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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第13章 海辺の町
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第281話 海の魔物3

 アドリアは先程、ギルドの職員に言ったことと同じ返答をする。事態がはっきりするまでは簡単に引き受けるとは言えない、と。


「いやいや、そんなに堅苦しく考えることは無いのですよ。Sランクで高名な雷撃のアドリアさんが乗り出してくれたとなると、こりゃあもう、どんな恐ろしい魔物が相手でも我々がしっかりと対応したということになるのですよ。

 お名前を貸して貰えるだけで、十分なのですよ」


 アドリアがピクリと動いたのが判った。


 あ、怒ってる、とフロリアは思った。

 この半年あまり、行動を一緒にして、アドリアの考え方というものが少し判ってきた。かなりさばけた性格だが、自分がSランク冒険者であるということに矜持を持っていて、だからこそ強力な魔物相手でも引くことはないし、依頼料もたっぷり貰う。

 それだけに、このギルドマスターのセリフはアドリアの逆鱗に触れるものだったのだ。

 

「名前貸しってどういう意味ですか、ギルマス?」


 その口調で、ギルドマスターは失言したとわかったらしい。


「ああ、いや、決して皆さんを侮るような意味じゃないんですよ。ただ、クラーケンという魔物は、まず倒せるような代物じゃありませんから、ね、ほら、どこかに去っていくのを待つしかない、となると」


「おい、ちょっと待ってくれ、ギルマス!」と同行してきた町の顔役らしき1人が「討伐してもらわなきゃ困る。魚が取れなきゃ、ポートフィーナの売りがなくなるじゃないか」と怒鳴る。


「あ、いや、別にそういう意味じゃなくてですな……」


と慌てて、フォローを始める。


 アドリアはため息をつくと、もうギルドマスターは放置して、ギルドメンバーの元に戻り、様子がはっきりしたら、町に戻るよ、と宣言した。


 程なく、沖から船が戻ってくる。


「おい、ボロボロだぞ」「数も減ってるじゃねえか」「だいぶやられてるっぽい」「昨夜、やられた奴らは誰も帰ってきてねえぞ」「おっとうが居ねえ」


 視力に優れた漁師が、身体強化魔法で視力を強化した魔法使い達と変わらぬぐらい、船が遠くにある段階から騒ぎ出す。

 それが、船が岸に近づくにつれて、騒ぎが大きくなってくる。

 

「畜生! 7隻で出たってのに、戻ってきたのは4隻かよ」


「おーい、残りの連中はどうしたんだ?!」


 船に乗った漁師が叫び返す。


「でっかいイカにやられたんだ! だが、夫婦岩の岩礁のところに何人か逃げ延びてる」


「おっとうは? うちのおっとうは生きてるのかい?!」


「ああ、岩礁のところに居たぞ。だけんど、怪我してたっぽい。早くしねえとヤバいんだが、とても近づけねえよ」


 漁師達が騒ぐ。


「ありゃあ、間違いなくクラーケンだ。乙女岩のあたりを回遊してやがる。船で近づいたらイチコロだぜ」


「おっとうを助けて! 助けてくれないの?」


「無理だ。イカは頭が良いから、囮で引き寄せる手も効かねえ」


 そう言ってざわざわ騒いで居たが、ギルドの職員が「あ、空からなら行けるんじゃないですか!」と叫ぶ。


「大鷲なら何人も乗れるでしょ。ひとっ飛び行ってきて呉れれば……」


「大鷲?」「そら、以前、モルドル河の水龍をやっつけたときに、大鷲に乗った魔法使いが空から雷を落としてやっつけたって」「ああ、Sランクのパーティだっけ。えらい話題になったけど、そんなパーティどこに居るんだよ」「ここに居るんだ! ちょいちょいと大鷲を呼び出して行ってきてくれりゃあ」


 漁師たちが、マジックレディスを見ながら、ざわざわと騒ぎ出す。


 ギルドマスターが、咳払い一つしてから、またアドリア達のところに来て話しかける。


「どうですか、一つ、さっと行って、罪のない漁師達を助けてくれませんか?」


 アドリアは苦虫を噛み潰したような表情になって、「幾らぐらい用意出来ますか?」と問う。


「ち、こんな時でも、まず金の話かよ」


 漁師の1人が憎まれ口を叩くが動じない。アドリアはじっとギルドマスターを見つめる。

 数秒で耐えきれなくなった、ギルドマスターは目をそらして、「あ、いや、この討伐は町の依頼になるでしょうから、町の議会に諮らなければ、私の一存では……」と小声で言う。


「そうですか。それじゃあ、討伐じゃなくて、とりあえず漁師の救出だけ請負います。で、幾ら出せますか?」


「いや、それもまずは私の一存では……」


「依頼はするのですか、しないのですか。他の事は後で良いからイエス、ノーで応えて下さい」


 そう言うと、アドリアはジッとギルドマスターを見つめる。


「あ、いや、その……」


「依頼をお願いしたい」


 漁師の中でリーダー格らしい老人が言った。この人が網元なのだろう。


「はい。請け負いました」


 フロリアはすぐにモンブランを召喚して、大鷲を頼む。


「ホゥ」


 モンブランは、また自分に用があるんじゃないのか、と不機嫌そうな声を出すが、すぐに眷属の大鷲を呼んでくれた。


「悪いね、モンブラン。大鷲くんも、私を乗せて、海の岩礁のところまで行ってくれる?」


 大鷲は首を地面近くまでおろして、フロリアが乗りやすいようにかがんでくれた。


「待ちな、フィオ。私も連れて行って貰うよ。クラーケンを見ておきたい」


 そう言うと、アドリアもフワッと浮かぶかと思ったら、フロリアの後ろに乗り込んで来た。


「ルイーザ。ここを頼むよ」


「お気をつけて、姐さん」「ええっ! 私も乗りたいのに!! 姐さん、次は私ね、ね!」

 

 素晴らしく空気を読まないモルガーナが騒ぐ中、大鷲は2名を乗せてもまるで意に介さないかのように、羽を大きく広げてバサリと羽ばたくと巨体が浮かび上がる。

 たちまち、空高く飛ぶと、海の上を滑るように進み始める。

 モンブランも当然のように、大鷲の隣を飛ぶ。


「あ、どのあたりに岩礁が有るのか聞かなかったねえ」


 アドリアが慌てたように言うが、「大丈夫です、姐さん。この子たちが判るみたいです」と返答する。

 実際には、先程からセバスチャンに命じて、人工衛星で下の様子を観測させていたデータを受け取って、モンブランを召喚した時点で、そのデータを念話で渡していたのだ。


 昨夜の時点で漁師が何人、船から放り出され、その救助隊が何人やられたのか判らないので、被害の程度ははっきりしないが、現在岩礁で震えているのは5人である。

 多分、2往復になるだろう。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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