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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第14章 夏の思い出
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第302話 クラーケン討伐4

 しばらく皆だまって歩いていたが、沈黙を破るのはいつも通りモルガーナだった。


「ティオちゃん、すごい龍だったね。ね、ね、あれどうやったの?」


「秘密ですよ」


「確かに冒険者のキメワザって追求しないのが礼儀ですが、あのレベルとなるとパーティで共有する必要があると思います。今で無くても良いですが、後で教えても良いと思うことはちゃんと教えて下さいね」


 ルイーザの言葉に、フロリアの返事は「あ、あれは単なる脅しですよ。あれで攻撃とか出来ません」というものであった。

 

「えー、そうなの? ま、ボウボウ燃えてたら、首の上に乗ることは出来ないだろうから、良いか」


 エンマが呆れたように「あんたは乗れなきゃ、もう興味がないの?」と言うのだった。


 まるで、ついいましたが決闘があったことなんか忘れてしまったかのようなリラックスした雰囲気に戻っていて、このあたりは流石にマジックレディスは百戦錬磨である。


 漁村に着くと、相変わらず大勢の見物客はもちろん、漁師たちやギルドなどの関係者も集まっていた。

 アドリアの姿を見つけると、すぐにギルドの職員が走ってきて決闘の事情を聞きたい、という。


「話しても良いけど、それじゃあ今日は討伐はなしだよ」


「いや、それは困る」


 網元の老人が聞きつけて、話に割って入ってくる。


「昨夜、うちの若いものが様子を見ると言って海に出たのじゃ。

 そうしたら、クラーケンに追われて、どうにか喰われずに命からがらに逃げ帰ってきたのじゃ。早く討伐してもらわぬといつまでも漁が出来ぬ」


 それでまたまた少し揉めたのだが、上の街道の方から大魔導師一行がやってくるのが遠くに見えたので、「もっと絡まれて、海に出られなくなる」とばかりにアドリアの命令で大鷲を呼んで、海の上に出たのだった。


「あの爺さんたちにまたしつこくされたら面白くないだろうからね。それにしても、あのラザロがあんなにビビって逃げるところ見ると、フィオ、あんたは龍のおもちゃだけじゃなくて、一緒に闇魔法か混沌魔法でも使ったのかい?」


 さすがにアドリアの目は誤魔化せない。


「はい。ちょっとした混沌魔法で、龍の姿を数倍ぐらい怖く見せたのと、あとはあの人が驚いて精神の安定を崩した時に心に恐怖を植え付けたんです」


 さすがにそのぐらいのことはしないと二つ名持ちの魔法使いが衆人環視の中、尻尾を巻いて走って逃げたりはしない。


「ま、あいつの自業自得だけど、さすがに恨まれるかもよ。それにファーレンティンの爺さんもそうだけど、あんたの魔法や魔導具に興味津々なヤツは更に増えただろうね。

 無理やりでも、あんたに売られた喧嘩を代わりに買わなかった私にも責任があるから、あんまり言えないけどね。

 ――年齢はともかく、魔法の方は充分に一人前だと思ったから、あえてやりたいように決闘をやらせたけど、……こっちの予想以上だったよ」


 空の上でアドリアはそう言うのだった。

 そして、フロリアには聞こえないように、「いつまでこの子を守れるのかねえ」と口の中で呟いた。


 ……海の上を30分ほど周回したが、クラーケンは出てこない。

 セバスチャンによると、海底に貼り付いていて、浮上してこないのだという。

 

「さすがにクラーケンも学習した様子でございます。誘導波を流しましょうか、フロリア様?」


「ううん。あれは姐さんにも勘付かれるから迂闊には使えないよ。でもこのままじゃ埒が明かないなあ……。昨日、準備してもらったのも、クラーケンが海上まででてこないと使えないしなあ……」


