第340話 防御側との戦闘3
「トパーズ! トパーズ!!」
フロリアは、黒いゲル状の物質に呼びかける。
触って良いものか悩むが、意を決して手を触れようとした時に、「さわるな。大丈夫だ」という聞き慣れた声。
そして、不定形の黒い物質はいつもの見慣れたトパーズの姿に戻った。
「不覚をとった。私が戦えない間、ねずみがやったのか……」
トパーズが珍しく弱音とも取れる発言をした。よほどセバスチャンの配下に助けられたことが悔しかったと見える。
フロリアは床に転がった状態異常用のポーションを拾い上げると、それは一旦収納に仕舞い、血煙が漂うあたりから少し離れた処まで移動して、あらためて別の状態異常用のポーションを出すと口にした。
ベルクヴェルク基地の対魔法防具の働きでかなり回復していたのだが、ポーションを飲むと改めてスッキリとした気分になる。
トパーズもフロリアのそばに近寄るが、黒豹の姿から今度は珍しく若い頃のアシュレイの姿になった。
冒険者時代のアシュレイの姿なので、やはり動きやすく軽快な印象である。
「もう遅れを取ることはない。さっさと少佐とやらを片付けるぞ、フロリア」
「うん。行こう」
フロリアとトパーズは、小走りに回廊を抜けて、別の廊下へと入っていく。通路が狭くなった処に攻撃魔法を撃ち込まれるが、もちろん敵がそのタイミングで攻撃を仕掛けてくるのは探知魔法で読んでいる。
フロリアはカウンターという訳では無いが、防御側のこの程度の攻撃であれば、収納におさめて、すぐにその収納から取り出して"投げ返す"。
これは防御側からすると、攻撃を跳ね返されているようにも見えるが、防御魔法にはそんな機能はない。もちろん、収納魔法を防御に使うような、使い方も知られていない。
敵は、この侵入者が撃たれた攻撃魔法をとっさに真似して、同じ魔法を放っているのだと判断した。
そして、馬鹿にされている。――そう感じたのだった。
「ふざけるな!!」
その防御側の魔法使いは多くの魔法使いと同じく、自ら恃むところが厚く、このフロリアの対応方法は逆鱗にふれるようなものであった。
フロリア本人にはその積りは無かったのだったが。
意地になって、ますます同じ炎の塊を撃ち込んで来る。フロリアはそれをどんどん収納して吐き出すだけで、自らの魔力消費量はごく僅かである。
やがて、相手の炎の塊が小さくなってきたので、以前に森の奥で倒した、オーガのスペルキャスターが放った炎の塊を収納から撃ち出す。
その炎の勢いに絶望の表情を浮かべた防御側の魔法使いは、そのまま炎に飲まれる。断末魔の悲鳴を上げて。
フロリアは思わず立ち止まって、耳を覆い掛ける。ヘルメットを被っているので、無駄な動きであったが。
「グズグズするな。次が来るぞ」
アシュレイ姿のトパーズはそう叫ぶが、その時には自分の方に向かってきていた、防御側の魔法使い2名を続けざまに片付けていて、後続に向けて殺気を飛ばして居たところだった。
フロリアは、久しぶりにグロック17に似せたデザインの拳銃型の魔導具を取り出す。元来、操剣魔法を発動するまでの僅かな間を埋めるために普段から腰に下げて抜き打ち出来るように、という意図で開発されたものであったが、マジックレディスに加わってからは妙な魔導具を下げていると逆に目立つから、という理由でお蔵入り(収納魔法入り)していたものである。
本物は17発プラス1発まで装填できるが、この魔導具は無属性の魔法弾を15発まで装填できるようになっていた。
その点は作成当初のグロックもどきとは変わっていなかったが、ベルクヴェルク基地の技術陣の手が加わることで、威力は大幅に上がっていた。
最初の1発でかなり分厚い防御魔法でも突破でき、その次の銃弾は敵の体のどこか――それはつま先でも構わない――にに当たれば全身に魔力の衝撃が伝わり、並の魔法使いでは心臓麻痺を起こす。よほど頑強な耐魔法防御と対物理防御の両方を備えた防具でなければ、この魔法弾を防ぐことはできないし、そのような防具はフロリア自身が身につけているベルクヴェルク基地謹製の魔導具しか存在しなかった。
