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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第13章 海辺の町
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第279話 海の魔物1

 控えめにドアをノックする音。

 

「ひょっとして、向こうから来た?」


と思ったモルガーナがすぐに出たのだが、ここで女性陣のところを訪れるような安っぽい真似をするカイゼル王国軍人ではなかった。

 彼らは、網を張ったら獲物が掛かるのをじっくりと待つのだった。


「姐さん。ホテルの支配人さんだよ」


 モルガーナの言葉に、アドリアが代わる。

 しばらく、支配人と何やら話をしていたが、珍しくSランク冒険者が頭を下げている。


 やっと戻ってくると「やれやれ、騒ぎを起こすな、って怒られちゃったよ」と肩をすくめる。


「やっぱり。こちらに原因が有るわけじゃないのですが……」


「それは支配人も判っていたよ。だけど、あのお嬢様は最初に私達を探しに来たんだからね。まったく知らぬ顔も出来ないさ」


「姐さん、ごめんなさい。私が最初にあんな依頼を受けたばかりに……」


「気にすることはないさ。依頼自体は単なる護衛なんだから、別におかしなもんじゃない。護衛対象がちょいとアレだったのは、エンマの所為じゃないさ」


「それと」とアドリアは手に持った封筒をひらひらさせながら「今度はフロリアにお便りが届いてるよ」と言った。


 早速、受け取って開封して中を確認すると、「うっ……。ジューコーの錬金術ギルドで内輪のパーティを開くので、招待してくれるそうです……」とフロリアはうめいた。


「あのおじいちゃん達、諦めて無かったんだね」


「ていうか、未成年のフィオちゃんを誘うって……」


「お仲間の皆さんもどうぞ、って書いてあります」


「でも、どうせ会場に行ったら、うまく引き剥がされて、1人になったフィオちゃんを爺さんの集団で囲んで口説き落とそうって魂胆だよ」


 フロリアの手元の招待状を覗き込んだモルガーナが


「パーティの来賓にフライハイトブルクのファーレンティン大魔導師も居るよ。あ、参加者にピーノ親方も居る!!」


 たちまち、アドリアが苦い顔になる。

 10年ほど前、ピーノ親方がポンツィオ工房を受け継いで間もなく、窮地に陥った工房をアドリアが救った事があり、それ以来、折に触れてアドリアへのアプローチが続いているのだ。

 それで、様々なプレゼント(中には、王侯貴族でも持たないような豪華で高性能な馬車もある)を貰ったりしているのだが、一貫して塩対応を続けているのだ。


「ピーノ親方が何を考えているかは、丸わかりだけど、さすがにファーレンティン様が居るところで、ジューコーの人たちもあんまりみっともない真似はしないだろうと思うけど」


「いや、判ったもんじゃないよ。ファーレンティンさんも例の紐みたいな呪具以来、どうもフィオに目をつけているからね」


「あの方も、もともと珍しい魔導具が絡むと目の色が変わりますからね。しかも、最近はそろそろ自分の持ち時間があまり長くないと思っておられるらしくて、けっこう無茶なこともしているみたいですよ。

 錬金術ギルドでもちょっと戸惑っているみたいですね」 


「困ったもんだね。確かに魔導具についちゃ、大きな功績のある人なんだけどね」


「姐さん? 明日の夜になっているけど、どうする?」


「どうするも何も……そうだね、フィオが行くのなら保護者代わりについていくよ。嫌だっていうのなら、断りを手紙をフィオが出すんだよ。

 文面はルイーザに相談するんだね」


「おじいちゃんばっかりのパーティじゃあなあ。風邪気味だとかなんとか言って、断る?」


「それだと、お見舞いに来たりしかねないですよ。いっそ明日にはフライハイトブルクに戻ってしまった方が良いですよ」


「え~~、まだポートフィーナに来たばっかりじゃない。あ、そうだ、明日は海に遊びに行ってそのまま帰りが遅くなるから行けない、ってことで良いじゃん。

 明日の朝一番で断りの手紙を出せば良いよ」


「そうですね。なんなら本当に海に遊びに行きましょうか。手頃な漁船を借りられれば良いんですけど」


「あ、それなら、父方の親戚のおじさんに聞いてみましょうか?」


とエンマ。


「この時間から聞けるのかい? 町の外に住んでいるんだろう?」


「はい。うちの子を知っているので、手紙を持たせて家まで走らせます」


 エンマは従魔使いで、犬を数種召喚して使役することができる。その中で一番信頼しているドーベルマンに良く似た犬種の黒い犬にメッセンジャーをさせるのだ。

 

「ちょっと借り賃は弾まないといけないでしょうけど、きっと貸して貰えますよ」


「そうだね。それじゃあ、頼もうかな。ルイーザ、借り賃は大丈夫だろう?」


「構いませんよ」


「それじゃあ、ちょっと犬を送り出して来ます。あ、帰りはちょっと遅くなるかも」


「バーに行くのなら、飲みすぎないようにね。あと、念のために薬物無効のポーションを飲んでおきな」


「あの人は、そんなことをするような人じゃないですよ」


「あくまで、念のためだよ。自分は金の卵を産む魔法使いだってことは、一刻たりとも忘れちゃダメだ」


 特に強い口調という訳でも無かったが、珍しく威圧を込めたアドリアの一言に、エンマは少し傷ついたような表情になる。


「さ、アドリアはあなたを心配しているんですよ。これを飲みなさい」


 素早くルイーザがフォローに入って、収納から小瓶を出してくる。


 それ以上、エンマも反論することはせず、大人しくポーションを飲むと、「ちょっと着替えてから行ってきます」と自分の部屋に引っ込んだ。


「それじゃあ、フィオは断りの手紙を書いておきましょうか。届けるのは船が借りられることがはっきりしてからで良いから、明日の朝、出かけるときにホテルのフロントに頼んでおけば良いでしょう」


「はい。お願いします、ルイーザ」


***


 途中でドーベルマンが部屋まで「船の確保出来ました」というエンマの伝言を届けに来ただけで、エンマが戻ってきたのは、日付が変わってからだいぶ経ってのこと。


 すでにマジックレディスの皆は寝込んでいたので、翌朝になってコテージに戻っていたエンマを見つけて驚いたのであった。

 特にモルガーナが「あ、振られたんだぁ」と騒いで、エンマから険悪な目つきで睨まれる。

 でも、そのあたりは空気を読まないモルガーナらしく「ね、ね、どんな感じだった?」と絡み、ため息をついたエンマはフロリアの方を見ながら「あの変態男、子どものほうが好きみたいだね。フィオちゃんは気をつけたほうが良いよ」と言うのだった。


「え、フィオ! あの年なのに、フィオ狙い!! うわぁ!」


 大げさに騒ぐモルガーナはルイーザに頭を叩かれるのだった。


「ちょっと静かにしな」


いつも読んでくださってありがとうございます。



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