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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第37話 正統アリステア教

 マクシムや「野獣の牙」の3人が、フロリアと老神父の間に割って入る。他の客たちも物珍しそうに取り囲む。


「フロリアちゃん、こっち」


 リタがフロリアの手を引いて、厨房へ逃がそうとする。

 それを追おうとする老神父、阻むマクシム達。


「大将、刃物を持ったまんまイザコザはまずい。俺たちに任せろ」


「野獣の牙」のエッカルトがマクシムを制して、3人で老神父を取り囲む。この世界でもさすがに町中で刃物を振り回すことは許されていない。それに、いくら神父側が無体なことをしているとは言え、身に寸鉄も帯びていない老人相手に壮年の大男が刃物を持って対応するのはたしかにちょっとまずい。


 というわけで、マクシムは一旦引いて、厨房に包丁を置いて、その際にフロリアに「もうちょっと隠れてな。――おい、頼むぞ」とフロリアと女将のイシドラに言い残して、また客席に出ていって、言い合いを始める。

 リタは奥に入る出入り口に陣取っている。


 老神父は「あの娘が魔法使いなのは確かな証拠があることだ。私はあの娘が救われるためにこうして福音を届けに来たのだぁ!」と大声で怒鳴りまくる。


「うるせえ! 何が福音だ!! てめえの親玉にばっかり都合の良い御託を並べてんじゃねえよ! いつもみたいにカイの野郎のケツを追っかけてろ!!」


「そのカイから、教えられたのだ! お前たちが我が聖なる義務を阻むことなど許さぬぞお」


 こうして20分ばかり、大声で言い合いをした(特に後半は、「渡り鳥亭」の建物から出て、通りで怒鳴り合いをした)挙げ句、ようやく老神父は一旦引き上げていったのだった。また来る、と言い残して……。


 宿に入った「野獣の牙」の面々にマクシムは、朝から疲れた、とか、朝食が冷めちまった、とか言い合っている。

 奥から顔を覗かせたフロリアに、エッカルトは「もう大丈夫だ。追っ払ってやったぞ。困ったことがあれば俺に言え、と言ったろ」と胸を張る。


「ありがとうございます、みんな」


「しかし、これからお嬢ちゃんは面倒なことになったな」とマクシム。


「え?」


「すっかり魔法使いだって知れ渡っちまったからな……。あの爺ぃも諦めねえだろうし、他にもお嬢ちゃんにちょっかいだそうとするやつはいくらでも出てくるぞ」


「……そんな」


「まあ、とりあえずは朝ごはんをお食べ。すぐに出したげるよ」


 女将のイシドラはそう言うと、フロリアには朝食、「野獣の牙」の3人にも温め直したスープを出したりしている。


 食事が済むと、「嬢ちゃん。そのまんま、冒険者ギルドに行ったほうが良いな。ギルマスのガリオンに相談したほうが良さそうだ。おい、エッカルト! 送っていってやれよ」とマクシムの言葉。

 

「おお、そうだな。フロリア、一緒に行くぞ」


 エッカルトはかなり張り切っている。フロリアを意識しすぎてつっけんどんになっていたのが、ここへ来て頼もしい先輩冒険者の役回りが回ってきたのだ。

 フロリアを伴って、近くの冒険者ギルドまで行くと颯爽と入り口のスイングドアを開けて、受付に居たソフィーに「ギルマスに繋いじゃあくれないか」と中々かっこよい。

 だが、ギルマスの執務室に呼ばれたのはフロリア1人で、エッカルトは階下で置き去りだった。


 執務室はガリオン1人だけであったので、トパーズも影から出てくる。


「で、どうしたってんだ?」


 朝から老神父に絡まれた、という話をすると、ギルマスのガリオンは頭を抱える。


「あの爺ぃか。カイが教えたんだって、言ったのか。やりやがったな、カイの野郎」


「あの人、何ですか?」


「知らんのか? お前さんはホントに田舎出なんだな。まあここも田舎だがな。ありゃあ、正統アリステア教の教会の神父だ。七面倒臭い奴でな。

 実害がなきゃ、放っておくんだが……」


「そんな面倒な奴なのか。なんなら私がなんとかしようか。朝は別に殺意は無かったので、放っておいたが」


「トパーズ、あんたがなんとかするのは駄目だ。あんなんでも、国が布教を認めてるんだ。フロリアが入信しないのはフロリアの勝手だが、逆襲して死なせちまったら厄介だ。

 それにしてもフロリアが魔法使いだってことは、午前中には町中に知れ渡るなあ。

 カイみてえな野郎でも、最初のうちは魔法使いだってだけで、取り込もうとするような奴は居たからな。身寄りのない子供で魔法使いともなると、この先、ちょいと困ったことになりそうだ。

