表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第15章 新たなる陰謀
328/477

第328話 少佐との戦い2

 ねずみ型ロボットが設置した簡易転移魔法陣は、少佐達の居場所からは数百メートルは離れている、ひと目につかない場所であった。

 転移魔法の秘匿の為である。


 フロリアは相手からも察知されるのは覚悟の上で、すぐに感知魔法を使う。

 少佐も含めて5人の魔法使いはすぐにこちらに気がついたようである。

 トパーズがヌッと影から出てくる。


「なかなかの殺気ではないか。愉しめそうな相手だな、フロリア。

 念のためにモンブランも呼べ」


 そう言うと、最初から白虎やネメアの獅子などの猫科の猛獣の魔物を呼び出す。

 

「モンブラン。来て」


 最近はモンブランの眷属である猛禽類も偵察ばかりに使っていたが、今日は戦闘である。


「モンブラン、鷲や鷹の魔物を出して。強いやつをお願い」


 従魔とは細かい話をしなくとも、心が通じ合っていて、すぐにフロリアの只ならぬ決意は伝染して、空中から魔法攻撃を加えることができる魔物が呼び出される。


 城外とはいえ、この大陸でも有数の大都市であるフライハイトブルクの近くで、若い冒険者にとっては稼ぎ場所にもなっているマングローブ群落への通り道である。それなりに人通りは多い。

 おそらく、少佐達は他者に被害を及ぶことを躊躇しない。彼らが暴れる前に先手必勝で殲滅するのだ!!


***


 少佐の転移魔法はかなりの魔力を消耗する。

 回数は一日にせいぜい4回程度。随行者と共に転移することもできるが、それだと単独で転移した場合の2回分ぐらいの魔力を消費する。もちろん、他の魔法を使って魔力を消費すると、その分はしっかり使用回数に影響を与える。

 そして、転移先は自分が実際に訪れたことがある場所だけである。それも一度訪問しただけでは足りず、数度訪れて場所の位置関係が頭に入っていなければならない。

 なんとも効率の悪い魔法であるが、それでも恐らくは世界中のどこの誰も使えない、自分だけの魔法だと思えば気にならなかった。

 この弱点を知られることなくうまく使いこなし、そして生まれつき得意であった闇魔法や混沌魔法で他人を操り、この年でこの地位を得た。


 いや、こんな地位では全然足りない。

 グレートターリ帝国の乗っ取りプラス、帝国によるゴンドワナ大陸全土の征服。

 幸い、今のスランマン9世は野心家で、偉大な先祖スランマン大帝を超えるために中原に進出する気まんまんであった。しかも適度に頭脳は優秀で、皇帝としてのオーラもある。彼の後宮に潜り込んで、闇魔法を駆使してその野心をくすぐることで、少佐は皇帝を意のままに操ることに成功していた。


 元から本人が抱いていた野望を裏から乗っ取った形になるので、皇帝本人も周囲の側近達も少佐が皇帝を操っていることに気がついては居なかった。


「所詮は、ただの人間。転生人の私に掛かればこんなものさ」


 自らの体も餌にしているとは言え、簡単にスランマン9世という中年に差し掛かっている男を籠絡した少佐は、次の段階として自ら中原攻略に乗り出したのだった。

 やはり幾つもの大国が存在する広大な地域を支配するには、まずは軍に入る必要があったが、成人したての少女(しかも後宮の側女の1人)が軍の目立つ地位につくことは出来ない。

 そこで、軍の一部が編成に動いていた諜報組織である「機関」をジャックして、中原の出先機関を差配する地位に潜りこんだのだ。

 

 「機関」はもう一つの帝国の諜報機関「隠形」(宰相が支配している)に対抗して生まれたところで、「隠形」との競争という名目で本国の目を盗んで好き勝手が出来た。


 そして、カイゼル王国の軍組織に本格的に食い込む算段がついたところで、本国より「フロリアという少女を捉えよ」という指示が来た。

 基本的に本国の指示など、適当にあしらうのが常であったが、このフロリアという冒険者をやっている少女を調べたところ、少佐は多いに興味を持った。


「この小娘も転生人だ」


 少佐は不思議な確信を得た。


 それも自分が持っていない能力を持っている節がある。これまで本格的な攻撃魔法を使っている姿は確認出来ていないが、ゴーレムや強力な従魔を駆使していて、それは少佐には無い力であった。


