表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第14章 夏の思い出
299/477

第299話 討伐前にちょいと決闘

 翌朝。

 ホテルでの朝食を終えた、マジックレディス一行はまたしても漁村を目指す。例のカイゼル王国の軍人はどこかに雲隠れしたのか、姿を見かけない。

 ホテルを引き払ったのかどうかは、別にアドリアは調べるつもりも無かったので、放ってあるので判らない。


 道すがら、朝食前にやってきた冒険者ギルドの職員のもたらした報告について少し話をした。


 衛士たちに捕縛され、厳しい追求を受けたアンガスは結局、誘拐未遂犯として処断されてしまったということだった。

 当人は知り合いに関わりのあるお嬢さんが怪しい男たちに攫われそうになっていたので助けて送り届けようとしただけだ、と主張したが、その主張を認めるとその"怪しい男たち"を追わなければならなくなる。町のお偉いさん達にも、その男たちがカイゼル王国の軍人だと言うことは見当がついていたのであろう、そんな藪をつついて蛇を出すような主張を受け入れる筈もなく、単純にスポンサーであったティベリオから見放されたアンガスが、そのティベリオの婚約者(まだ仮だが)であるジュリエンヌ嬢を攫って獣欲を満たそうとした、と断じてしまった。

 ジュリエンヌ嬢もアンガスに殴られ、ひどい目に遭わせると言われたと証言し、他にも会話までは聞こえなくとも様子を伺っていた野次馬も居るし、そもそもカプレ子爵も「娘が駆け落ちを試みた」などという家の恥を主張する訳もなく、暴漢に襲われたがあわやというところで、旅程で護衛を頼んでいた冒険者とその仲間が大鷲で救助に駆けつけて来てくれた、というストーリーでまとめようとしていた。


 冒険者ギルドの職員は、そうした訳でアンガスは罪を得たので、捕縛したモルガーナやフロリアに報告に来た、ということである。


「あ~あ、誘拐未遂犯か。そんな罪状じゃ、あいつ……」


「気にすることはないよ、モルガーナ。向こうが悪いんだ。これでエンマにとっても、ケツを追いかけ回していた奴らが1人減って都合が良い、とでも思うんだね」


 大抵の場合、誘拐未遂犯だと一般人だと闇魔法で隷属させて強制労働である。人を殺した訳ではないが、貴族の令嬢の誘拐未遂となるとけっこう長期の厳しい労役が待っていて、なかなか生き延びてシャバに出てくるのは難しい。

 しかし、犯人が魔法使いの場合だと、短期間なら魔法で縛っても、刑期が終わる前に魔法に耐性が出来て脱獄してしまうケースが多い。なので、一般人と同じ罪の重さでも罰が重くて、死罪が待っているのだ。


 罪に対する罰というものは、現代日本では刑法で定められていて、状況や動機の悪質性、初犯か否かなどの状況によって多少の罰の重さが違ってくるが、犯罪者の属性によってガラッと変わるということはない。

 それに対し、この世界では魔法使いと一般人では違う法律が適用される。今回のような他国の人間とは言え貴族の令嬢に対する誘拐未遂などという重大犯だと一般人でも死刑とあまり変わらないような厳しい労役を課せられるので極端な違いは感じられないのであるが、一般人であれば数ヶ月~数年程度の割りと軽めの労役で済むような犯罪でもいきなり死刑になりかねない。

 これは一重にその魔法使いを縛っておく方法がない、という実務的な理由によるもので、フロリアが最初にこれを知った時には前世の常識とのあまりの違いに大きな違和感があったものだ。


 だが、この世界の人間にとっては当たり前のことで、それ以前に貴族階級の人間と庶民との間でも当たり前のように適用される法律が違う(大陸のほぼすべての国でそうである)。

 つまりは、これでアンガスは死罪になるが、それをくよくよ悩んでも仕方ない、とアドリアは言っているのだ。

 実際、アンガスは即日(昨夜遅くに)、その首は胴体から離れて刑場の地面に落ちたそうだ。


「そう言えば、アンガスの仲間っていうか、手下はどうなったの?」


「運の良いことにこの誘拐未遂には関わっていないことが複数の証言で明らかになりましたので、無罪放免されています。もう町から出て行きましたよ。フライハイトブルクのギルドでも居づらいかもしれません」


