表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第17章 現代
351/477

第351話 フロリアの場合1

 いくら、もはや戦闘力が失われたかのように見えても、迂闊に敵に近づき過ぎたのはフロリアの油断だと言われても仕方ない。

 遠くからグロッグもどきで確実にトドメをさしていれば、それで済んだ話なのである。トパーズも巻き込むことは無かったであろう。

 

 なにかが発動した瞬間、フロリアの眼には周囲の景色やトパーズや少佐の姿がグニャリと歪んで見え、胃がムカムカしてくるかのような気分の悪さに襲われた。

 

 声を出そうとするが、出ない。


"これって、少佐の転移魔法に巻き込まれた!?"


 ベルクヴェルク基地の転移魔法陣による転移魔法とは違う感覚に襲われながら、フロリアには奇妙な確信があった。

 基地が古代から維持していた転移魔法とは違う理屈で作動しているのだろうか?

 

 やがて、眼の前が明るくなった。

 攻撃を警戒して、フロリアは視界が奪われている間も魔力感知を最大に発動させ、防御魔法も3重に重ねがけしていた。

 しかし、その魔力感知に少佐の魔力も他の魔力も引っかかってこない。

 そればかりか、機動歩兵が付与されている魔力も、トパーズの気配すらもしないのだ。


 フロリアは防御魔法を掛けたまま、しゃがみこんで、グロッグを握りしめる。転移後に周囲に障害物などが無いとも限らないので、迂闊に左右に動くことも出来ない。

 次第に視界が戻ってきて、物音も遠くに聞こえてくる。

 

「痛たっ」


 小声が漏れる。顔になにかチクチクしたものが当たるのだ。

 視界がクリアになると、それが木の枝であることが判る。

 どうやらどこかの森林のブッシュの中にでも転移したらしい。

 だが、今は夜のようだ。月明かりはあるようだが、暗い。


 迂闊に立ち上がって、いきなり少佐の攻撃魔法が直撃しては目も当てられない。

 フロリアは数秒、周囲を伺う。魔法を使って視力強化を行うと、少佐が近くに気配を消して忍んでいた場合、こちらの魔力を感知される可能性がある。そう思って躊躇したが、すぐに思い直す。


「だけど、すでに防御魔法を使ってたんだっけ」


 フロリアは身体強化魔法を使って、視力、聴力を強化する。

 ブッシュから少しずつ移動する。よほど密集したブッシュの真ん中に出現したみたいで、体を少し動かすだけでも細い木の枝がポキポキ折れる音、葉のこすれる音がする。


 と思いきや……。


「あれ?」


 あっさりとブッシュを出てしまった。


 ブーツは硬い地面を踏む。全く身を隠すものが無い広い空間に出てしまった。

 慌てて戻ろうとして、ブッシュが実は道路際の植え込みであることに気がついた。

 フロリアは幅数メートル程度のアスファルトの上にいたのだ。

 その植え込みの向こうは土か芝生になっていて、イチョウかなにかの木が適当な間隔を開けて植わっている。

 道路の向こうも同じようになっている。


 相変わらず少佐の気配も姿も確認出来ないまま、道路の前後を見ると、遠くに噴水らしきものが見える側と、もっと広い道路と交差している側がある。


「これ、公園?」


 夜の公園のようだった。

 何時ぐらいか分からないが人気は感じられない。

 

 この世界にも都会の中の公園はあった。

 フライハイトブルグにもある。

 しかし、周囲を城壁で囲まれた中世都市の発展形のような町の中の公園である。大陸最大の都市であるフライハイトブルグでも、古都キーフルでもそれほどの広さは無く、それに貴族や王族の屋敷の付属みたいな庭園であって、いま目の前にある風景のような公園では無い。

 この風景はまるで、都会の大きな公園……例えて言えば新宿御苑や代々木公園のような……。


 そう言えば、強化した耳に届く遠くの喧騒も車の音らしきものが多い。


「嘘でしょ。もしかして、前世に戻っちゃったの?」


 急に不安を感じたフロリアは思わず道路際の植え込みのところまで戻ってしゃがみ込む。

 攻撃されるリスクは頭から消えてしまっている。

 

 そのまま、動悸が収まるまで数分は動けなかった。


「トパーズ。……トパーズ」


 他の人間に聞かれるのを恐れて、小さな声でトパーズを呼ぶ。しかし、周囲に少佐の気配も無い代わりにトパーズの気配も無かった。


 思いついて、セバスチャンを頭の中で呼んでみるが、やはり応答がない。セバスチャンは近くに中継してくれるねずみ型ロボットがないと念話風の会話は出来ないので、ロボットもいない場所ということなのだろう。