 そんなことを内心で話しながら飛んでいると、アドリアが「仕方ない。いっぺん、浜辺に戻ろうか」と決断する。


 浜辺には大魔導師ファーレンティン一行が手ぐすねをひいて待ち受けている。


 本来なら、討伐依頼を実施中の冒険者パーティに横から邪魔をするなど、横暴も良いところなのだが、ファーレンティンはそれが許されてしまうところがある。

 大陸全土に支部を持つ錬金術ギルドのトップという社会的地位もさりながら、その横暴も権力欲や金銭欲から来るものではなく、ただひたすら魔法や魔導具、魔物に関連したものばかり……という点で大目に見られてしまっているのだ。


「それでも、10年ぐらい前迄はあそこまで気ままじゃなかったんだけどね。老いぼれて堪え性が無くなってきたのか、残っている寿命を計算したら我慢する余裕が無いと思ったのか……」


 冒険者ギルドのマルセロあたりは何時だったか苦笑いしながら、そう言っていたが、それで追いかけ回される方は苦笑いしてる場合ではない。


 今回も浜辺に降り立つと、若いモルガーナやソーニャたちよりも先にファーレンティンが砂に足を取られながら走ってくる。


「りゅ、龍を出したと聞いたぞお!! おい、ここで出すのじゃ! どんな魔法なのじゃ?! 

 それと、昨日も人さらいの魔法使いを何やら不思議な魔法で撃ったと聞いたぞ。儂の処の若いものが遠くで見ておったが、これまで見たことのない魔法だそうじゃな。魔法か? 魔導具か?」


 フロリアに掴みかからんばかりにまくしたてる。


「ちょっと、大魔導師様。うちの若い子が怖がるじゃないですか」


 アドリアがからだをねじ入れるようにして、ファーレンティンを引き剥がしてくれる。

「メンバーで作戦会議を開きたいんで、少し時間をくれませんか?」

 

 とも言うのだが、ファーレンティンは確かにクラーケンも興味はあるが、今は魔導具が先じゃ。イカなんぞ、逃げるわけじゃなし、その辺を泳がせ置けば良いのじゃ! と怒鳴って、漁師たちの顔色がさっと変わるほどで、ようやくファーレンティンの弟子たちもさすがに少しまずい、と思ったのか老人を引きはがすのに協力してくれた。


 いずれにしろ、後でフロリアは話を聞く、という約束をさせられる。

 あくまで約束したのは話を聞くだけで、こちらの秘密を話すとは約束していない。


「さ、どうしたものか、意見を出せるかい、フロリア?」


 意見が無ければ、昨夜大雑把に決めたように、漁船を1つ借りてそれで沖合に出てクラーケンをおびき出す、という作戦をとることになる。

 これは大鷲から攻撃するよりもずっと危険であるし、アドリア得意の雷撃が使いにくい。


「なあに、雷撃たって使い方次第さ。うまくこっちが感電しないようにやってみるさ」


 アドリアは気楽な口調で言うが、かなり無理をしているのは、判ってしまう。


「姐さん。無理はしないで、ホントに数日置いてからまた大鷲使おうよ。日にちが空けば、クラーケンも油断するかも……。もうなんとかっていうお坊っちゃまも邪魔しないだろうし、じっくりやろうよ」


「その間、ここで漁が出来なくなるよ」


「そりゃあそうだけど、生き残るのが冒険者のいちばん大事な特質だって言ってたのは姐さんじゃない」


「モルガーナ。まあ、その通りなんだけどさ。こういう風にこじれちまった依頼ってもんは時間を掛ければ掛けるほど、また思わぬ横槍が入りかねないんだよ」


「私も今回はアドリアは無理し過ぎだと思います。少しぐらい名声が落ちても構わないので、船を使うのはやめてください」


 モルガーナにルイーザが同調するのは珍しいことだが、今回はルイーザも心配なのだろう。自分たちは浜辺で待っているしか無いのがもどかしいのかも知れない。


 いつもはあまり発言しないソーニャや、今では外部だということで意見を差し控えていたエンマまで船を使うのは反対だと言い出した。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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