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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第14章 夏の思い出
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第289話 いざ出陣

 翌朝。

 普段よりも早い時間に起きて、すぐに出かけられる戦闘態勢を整えてから、食堂に降りると軽めの朝食を済ます。

 今日はいったん戦闘が始まると途中でトイレに行く余裕がないまま、長時間に渡るかも知れないのだ。


 ただし、そもそも収納魔法を使うフロリアの他は収納袋を持っているマジックレディスなので、すでに携行食は持っている。あらためて、ホテルで作って貰う必要はなかった。


 食堂には他の客はあまり居なくて、ガランとした印象。

 普段の時間よりも早いのはたしかだが、不思議だ、と言いながら、ホテルを出て、町の門を出て、街道を少し歩いてから道をそれて海側に降りていくと漁村があるのだが、昨日にこの道を通った時と明らかに違う。

 とにかく人出がすごく多いのだ。門の時点で外を見ると、「マジックレディスだ」「待ちわびたぞ」「水龍の時も大鷲を見たんだ! 今度も楽しみ」「頼むぞ!」などなどみんなすでに観戦モードだ。


「ちっ、やられたねえ」


 アドリアがたちまち不機嫌になる。

 そこに門の近くに冒険者ギルドの職員が待機していたのだが、「さ、今日はありがとうございます。早速ご案内します」とまるでパーティ会場に来たか、のように先導しようとする。

 どなりたくなったアドリアだが、確かに先導してもらい、前を塞ぐ観光客たちを適宜割って貰わないと漁村まで行きつけない。

 大人しくギルド職員の後についていくことになった。


 漁村まで行くとあちこちに急造のやぐらが建っていて、その上には見物客がたくさん登って居る。

 それだけではなく、ポートフィーナや漁村を囲むように腕を伸ばす岬の尾根の部分、かなり遠いが高いところなので、遠くで戦闘になっても見通すことが出来そうな場所にも結構な人が出ている。

 この岬の高いところにいる人々はきっと遠眼鏡の魔導具を持っているのだろう。


 漁村のあたりに置かれた討伐本部には、ギルドマスターや昨日同様に町の重鎮たち、大魔導師ファーレンティンとその取り巻き、更には、何故か近くのやぐらから聞き覚えのある甲高い声がするから何かと思えば、ヒステリー発作の持ち主、ジュリエンヌお嬢様まで居るではないか。


「どうやらカイゼル王国の仮◯ライダーとウルト◯マンは居無さそうでまだ良かった」


 フロリアはひとりごちる。


「いや、居るぞ。気配が判らぬか。街道沿いのところに居て、これから多分ここらに降りてこよう。あのヒステリー娘と鉢合わせになりそうだな。ま、フロリアは海の上に出ておれば、関係なかろう」


 その独り言にしっかりとトパーズが返答してくれる。


「うわぁ。でも、さすがにこの人数の前で自爆したら、本当にお嫁入りの先が無くなりそう。さすがに本人も自重すると思うよ」


 アドリアの方は近づいてきた、ギルドマスターを睨みつけて、自分たちは見世物小屋の芸人じゃない、と怒るが、ギルドマスターはニコニコしながら、「ええ、判っておりますとも。もちろん、判っておりますとも。しかしながら、皆様に多額の報酬をご用意するためにはここは1つ、私達も稼がせてもらわねばなりませんでして、はい。皆様にとってもより勇名が上がるよい機会ではないかと思う次第なのですよ」などと返答している。

 そればかりか、できたら見物客の目に付きやすいように、あまり沖に行かないで、昨日の焔の魔導師がやられたあたりで戦闘をして欲しいなどと言い出す始末であった。


「何処で戦闘になるかなんて相手次第なので分かりませんね」


 ぶっきらぼうにアドリアは言うのであった。


 そして、マジックレディスプラスエンマで最終ミーティングを開始。


「いいかい。ちょっと鬱陶しい見物人が居るけど、やることは昨夜決めた通り。私とフロリアで大鷲に乗って、海面に餌を撒いてクラーケンをおびき寄せる。

 で、先に海面に出てきた方のクラーケンに雷撃をかますから、その一発で死んでたら、フロリアが深いところに沈む前に収納する。生き延びていたり、すぐに沈んでしまった場合は、仕方ないから、そこで作戦終了。

