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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第18章 魔境で
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第370話 旅路(基地の日々)

 マジックレディス一行がフライハイトブルクの大門を出たのは翌々日のことであった。

 アドリアがギルドの首脳部であるマルセロやオリエッタとどんな話になったのかは不明である。

 ギルドでもある程度、一連のフライハイトブルク郊外の襲撃事件に関しての情報を得てはいて、グレートターリ帝国の関与についてもほぼ確信を持っていた。

 しかし、フロリアの果たした役割については敢えてこれ以上突っ込まないようにしている様子だったし、ましてや帝国の後宮で何らかの事件が起きたという情報については不明点が多すぎて、活発に水面下で情報収集をしているが判断できるだけの材料が集まらない、のであった。

 特に後宮の件については、基本的に別件が同時発生した可能性を考えていたのだった(時間的に移動するのが不可能なので)。


 それで、アドリアには「あのお嬢ちゃんのことで、言えることがあったら、間違いなく教えておくれよ。私らはたしかに自由都市連合の利益の代表者だけど、冒険者の味方でもあるんだからね」と言うにとどめた。

 アドリアは頷いたが、心の中では「生きてる古代文明の持ち主だった」なんで、"言えること"の範囲外だと思っていた。


 遠征の準備をして、パメラおばさんに留守を頼むと、マジックレディスは河下りの貨客船ではなく、陸路を通ってフラール王国を目指す街道に行くために大門を出たのだった。

 最近では、マジックレディスは馬車移動が多い、というのは割りと知られていたので特に不審がられたりはしない。

 そして、馬車がひと目がなくなるところまで進んだら、一行は亜空間に潜ったのだった。亜空間からベルクヴェルク基地へ転移した。

 

 まずは前回のおさらいから。

 この世界の住人である彼女たちにとって、現代日本で暮らした記憶を持つ転生人達の遺物という側面もある魔導具などは理解しにくいのではないかと心配していたのだが、意外とすんなりと受け入れられた。

 物理防御魔法防御機能を持った衣服などは、性能は低くとも同じ発想で作られた魔導具は今でもあるし、グロッグ型の短銃も攻撃魔法を撃ち出す魔導具と捉えれば理解しやすい。風魔法付与した靴も原理は一発で理解出来た(馴れるまで多少の時間が掛かったが)。

 一番理解に苦しむかと思われた、メンバー間の相互連絡、基地との連絡用のスマホ型魔導具については、そう言えばずっと性能が低いものではあるが、古代遺跡からアーティファクトとして発掘され、それを以前に錬金術ギルドのファーレンティン大魔導師が使っていたのを、皆が見ていたほどである。

 と言うよりも、そのファーレンティンが使っていたスマホ型魔導具は若かりし頃のアドリアが苦労した遺跡探索の末に発見したもので、それがフライハイトブルクの宝物庫に収められていたのを、研究用という理由で持ち出したものであったほどだ。


「あのときはあんなに苦労して、仲間を失うほど大変だったのに、ずっと性能が良い代物があっさりと手に入るなんてねえ……」


 アドリアの感慨はひとしきりであった。


 意外と理解に手間取ったのが収納袋であった。これも現代の錬金術師でも作れる者がいて、メンバーは各自、自分用の収納袋を持っていたのだったが、ベルクヴェルク基地から提供されたそれは収納力が桁違いであるだけではなく、出し入れ口が複数個用意されているもので、片方を基地内に設置しておけば、そこから入れた物品を全然別な場所で取り出せるという機能がついているものだった。

 基地の農産物畜産物の生産力を考えれば、事実上無限の食料を調達し続けられることになる。さらに言えば、衣服や日用品なども基地の工業生産力ならばいくらでも調達可能。


「この袋が一つあれば、もう働かなくても良いって事にならない?」


とモルガーナからはいつものサボりグセが頭を出した発言が飛び出す。

 

 飽き性のモルガーナは、働かずにダラダラするのにもすぐに飽きる癖に、とソーニャは笑った。


「そもそも、町でちょっとした食事するにもお金は掛かるんですよ。ベルクヴェルク基地でほとんどのものを貰えても、それだけじゃ生活してても詰まらないじゃないですか」


「う~~ん、あ、そうだ。だったら、ベルクヴェルク基地でニセ金も作ってよ。だったら、ちょっとした買い物に使う分ぐらいなら十分でしょ」


 フロリアが数年掛けても思いつけなかったアイディアをモルガーナは数分で思いついたのだった。もちろん、びっくりしたフロリアが強く却下したのだが。


 ――彼女達にとって一番理解に苦しむ……というか理解することに忌避感が強かったのはねずみ型ロボットの存在である。この世界でもねずみは害獣の代表格みたいな存在で、不衛生の象徴であり、感染症の温床でもあった。

 清浄魔法と水魔法で消毒殺菌してからでないと、彼女たちには近づかないという説明をしても、簡単には納得できるものではなかった。

 こればかりは慣れて貰うしか無いが、アドリア達には「外でこれらを使うときには自分たちの目に触れないようにして欲しい。というよりも、他の人達にも気づかれないように細心の注意を払って。もし、私達がねずみを使い魔みたいに使っているなんて思われたら、町に疫病をばらまく厄災の魔女みたいに扱われることになるよ」と散々に注意されたのだった。


