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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第15章 新たなる陰謀
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第329話 少佐との戦い3

 魔法の匂いを嗅ぎ分ける忍び足の言を待つまでもなく、この只ならぬ魔力の奔流はフロリアのものだというのは明白であった。

 ――アドリアあたりならば、もう少し相手に察知されるのを抑えつつ感知魔法を広げるのだが、このあたりの魔法の使い方はまだまだ未熟な点が目立つフロリアであった。


「おい、砲兵」


 少佐は攻撃魔法のエキスパートである砲兵に、遠距離攻撃で先手を取れと命じた。


「しかし、相手を生かしたまま捕獲するのでは?」


 砲兵は少佐に質問したがが、「遠距離攻撃程度で死ぬような相手ではない」という少佐の返事に鼻白む。自分の得意の攻撃を軽く扱われたと感じたのだ。


「そうですか。死んでもわたしの所為にしないでくださいよ」


 砲兵は感情を隠そうともせずにそう言うと、斜めに打ち上げるようにストーンバレットを乱射し始めた。普通の魔法使いであれば、到底攻撃が届かない距離なのだが、砲兵はもともと射程の長い攻撃を得意としている。そして、今は山なりにストーンバレットを撃ち込むことで、さらに距離を稼いでいるのだ。


 通常、「機関」では魔法使いは反逆を防ぐためという意図もあって、本人の生まれ持った資質に関係なく、帝国秘蔵の混沌魔法・闇魔法系の魔導具の使い手に捻じ曲げられる。 元々、諜報機関なので派手な魔法を使う必要はなく、さらにこれらの魔導具は使用者の魔法使いの精神すら縛り付ける効果を持つので、場合によっては敵地に単独で派遣されるような任務の途中で亡命される危険も減じるのであった。

 

 以前にフロリアをフライハイトブルクのパーティホームから拉致しようと試みた時に、この手の束縛を受けた闇魔法使いが2名、馬車の中に同乗してきて、フロリアの精神を縛ろうとしたことがあった。


 しかし、少佐が今回、本国の本部から連れ出した4名の魔法使いは精神の束縛を受けていない。もって生まれた魔法の資質があまりに希少なものであり、それを失うのが惜しい、ということもあるが、元々の性質が自由を求めるよりも、時に汚れ仕事もあるような諜報機関の生活が性に合っているのだ。


 特にこの砲兵は、まだ姿が見えないほどの距離にある敵に対して、気配のみで先制攻撃を仕掛けられるという魔法を使い、しかも相当数の石魔法を乱打しても十分な魔力量ももっていた。

 正規軍がのどから手が出るほど欲しがる人材であるが、当人は「機関」の中で大暴れする方がよほど楽しいらしい。


 砲兵の乱射は、まず10秒続いた。わずか10秒の間に数十発のストーンバレットを撃ち込んでいる。

 そこで一旦、発射を止め、着弾状況を確認するのだが……。

 何の物音もしない。普段ならば、着弾の轟音と砂煙が上がるか、相手が防御魔法が間に合った場合には、その壁に当たった鈍い音や、岩が割れたり、転がる音などが伝わってくるのだが。


