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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第17章 現代
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第361話 フロリアの場合6

 セバスチャンの指揮するベルクヴェルク基地のねずみたちの活動は活発で、わずか数日の間にこの世界に対する知識が積み上がっていった。

 知識が貯まるにつれて、疑問も多くなっていき、フロリアに対する質問事項も大量に積み上がっていく。

 何しろ、セバスチャンにとっては自分の造物主であるガリレオの生まれ故郷である。ガリレオは、セバスチャンから数えきれないほどこの世界の話を聞かされるだけではなく、そもそもベルクヴェルク基地の成り立ちにこの世界の文明の影響が色濃く反映されたいたのだ。

 

 問題はフロリアの方で、この世界の一流の学者ならばともかく、只の女子高生だったフロリアには答えられないような質問ばかりである。

 もっとも、たとえ答えられたとしても、今のフロリアはトパーズの事で頭がいっぱいで、セバスチャンの質問は半分以上右から左へと聞き流していたが。


 この世界と、これまでの世界との接続についても、検証は進んでおり、亜空間以外の場所に直接、簡易転移魔法陣を設置してベルクヴェルク基地とつなぐことが可能となった。 そして、以前開発してフロリアが使っていた口が複数ある収納袋も片方をベルクヴェルク基地、片方を現代日本に置いて物品のやり取りが可能となったのだ。

 これで、現代日本の工業製品をベルクヴェルク基地に運ぶことが簡単に出来るようになった。問題はむしろ、どうやってその工業製品を手に入れるかの方であった。

 相変わらずフロリアは、合法的にまとまった現金を手に入れる手段を思いつけず、小銭拾いが主な日本円獲得方法であった。

 

 この世界の洋服のセンスを真似た服(靴やカバンの他、服飾品一式)などはベルクヴェルク基地の工房で作成したものを着れば、これまでのように違和感のある服装で外に出なくとも済むようになった

 ただ、如何にも自分が可愛いということを分かっている女の子が着る服、といった感じの人目を引く露出が多い服だった。

 いや、確かにフロリアは自分の容姿があちらの世界でも、この日本でもかなり上澄みに属するとは自覚していたが……。もっともそれは魔法使いは美形揃いで、転生人はその中でも群を抜く、というのが昔からの通り相場なので、あまり威張れたものではない。きっと、魔力が本人の潜在意識の働きかけに応じて、成長過程で顔立ちを整えるのだろうとフロリアは思っていた。


 ま、ものは考えようだ。

 いっそ、このぐらいの服の方が今の自分に合っているのだから、変に地味な格好をするよりも良いかも知れない。それにさすがにこの現代日本ならば、あちらの世界のように次々に人さらいやら何やらが現れることも無いだろう。せいぜいナンパの声を掛けられるぐらいかな。


 と思い直し、このちょっと派手目で原色を思い切りよく使った服装で町に出る。今日はJRで新宿の方に行き(電車賃はねずみ達が小銭を集めてくれていた)、しばらく新宿南口を歩いた。

 そして、新宿門から新宿御苑に入って中をけっこう時間を掛けて回って、大木戸門から四谷の方に出る。

 このあたりはねずみ型ロボットがすでに何度も行き来しているのだが、もしかしてトパーズとねずみ型ロボットの相性が悪いとお互いにスルーするかも……と思ったのだ。

 あちらの世界でのトパーズの行動を思い出してみると、最初はねずみ型ロボットを意識したようなことを何度か言っていたが、あとは全然無視というか、存在を意識していない感じであった。別に危険物ではない、と判断して探知魔法から外す習慣がついてそのままだと、この世界でもスルーしているのかも知れない。

 だから、怪しいと思う場所は自分でも直接行ってみることにしたのだ。新宿御苑は、自分が出現した代々木公園に近い緑が多い場所、という連想から行ってみたのだ。


「でも成果なしか……。入園料掛かったのに」


 後は、近くの緑の多い場所というと、神宮外苑かなあ……と地図を広げる。

 地図は、ねずみ型ロボットが図書館で調べてきたこのあたりの地図を、セバスチャンが紙に描き写させたものを用意してくれたのだ。


 四谷からだと

「あ、赤坂御所ってあるのか……。いや、入れないか」


 ここは必要があれば、夜中に忍び込む必要があるだろうが、フロリアには心理的障壁が強かった。


 それで神宮外苑に行ってみることにしたが、それだったら新宿御苑を出るのは千駄ヶ谷門というところの方が良かったみたいだった……。


 神宮外苑は国立競技場や神宮球場などがあるスポーツ施設が集まっているところで、いわゆる公園ではなかった。聖徳記念絵画館とかいうすごく立派な西洋風の建物の前の道路の脇に座ってお昼を済ませる。

