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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第13章 海辺の町
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第287話 海の魔物6

「セバスチャン、お願いね、うまくやって」


「かしこまりました、フロリア様。お任せ下さい」


 ファーレンティンと話をしながら、それだけをセバスチャンに頼む。


 アンガス達を乗せたボーツが海に漕ぎ出すと、さかな型ロボットはその周囲に集合する。今日は漁の予定は無さそうでは有るが、うっかりと漁師にその姿を見咎められないようにしなければならない。

 案の定というか、すぐにクラーケンも気がついて近寄ってくる。

 アドリアの雷撃で傷ついた方はかなり怒りに燃えている様子だった。船を沈める前に充分になぶるつもりらしく、その巨大な吸盤のついた足を海面から出して、先端を空に向けてピンと張り、船の真横の海面に叩きつけたのだった。


 船は木の葉のように、という表現がピッタリ来る激しい揺れに見舞われ、魔法使い達は誰も船のマストや船舷ふなべりにしがみついて海に投げ出されないようにしているのが精一杯であった。


「くそっ、こんなバカでけえなんて聞いてねえ」


 海面から顔を覗かせて、船を見るその巨大な目玉は、人間には計り知れない不気味なもので、いわゆる感情があるのかどうかさえ定かではない。

 純白の体のあちこちに焦げたような痕がついているのは、今朝方、アドリアの雷撃を浴びた為であろうか。


 これだけでも完全に焔の魔導師の手に余る怪物である上に、「一旦、港へ戻るぞお」と船首を岸の方角にどうにか向けたとき、その前方からもう一匹のクラーケンが顔を覗かせるのであった。

 

「や、や、やっぱり2匹いるじゃねえか!!」


 アンガスの叫びに呼応するかのように、岸でも2匹目のクラーケンを確認して騒ぎになっていた。


「くそ、こうなりゃヤケだ!! 喰らえ!」


 アンガスはパーティ名にも採用しているぐらいなので、火魔法にはそれなりの自信が有る。

 その火魔法を傷ついている方のクラーケンに向けて放つ。

 クラーケンの胴体、甲の部分に当たるが、それでクラーケンが動じたりはしない。


「くそっ! このままくたばってたまるか!!」


 アンガスは必死に怒鳴る。


 だが、もう一匹のクラーケンも迫ってくる。海水面に近い船ベリから見ると、波の間に顔を覗かせるクラーケンの何と巨大なこと。

 焼け焦げクラーケンよりも更に大きく、禍々しい。


「お、おい、お前らも攻撃しろ!」


 やはり船べりに掴まったまま固まっているパーティメンバーに怒鳴る。

 しかし、元々魔法使いと魔力持ちの境い目ギリギリぐらいの魔力しか持たず、アンガスがクーデターを起こされる心配なく威張れる相手、という基準で選んだパーティメンバーである。

 この怪物に有効な攻撃などできるはずも無かった。


「チクショー、せめてエンマでも居たら……」


 エンマなら4大属性の攻撃魔法は全部使えるが、それでもどうにかなる相手では無かったのだが、アンガスとしてはそんなことぐらいしか言えることが無かった。


 と、クラーケンが2匹とも海水面から顔を出していたのが沈んでいった。


 海中に潜って、船を下から攻撃するつもりか……。

 どちらのクラーケンだろうが、あの巨体で体当たりをされたら最後である。


「お、おい、岸に戻るぞ。おい、船を漕げよぉぉ!!」


 こちらも腰を抜かしている漁師に怒鳴る。

 一刻も早くこの場所を離れなきゃならないのに、漁師はへたり込んだまま。

 自分で漕ぎたいぐらいだが、船の操り方なんか知らない。

 

「こ、ころんだ時に膝と腰を打っちまって……」


 漁師は絶望的な表情でアンガスを見る。


「バカヤロー! 死んだ気で漕げよ!!


 焔の魔導師の1人、ヘレフォードがいつの間にか立ち上がると、船のオールを手に漕ぎ始めた。


「おめえ、漕げるのかよ!?」


「少しはな」


「ばかやろう! だったらなんですぐに漕がねえんだ、早く漕げ。あ、あの魔導具は?」


「船を動かす魔導具を使うと、魔力が海中に流れて、クラーケンを引き寄せるかも知れねえ」


「あ、……あ、ああ、そうかも知れねえ」


***


 クラーケンは、ギリギリのところでセバスチャンのさかな型ロボットが攻撃を加え、そちらに気を取られているうちに、船が逃げる時間が出来たのであった。


 セバスチャンとしては、魚雷で討伐してしまえば一番合理的であるのだが、それはフロリアが喜ばないことが判っていた。

 雨による目隠しは、あまりに展開が早くて、天気の調整が間に合わない。

 それで、魚雷を爆発しないように魔力を流さないで発射したのだ。

 お陰で、うまくクラーケンの気をひけた割りには、その体躯に傷をつけずに済んだ。

 また、アンガスがしきりと海面を見ていたのだが、爆発が無かったので、やはり邪魔が入ったことを悟られなかった。


 適当に、海中の深いところまでクラーケンをおびき寄せつつ、他のさかな型ロボットが不発弾となった魚雷を回収。速やかに証拠隠滅を図ったのだった。


 そしてセバスチャンからフロリアに報告が上がる。


「フロリア様。ご命令の通り、クラーケンの引き剥がしに成功しました。漁船は現在、岸に戻っている最中です」


「うん、セバスチャン、ありがとう」


 また、心ここに非ず、の状態になりかけたフロリアを不審げに見たファーレンティンだが、ハッという感じで元に戻ったフロリアは「ああ、只今、逃げ切りに成功しましたね。私達が行かなくても犠牲は出ませんよ」とにこやかに応えた。

 大鷲を呼び寄せて、飛ばなくても良くなった。


***


 どうにか岸に戻り着いた船からすごすごと降りる焔の魔導師の4人と、腰を打ってどうやらぎっくり腰状態になってしまい仲間に助けられて、船を降りる漁師。


「何をやっているんだ!! 俺に恥をかかせるつもりか!!」


 いきなり怒鳴りつけるティベリオ。


「冗談じゃねえよ、あんなの、雷撃のアドリアだってどうしようもねえ。自分でやるんじゃねえからって安請け合いしねえでくれよ」


 元々、アンガスも傲岸な性格である。金目当てでこれまではティベリオに尻尾を振っていたが、もう我慢できなかったのだ。


「おい、テメエら。行くぞ。もうやっていられねえ」


 だが、焔の魔導師の残り3人は動こうとしない。


「なんだ、テメエら?」


 異様な雰囲気のメンバーにティベリオは珍しく、いきなり怒鳴らなかった。


「我慢できねえのはこっちも同じだ。もうパーティはやめだ」


「おい、ふざけて言ってるんじゃねえぞ」


「ふざけてんのはどっちだ」とヘレフォードが言った。


「なんで、おめえは俺が船を漕げるのを知らねえんだよ。俺が漁師のセガレだってことは何度も言ったはずだ。おめえはメンバーのことなんてどうでも良いから覚えてねえんだよな」


いつも読んでくださってありがとうございます。



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