「どういうことだ?」


「分かりません。こんなことは今まで無かったのだが……」


 とにかく、戦闘開始の鏑矢は放ったのだ。すぐに相手は反撃してくるはず。

 少佐は、忍び足とクマにモルガーナ達を襲えと命ずると、砲兵はそのまま攻撃を続行、自分と壁がフロリアの居場所に接近すると命じた。


「私が上空に赤い光弾を打ち上げるまで、間断なくストーンバレットを撃ち続けろ。魔力を使い切って、カラカラになるまで撃つ積りでやれ」


 そう言うと、少佐と壁は背を低くして、フロリアの居ると思しき方向に走り出す。

 全員でフロリアを抑えることも考えたが、捕縛後のことを考え、人質もついでに確保することを優先したのだ。それが吉と出るか、凶と出るか。

 ともあれ、ストーンバレットの先制攻撃を如何にして凌いでいるのか。音も衝撃も起こさずにあの石弾の乱れ撃ちに対処する方法など無いはずだが。


***


 索敵を始めてすぐに、先制攻撃を受けた。この判断の早さは、フロリアにとってこれまでに経験したことのない相手であることを、改めて思わせるものであった。


「少佐か。やっと見つけた」


 まるで遊び相手を見つけたかのようなフロリアの笑顔。

 攻撃は上空から小さめの岩が降ってくるというものであった。


「まだ遠いのになあ」


 フロリアはその岩を収納にしまった。多数の落ちてくる岩を地面に着く前にどんどん収納していく、というのは普通は収納魔法の持ち主でも出来ないことであった。

 せっかくの手頃な大きさの岩なので、何かに使えるかも知れない、と思い、避けずに収納する方を選んだのだ。


「それになるべく周囲が被害を受けないようにしなきゃ」


 少佐側にも収納持ちがいれば、土魔法で作ったただの岩を飛ばすのではなく、スランマン大帝が発案した爆弾や焼夷弾を運ばせて、この場で取り出しては撃ち込む、という戦法が取れたのだが、「機関」の予算では希少な収納持ちを維持できなかったのだった。


 この砲撃を爆撃にバージョンアップしたいと言うのが、グレートターリ帝国軍部の見果てぬ夢であり、フロリアが率いる多数の大型猛禽類の群れはその夢を実現させるだけの可能性を示していたのだった。


「フロリア。2人近づいてくるぞ」


 トパーズがそう言うと、体を不定形に変えて、地面に張り付くように消えた。フロリアの影に潜むのとはまた違った、姿の消し方であり、トパーズも強敵だと感じ取っている証拠である。


 1人はフロリア自身と変わらぬほどの魔力量。おそらくは少佐だろう。もうひとりもアドリアに匹敵する程度の魔力量を感じる。

 それが高速移動でフロリアに迫ってくるのだ。

 

「幸い、今のところ他に通行している人がいない。誰か来ちゃう前に片付けよう」


 フロリアは収納から久々に魔導書を出すと、遠距離に魔法の威力を出現させる魔法陣のページを開けて、手のひらをかざす。ページの魔法陣が淡い光を帯びる。


 急速に接近する2人の魔法使いのすぐ前方に"口"が開いて、ストーンバレットが数発、高速で魔法使いめがけて撃ち出される。その距離は10メートル前後で、しかも魔法使い達の方も前方に向けて走っていたところに、いきなり撃ち出されたのである。

 当然避ける間もなく、ストーンバレットが直撃する。


 これは砲兵が先程から撃ち込み続けてきたものである。一方で自分の上に収納を開いて、飛んでくるストーンバレットを呑み込みつつ、もう一方でそれを任意の場所で撃ち出して、攻撃に使ったのだ。


 ストーンバレットの直撃を受けた、2人の魔法使いはさすがに足を停める。

 岩が命中した砂埃と飛び散る破片。それが晴れると、2人とも無傷であった。壁がとっさに前方に防御魔法を展開し、少佐もその影に隠れたのだ。


「なかなかの攻撃ではあるが眷属も呼ばずに、この私を倒せると思ったか?! 舐めるな!!」


 壁の展開した防御魔法は前面のみであったので、少佐はその上方を飛び越えてフロリアに直撃するようにファイヤーボールを数発、発射した。

 防御魔法を超えた瞬間に、いきなり加速してフロリアを一直線に襲うそのファイヤーボールは、どちらかと言うとランス(槍)とでも呼んだ方が相応しいほどの速度と威力を感じさせる。


「すごい。キレイな人」


 フロリアは火魔法の攻撃を防御魔法で防ぎながら、始めて少佐の顔を見る。

 あらかじめねずみ型ロボットの映像は見ていたものの、本物を前にすると、映像では分からないオーラにあふれていて、実に魅力的な女性であった。

 年齢はフロリアよりも2~3歳上ぐらいか。10代なかばの瑞々しい美しい顔が、今は怒りの表情を浮かべていて、それがまた人を惹きつけるような魅力を感じさせる。


 フロリア自身も、けっこうなオーラを放っているのだが、自分自身ではいまいちそれを自覚していない。それに対し、少佐は自分の"武器"はすべて把握して、他人、特に男を魅了する力を存分に発揮して、ここまで来たのであった。

 

 しかし、今は魅了より物理攻撃の時間である。

 少佐は壁の背から横に走って、防御魔法の範囲から出ると、フロリア目掛けて直線的にウォーターカッターを一度に数十、撃ち出した。

 これはフロリアの防御魔法に阻まれるが、色付きの水が弾けて一時的に視界を塞ぐと、その後ろから雷魔法を付与して高速高威力のストーンスピアが突き刺さってくる。

 このストーンスピアの方が本命で、その尖った先端によって防御魔法を正面から突き破るのが目的であった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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