 もう一匹のクラーケンはまた、後日討伐する。

 以上」


「分かりました。見物人たちは肩透かしになりそうですね」


「ふん。あのギルマスの口車に乗って馬鹿なお祭り騒ぎに興じてるからだよ」


 ミーティングは速やかに終了し、フロリアはモンブランを召喚すると、続けて眷属の大鷲も召喚して、フロリアとアドリアの2人が乗り込む。

 

 大鷲が現れると、見物人たちからは「おおーっ」というどよめきが起こり、さらに2人を乗せてあっさりと飛び上がるとさらにそのどよめきは大きくなったのだった。


 ただ、天候は明け方から曇り空で雲が低く立ち込めていて、いつ降り出しても不思議が無いような状態であった。

 この地方のこの時期の天気としては珍しい。普段ならば連日晴れが続いて、夕方の数十分ほど、ドーッという雨音と共に大量の雨が降るが、すぐにまたカラッと晴れて、気持ちの良い夜を迎えるというのが通常であった。


「セバスチャン、頑張っているな。いったい、どうやってお天気の調整なんてしてるんだろう? でもレーザービームなんか撃ったら、幾ら雨が激しく降っていてもさすがにバレるだろうから、なんとか魚雷程度で片付けなきゃ」


 アドリアは簡単に2匹目が出たら逃げろ、と言っているが、フロリアとしてはマジックレディスの名前に傷がつくのではないか、という心配もしている。

 もちろん、パーティリーダーがそのように判断したのだから、いまだ見習いの自分が口を出すべき事柄ではないのは判っているのだが……。


 ただ、雷撃を撃つ時にはどうしても低空飛行になるのは避けられない。

 そのタイミングで襲われ、自分やアドリアに危険が迫るようであれば、魚雷攻撃をためらうつもりは無かった。


「そろそろ、良いあたりだね」


「はい、姐さん」


 アドリアはやはり目立ちたがりのところがあるのか、あまりに冒険者ギルドと仲違いしても仕方ない、と思ったのか、昨日、焔の魔導師が襲われたあたりの近く、それほど沖合に迄は出ないで、餌場を定めたのだった。


 フロリアは、収納から昨日のうちに市場に行って仕込んでおいた魚のアラや、動物の骨などをばら撒く。

 前世の日本の近海に棲息していたイカは相当な肉食動物で、エビ類や小魚、オキアミなどを食べるのだが、この世界でもちょっと市場で聞いたら似たようなものであった。

 なので、クラーケンともなるとかなり大型の魚のアラでも食べるだろう、と考えたのだ。

 

 それだけではなく、「セバスチャン、誘導をお願い」と念話を送る。


「かしこまりました」


 簡潔に答えるセバスチャン。しかし、すぐに海の底のかなり遠くの方で何やら、奇妙に心がざわつくような感触が流てきた。


 アドリアもこれに気がついたらしく「なんだろうね、あれは?」とつぶやく。


 ヒヤッとしたフロリアは、セバスチャンに出力を下げさせる。これでもうまくクラーケンを引き寄せられるかどうかは、時の運である。


 そのまま10分ほど、フロリア達を乗せた大鷲は空中を悠然と舞っていた。

 確かにこの姿を見たら、冒険心がある者ならば、自分も乗りたい、と思うであろう。

 

「フロリア様。成功です。クラーケンは2匹とも餌場に向かっています。すでに餌の匂いを嗅ぎつけているようですので、誘導波は停止致します」


「うん。それで良いわ」


 そして、これまで以上に海面に注意を払って見ていると、影を発見して、「あ、あそこに!」とアドリアの注意を促す。


 最初は薄ぼんやりとした影であったが、海水面近くまで上がってきたのか、青い海にくっきりと黒々と浮かびがってくる。

 クラーケンの影が2つ。


「いきなり2匹かい。いっそ、もっと絡んでくれたら、雷撃1つで2匹とも行けそうなぐらいだけどね」


 フロリアは、収納に残った魚のアラを全部、海面に撒いて、クラーケンの接近を待つ。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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