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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第18章 魔境で
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第368話 基地ツアー

 こうして長いフロリアの話が終わったが、一同は黙ったまま、珍しくモルガーナも感想を述べなかった。

 やがて、ルイーザが


「正直に言って、フロリアは文豪の川端漱石に劣らないぐらいお話づくりの才能があるのか、それともその少佐という女性との戦闘で頭を打ったのかと心配になるぐらいです」


と感想を述べた。


 さすがにそれは酷いなあ、と思いつつ、フロリアは


「いまのお話はあくまで、これから実際にベルクヴェルク基地に行って貰う時に、いきなり想像を絶するものにぶつかって混乱しないように前もってお話しただけのことです。私がでたらめを言っているのかどうか、これからわかります」


と言った。


「そうだね。ここでグズグズ言っていても仕方ない。ともあれ、そのベルクヴェルク基地というところに連れて行って貰おうじゃないか。それとフロリア、日本とか言うところにも行けるのだね」


 アドリアの言葉にフロリアは「ベルクヴェルク基地には連れていきますが、日本はもう少し先になります」と返答した。

 異世界への転移魔法陣を使った転移は検証を重ねてからにしたい、との理由を述べたが、実際には"あちら"で少佐とマジックレディスのメンバーがかち合うのを恐れたからであった。


「で、その基地とやらに行く準備は?」


「特に不要です。亜空間から行けますので」


 行き来するのに必要な時間はごく僅かだとフロリアが言うと、それならとりあえず一回ちょっと見に行こうという話になって、夕食の時間を待つ間に基地を訪ねることにした。

 ソーニャがいちど部屋を出るとパメラおばさんを探して、「ちょっと込み入った話になるので、2時間ぐらい来客があっても呼びに来ないでほしい」と伝えて戻ってきた。


「それじゃあ、行きましょうか」


 その場から皆で亜空間に入る。久しぶりにお世話できる人が来たと喜ぶブラウニーだったが、今回は素通り。これまでマジックレディスを立ち入らせなかった四阿に入ると、中に設置された転移魔法陣を起動させる。

 数秒後、マジックレディス一行はベルクヴェルク基地の魔法陣設置場所に居た。

 あらかじめ呼んであったので、セバスチャンが傍らに待機していた。

 

 ベルクヴェルク基地の魔法陣を設置してあるスペースは体育館ぐらいはありそうな、何かの倉庫っぽい建物の中にあるので、あまり秘密基地っぽくは無い。

 だが、セバスチャンの姿は、この世界の住人であるマジックレディスのメンバーにとっては実に異質に感じるものであった。

 彼女たちは仕事柄、ゴンドワナ大陸のあちこちを旅して、普通の人間よりもずっと経験も知識も豊富であったし、そもそもパーティホームの門番用にゴーレムを使っているぐらいであったのだが、それでもやはりこの世界の常識から抜け出せている訳ではなかった。

 なので、セバスチャンの姿には一同、興味津々であった。


「お初にお目にかかります」


 そうセバスチャンが挨拶すると、「しゃ、喋ったああぁ」とモルガーナが飛び上がる。


「見慣れないゴーレムがいるってことは聞いてたけど、喋るなんて教えてくれなかったじゃないか!!(フロリアにとっては当たり前になっていたので言い忘れていた)」


「たしかゴーレムではなくロボッタというそうですよ、モルガーナ」


「そんなの呼びにくい。セバスちゃんで良いじゃない」


「その、少し触ってみても良いでしょうか?」


「お前ら、まずはちゃんと挨拶しないか」


 いつも冷静なルイーザまで、見たことのないゴーレムに興奮して若手と一緒に騒いでいるので、珍しくアドリアがツッコミ役に回る。


 一通り騒ぎが終わってから、それぞれセバスチャンに自分の名前を名乗る。実際にはセバスチャンはねずみ型ロボットを通してフロリアの情報は細大逃さずに収集しているので、もちろん彼女たちの名前は把握しているが、それを口にすることはなかった。


 まずは転移室となりの応接室で……と思ったが、メンバー一同、色々なところを見て回りたがるので、そちらを優先した。

 

 工房スペース、滞在者達のための住居スペース、1階層したの農場・牧畜スペース、鉱山区への入り口につながるスペース、そして基地の外を覗ける強化ガラス越しの見知らぬ光景。


「り、龍の群れだ!! 凄い」


 水龍あたりとは格の違う、巨大で禍々しい雰囲気に満ちた龍の姿。

 

「この基地は高山の一角に作られているんだけど、出来てから何千年か経ったあとに、龍が住み着いたんだそうです。それで、基地から直接、外に出るのはちょっとむずかしいかな」


 まあ、セバスチャン達なら龍を撃退して外に出ることなどさほど難しくはないが、緊急事態以外は外出を禁じられていたし、そもそもこの場所から外に出ても延々と高山を下って、麓は人里離れた荒れ地や森が広がるだけ。

 それならば、世界の情報を集めるにはねずみ型ロボットを転移魔法陣を使って各地に送り出した方がよほど効率的というものである。


「で、この大きくて凄い施設と一杯のロボッタさん達の主がフィオちゃんになるって言うこと」


「はい、そうです。現在は私が持ち主ということで登録されています」


「……もはや、羨ましいという気にさえならない……。で、これからどうするの? 世界征服?」


「なんでそうなるんですか?」


「いや、だって川端漱石にファーレンティン大魔道師みたいな悪の魔法使いが秘密基地から古代のゴーレムを操って世界征服する話があったじゃない」


「あ、それは私も知っています。子供の頃に村にきた旅芝居の一座がやっていましたね。正義の魔法使いがすごく大きなゴーレムの頭に乗り込んで、なんか命令して動かして、悪の巨大ゴーレムを倒すんでしたよね」


「巨大ゴーレムなんかありませんよ。というか、あれはたぶん、前世の日本で人気があったアニメをアレンジしたもので、実際には大きな人型の乗り物なんて効率が悪くてまともに使えません」


 前世でロボットアニメが好きだったお兄ちゃんが、「でも、実際には人型ロボットは実現性が……」と嘆いていたのを思い出して、フロリアは答えた。


 まだ、ベルクヴェルク基地のごく一部だけを軽く見学しただけで、予定の2時間が過ぎようとしていた。


「そろそろ、パーティホームに戻らないと、パメラさんが怒り出すから」


というフロリアの言葉で一同は後ろ髪を引かれるような思いで基地をあとにするのだった。


「この先、何度も来るのだから、そんなに粘らなくても大丈夫ですよ」


と探検を続行したがるモルガーナを引っ張りながら、フロリアは言う。


 実際、彼女たちには基地が外の世界で活動する彼女達をサポートできること、出来ないことを把握してもらい、少佐(や、他の敵)に対する備えを万全にして貰わないとならないのだ。

 何度も基地を訪れることになるのは規定事項のつもりであった。


 パーティホームに戻って、皆で夕食を取ったあと、アドリアは数日前に冒険者ギルドから打診されている案件を検討するつもりだと言った。


「案件? 依頼じゃないの、姐さん?」


「正確には依頼じゃないんだよ。他国の領地内の事で、その国の冒険者ギルド支部から頼まれたのなら依頼として出せるんだけどね。今回の件はこちらの本部で勝手にやることなので、仁義として依頼という形には出来ない。なので、報酬も出ない。

 だから、ノルマとか達成条件とかも無いんだけどね」


いつも読んでくださってありがとうございます。



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