第372話 魔物の森へ
森の中を奥へあるきながら、そう言えばラウーロさんってどんな人なのですか、とフロリアが訊ねてみたところ、こうした時にいつも先生役のルイーザが今回も教えてくれた。
「ラウーロは、フライハイトブルクに本拠を置く魔法使いの冒険者ですよ。本拠を置くとは言っても、ソロで活動しているのですけどね。自宅を市内に買っているので、彼にとってのホームはフライハイトブルクということになるのでしょう。
基本の4大属性のいずれもが一流の腕で、その他には氷属性が得意で「氷結のラウーロ」という二つ名があります。ソロでSランクまでのし上がった実力派です」
「けっこう嫌なおっさんで、いっつも1人で仕事してるんだ。自分が人と仲良くやれない性格ってだけなのに、魔法使いは独立不羈とか言っていて、偉そうだし」
「こら、モルガーナ。それぞれ、自分の考えで活動しているんだからケチを付けるものじゃありません。別に姐さんに喧嘩を売るような真似をしたことも無いんですから、こちらもラウーロに文句を言う筋合いはありません」
アドリアは苦笑いして、「ああ、ルイーザの言う通りだね。邪魔されたことはないんだから、こっちが邪魔する筋合いは無いよ……ま、正直いってちょいと苦手なタイプではあるけどね」と付け加えるのだった。
森に入ってすぐ、フロリアは久しぶりにモンブランとニャン丸を呼び出すと斥候に出てもらっている。
只でさえ、複数の探知魔法使いがいるのだからそれ以外に従魔の斥候などあまり意味がないように思われるが、感知にかからない小動物や小鳥などの小物から、薬草や木の実、山菜といった森のめぐみに至るまで、効率よく集めてくれるのだ。
トパーズも森に入ってから、フロリアの影から抜けて、森の中を皆と一緒に歩いている。久々の森の中でイキイキしているように感じる。時おり鼻をひくつかせているのは、その都度、遠くの方で魔物の気配を感じ取っているからである。
ただ、今回は「大物狙いで小物はスルーして、他のパーティに任せる」という方針をフロリアの影で聞いていたので、それを尊重して自分のみで駆け出すのは自重していた。
普段のトパーズであれば、気の向くままに魔物の乱獲をしそうなものだが、強いパーティだからこそ、大物のみに絞って欲しいというギルドの意向が気に入ったらしい。
「む! だが、苦戦しているようだぞ、フロリア」
トパーズが頭を右に振って、森の奥を見通すように目を細めた。
皆、その方向に探知魔法を向けて、確かに冒険者パーティと思しき集団が魔物と戦闘しているのを確認する。
「確かにどうやら危険な状況っぽいね。どうする、姐さん? おせっかいする?」
アドリアはこの森に入る時点で、このような状況に出くわす可能性は考慮していたので、迷うこと無く指示を出す。
「近くまで接近して、訊いてみるよ。助けてくれって、向こうに言わせるまで、手出し無用だよ」
いくら超大物のみを狙う、という方針であっても、それは並の魔物まで片っ端から狩っていたら、他のパーティの獲物が足りなくなる可能性があるからで、パーティ自体がやられかかっているのら話は別だ。
いくら「並の魔物」と言っても、それはこの森のレベルからすれば、という意味であり、普通の魔物生息域なら十分に大物で通るような強さなのだから。
しかし、通常の場合でもやたらと横から救助に入ると、後で素材の取り分で揉めることが多いので、よほど冒険者側が危険に陥っているか、助けを求める発言が相手からはっきりとなされた場合でないと助けに入らずに遠巻きに見物しているのみ、というのはよくある話である。
「あいよ、姐さん」
モルガーナは、ただちに気配に向かってダッシュし、ソーニャがあとに続く。両名共に風魔法を付与した靴を使っているので、驚くほど早く移動できる。
「私も行くぞ」
トパーズも獣独特の低い姿勢で矢のように森の中を走り出す。
「姐さん、私も行ってみます」
「フロリア。あんたは一応、荷物持ちって設定だから、そのことも忘れるんじゃないよ」
アドリア達ももはや忘れがちだが、フロリアはまだ成人まで2年近くある。冒険者のルールとして、成人になるまではごく弱いツノウサギを除いて魔物狩りを目的に活動してはならない、という縛りがある。