 ところでフロリア。お前さん、時々アリステア訛りが出るから、てっきりアリステア神聖帝国の出身だと思っていたんだがな」


「私はこの国の出身です、多分」


「多分て何だ?」


「ずっとお父さんと旅していたんです。どこで生まれたのかよく分かりません。お父さんが死んだ時に、お師匠様に拾われて、そこからずっとお師匠様と一緒にくらしてました」

「ああ、それじゃあアシュレイさんの言葉が移ったのか。そう言えば、あの人も隠していたが、どこかアリステア訛りがあったな。

 アシュレイさんが亡命者だったのかな」


「うむ。私がアシュレイと最初に出会ったのは、そのアリステア神聖帝国とかいう国の領地だったそうだ。私はあの頃は、自分が人間の定めた領地のどこにいるのかなど気にしたことが無かったが、いつかアシュレイがそう言っていた」


「やっぱり、そうなのか……」


 それからガリオンは、フロリアに正統アリステア教のことを教えた。


 このゴンドワナ大陸ではアリステア教という女神アリステアを信仰する一神教が主な宗教である。

 その中で、自らをアリステア教の元祖にして本家だと称しているのが、アリステア神聖帝国が国教としている正統アリステア教である。その他の殆どの国では西方アリステア教が信じられているが、神聖帝国の方は西方アリステア教は教義を捻じ曲げた異端で認められないとしている。

 正統アリステア教の教義は、アリステア神聖帝国の教皇皇帝こそがこの地上における女神アリステアの代行者である。それで、魔法使いとは女神が己が追いつかうために女神の力の一端を分け与えた人間であり、女神が使役する者、神の奴隷という意味で「神隷」と呼んでいるのだ。


「ああ、あのお爺さん、そんなこと言ってました」


「そうだろ。正統アリステア教では、神隷の正しい生き方とは、己の持てる力の全てを注いで稼いだ金も何もかもを、全部女神に捧げる生き方だ。だが、女神様はこの世界に降臨してねえから、神の代行者である神聖帝国の教皇皇帝陛下に捧げるって訳だ。

 他の国の魔法使いは、女神の為に使うべき女神の力を己の欲望のために使っているから、自分が女神から与えられた義務を果たしていない背教者って訳だ」


「……そんな宗教、魔法使いは誰も信仰しないんじゃ」


「そうだな。まともな人間なら、さっさと神聖帝国から逃げ出すだろうな。実際、神聖帝国で生まれた魔法使いはしょちゅう、他国に亡命しているぞ。だからアシュレイさんもそうかもと思ったんだ。

 で、神聖帝国側では他国に教会を作って、その神父に布教はもちろんやるけど、特に魔法使いを入信させて、本国に送るという仕事をさせてるんだ」


「誰か、入信するんですか?」


「ほとんどうまくいかねえな。実際、これまでカイの野郎も神父にしつこく付き纏われていたぐらいだ。で、あの野郎、お前さんにそのお鉢を回したってわけだ。なかなか効果的な仕返しだ」


「……」


 他国の魔法使いを引き抜いて、神聖帝国につれていくのを主目的にした教会など、よくもまあ他国が設置を認めているとおもいきや、神聖帝国は魔法金属(特にオリハルコン)の一大産地であって、どうしてもそこから買わなければならない、という事情があるそうだ。

 鉱山業を含め、すべての産業を教皇皇帝が握っている国なので、魔法金属を入手するために、教会の活動だけは認めるという取引がされているのだという。他国にすればそんな馬鹿げた勧誘に魔法使いが滅多に引っ掛かることなど滅多にないので、認めているのだという。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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