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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第15章 新たなる陰謀
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第318話 アドリアの決断

 フロリアは、アドリア達に敢えて野営地まで来てもらう必要を感じずに、適当なところで街道を少し逸れて、脇道に入り、適度に広くなっている場所をセバスチャンに探させてそこに馬車を誘導してもらっていたのだった。

 野営地はまだ血腥い状態であるし、賊共には他に連絡する隙を与えずに斃したので別の賊が来る心配は無いと思うのだが、万が一ということもある。

 それで、その前にアドリアと落ち合うことにしたのだった。

 

 野営地の賊を全滅させたという報告のあと、適当な脇道に入ってくれという手紙をフクロウのメッセンジャーから受け取ったクラーラは、「大丈夫、姐さん? もしかして、この娘も敵の言いなりになっているってことはない?」と心配した。

 脇道に入ると、馬車は速度が出せないし、万が一襲撃されたときに方向転換もままならないケースが多いのだ。


「この娘は、敵にやられるなんてことは無いからそのまんま信じても良いよ。もし万が一、敵の言いなりになっているにしても、何も出来ないなんてことはない。ちゃんとこっちに判るように工夫出来る頭があるから心配ないよ」


 アドリアは故意に気楽な調子で答える。

 実際には、フロリアほどでは無いにしても、人並みはずれた魔力を探知魔法に注ぎ込み、あたりに危険が無いことを調べて居る。

 馴染みのあるフロリアの気配に、あと3人分。この3人はどうやら寝ているようで、少しぼんやりした気配だが、悪意は感じない。

 それにフロリアの周囲と、この馬車の周囲にも、不思議な肌触りのごく小さな何かを感じる。「気配」と言い切るには、ぼんやりしているのだ。フロリアの周囲で時々、感じるもので、最初は勘違いかと思ったほど朧げだった。

 特に害意は無いのでそのまま放置しているのだが、もしかしてフロリアがまだその存在を明らかにしていない従魔が居るのかも知れない、と思っていた。


 近づくにつれて、フロリアの気配が尋常では無いことにアドリアは気がついてきた。殺気ではないが、よほど何かがあったらしい。怒り、悲しみ、悔恨、いろんな気持ちがないまぜになっている。


「この辺で良いや。馬車を停めておくれ」


 アドリアはそう頼んで、残り数百メートルは徒歩で移動することにした。


「良いの、姐さん?」


「うん。ここまでありがとうね。悪いけどしばらく待機していてくれないかい?」


「別に構わないよ。でも、十分に気をつけてね」


「ああ、大丈夫さ。なんたって雷撃のアドリア様だ」


 アドリアはクラーラとその夫にもう一度、礼を言うとフロリアに向けてあるき出す。フロリアが平静では無いとすると、他者は居ないほうが良いかも知れない。クラーラ達はアドリアにとっては昔馴染みで気心の知れた相手だが、フロリアにとっては一緒に活動した経験も無いのだ。


 数分程度歩くと、道の脇に平坦になった場所がある。草も刈られて広くなっている(この脇道を通る者がやったとは思えないので、フロリアが草も刈ったのだろうか?)。

 そこにフロリアがぽつねんと立ち、その脇にはちいさなテントが張られていた。

 3人の気配はそのテントの中からする。

 トパーズの気配はしないが、おそらくはいつも通り、フロリアに何かあれば一瞬で跳び出して来るのだろう。


「フロリア。大丈夫だったかい?」


 フロリアは何も言わずに、しばらくアドリアを睨みつけるような、思い詰めた顔をしていたが、その眼に涙が溢れてきて、ワッとばかりアドリアに抱きついてきた。


 そのまま、声を上げて泣き出す。

 アドリアは何も言わずに、フロリアを抱きしめたまま、背中を軽く撫でる。

 10分ほど泣き続けたフロリアは、ようやく落ち着きを取り戻してきて、アドリアに事情の説明を始めた。


 野営地での男たちの会話。自由都市連合とカイゼル王国を股にかけて、いくつもの拠点を作り、大掛かりに展開されたフロリアの誘拐劇。

 その巻き添えになってしまったジュリエンヌ・カプレ子爵令嬢一行。ハ号拠点と呼ばれる場所に監禁されていたのを救助し、現在、このテントの中に居ること。

 監禁されている間に彼女達がどういう目にあったのか、フロリアには正確に報告しようとしたが、アドリアに「そこは大丈夫だ。判っているから」と遮られ、再び泣き出すフロリアであった。

