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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第16章 転生人
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第336話 ゴング

「大陸中を調べて」とフロリアには命じられたが、そこまでせずとも、セバスチャンのねずみ達はこれまでの調査で分かっている、少佐の立ち回り先を同時並行で調べていったのだった。

 そして、グレートターリ帝国の帝都アイスランティオンのアリスラン大宮殿の後宮に、少佐の痕跡を見つけたのだ。

 人工衛星により、この地区に不自然な空間の歪みが発生を観測したベルクヴェルク基地では、この歪みが少佐が転移魔法で消失したときの歪みと波形が似ているとして、転移魔法の出現先の歪みではないかと仮定して、その一帯を捜索したのだった。


 この大宮殿はグレートターリ帝国の魔法使いの多くが配置されていて、魔法による結界も幾重にも張り巡らされていて、さしものベルクヴェルク基地のねずみ達もその警戒網を突破するには時間が掛かった。

 しかし、結局は文明レベルの差が出て、ねずみ達は防御側には一切知られることなく、宮殿内を調査し、少佐の居場所を発見したのであった。


「フロリア様。ただいま、少佐と名乗る女性の居場所を確定致しました」


 それから10秒も経たないうちに、セバスチャンからフロリアに報告がなされた。

 

「ア、アリシュラン大宮殿??」


「アリスラン大宮殿でございます。グレートターリ帝国の帝都アイスランティオンの宮殿で、その一番奥のスランマン9世の後宮に少佐は潜んでおります」


 そう言えば、セバスチャンは少佐が皇帝の寵妃の1人であると言っていた。テキトーにお偉い皇帝の妃でもやっていれば良いものを、自分で密偵組織を牛耳って他国に暗闘を仕掛けてきたのか……。


「その後宮って、人が沢山いるの?」


 フロリアの問いかけにトパーズが不快そうな唸り声を上げた。


「フロリア。まだそんなことを言っているのか? あちらがお前の周りを狙ってきているというのに、お前があちらの周囲の者に気兼ねしてどうする。

 確かに無関係な者もいるやも知れぬが、それは運が悪かったと割り切るのだ」


 トパーズの強い口調にフロリアは押される。


「どちらにしても、後宮の周りなぞ、その皇帝のメカケか、皇帝の腰巾着みたいなものしかおらぬのであろう?

 そもそも少佐の暗躍は、皇帝とやらの希望に沿ったものなのだから、全くの無関係とは言えぬであろうよ」


 何度目かのトパーズの叱責。


「わかったよ。……ただ、機動歩兵を使うのは止めておくよ。生き残りの目撃者が居た場合、古代文明と結びつけて考えられたら面倒だから……」


「かしこまりました。ねずみについては宮殿内に増量しております。一定の戦闘力は確保しておりますので、きっとお役に立てるかと存じます。

 それから……」


 セバスチャンは、急ごしらえとは思えない装備を出してきた。既に前日の作戦のための装備を揃えていたのだが、それに加えて一種のヘルメット状の装備も加わったのだ。

 

「探知魔法の精度が落ちるよ」


とフロリアは言ったのだが、珍しくセバスチャンは譲らなかった。理論上、探知魔法を邪魔することなく、頭部への魔法、物理攻撃を排除するという優れものであった。

 魔法に寄る探知の他に、赤外線やらの探知機能などを備えている。

 それに知らない後宮を襲撃するのに、バイザー内に地図を投影出来るのも便利であるし、当然、顔を見られにくくするという面も見逃せない。

 しかし、セバスチャンが用意した服にこのヘルメットだと、アメコミのスーパーヒーロー風味が強すぎる気がする。

 まあ、マントで体の線は隠れるから良いか……。


「フロリア様。少々、離れた場所になりましたが、目立たない処に簡易転移魔法陣の設置が出来ました」


「分かったよ、セバスチャン。じゃあ、行ってくるね」


***


 一瞬の後には、影にトパーズを忍ばせたフロリアが、見知らぬ場所にいた。

 ここがなんとか大宮殿の……なんか薬臭い部屋だった。


「ここは?」


「薬草の保存室です、フロリア様」


 セバスチャンの言葉が静かに脳裏に流れる。

 どうやら、後宮の端っこの方に出たらしい。


 フロリアはセバスチャンの誘導に従い部屋を出ると、回廊を走り出す。


「すぐに我々の方の陽動も始まります。お急ぎ下さい」


「うん、わかっている」


 途中で、2度ほど前方から歩いてくる女官が居たが、その都度立ち止まって、静かに壁に張り付くと、ほんの数メートルほどの距離を交差しているのに、その女官はフロリアの存在に気づかずに通り過ぎるのであった。