「これを我が野望実現の為の道具にする」


 ただちに、フライハイトブルクに浸透しつつあった拠点を犠牲にしてまで、少々手荒い手段でフロリアを拉致しようとした。拉致して、目の前にこの小娘の姿を捉えれば、自分の闇魔法でその意識を刈り取れる自信があった。


 だが、ほとんど同時に複数箇所の拠点を制圧されるという失態を犯し、フロリア拉致作戦は失敗した。この失敗を分析して、どうやらフロリアにはまだこちらで把握しきれていない従魔が居て、特にハ号拠点あたりはその従魔の襲撃を受けたのだろう、と結論づけていた。


 そして、作戦が失敗して2~3日も経たないうちに、自分が何者かに監視されている、という奇妙な確信を少佐を襲うようになった。

 これもフロリアの従魔なのだろうか。

 少佐の他のライバル達にはとてもこのような魔法の使い方は出来ない。やはりフロリアによるものなのだろう。

 自分という敵が存在することを、フロリアに勘付かれている、それを前提に組織の立て直しを図っていたのだが、どうやらこちらが再度仕掛ける前に先手を取られたようであった。


 少佐は最大の警戒警報を鳴らしまくる予知魔法の命じるままに、すぐにイ号拠点から本国に飛んだ。

 このまま、本国で隠れてやり過ごす? それでは、中原侵略などいつまでも実現しない。

 あのフロリアという小娘を自分の支配下に置く。そうでなければいっそ殺す。

 とにかく、まずは小娘の行動の自由を奪うのが重要である。

 前回は、エンマという魔法使いの娘一行を拉致したのだが、部下に任せておいたら奪還された。今回はよりフロリアにとって近しい仲間であるマジックレディスのパーティメンバーを拉致してフロリアを脅す材料とするのだ。


 少佐は機関にかかえている魔法使いでその場に居た4名を連れて、フライハイトブルクに飛ぶことにした。同行者を連れての転移魔法は負担が大きいが、この4名はいずれ劣らぬ、優秀な魔法使いばかりである。グレートターリ帝国という国に生まれた為、軍人として働くことになったが、これが中原であれば冒険者となり、いずれもS級である雷撃のアドリアに劣らぬだけの実力がある。


「今から、フライハイトブルクを襲撃する」


 少佐はそう宣言するとすぐに町の城外に転移した。

 少佐が"知っている"フライハイトブルクの場所といえば、ル号拠点、ハ号拠点であるが、どちらも使えない(ハ号も監視されているだろう)。

 そこで、拠点を設置する前に何度かフライハイトブルクを視察するために転移したときに使用した城外の街道からちょっと外れた場所を使った。

 そこから城内に入って、マジックレディスのパーティホームを急襲する積りであったが、配下の魔法使いの1人が、近くにマジックレディスのメンバーの"匂い"がする、と報告した。

 その男は、魔法使い専門の暗殺者で、あだ名は忍び足。魔法使い個別の"匂い"や"音"を感じて、行方を突き止める能力があった。感知魔法とは違うこの男だけの特技で、一度覚えた"匂い"や"音"は忘れないし、かなりの長距離でも感じることができる。

 

 さらに感知魔法が得意の相手であっても気取られることなく接近する能力を持っているのだ。それ以外の魔法はほぼ使えないのだが、有能な魔法使いであってもいきなり後ろから首を斬られれば対処出来ないし、ナイフを振るうのに魔法は必要無かった。


 男は少佐に連れられて、中原の主要各国を歩き、有名な魔法使いはほぼ匂いを覚えていたのだ。その中にはマジックレディスの当時のメンバーも含まれていて、モルガーナの匂いも把握していた。


「モルガーナという身体強化魔法を使う魔法使いと、あと一人、仲間と思しき魔法使いが居ますね。その他にも、何人か弱めの魔力を放っている者が居ます」


「そうか、運が良いな」


 少佐はニヤリと笑った。


「そちらは確か、冒険者の稼ぎ場のマングローブのある方角だ。小遣い稼ぎにでも出たところに行きあったか」


 相手に気づかれる前にできるだけ接近すべく、少佐達は行動を開始した。


 ……が、いくばくも進まないうちに、全員が強力な魔力を感じて立ち止まった。


「これは、感知魔法!? この魔力の大きさはSランクどころの騒ぎではない!」


いつも読んでくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