 現在は何か工事をしているらしくスポーツ施設が集まっている場所は通り抜けるのを止めて迂回し、青山の方に出ると地下鉄の青山一丁目駅を目指す。地下鉄で赤坂見附駅まで一駅。そこから永田町駅まで歩くと、池袋経由で埼玉県を走る私鉄と相互乗り入れしている路線に乗り換える。

 前世でも都心慣れしていなかったので、こんなルートはなかなか思いつけなかったのだが、お昼を食べた後で地図とにらめっこしながら決めたのだ。

 

 この外見で良いところはどうやら、みんな外国人だと思うらしく新宿を歩いていてもナンパの声は全く掛からなかったのだ。あちらの世界の市場に比べたら平和なものだった。夜になってくるとスカウトマンあたりが出てくるのだろうが、そっちはどう見ても未成年なのだから声掛けは躊躇するかもと、フロリアは思っていた(逆に言えば"未成年に見えても声掛けしてくるヤカラはかなり気合が入っているということ。しかし、今のフロリアならば穏便に、目立たずに処理出来るだろう")。

 

 地下鉄は、池袋から伸びる私鉄と相互乗り入れで合流して埼玉県を走り、ちょっと大きめの駅に着く。

 この駅から徒歩10分程度のところに、高校時代の一番の友人が家族と一緒に住んでいて、なんどかお泊まり会をしたことがあるのだった。

 記憶を辿りながら、友人の家に向かう。途中、何と言って情報を聞き出そうか考えるが良いアイディアは浮かばない。

 仕方ない。あまりやりたくはないが、また虚偽魔法で一時的にデタラメを信じ込ませよう。デタラメの度合いが酷いと、すぐに辻褄が合わなくなって不審がられるのだが、もう二度と接触しなければ大丈夫だろう。

 友人宅について、チャイムを押すと、インターホンで割合に年配の女性の声が応答した。母親だろう。


「◯◯さんはいらっしゃいますか?」


と尋ねると、「いま、居りません。どちら様ですか?」との返答。

 

 高校の部活の後輩だと答えると、「〇〇はこの家にはいませんよ。後輩なのに知らないのですか?」と返され、嘘をつくのなら警察を呼びますよ、と付け加えてきた。かなり刺々しい口調で取り付く島もない。

 

 この家にはいない、と言われた瞬間、フロリアは、そう言えば友人は高校卒業したら、自分の希望する学科がとある地方の大学にしかなくて、そちらに進学したいのだ、と言っていたことを思い出した。

 自分が死んだのが高校3年の時。それからまる一年経っていたら、受験に失敗していない限り、彼女は家を出ていて不思議はない。

 フロリアはそれ以上、その家の門の前に居て不審がられるといけないので、すぐに離れた。

 軽くショックを受けていた。

 そんなことも忘れていたこともそうだが、自分がいない間にも時間は流れ、色々と変わってしまっているのだ。

 あとで、高校にも行ってみるつもりだったが、もう同級生は誰もいない。先生は残っているだろうが、今のフロリアには先生に接触しても何をすれば良いのか、検討もつかない。


「……帰ろう」


 そう呟くと、駅への道を戻っていった。

 

 帰りの電車の中では、次に何をすれば良いのか判らなくなって、涙が零れそうになる。いや、ねずみ達が石川県を目指しているので、次はおじさんと接触を試みて、家族の行方を探すのだ。

 まだ、捜索の糸は切れた訳ではない。

 涙がこぼれないように上をむいていたら、自然と雑誌の中吊り広告が目に入った。

 本日発売の大人向けの週刊誌の公国で、派手なフォントで色々な記事が並んでいる中、ある文字が目に飛び込んできた。


 黒豹


 その記事の惹句にはこう書かれていた。


「深夜の住宅街で謎の乱闘。黒豹が襲った少女の行方は? 連日の捜査も手がかり無し!」


 フロリアはその文字列を3回読み直して、それから電車内で騒いで不審がられないように下を向いた。

 心臓がバクバク音を立てているのが判る。

 やっと見つけた。


 それからこれまでに無かったぐらい頭を働かせて、池袋で私鉄を降りるとすぐにJRに乗り換えないで東口の大手家電量販店に行ってテレビのコーナーを目指す。

 ちょうど、夕方のニュースをやっている時間帯だった。

 アナウンサーが次々にニュースを読み上げていくのだが、黒豹の話題は政治家の汚職に次いで大きな取り扱いだった。

 どこから逃げたのか判らない黒豹が深夜に住宅街で人を襲い、コンビニを破壊したのだが、そのまま被害者の少女も黒豹も行方不明になった、というもので、警察は連日数百人を動員して付近を調べているが行方が見つからない、というのが内容であった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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