 

「姐さん。……私には、まだ姐さん達には言っていなかった秘密があるんです。それで、馬車で普通に行けば数日かかるぐらいの距離が離れていても、いろんなことが出来る力があるんです。

 その秘密を姐さんに話します。でも、今は……先に私を誘拐しようとした人たちを斃して、もう二度となにも出来ないようにしてからじゃないと……。

 多分、長い話になるし、姐さん以外の人に広まるときっと……」


「それは、ギルドのマルセロ婆さんなんかにも言わないほうが良い話なんだね」


「はい」


「分かった。それなら、お前から言うまで待とうじゃないか」


 そして、アドリアはフロリアを外に待たせたまま、テントの中に入っていった。

 どうやら、エンマは半ば意識を回復しているようで、何やらヒソヒソとアドリアと話をしている。

 探知魔法なり風魔法なりを使えば、その話の内容もわかったのだろうが、フロリアは話を聞くことが出来なかった。

 

「フロリア様。野営地の生き残りをいかが致しましょうか?」


 フロリアの気持ちに割って入るようなセバスチャンの問いかけで、そう言えば1人だけ殺さないで捕らえたまま、モンブランに任せて放りっぱなしにしていたことを思い出した。

 聞くと、モンブランはいつの間にか覚えた治癒魔法で一定の治療をしたので、このまますぐに死ぬことは無さそうだが、人の言葉の喋れないモンブランでは尋問などは出来ない。そのまま、フロリアが戻るまで見張ったまま過ごすのも無駄であるが、モンブランは特にその事に痛痒を感じる訳ではないので、そのまま何日でも過ごしかねない。

 ただ、セバスチャンの方は、野営地を"片付けろ"というフロリアの命令を遂行するため、捕虜の扱いについて尋ねてきたのだ。


「そうね、基地に連れ戻って、尋問して」


 誰も入れないつもりのベルクヴェルク基地であったが、今度は捕虜にしたとは言え、敵を入れることになった。


「まあ、そのまま外に出すことは無いけど……」


 フロリアは暗い気持ちでそう考えると、モンブランに捕虜をセバスチャンの手のものにわたして、野営地を離れるように命じた。


 しばらくして、アドリアがテントから出てきた。フロリアがこの女魔法使いと知り合ってから、これほど暗く厳しい目をしているのは初めてだった。

 

「フロリア。これから私の言う通りにするんだ、良いね」


 アドリアはそう言うと、いくつかフロリアに指示を出して、もう一度テントの中に入る。今度はすぐに出てきたが、エンマを連れて居る。

 フロリアよりも体格が一回り大きいが、セバスチャンが常日頃から過剰なほど様々な事態に備えて、多くのものを用意していてくれたおかげで、大きめの衣類があって、エンマが着ても違和感が無かった。


 エンマは、相変わらずどこかぼんやりとした様子だったが、フロリアを認めると、「助けてくれたんだね。ありがとう」と呟いた。


 助けたんじゃなくて、自分の巻き添えでひどい目に遭わされたのだ、全部、自分が悪いのだ! そう言おうとしたが、舌が喉の奥に絡みついたように何も話すことが出来なかった。

 私はなんと卑怯で情けない人間なのだろうか、と思った。


 フロリアは、アドリアに支えられるように、脇道を馬車の方に歩いていくエンマの背中から目を離すことが出来なかった。


***


 アドリアは馬車を駆って、フライハイトブルクに逆戻りしていった。

 半病人のようなエンマの姿を見て驚くクラーラであったが、アドリアが「今は何も聞かないで、手助けしてくれ」というと、黙ってその通りにした。

 クラーラの夫も特に何も言わなかった。


 クラーラとエンマは一時期だがマジックレディスで共に活動した時期があって、それなりに仲も良かったのだが、クラーラが他国を飛び回るようになると、顔を合わせる機会も減っていて、これが久しぶりであったのだが、旧交を温めるような時間は無かったのだった。


 フライハイトブルクに駆け戻ったアドリアは、すぐにジュリエンヌの父親であるカプレ子爵の行方を探した。ポートフィーナまで急行しなければならないかと思っていたのだが、娘の見合いが思ったように行かなかった子爵はフライハイトブルクに一旦戻っていたので、すぐに面会することが出来た。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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