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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第17章 現代
355/477

第355話 フロリアの場合3

「ベルクヴェルク基地から来たの? それじゃあ、転移魔法陣は使えたのね」


「はい。ただ、セバスチャン様はフロリア様との連絡が途切れ、衛星や私達、機動歩兵の観測から外れて位置が特定できなくなったことを非常に懸念しております。よろしければ、このまま私は基地に戻り、セバスチャン様に報告をしたいと存じます」


 そして、この場所がどこなのか、基地の方でどの様なサポートが必要なのか、と質問してきた。フロリアはたった今、体験してきたことと、推測したことを話す。

 いま、亜空間はベルクヴェルク基地が認識出来ない場所に繋がっている。それはつまり、ベルクヴェルク基地のある惑星上ではない場所、という意味であり、フロリアの体験と合致する。

 フロリアがすぐに転移魔法陣を使って、あちらに戻ろうとしない方が良い。

 確かに基地→亜空間への転移は成功しねずみ型ロボットはここに居るのだが、一度の実験がうまくいったからといって、ですぐにフロリアが使って、トラブルがあった場合取り返しがつかない。

 

 ねずみ型ロボットが情報を持って、転移魔法陣からベルクヴェルク基地に帰還して数分。

 再び魔法陣が光ったかと思うと、セバスチャンが転移してきた。


「フロリア様、ご無事で何よりでございます」


「セバスチャン!! 基地から離れちゃって良いの?」


「はい。非常事態が発生したと判断いたしました」


「うん、確かに大変なことになっちゃった」


「それで、ここはフロリア様達の前世の世界であるとのことでしたが?」


 フロリアが肯定すると、セバスチャンの頭部に設置されているライトが、フロリアが見たことないほど激しく点滅している。

 もしかして、興奮しているのだろうか。


「つきましては遅滞なく的確にフロリア様をお助けするために、この世界にねずみ型ロボットを散布致しまして情報収集につとめたいと考えております。よろしいでしょうか」


 簡単によろしくしてしまったのは軽率だったかも知れない……とフロリアはあとで考えることになるのだが、この時は自分1人でトパーズを見つけ出すのは荷が重いと感じていたので、ありがたい提案であった。


「あ、そう言えば、あちらの世界にトパーズが居残っている、ってことは無いよね」


「はい。トパーズ様もフロリア様、そして敵である少佐と同時に行方が知れなくなっています」


 最後に転移魔法が発動したときの空間の歪みは観測出来たのだが、あの世界のどこにも出現の歪みは観測できていないのだという。


「トパーズ様はフロリア様とご一緒かと存じていましたが」


「それが、どこかに行っちゃって判らなくなっちゃったの。ねずみ達も一緒に探してくれる?」


「承知致しました」

 

 しばらくセバスチャンと検討して、ねずみ型ロボットは四方に散らばって放射状に周囲を探索することにした。

 トパーズがどこかの影に潜んでいると、ねずみ型ロボットの機能では探知出来ない可能性があるので、普段と違って魔力を隠蔽すること無く、故意に放出しながら行動して、トパーズ側からの探知も期待する。

 もし少佐が近隣にいた場合、少佐にも感知される恐れがあるが、それはやむを得ない。それ以外のこの世界の住人はフロリアが知る限り、魔力を感知出来ない筈である)もしかしたら、勘の良い人はなにか違和感を感じるかも知れないが、そうした点もセバスチャンは調査研究対象としたいらしい)。


 それから、外に出たねずみ型ロボットと閉じた亜空間内のセバスチャンとは通信が途絶するので、常に亜空間へのドアを少しだけ開けておき、現実空間と地続きにしておくことにした。

 それで、フロリアは一度外に出て、代々木公園内でひと目につかない場所を探して、隣の明治神宮の敷地内の2階建ての建物があったので、その屋上に出入り口を設置した(あとで明治神宮ミュージアムという建物だと知った)。数センチ程度開けてあるだけなので、まず人間に気づかれることはないだろう。

 フロリアが気にした虫や小動物の侵入であるが、セバスチャンが決して中に入れることはない、もしはいってきてもただちに排除することを約束した(その監視のためだけに、もう一体執事ロボットを基地から呼び寄せた)。


 フロリアがトパーズ捜索のために不在時に、少佐にこの出入り口を発見された時にはやむを得ないので、機動歩兵による迎撃も許可した。

 この場合、亜空間の外で起動歩兵を展開することになるだろうから、きっと騒ぎになるだろうが、仕方ないと判断したのだった。


 最後にフロリアは、フライハイトブルクのマジックレディスのパーティホームに、「無事であるが、帰還するのにもう少し時間が掛かる。危険な状態ではない」という文章を書いて届けさせるようにセバスチャンに頼んだ。