このルールは、未成年の見習い冒険者を守るためのものだが、割りと抜け道が多くて形骸化しているし、そもそも未成年であっても腕利きの魔法使いならば下手な成人冒険者よりもよほど強いのだから、そうした者は適用除外にすべきであるという意見も多い。
ただ、そうした改正はのちの課題であって、今現在は生きたルールである事は変わりない。
従って、フロリアは今回も、マジックレディスの小間使、荷物持ちという設定でこの遠征に同行しているのだった。
フロリアもシューズの機能で先行したモルガーナ達を追う。
シルフィードを呼び出して、引っ張らせれば彼女たちに追いつけるかも知れないが、アドリアに釘を刺されたばかりだし、探知魔法で探ったところ、どうやら冒険者達は瀕死の重傷で全滅間近というほどでも無いらしい。
フロリアが追いついたときには、まだモルガーナ達は戦闘を見ている状態で、冒険者パーティ5名がオーガ2頭と戦闘していた。いや、1頭はオーガじゃない、一回り体の大きなオーガウォリアーだ。オーガウォリアーとオーガ。さらに地面に1頭倒れているがこちらは普通のオーガっぽい。
オーガって基本は群れないのだが、これは3頭だけの小さいながら上位種が率いるオーガの群れ、ということになるのか。
ビルネンベルクのときにはオーガキングが60頭ほども率いていたし、アルジェントビルの近くのモリア村のときには従魔になっていたとは言えオーガジェネラルが率いていてやはり20頭以上も居た。
それに比べると、オーガウォリアーだとこんなものなのか。
一応、探知魔法で周囲を探っているが、他にはオーガは居ないようだ。
「おーい、手助け要るぅ?」
モルガーナが呑気に声を掛けると、リーダーと思しき槍使いが彼女たちを見て、「いや、不要だ」と返す。
そう言われてしまえば、こちらとしてはちょっかいを出すことは出来ない。戦闘態勢のまま、待機するしかない。
トパーズは詰まらなそうな顔になる。
その冒険者パーティは男3人、女2人で、剣士、大盾使い、槍使い、弓使い、あと一人は荷物持ちっぽい。剣士と弓使いが女性で、荷物持ちは体格は良いが顔立ちを見るとまだ少年っぽさが抜けてない。
前衛3人は怪我を負っているようで出血もしているが、動きが鈍くなっていない。
「まあ、見習いを囮に使うような外道共もいるんだけど、このパーティは違うみたいだね」
モルガーナがフロリアの耳元でささやく。荷物持ちの男の子は弓使いの女性の後ろに退避しているので、確かに外道なパーティでは無いようだった。
このまま時間が掛かるだろうが、少しずつオーガの体力を削っていって、最終的には残り2頭も倒せそうである。
オーガは最大級のヒグマをその体力と戦闘力を1ランク上げて、直立歩行ができるように進化させて前足(というよりも手)が得物を握れるように進化した生き物、と思えばだいたい間違いない。
通常は森の中では食物連鎖の頂点に立つ最強種ということもあって、基本的にクマのような知恵を使わずに、同種で連携して獲物を襲うこともせず、人間との戦闘になっても単純にその強靭な体力任せに武器を振り回すだけというのが定番。
それ故、ヒットアンドアウェイに徹して、少しずつ体力を削っていけば、非魔法使いの人間でも勝てるのだった。
この森のオーガはどうやら頂点に立つ、という訳には行かないようで知恵を使っている。僅か3頭の群れとは言え、上位種のオーガウォリアーに従い、戦術を使って戦っている。現在は1頭倒されているが、残り2頭で前衛後衛を入れ替えながら、1頭だけが集中攻撃を受けないようにしている。
それに最前面に出ている大盾使いを単純に攻めるのではなく、1頭が大盾使いを牽制している間にもう1頭が槍使いや剣士に攻め掛かるという戦法も使う。
それでもさすがに冒険者側も連携が見事で、オーガの攻撃をいなしつつ、少しずつ倒していくという戦法を徹底している。
「いつまでも見ていても仕方なかろう。人間側の勝ちだ。もう戻ろうぞ」
トパーズの言葉にモルガーナ達もうなずく。
「そうだね、姐さん達を待ちぼうけ食わせても仕方ない」
踵を返そうとした瞬間。槍使いの足元がズルリと滑り、片膝をついてしまった。そこにオーガウォリアー渾身の一撃が横薙ぎに、槍使いの頭部を直撃した。
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