 モルガーナの質問に、ギルドの職員は答えていた。


 このちょっとサバサバし過ぎだろうというマジックレディスを始めとするこの世界の冒険者達の感性にはなかなかついていけないフロリアであった。


 街道をそれて、漁村に向かって降りていく道に入る辺り。


 一人の男が道の真ん中を塞ぐように立っている。


 いや。

 そもそもがマジックレディスの周囲には物見遊山の見物客が遠巻きに集っていて(ギルドの職員のガードがあるので直接接触は少なかったが)、道が塞がるのはよくあることなのだが、この男は雰囲気がだいぶ違う。

 魔力を感じることの出来ない一般人であってもこの男の異様な雰囲気には思わず道を空けてしまうほどの殺気を漂わせている。


「来た……」


 昨夜、セバスチャンから報告を受けて判っていたことだが、やはり緊張が走るフロリアだった。


「ふむ。確かに良い殺気だ。勝負をしようというときにはあのぐらいの殺気を出さねばな」


 トパーズがフロリアの影で小さく唸る。


「あんたは他人事だと思って。私、あんなの相手するんだよ」


「良いではないか。フロリアもあのぐらいの気迫を持って敵に対するべきだ。さ、手を抜くとやられかねぬぞ。しっかり、倒してくるが良い」


 この男の異様な雰囲気にアドリアがパーティメンバーの一歩前に出て、緊張感を漲らせて、対峙する。

 さすがに修羅場慣れしているアドリアらしく、一瞬にしてこの男の殺気に対応出来ている。


「あんた、確か風刃のラザロだね。昨日は船で邪魔をして、今日はとうせんぼかい? こっちも依頼を受けてやってることなんだ。いい加減にしないと、後悔する羽目になるよ!」


「お前には用事は無い。俺の仕事の邪魔をしたそこの小娘に用事がある」


 ラザロはその視線でフロリアを射抜くように睨みつけた。


 モルガーナとソーニャがさっとフロリアの前に出て、ガードする体制になった。


「ふん。他人の影に隠れて、逃げるのか! おい小娘! 昨日はお前が変な魔導具を使った所為でクラーケンを始末する処を邪魔された。その責任を取ってもらおう」


「何を言っているんですか? 自分がぼやぼやしていて、クラーケンを仕留めそこねたからって、私の所為にしないでください」


 実際には、フロリアが久々に魔導書で魔法を増幅して、船ごと空中に持ち上げて、アドリアの雷撃の邪魔をさせなかったのだが、まさかそんなこと認める訳がない。

 

「いや、お前の所為だ。お前がなにかあくどいことをしたんだ!! 絶対に許せねえ!」


 ラザロはそう怒鳴ると、フロリアを指差し、「テメエと勝負する。逃げるんじゃねえぞ」と言い放ったのだった。


 周りの見物客たちがどよめく。

 魔法使い同士で決闘など、聞いたことも無い。いや、魔法使いは基本的に傲慢な性格の者が多く、特に冒険者になるような魔法使いは攻撃魔法が使えることが前提みたいなものなので、決闘になることも無いではないのだ。

 さすがにたとえ冒険者でも一般人が相手だと決闘騒ぎまではいかないことが多いので(魔法使い側でも外聞が悪くなるのは避けたいし、一般人側でも自殺願望でも無い限りは魔法使いとサシで勝負しようとは思わない)、魔法使い同士での決闘になる。

 アドリア達も過去に有名な魔法使いと決闘騒ぎを起こして、その都度相手を叩きのめして名を挙げてきたという前歴がある。

 冒険者ギルドとしては、貴重な魔法使いのつぶしあいなどやめて欲しいだろうが、相手が魔法使いでは実力行使で停めることも出来ず、せめて相手を殺したり再起不能にしたり、といったことが無いように祈るだけである。


 もっとも、さすがに魔法使いの方でも、相手を殺すまでやると、官憲の手が伸びることもあるし、深刻な恨みも買う。なので滅多に殺人にまで発展することは無かったのだが、それでも魔法使い同士の決闘ともなれば、大いに見もので、見物客がどよめくのも無理は無い。


 しかも、片方の魔法使いが年端もいかない少女となれば……。


 決闘は申し込まれて断るのはかなりの恥になる。

 だが、アドリアはなかば呆れたような表情になって、「あんた、まさかこの子が受けるなんて思ってないだろうね」と返した。

いつも読んでくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