「それじゃあ、私も周辺を探しに行くね」


「かしこまりました。フロリア様のお邪魔にならないように数匹のねずみ型ロボットを追従させます」


「うん、お願い。あ、あと、この世界の特にこのあたりの本物のねずみってかなり不潔だから、できればロボットと接触させないでね。あと、下水とかに入ったら、必ずきれいに洗浄してから、清浄魔法も使って」


「承知しております」


 そして、フロリアは数時間は戻らないと思う、と言い残して、またトパーズ捜索のために今度は原宿駅を通り過ぎて明治外苑から東京ミッドタウン方面へと歩き出した。

 特に目算があったわけではないが、なんとなくそちらに行ったほうが良いという気がしたのだ。魔法使いの「なんとなく」は、予知魔法が働いている可能性があるので、無視しない方が良い、とはアシュレイにも、マジックレディスの仲間たちにも言われたことであった。


「これで見つかれば良いんだけれど」


 フロリアは独り言ちながら歩いている。また警察官に出くわすと面倒なので裏道を歩く。このあたりは幹線道路は片道2車線ぐらいあって広いのだが、一歩路地に入ると車が交差するのに苦労するような細い道になる。

 そうした道からちょっと広めの道に出たあたりで、前方に歩行者がいるのに気がついた。おそらくは既に12時を過ぎてかなり経っている。渋谷の駅前のような繁華街はいざしらず、このあたりは人通りも絶えていて、フロリアの視界にはその歩行者ぐらいしかいなかった。

 スーツ姿の女性なのだが、フラフラしている。酔っ払っているのか、それとも薬の影響か何かか? すっかりゴンドワナ大陸の色々な町の治安状況(夜中に女性が出歩くなど、あり得ない)に馴染んでしまったフロリアには酷く異質なものに思えた。


「ていうか、あの人、半分寝てない?」


 探知魔法を掛けると、どうやら酒などの影響による状態異常は無いようだが、脳が働いていないように感じられる。そこまで疲れるほど、働いているのだろうか?

 女性は、フラフラと車道に歩きでてしまう。この時間でも、というかこの時間になっているからこそ、車は普段よりも速度を出している。


 危ない!

 フロリアは女性に向かって突っ込んでくる2トン程度のトラックに叫ぶ。トラックは気がついていないのか、アクセルを緩めようともしていない。

 フロリアは風魔法で、いっそ女性をけっこう強めに突き飛ばす。引き戻すのは間に合わないと判断してのことだ。幸い、そのトラックだけで他の車は見当たらない。

 数メートルの距離を横に飛ばされてトラックの進路を外れた女性は、地面に叩きつけられる――ことはなく、空気のクッションで受け止める。


 トラックは一旦は急停車したものの、運転手は窓から外に身を乗り出し、どうやら轢いてないみたいだと判断したらしく、急発進して行ってしまった。

 それって、問題じゃない? と思いつつ、トラックが去ったのを確認してからフロリアは女性の元まで走り寄る。


「大丈夫ですか?」

 

 女性は目を瞑ったまま動かない。

 さすがに空気のクッションで受け止めたとは言え、けっこう荒く突き飛ばしたので、気を失ったらしい。

 とりあえず、女性を道路から歩道まで運んで寝かせる。鑑定魔法の上位魔法である解析魔法を掛けてみると、どうやら片足をひねったみたいで捻挫しているが、後は外傷らしい外傷は無い。


 20代後半ぐらいのいかにも仕事の出来そうなキャリアウーマンで、スーツや持ち物も高価そうだった。

 フロリアは、捻挫した足に治癒魔法を掛けると(パンプスは片方がどこかに飛んでいってしまって見当たらない)、口を開けさせて、疲労回復用のポーションを流し込む。けっこう本気で作ったポーションなので効き目は自信がある。


「どんなに仕事が忙しくても、気を失うほど疲れ切ってちゃいけませんよ」


 柄にもなく、寝ている女性にそう声を掛けると、歩道に寝かせたまま、その場を立ち去ることにした。解析であと数分程度で目を覚ますことは分かっていたし、あまりこの世界の人間に不要な接触をしたくなかったのだ。

 ただ、やはり女性1人を無防備な状態のまま放置するわけにもいかず、ねずみ型ロボットに女性が目覚めるまで近くで監視するように命じた。

 近くに歩行者の存在も感知出来ないし、それで問題無かろう。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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