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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第27話 お説教

 翌日。大門を出るところで、そのあたりでうろついていた若い衛士に呼び止められる。


「お前がフロリアだな」

 

「はい」


 衛士は代官直属の町の治安維持を担当する役人で、領軍の兵士や騎士が軍人であるなら、警察官のような存在である。そして領軍は領都の方にいるので、この町では領主側の戦力といえば衛士となるのだ。この町の最大の戦闘力を持っているのは冒険者になるのだろうが、冒険者達は数人のパーティで活動していて、まとまりが無い。まとまって行動するという点において衛士に劣る。


「ちょっと待て。ほらみろ、お前が変な声の掛け方するから、緊張してるじゃないか」


 門番で顔見知りになったデレクが衛士を遮る。


「あー、心配しなくても、お嬢ちゃんになにか文句があるって訳じゃないんだ。昨日、女の子を助けたろう。その件でな」


 若い兵士は居住まいを正して


「あー、済まねえ。俺はコーエンと言うんだ。昨日、孤児院のミナを森で助けてくれたんだってな。礼を言おうと思って待ってたんだ。

 リコとミナの姉妹は、俺のガキの頃からの親友の娘でな。あいつらの父親のドレイクはもう死んじまったけど、いろいろ気にかけていたんだ」


「そうですか。たまたま、見つけただけなので、気にしないでください」


 フロリアは難癖をつけられた訳では無いと分かり、内心ホッとしながら答えた。


「そういう訳にはいかねえ。この町でなにかあったら、俺のことを頼れ。衛士の詰め所に来て、コーエンと言えば判るから」


 それだけ言うと、若い衛士は立ち去っていった。


「ところで」と門番のデレク。


「お前さん、森のずいぶん奥の方まで行ったみたいだな。集団でも危ねえってのに、1人でそんなところまで行くなんで、何を考えているんだ! ギルドでも禁止してるはずだ! 孤児院のガキどもも怒鳴っておいたが、お前さんにもちょいと言いたいことがある」


 そして、たっぷり30分ほどお説教され、門を出るのが遅れた。


***


 一通り採取を終えて、町に戻る。さすがに今日も森の奥まで行くと、さらにお説教がまずそうなので、街道の近くのあたりを散歩程度。

 どちらにしても、ポーション用の薬草は当分ストックがあるので、少しブラブラするだけのつもりだったのだが、そんな時に限って、薬草の群生地を見つける。

 珍しいものではないが、けっこう品質が良い。土魔法と収納スキルを駆使して、だいたい7割程度を採取する。

 これだけでも、普通の見習い冒険者なら、数日分の稼ぎ位にはなるだろう。

 それで、お昼すぎには町に戻り、門番のデレクさんに「さすがに反省したな」と笑われる。


 大門を入ってすぐの広場の屋台で、オーク肉の串焼きを買う。冒険者が良く利用している屋台で、フロリアが以前に通りかかった時に「剣のきらめき」の弓使いのエマさんがこの屋台で買い物をしていて、呼び止められて、串焼きを奢ってもらってから、時々利用するようになったのだ。


「お嬢ちゃん、昨日は孤児院の連中を助けたんだってな」


 屋台のガンゾさんが言う。なんでも元冒険者で、孤児たちに目をかけていて、時々孤児院にも差し入れをしているらしい。


「良いことだが、1人で森の奥まで行くのは感心できねえな」


と、ここでも説教される羽目になった。


 早々に屋台を逃げ出して、ギルドに行くと買い取り窓口のおじさんから「受付の方の回れ」とのことなので、受付に行くことにした。

 そして、ギルドの建物に入るとすぐに「野獣の牙」のエッカルトに声を掛けられる。

「渡り鳥亭」で時々会うのだが、特に話をすることなど無いのだが、珍しいこともある。

 とおもいきや、


「昨日、ミナを助けてくれたそうだな」。


 何でも、リコとミナの姉妹の父・ドレイクはエッカルトにとっても幼なじみなのだそうだ。

 それで、フロリアが困ったことがあればなんでも相談しろ、と言うためにここに居たのだという。

 フロリアがコーエンにも同じことを言われたというと、エッカルトは舌打ちして「あんなヤツ、あてになるか。俺に言え」と続ける。

 エッカルトはそれだけ言うと、後はフロリアが何か言う前にサッと背中を向けて、大股で歩いて、ギルドを出ていってしまった……。


 フロリアがあっけに取られていると、


「フロリア!」


 呼ばれて振り向くと、「剣のきらめき」のリーダーのジャックとイルゼが居た。どこかのパーテーションの影に居たらしく、フロリアは声を掛けられるまで気が付かなかったのだ。


「まあ、何だ、あのエッカルトのヤツは別にフロリアに怒ってるわけじゃなくて、いつも女にはあんな感じなんだ。悪く取らないでくれよ」


とジャック。


「あんた位の年の女の子なら、もうちょっと意識せずに話しても良さそうなモンだけどねえ。ま、あんたはかなりきれいだからだろうけどさ」


とイルゼ。


 彼らによると、コーエン、エッカルト、ドレイクは3人揃って、この町の出身で幼なじみだったのだが、ドレイクの死に際して、仲違いしてそのまま喧嘩が続いているのだそうだ。

 エッカルトが実家が町にあるにも関わらず、「渡り鳥亭」に暮らすのも、コーエンの自宅の隣の実家に住むのが嫌だから、らしい。まあ、エッカルトは遅れてきた厨二病的な部分があって、一端の冒険者ともあろう者が親元で暮らすのがかっこ悪いという意識もあるようだったのだが。


「ところで」とジャック。「フロリア。お前は1人で森の奥の方まで行ったそうだな。ちゃんと俺たちの助言を聞いたはずだが、どういうことだ」


 またしてもみっちりと怒られてから、ようやく解放されて、フロリアは受付係のソフィーを探す。商業ギルドの職員に教えてもらった通り、これまでにも何度かお金を下ろす際にソフィーを探して頼んだのだ。

 その時には、互いのギルドマスター同士でやり取りがあったらしく、窓口ではなく、パーテーションで区切って、他からは見えないようになっている一角でお金を渡してくれた。

 都合よく、ソフィーは受付に居たので、「買い取り窓口に行ったら、こちらに来るように言われた」というと、二階に案内された。


「ギルドマスターが用事があるということですよ。あ、心配しなくても、ちょっと怒られるだけだから大丈夫よ」


 ソフィーは優しく言うが、また怒られるのか……。


 ちょっとげんなりしながら二階のギルドマスターの執務室で待っていたら、オークが服を着ているのかと思うほどのごつい男性が現れた。顔つきもオークっぽい。フロリアの前のソファにドカッと座る。


「お前がフロリアか。イザベルの婆さんから話は聞いているが、ポーションをつくってるそうだな」


「はい」


「で、昨日は1人でフラフラと森の奥の方まで行ったと」


「……はい」


「あのなあ。冒険者ってのは、ただでさえくたばることが多い仕事だ。だから、見習い冒険者がちょいと無茶をして、魔物に襲われたって、誰も助けねえ。全部、てめえの責任でやったことだ。

 だが、お前の場合は珍しくポーションを作れるんだ。簡単にくたばって貰っちゃこっちが困るんだよ」


いつも読んでくださってありがとうございます。

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