今度はこの銃で、皇帝の寝所に続く通路の敵を倒していく。
この通路を進めば進むほど、少佐の魔力の気配が濃くなっていく。
後宮の魔法使い達が受けている戦闘訓練では、基本的に敵の攻撃は防御魔法で防いで、こちらの攻撃魔法を叩き込む、というものである。
非魔法使いが弓矢を相手に戦うのではないから、物陰に隠れて、こちらも弓で応戦、という戦い方ではなかった。さらに言えば、女官も宦官も動きやすい服装ではないので、身体強化魔法を使って強化した肉体で接近戦を挑むというマジックレディスのモルガーナのような戦闘法とも違っている。
この女官や宦官に対して、フロリアのグロックは大きな威力を発揮した。
最初の15発はすぐに撃ち終わったが、続けざまにマガジンを変えて撃ち続け、多くの魔法使いを肉塊に変えていった。
己の魔力消費を最小限に抑えながら。
フロリアとトパーズでそろそろ30名を超える魔法使いを屠り、探知魔法に引っかかってくる敵の数が減ってきていることに気がつく。
「いや、気をつけろよ、フロリア。探知魔法をかいくぐるヤツを隠しているのかも知れぬぞ」
「うん、わかっている」
わかっているが、もう一息で少佐を追い詰められるのだ。ここで慎重になりすぎるのも良くない。
実際、少佐側でも非魔法使いの衛兵は、今や宮殿のあちこちが水没して、なおもドードーと激しい水音を立てながら、どこかから降ってくる海水の対処に追われて払底している。
最初に少佐が指揮下に入れることに成功した魔法使いはほぼ全滅。他の皇帝を護衛するための魔法使いたちも指揮系統の混乱から、近くには居なかったのだが、ここへきて、皇帝の寝所のすぐ近くに居たことが功を奏し、バラバラと護衛の魔法使いたちが集まってきた。
防御向きだったり、闇・混沌魔法系の精神攻撃への対処が専門だったりと、必ずしも戦闘向きではない者も多かった。
「だが、構わぬ」
少佐は未だ自分が完全に回復していないのは重々承知の上、フロリアを迎え撃つ積りになっていた。
そのためには、自分と直接相まみえる迄にフロリアをどれだけ削れるかが勝負だと考えた。
この水没騒ぎは考えるまでもなく、フロリアの召喚した従魔による破壊工作だろう。ただでさえ、多くの魔法使いと連戦している上に、これだけの従魔操縦で魔力も気力も体力も使い続けてきている。
如何に化け物じみた魔法使いでもそろそろ限界が近いはずだ。
フロリアが魔力消費の極端に少ないベルクヴェルク基地の魔導具をつかい、海水による撹乱は基地で実働部隊のねずみ型ロボットを指揮を担当していて、フロリアにはまったく負担が無いのだ、とは少佐には知るよしも無かった。
少佐は寝巻きに近いような服を半ば脱ぎ捨て、裸に近くなる。
どうせ、後宮の后妃の服など、戦闘時の防御力など考えられていないので、動きにくくなる分だけ損をするのだ。
そのぐらいであれば、半裸のほうがマシである。
とにかく、集まってきた魔法使いに命じて迎撃に出した。
皇帝の護衛に来たのに、その周囲を離れることに難色を示すものも居たが、少佐がじっと見つめると、霞んだような目になって、その命令を聞くのであった。
そして、最後に手元に残った女官(召喚術師)に命じ、フロリアともうひとりの正体不明の魔法使い(報告では男か女かすら錯綜している)が皇帝の寝所近くに飛び込んできたら、自身の攻撃に合わせて従魔を召喚して、フロリア達に襲い掛かる段取りになっている。
これまで、一度も戦闘訓練をしたこともない相手を信頼して作戦を実行するのは不安この上無いが、やるしか無かった。
その召喚術師は野生のトラの魔物と従魔契約に成功して、呼び出すことが出来るのだ。
非常に獰猛でどうしても術師以外に馴れようとしない魔物なので、他の魔法使いと組んで作戦を遂行することはできないのだが、良く言えば奥の手、悪く言えば破れかぶれの最後の手段として考えられていたのだった。。
遠くで魂消る叫びが上がるたびに、帝国側の魔法使いの気配が少なくなっていく。
「いよいよくるぞ」
と少佐。
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