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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第14章 夏の思い出
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第291話 ティベリオの事情

 フライハイトブルクの名家にして、議員を世襲しているモンテッキ家の跡継ぎ、ティベリオは昨日の無様な失点を回復すべく、マジックレディスのクラーケン討伐に介入したのであった。

 子飼いの魔法使いパーティである焔の魔導師は無様に失敗した上、リーダーのアンガスは自らの体たらくを棚に上げて、勝手に無理な作戦を実行させたティベリオを非難して逃げてしまった。

 そのアンガス自身も自らのパーティメンバーから逃げられ、もはやパーティの体をしていないのだから、話にならない。


 ティベリオは、焦っていた。

 近年、フライハイトブルクの議会はだんだんと世襲ではない議員が増えてきて、代々世襲している議員達との間で、一種の分裂傾向が目立つようになってきた。

 世襲議員達は先祖が積み重ねてきた利権のおかげで資金力と、フライハイトブルクだけではなく各国の要人たちにまで張り巡らされた権力者のネットワークが強みで、長らく一代で成り上がった議員を圧迫して議会の主流派を占めてきた。


 それがこの数十年の間、着実に"成り上がり者ども"の発言力が強まっていき、今や単純に人数だけなら一代議員の方が増えている。それに応じて、政治的剛腕の持ち主も出現して、フライハイトブルク市政、ひいては自由都市連合の手綱を握るようになってきたのである。

 彼らは市の組織の中の3つのギルドを権力基盤に、抜け目なく儲け話を見つけ出す嗅覚はもちろん、魔法使いを優遇して自らの権力拡大に結びつけて来たのである。

 錬金術師達を絡め取って、今や彼らの生み出す魔導具やポーション類は、一代議員達の金主とも言える大商人達が独占に近い状況である。

 そして、付与魔法は使わない(使えない)、冒険者職の魔法使いたちも一代議員に尻尾を振っている。

 有名な女性だけのSランクパーティ、マジックレディスなどはその最たる例である。


 こうして、凋落傾向にあるモンテッキ家であるが、その嫡子ティベリオは野心家で、今一度モンテッキ家の栄光を復活すべく、以前から目立った活動を繰り広げていた。

 冒険者ギルドや商業ギルドの首脳陣たちはティベリオを無能な働き者と見透かしていて、その活動を冷ややかな眼で見ていたが、意外にも父親や親戚筋あたりからは次代のホープとして期待されていた。


 そこで、現モンテッキ家当主は嫡子ティベリオに、フラール王国の貴族カプレ子爵家の長女との婚約を整えたのである。

 フライハイトブルクの伝統的な外交政策は、現状維持と平和政策である。特に流通の大動脈であるモルドル河の両岸にあって、建国以来の対立関係にあるフラール王国とカイゼル王国については決してどちらかに肩入れして、その結果、バランスが崩れて戦乱を招くようなマネをせずに、どちらとも等しく付き合うというものであった。

 しかし、モンテッキ家はフラール王国に多くの利権を持っていて、この国との結びつきを強め、自由都市連合+フラール王国の同盟にまでこぎつけたいという政治的野心を持っていた。

 その同盟の戦力、経済力でカイゼル王国を押し込んで、完全にモルドル河の支配権を同盟のものとしたい……という目論見であった。


 商業ギルドのアルバーノ老あたりに言わせれば、モルドル河の支配権をフラール王国のものにするということは、長い目で見れば、自由都市連合そのものをフラール王国に売り渡すような所業である、ということであった。

 それで、近年は両者の対立は激しくなっていたのである。


 さらにフラール王国のカプレ子爵家の方も代々、王国の外交に関わってきた法衣貴族の実力者なのだが、如何せん子爵というのは肝心の本国の宮廷で軽く扱われがちである。

 そこで、フライハイトブルクの豊富な資金力を得て、本国で勢力を伸ばし、最終的にフラール王国の国力が大いに伸長した暁にはその立役者として王国での地位を盤石にしたい。

 

 この両者の思惑が合致して、ティベリオとジュリエンヌの婚約が整い、顔合わせのために両者がこのポートフィーナを訪れた、という訳である。


 ティベリオとしては、これまであまりモンテッキ家と付き合いの薄かった冒険者パーティの中で、結構な実力者パーティ(とティベリオは思っていた)である焔の魔導師を見出し、そのパトロンになったこともあり、婚約を機に一気に家督相続まで進めたいという意気込みであった。


