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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第13章 海辺の町
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第284話 一旦、引き上げ

「そりゃあ、生き延びていたのがたまたまそうだったってだけだ。詰まんねえ難癖つけるんじゃねえぞ」


「てめえ、やろうってのか!!」


「お前ら、やめろ。落ち着け」「おじさん、やめて」「儂らの相手は魔物じゃ。仲間割れしてどうする」


 ……血の気が多い漁師たちの事ゆえ、あっという間に騒ぎは大きくなるが、


「静かにせんか!! バカ者共が!」


 網元らしき人の一喝でその場は収まった。


 そして


「お嬢さん方。済まぬが、この先どうするか、町の方とも相談してから決めねばならぬようですじゃ。またあらためて頼むことになると思うのじゃが、今日のところはここまでとして貰えぬか。

 あ、先程の若い者を助けて貰った礼金は、ギルドを通して払えば良いのかな」


「はい。この場で緊急に依頼を出したということにして、完了届と一緒に処理して下さい。ギルドの方も居るので、問題なく処理できると思います」


 こうして、マジックレディスプラスエンマは町に引き上げることになった。


「まったく、なんなんだよ、この村は。いくら田舎の村だって、こんな対応受けたこともないってんだ。さ、さっさと帰ろう。イカの親分がどう暴れようと知ったこっちゃない」

 モルガーナもブツブツ言いながらも、帰るのには異論は無いようだった。


 坂道を登って行く途中で、エンマのおじが走って追いついてきて、「済まねえ、エンマ。マジックレディスの皆さん。せっかく助けてくれたってのに、こんなことになっちまって。あの憎まれ口叩いていたヤツは以前から、俺たちのグループと折り合いが悪くて、何かと喧嘩になっていたんだ。普段はあそこまでひねくれてはいねえんだが、今回はあいつの身内が何人もやられちまったもんで……」と言い訳をする。


「大丈夫ですよ。依頼主と揉めるというのは割りとよくあるんで慣れていますよ。ともあれ、クラーケンのことが片付くまでは海に入らないようにしてくださいね。別に陸に上がれない訳じゃないみたいだけど、上陸して暴れたってことは無いみたいですから」


「判っています。また、よろしく頼みます」


 エンマのおじは引き上げていった。


 その背中を見送りながら


「ティオ。あなたの従魔の中には数キロ先まで観察できるような猛禽類も居るのですよね。それを村からは見えないぐらいの場所に居てもらって監視出来ませんか?」


とルイーザがフロリアに聞いた。

 

 ルイーザも村の様子は気になるのだが、村の上空に鳥を飛ばすとファーレンティン大魔導師を始め錬金術ギルドの人間も居ることだし気付かれる可能性がある。

 せっかく心配で見張っていても、後で漁師たちから「狡っ辛く、金になる隙がないか見張っていた」と言われかねない。

 そこで、遠くから見ておこう、ということだとルイーザが説明した。


「分かりました。モンブランに頼んでおきます。村の周囲からは鳥たちは撤収させます」


 鳥を使わなくとも、セバスチャンの監視網があるのだが、それをルイーザたちには教えていない。

 今日これから、実際に何か異変があった場合、それを皆に報告するのに「何故異変が発生したのを知ったのか」を説明しなくても良いのは、フロリアにとっても助かる。


「海の中は餌がいっぱいあるから、姐さんの言うようにクラーケンが上陸して暴れるとも思えませんが、念のためです」


とルイーザは言った。


***


「セバスチャン。クラーケンを倒す手段って持っている?」


 ホテルに戻り昼食を食べて、皆が思い思いに昼寝をしている昼下がり。

 フロリアは心の中でセバスチャンに問いかけた。


「フロリア様。監視のさかな型のロボットには攻撃用魚雷を積んでおります。また海中の浅いところでしたら、人工衛星で太陽光を集めてビームを撃つことも可能です」


「どちらも却下。ていうか、人工衛星にそんな機能があったの?!  武器は積まないってことじゃなかったの?」


「はい。武器ではありません。普段は衛星の運用に必要な電気を作るための太陽光発電システムを流用しています」


「……。

 死骸を回収することになるかも知れないから、キレイに倒したいの。後で解剖したときに方法が不明な倒し方をしてるとまずい。それだったら、これまで通りに追っ払うだけにしたほうが良いぐらい」


「さようですか。フロリア様たちが倒したように見せるのあれば、後で痕跡が残らないような方法を使って弱らせたところを、フロリア様たちが止めを刺す、というのは如何でしょう」


「そんなことできるの?」


「はい。魔物であれば、自由に興奮させたり、消耗させたりする魔導具がございます。笛の形が一般的でしたが、水中ですとさかな型ロボットに誘導波発生装置を搭載すればよかろうと存じます。

 お許しがあればただちに制作して、今晩までに現地に配備できるように手配致します」


 笛か。以前、セバスチャンはグレートターリ帝国のスランマン大帝に魔物を操る笛を提供したと言っていたが、その親戚みたいなものなのだろう。

 あまり使いたくない武器だけど、今回限りなら大丈夫かな。ただ気になるのが……。


「水の中だけど、音波は届かないんじゃない?」


「魔物を操るのは音ではありません。笛の形をしているのは、わかり易さを考えてのことであり、実際には魔力の波が魔物を操ります。


「うん、判った(実は良く分からない)。それじゃあすぐに用意して」


「承知いたしました、フロリア様。

 ……それから、ご報告がございます」


「どうしたの?」


「先程の漁村で船を漕ぎ出そうとしています。乗っているのは、漁村の漁師と、フロリア様たちが焔の魔導師と呼んでおられた、冒険者パーティの一行です」


「な、なんで!! その人達がそんなとこに居るの?」


「すでに町ではクラーケン出現の噂でもちきりでございます。どうやら、件の冒険者達はフロリア様たちよりも先にクラーケンを討伐して名前を挙げよう、という意図があるようございます。

 冒険者たちのパトロンと覚しき青年が、そのように言っております。

 今なら、クラーケンはすでにアドリア様の雷撃で弱っているので簡単に止めをさせる。最後の美味しいところだけを分捕って、英雄になるのだ、と」


 クラーケンが2匹居るかも知れない、という話は、「マジックレディスの奴らが獲物を横取りされないようにでっちあげた戯言なので、気にする必要はない」とも、その冒険者達のパトロンの青年は言っているそうだ。

 白髪長鬚の魔導師ファーレンティンは帰ったものの、具合の悪いことに、錬金術ギルドの連中が残っていて、「若いものにはやらせてみよ」とか言ってけしかけているらしい。少しぐらい犠牲者が出てもクラーケンの観察ができる方が大切なのだろう。さすがはあの野放図なファーレンティンの教えを受けるだけのことはある。


「姐さん」


 フロリアはセバスチャンとの会話を切り上げて、すぐにこのことをアドリアを起こして報告した。


「あほか……。死にに行きたいのかね、そいつらは? たとえ、もう1匹居るってのが町代だったとしても、雷撃喰らわせた方だって全力じゃないから、どこまで弱っているか判らないってのに?」


「どうするの、姐さん」


「放っておくさ。依頼が来たら考えよう。アイツラだって一人前の冒険者なのだから、ヤバいと思えば自分で判断して逃げるさ」



いつも読んでくださってありがとうございます。



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