 一通り、外で使う武器や、基地と外界とを行き来する方法などのレクチャーが終わったら、今度は魔導具を使った訓練と連携の確認であった。

 基地の中にはかなり本格的な射撃訓練場があって、フロリアが始めて拳銃型魔導具を使い始めたときと同じく、パーティメンバーもそこで一通りの訓練を行った。

 そして実戦形式の訓練であった。基地内にはジャングルの中を想定してクリークやブッシュを配置した訓練施設まであって、ここでは以前にトパーズが眷属をしごいたこともあった。

 これまでのマジックレディスの戦闘パターンは、モルガーナが味方の攻撃魔法に後ろから撃たれないように連携して動くことが課題であったが、それがより重要度を増した感があった。

 以前から、まずある程度の距離で攻撃魔法を放ち、敵・魔物の戦力を削ってから、モルガーナが近接戦闘でとどめを刺す、という戦法を取っていたが、その戦法をより徹底することになったのだった。

 この戦闘訓練にはトパーズも参加した。最初は面倒くさがっていたのだが、いわば狩りの予行練習みたいなものなので、やってみたら意外と面白かったらしい。

 フロリアと1人と1匹で旅していた頃は、いきなりトパーズが突っ込んでいくというパターンが多かったので、連携が懸念されたが、スムーズな連携が可能であった。

 トパーズに言わせれば「むかし、アシュレイがアド達とパーティを組んでいたときには、人間と連携して戦っていたのだから簡単だ」とのことだった。


 この訓練を5日間掛けて、一通りの訓練を終えると、実戦で使ってみることにした。

 今回の遠征は、強力な魔物の多い「ブルグントの怒りの山」の麓の森で強い魔物を狩りまくるという目的である。

 新しい武器を使った実戦訓練にはピッタリであった。


 ただし、このタイミングでセバスチャンから「現在、日本での調査活動で得た新たな知見に基づいて、新しい魔導具を開発しております。それが形になるのをお待ち頂ければ……」という提案があった。

 フロリアにしてみれば、元の家族の護衛と観察は頼んだが、どうもセバスチャンは勝手にそれ以上のことをやっているらしい。

 そのことを追求すると、セバスチャンは慌てた様子もなく


「より効率的かつ確実にご家族のご無事を確保するためには少しでも日本の社会状況を始めあらゆる情報を収集し分析する必要があります。また、我々にとりましてご主人さまの安全の確保は何よりも優先されます。ご主人さまは生身で戦うことが多いので、そのための攻撃用魔導具を随時更新することは当然でございます」


と答えたのだった。


 モルガーナあたりは、「まあまあ、フィオちゃん。かっこいい魔導具が増えるんなら良いじゃない。あまり硬く考えない、考えない」と軽く流すもので、それでなんとなく有耶無耶になってしまった。


 実戦練習の方は、新しい攻撃用魔導具のことは気になるのだが、そろそろ「怒りの山」周辺に着く時期でもあるし、「新しいおもちゃが出来たら出来たで、またここ(ベルクヴェルク基地の訓練場)で練習すれば良いんだし、とりあえずは今の戦力で実戦やってみようよ」という意見が通ったのだった。

 このスマホとグロッグを使うことによる戦力増強はそれだけでも目を見張るものがあり、早く実戦で使ってみたいと、戦闘狂のモルガーナだけではなくルイーザやソーニャあたりまでワクワクしているのを隠そうとしなかった。


 もちろん、5日間ずっと訓練訓練では無く、ベルクヴェルク基地がもたらす快適設備(特に温泉形式の広いお風呂)や山海の珍味などもたっぷり楽しむことを忘れるようなマジックレディスではない。

 どうも畳の部屋というものには違和感があるようであったが、フロリアが「日本の部屋というのは昔は畳敷きだった」というと、彼女たちはそういうものか、と受け入れようとしたのだった。

 いつも通り、一番最初に新しいものを受け入れるのはもルガーナで、「畳って固いような気がしたけど、この上でうたた寝すると気持ち良いねえ。あの亜空間のふわふわソファも良いけど、これはこれで……」とほっぺたに畳の跡をつけて満足そう。


 温泉も彼女たちに大好評であった。ベルクヴェルク基地の風呂は露天風であるが(何しろ標高の高いところにあるので外とつなげると強風と冷気が洒落にならないし、龍の棲家にもなっている)、フロリアの話す日本の本当の露天風呂にマジックレディス一行は大いに面白がって、日本に行ったら是非とも温泉地に行こうという約束がなされた。

 

 ベルクヴェルク基地の総力を結集した、温泉旅館の豪華な会席料理のような夕食に、もとから和食好きだったアドリアは、「これが和食の鋼人が目指した和食の完成形なのか」と感激ひとしおだった。

 本当に本物の"和食"ってどんなものか、フロリアも良く知らないが、姐さんが喜んでくれたのなら、それで良かったと思うことにした。


 こうして、好奇心を刺激し続ける5日間が過ぎ、マジックレディス一行はベルクヴェルク基地を出て「ブルグントの怒りの山」の近くの町ロワールに転移する日が来た。

 ねずみ型ロボットがひと目につかない場所を見つけて、簡易転移魔法陣を設置した、という連絡が来て、亜空間は通さずに直接現地に転移したのであった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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