるので、他のパーティには見られたくは無かった。
休憩時間だけでも2時間を超えるので、一行は防具を脱いで寛いだ格好となり、十分に手の込んだお昼を楽しむとその後は、思い思いに休憩時間を過ごす。さすがに今日はたっぷりと寝た翌日なので昼寝をするメンバーは居ない。
モルガーナは愛用の短剣を丁寧に手入れしている。実際の戦闘時には激しく扱うのですぐに壊すのだが、別に乱暴にしている訳ではなく、意外にも武器の手入れを欠かすことは無かったのだった。
そして、1時を過ぎたあたりで活動再開をすることにした。
「あ、姐さん。ちょっとまって下さい。出口の近くに人がひとり居ます」
「こんなところに1人かい?」
「はい」
ということは他のメンバーとはぐれたのでなければ、腕利きのソロの冒険者――おそらくは高レベルの魔法使いである。
ねずみ型ロボットの報告では特に慌てた様子もなく、1人で歩を進めているとのことなので、はぐれた訳ではなさそうである。
フロリアがだいたい200メートルほど離れた場所を徒歩で少しずつ離れて行っていると報告したところ、アドリアはそれなら数分も待てば、あちらの探知魔法の索敵範囲から外れるだろうから、それから外に出よう、と言った。
いきなり、複数の大きな魔力の持ち主が出現したら、詮索されかねない。
「1人ってことはラウーロなんだろうね」
アドリアにとって、「氷結のラウーロ」はカルメーラなどとは違って特にこちらに突っかかって来ることもなく、ライバル関係という訳では無かったのだが苦手な魔法使いなのである。
ずっとソロで活動していて、Sランクにまで成り上がっている。
寡黙でとっつきにくく、冒険者としての頂点を極めるまでの間、誰とも組んだことが無い、という変わり種である。もちろん実力のある魔法使いなのだから、これまでにも多くの人間からアプローチされてきたのだが、すべてバッサリと断っている。
「世間じゃ傲岸不遜とか尊大とかいろいろ言われているけど、そのぐらいじゃなきゃ、とても自由を維持できないのさ。そもそもホントに傲岸なヤツなら私のやり方が気に入らないと突っかかってきてる筈。カルメーラみたいにね」
アドリアにとっては、同じように類稀なる魔法の才能を授かりながら、自分とは正反対の生き方をしているラウーロはなんとなく苦手な相手なのである。
モルガーナあたりに言わせれば「気難しいおっさんより、みんなを助けてみんなに好かれる姐さんの方がよっぽど人間が出来てるよ」ということだったが、「おだてても何も出ないよ」とアドリアに返されていた。
ともあれ、そんな話をしている間にラウーロらしき魔力の主は十分に離れていき、マジックレディスは外に出ることが出来た。
「うっ」
外に出たところでアドリアが唸る。
「ひょっとして、ラウーロの探知魔法に引っかかったかも……」
「まさか。もうかなり離れてるよ、姐さん」
「ああ、だけどちょっと嫌な感じがしたんだよ。もしかしたら、探知魔法を使う魔物かも知れないけどね」
「きっとそっちだよ。ってことは、魔法をガンガン使う魔物が近くにいるってことだ。みんな、気を引き締めろ!」
モルガーナが調子良い。
しかし、アドリアの懸念は的中し、すぐに広く張り巡らせた探知魔法の端の方に再び人間の気配が引っかかり、それがまっすぐにこちらに近づいてきた。
マジックレディス一行はその場に留まり、相手が接触してくるのを待つ。殺気は感じないが、油断は出来ない。
数分後。
木々の向こうから人影が現れた。
軽装で腰丈のマントを羽織った中年の男性で、腰から短い刀を下げている(あとで、判ったことであるが、戦闘用の刀ではなく森の中で邪魔な木々を払ったり、焚き火用の枯れ枝を切るための剣鉈であった)。
「やはりアドリアか」
男は低い声で呟くように言った。
「久しぶりだね、ラウーロ」
ラウーロは感情の浮かばない目でマジックレディス一行を眺めると、「そちらの娘が話題の新人か」とフロリアを見た。
「ああ、そうだよ。もちろん未成年の見習いだから、戦闘はさせてない。ここまで連れてきてることについちゃあ、この娘なら万が一の時でも自力でなんとかできるって見通しがあるからさ」
「魔法使いが、一般人の規則に縛られることはない。好きにするが良い。だが、アドリアの良いように使われているんじゃないだろうな」
「むしろ、最近じゃあこの娘中心にパーティが回っているほどさ」
ラウーロはしばらくフロリアを見ていたが、「確かに只者じゃないようだ」というと、くるりと背を向けて立ち去っていった。
ラウーロが完全に見えなくなると、アドリアの肩の力が抜けたのが、そばにいたフロリアに感じられ、その時点ではじめてアドリアが緊張していたのが判ったのだった。
「さ、それじゃあ稼ぐよ」
「オー」
モルガーナ達が元気よく応えると、すぐに右手に向かって走り出す。オーガの気配を感じているのだった。
「あれはかなりの実力だったな」
トパーズは小声で囁いた。
***
ラウーロは、マジックレディスから離れると、油断なく周囲を探知しながら歩を進めた。
ソロで長らく活動しているだけにラウーロの探知能力はずば抜けている。フロリアも含めてたいていの魔法使いは探知範囲を広げると精度が落ち、精度を高めると探知範囲は狭まる。
それに対して、ラウーロは体の近くをある程度精度を高め、距離が離れるに従って精度はぼんやりしてくる、という使い方で、相当遠距離まで探知範囲に含める事が可能。しかも、気になった場所が遠くであっても必要に応じて、精度を高めて調べることができるのだった。
そして、もう一つ。それは自分が就寝している場合でも、半ば自動的に探知魔法を働かせて身の安全を図る方法を確立していた。
獲物を狩る場合にも、襲撃してくる敵を察知する場合でも、ラウーロの探知能力はここまでラウーロが冒険者として成功するための最大の武器であると言っても良かった。
しかし、今日はその探知能力でも、あれほどの巨大な魔力の持ち主(それも複数)が固まっているのに気が付かなかった。
ある段階でいきなり空中から出現したように見えた。
それでわざわざ森の中を戻って見に行ったのだった。
ラウーロの信条として、魔法使いたる者、独立独歩が基本であり、他人に干渉されることはとことん排除しなければならない。だから、他人が何をしようと、こちらに関係しない限りは放置していた。
その信条に反するようだが、今回については、自分の能力を超える敵意ある相手である可能性、または自分の能力が気付かぬうちに衰えている可能性を考え、様子を伺いに行ったのだった。
敵意ある相手である可能性については、以前に覚えがある魔力であったので、実はそれほど心配はしてなかったのだが。そこに居たのはアドリア達マジックレディスであった。
冒険者仲間ともあまり話をすることもないラウーロの耳にも、マジックレディスの有望な新人の話は入ってきていた。
まだ未成年でありながら、膨大な収納能力を持った収納魔法の使い手、そして従魔を駆使して空を飛び回る……。
その新人も彼女たちの後ろに隠れるように立っていた。
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