「転移魔法の出現ポイントには歪みが発生するって言っていたから、しばらく待てばセバスチャンのロボットが迎えに来るだろうけど、ここがホントに日本だったら」


 いくらセバスチャンでも迎えは無理だろう。


「あ、そうだ」


 フロリアは亜空間への扉を開く。

 この世界がどこであれ、先程は身体強化魔法も使えたし、魔法は使えるようだった。

 扉に入り、亜空間内の転移魔法陣を設置した小部屋に行く。完全に扉を閉じてしまうと、トパーズがこちらを感知出来なくなるので、少し開けておく。少佐に感知される虞れもあるが、トパーズと生き別れになってしまう方が怖い。


 小部屋に入り、転移魔法陣を調べる。とは言っても、すぐに起動して元の世界に帰るつもりは無い。トパーズを置き去りには出来ないし、そもそもここから起動してベルクヴェルク基地まで繋がっている保証もないのだ。


「まあ、これは後々、考えましょう」


 そう独り言を言うと、フロリアは慎重に亜空間を出て、公園の出口を探して歩き始めた。

 どちらの方角に進めば良いのかも良く分からないまま、しばらく公園を歩くと、植え込みは途切れ、アスファルトの道の左右は土の地面であちこちにベンチがあったり、よく手入れされた木々が疎らに植わっていたりという感じになる。

 そして、ようやく探していたものを見つける。道路際に案内板が設置されていた。

 駆け寄って読むと、大きく「花の小径」と書かれている。

 そしてその上に一回り小さな文字で「代々木公園」とある。


「代々木公園!! って、渋谷だっけ?」


 あいにくいつも都心にフラフラと遊びに行くような女子高生ではなかったフロリアは、それほど都心の地理に詳しい訳ではなかった。

 案内板の下部には地図も描かれているが、簡略化されていて良く分からない。ともあれ、今の道をそのまま進めば出口の方に行けそうである。だがしばらく歩くと、今度は小広場になっていて、昼間は売店であろう建物やもっと詳しい案内板があった。


「ええと、原宿駅の出口に近いのか」


 公園内に居ても仕方ないので外を目指す。出入り口は閉じられていたが、フロリアは簡単に外に出る。

 かなり広い道端に出る。車道には見覚えのある車が走っている。


「あ、やっぱり日本だ」


 フロリアはなんとも言えない感慨にとらわれ、またしばらくの間、動けなくなる。

 

 さて、外に出たのは良いけど、これからどうしよう。

 確か、原宿って渋谷の隣だった筈だ。渋谷は何度かお友達と買い物に行ったことがある。行けば、なにか見覚えのあるものに出会えるかも知れない。

 

「で、どっちが渋谷だろう」


 しばらく悩んだが答えは出ない。出口の傍に線路際の道があったので、どっちでも線路沿いに進めば渋谷か代々木経由で新宿方面につくだろうからそれで良いや、と割り切って歩き始めた。


いつも読んでくださってありがとうございます。


ここから新章に入ります。

この章を書くに当たって、ずっと悩んでいたことがあります。

それは、この作品のジャンルを「ハイファンタジー」として設定した事です。

「小説家になろう」の定義では「ハイファンタジー」は"現実世界とは異なる世界を主な舞台とした作品。"となっています。

この作品ではこれまで、現実世界(平成末期から令和に掛けての日本)は主人公や他の転生人の記憶の中にだけ登場していましたが、この章では物語の舞台になります。

となれば、ハイファンタジーの看板は下ろすべきかも知れません。

しかし、もう一つのファンタジーのジャンルとして設定されている「ローファンタジー」は「現実世界に近しい世界にファンタジー要素を取り入れた作品。」という定義です。

主人公達は現実世界に戻りはしたものの、この先、ずっと日本で活動する訳では有りません。

それを考えると、ローファンタジーという定義もちょっと……。


そこで、他の投稿者さんの作品を見て回ったのですが、部分的に現実世界に戻ってくるシーンがあっても、異世界が主な舞台になっている作品はハイファンタジーというジャンルにしているケースが多いようです。


それで、この作品も先達に倣って、ハイファンタジーのまま、この17章を進めさせていただくことにしました。


この展開は作品を書き始めた当初からぼんやりと考えていたものなのですが、実はここまでたどり着けるかどうかあやふやであったので、最初にジャンルを設定する時点では深く考えてはいませんでした。途中で挫けることなく、ここまでこれた事はけっこう感慨深いものです。


毎日のアクセス数も、少しずつ増えていますし、弱小投稿者であることは変わらないのですが、出来るだけ遠くまで走り続けたいと思っています。とは言え、そろそろストックも切れかかっていますし、仕事がこの20年あまりの間でもっとも忙しくなっていて……。


出来るだけ頑張って投稿は続けるつもりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