 ところが、そのジュリエンヌお嬢様は割りとかわいい顔立ちの少女であったのは良いが、ティベリオに対して、心ここにあらずといった風情。

 しかも、モンテッキ家にとっては目の上のたんこぶとも言えるマジックレディスがポートフィーナに来ていて、焔の魔導師と夜会で小さなトラブルまで起こしたらしい。


 焔の魔導師のアンガスが以前から、マジックレディスに親しい女魔法使いを狙っていることは聞いていた。うまく取り込んで、敵の勢力が目減りするのは悪いことではない。

 だから、好きにやらせていたのだが、このポートフィーナでも失敗したらしい。


 それで、モヤモヤしていたところに持ち上がったのが、クラーケン騒動である。

 話を聞きつけたティベリオはすぐに、問題の漁村を訪れたが、そこで情報収集するとすでに朝一番にマジックレディスが訪れたという。

 ちょろちょろ鬱陶しい奴らだ、と思ったものだが、よく話を聞くと、クラーケン討伐は難しい依頼だということで二の足を踏んでいるのだという。しかも、高価な依頼料を要求してポートフィーナの町の顔役達は困惑している。


「チャンスだ!! チャンスが、あちらから転がり込んできた!」


 そう考えたティベリオは、アンガスに相談もなくクラーケン討伐を買って出て、その結果大恥をかかされたのだった。


 飼い犬だと思っていたティベリオにも手を噛まれる形で逃げられ、こうなればあいつらが二度とフライハイトブルクで活動出来ないようにしてやる、と心に決めたのだが、それとは別に汚名を雪がなくてはならない。


 このまま、フランチェスカとの婚約が不調に終わり、家名に泥を塗ったまますごすごと帰っては、この先の輝かしい未来に暗雲が立ち込める。


 ティベリオはすぐに世襲議員派の中でポートフィーナに滞在している人物をピックアップして、急な面会を取り付け、必死に探し出したのが、新しい魔法使いである。


 現在、ティベリオ、漁師と一緒に船に乗っているのが、その新たに探し出した魔法使い、「風刃のラザロ」の二つ名を持つ、Aランクのソロ冒険者であった。


 ラザロは、フライハイトブルクの魔法使い冒険者によくあるように他国の生まれ(出生国は聞かれても答えない)で、特にギルドの規則に違反するような真似はしないのだが、傲岸不遜な性格で嫌われ者である。

 魔法使い、特にソロの魔法使いは、人生を通してずっと他人から搾取の対象として扱われ、気の休まる時はない。それで、当初は用心深い、ぐらいであった性格が徐々に人を信じない、傲慢、奇橋、と言われるような性格へ変貌してしまうことが多い。


 ラザロもまさにその1人で、簡単に権力者に靡くような男では無かった。

 ところがごく稀にあるのだが、近年になってラザロは魔力の衰えを感じることが増えてきた。魔法使いは死ぬまで、一度手にした魔力そのものは衰えないと言われている。ただ、あまりに老齢になると魔法を使うための集中力や体力が欠けてきて、働きが悪くなることはあるのだが。

 それが、時に魔力が年齢とともに減少していくタイプの「老い」があった、どうやらラザロはその1人だったらしい。

 

 そこでこの数年、悩んだ挙げ句、権力者に取り込まれることになるが、その庇護下に入って安全を得ようと考えたのだった。

 とは言え、これまで人との関わりを避けるような生き方をしてきたラザロに、充分な権力があって、今後もそれを維持することが確実、そして魔法使いを比較的重用する権力者の見分けなど付かなかったし、仮に見分けが付いても接触する手段が無かった。


 ラザロは稼ぎ自体は良かったので、ポートフィーナの水準からするとあまり高い宿ではないが庶民からすれば充分な贅沢である宿で静養していた。

 春先からかなり長い期間を掛けた依頼を1つ片付け、暑い間を過ごそうとやってきたのであった。

 そこへ、どうやら以前に依頼を受けた議員の紹介で、モンテッキ家の御曹司が顔を出したという訳である。


 この御曹司自体は、大した器量も無さそうではあるが、名門モンテッキ家の嫡男という点が気に入った。

 それで、まずは話を聞いてみることにしたのだが、クラーケン討伐をしたい、というのだ。


 このお坊ちゃんはアホだ、そう決めつけて、さっさと会見を終わらそうとしたラザロだが、マジックレディスの鼻を明かすのが目的だと聞いて気が変わった。

 唯我独尊的な性格の持ち主でもあるラザロは、兼ねてから自分のほうが雷撃のアドリアよりも優れた魔法使いだと信じていた。

 ギルドマスターなどに尻尾を振って、目立って割りのより依頼を優先的にまわして貰い、力のある若手を抱え込んで手足のように使っている、そこそこ見栄えの良い女なので世間の人気が出やすい……という訳で、アドリアの後塵を拝しては居るが、サシで勝負すれば、どちらが強いか判る筈である。

 だが、ギルドのお気に入りと本気の勝負などできる訳がない。ましてや相手は女である。


 ……そう、自分にも、周囲の人間にも言い聞かせては居た。

 

 実際にはあのとんでもない雷撃をまともに食らって、自分の防御魔法が機能するとは思えなかった。

 得意の風魔法がどこまで通用するか……。


 だが、魔物討伐ならば、こちらの作戦次第ではマジックレディスに勝てる目があるはずだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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