 フロリア自身の隠蔽魔法の腕が上がっているのに加えて、ベルクヴェルク基地謹製の魔導具でもある服装やマントの効果もあるのだった。


 このまま、誰にも気づかれずに少佐の処まで辿り着けるのではないか……と楽観的な思いが生まれた瞬間、フロリアは何かの警報ボタンを踏んだのを感じた。

 全身が一瞬で総毛立つ。


「トパーズ!!」


「うむ。私まで感じたぞ。さあ、ここからは派手に行け。出来るだけ早く、あの小娘の元にたどり着くのだ」


と、フロリアの影から躍り出たトパーズは、やはり青年冒険家の姿に変化している。

将来的に黒豹=フロリアという図式が出来上がった時の用意であった。


 フロリアも先に走りだしたトパーズの背中を追って走りだした。

 少佐に自分がこの後宮に潜入したことを悟られた。

 少佐は一瞬で、意識が冴えわたったかと思うと、こちらに鋭い殺気を向けてきた。


***


 少佐はベッドから跳ね起きると、傍らに立つ女官に、「衛兵を集めろ!! 侵入者だ!」と叫ぶ。

 ついさっき、自分が起こしたばかりの少佐からいきなり怒鳴られて、また思考停止状態に陥る女官。

 少佐はまだくっついている方の手のひらで、その女官の頬を叩くと、「早くしろ!! 賊が後宮に入ったと言っているのだ!」と怒鳴り、ようやく女官が走り出す。


「曲者!! 曲者ぉ!!」


 女官が走りながら、叫んでいる。


 ボロボロになった戦闘服から、夜着に着替えなくて正解であった。だが、どちらにしても后妃が後宮で着る服など嫋やかで艶やかなのは良いが、どうしたって戦闘向きではない。

 だが、戦闘服の替えなど無いのだからやむを得ない。服装で戦力が大幅に変わる訳じゃない。


 少佐は部屋から飛び出して、まっすぐ皇帝の寝所に走る。

 皇帝の周囲には常に護衛役の魔法使いが居る。それも一流の防御魔法の使い手、かなり"エグい"攻撃魔法を使う魔法使いたち。

 一流の魔法使いは自尊心ばかり強くて、こうした貴人の護衛にはあまり向かないというのは常識なのだが、この後宮ではスランマン大帝以来の闇魔法・混沌魔法系の魔導具で心を弄られていて、皇帝には絶対の忠誠を誓っている。

 しかも、アリステア神聖帝国の魔法薬エンセオジェンと違い、魔法使いの能力をスポイルしない。多人数には使えないのが難点であるが、一騎当千の魔法使いが10数人も確保できれば、それは一個の軍隊にも等しい。

 

 少佐もこの魔導具に心を弄られて、皇帝の奴隷になりかねないところであった。少し先に転生人としての目覚めがあったために、どうにか心を失わずに済んだのだが、それでも完全に魔導具の軛から逃れる迄の間に、皇帝の性奴隷として扱われたのだった。

 なので、少佐はこの皇帝達は元より、この魔導具自体も憎んだものであったが、今となっては逆にこれらを支配し、その支配を通して、一国のよりすぐりの魔法使いを手足のように使えるようになっていた。


 皇帝警護の魔法使い達は女は皆、皇帝の妾か元妾(ある程度の年齢になったり、飽きられたりして"お呼び"が掛からなくなった女性)であり、男は宦官にされていた。

 男性の象徴を失った男は、情念や執念のはけ口が魔法しか残らないためだろうか、それまでよりも強力な魔力を発揮するようになる傾向があるのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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