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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第13章 海辺の町
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第263話 浜辺で遊ぶ

 フロリアは、自分が大鷲を従魔にしていると、フライハイトブルクの冒険者達の間ではすでに有名になっていると思っていた(正確にはシロフクロウの聖獣モンブランを従魔にしていて、大鷲はその眷属なのだが……)。

 そして、別に聖獣にかぎらず大物の従魔は自分の同族を眷属として呼び出すことが出来て、それを召喚術師は従魔に近い形で使役することが出来るということも、割りと誰でも知っていることだとも思っていた。

 

 なので、自分が空が大きく開けたところに行った時には、上空から鳥を使って警備をさせているのだろうと、焔の魔導師は考える筈、そうフロリアは判断していた。

 彼らは、鳥が自分たちの上空を飛んでいるのを見つけたら近寄らないかも。

 それで、フロリは周囲に鳥が一羽も見えないように、自分が使役していない鳥まで、モンブランに命じて遠ざけるようにした。


「これで、焔の魔導師達が引っかかるかどうか?」


 この前の跡をつけられた時には、こちらは気づいているムーブをせずにすぐに旅館に戻ったので、彼らはマジックレディスに自分たちが警戒されているとは思っていないかも知れない。――それに賭けることにしたのだ。


 彼らがそれなりの注意力と判断力があれば、こんな手に引っかからないとは思うのだが、アドリアは経験則として「魔法使いってのは、他人が馬鹿に見えて仕方ないって連中が多いからね」と、この作戦が成功する確率が高いと思っているようだった。


「夜郎自大ってことですね」


 転生人好きのルイーザが、お得意の"あちらの世界"のことわざを披露する。で、フロリアをちらりと見るが、あいにく前世はお気楽女子高生だったので、学校のテストに出ないことわざになど反応しなかった。


 ともあれ、おびき出しが空振りに終わっても、フロリアとしては半日ほど魚釣りをして帰ってくるだけなので、別に大した損ではない。

 どうせなら、何か大物が釣れたら良いのだが……。


「わあ、素敵なところですね」


「うん。穴場なんだよね。以前にこの辺の漁師のおじいちゃんに教わったんだよ」


 ポートフィーナは長らくリゾート地として栄えているが、ずっと以前にはエンマが生まれ育った漁師町と同じように、好漁場をすぐ沖合いに持つ漁港の町であった。

 そして、リゾート地となってからも、「採れたての新鮮な魚が食べられる町」という"売り"でセレブたちを集めてきただけあって、今でも少数ながら漁師たちは町のすぐ近辺に集住して漁を生業にしていた。

 その漁師たちの1人がエンマの父方の親戚であって、子どもの頃に遊びに来たエンマにこの穴場を教えたのだそうだ。


「本当はここは地元の漁師でないと釣りをしちゃいけないんだけど、昔、おじいちゃんに許可を貰っているし、今回も漁師の親方のところで一日釣りを出来る権利を買って貰ってあるから心配ないよ」


 前世でいう入漁権のようなものだろう。それを漁師の親方(網元)のところで買ってきたというが、この町にちょっと遊びに来ただけのセレブたちにはどこが網元の家なのかすら判らないであろう。

 まあ、この世界では釣りは、生活の糧を得るための手段であり、金持ちが娯楽として釣りをすることは無いのだが……。


 岬の高いところを歩いてかなり先端の方まで行くと、「あ、ここよ、フィオちゃん。ここから降りられるの。ちょっと急だから気をつけてね」と崖の下に続く道を、エンマは示した。

 確かになかなか険しい岩場の道だが、要所要所には木の杭で補強がしてあるし、気をつけて下れば、少女の足でも危険というほどでは無い。

 少なくとも、以前潜伏したことのあるモリア村の裏の岩山に比べれば楽なものである。

 数分程度で磯まで降り立つと、「この辺が良いと思う」というエンマの言葉に従って、釣りを始める。

 鳥による周囲の監視はしていないが、探知魔法は掛けてあるし、その範囲外にはねずみ型ロボットが散っている。

 もちろん、マジックレディスも目立たないように周囲に潜んでいる。

 さらに言えば、セバスチャンの提案で人工衛星からの監視まで仕掛けてある。


 内陸部出身のフロリアは、お遊び程度でアオモリの中の湖で釣りはしたことがあるが、それだけで海釣りは全然知らない。前世でも釣りをするような女子高生ではなかったので、釣り竿すら握ったことがない。

 

 なので、海釣りに初挑戦。道具類はフロリアの分までエンマが用意して、収納袋に入れて持参している。

 それを広げて、準備をすると、いよいよ、大抵の女の子にとってはハードルが高い餌の取り付けである。

 もっとも、フロリアは森育ちだけあって、生き餌程度で騒いだりはしない。

 この世界でも、イソメとほぼ同じ生き物がいて、釣り餌として一般的なのだが、店で販売などしていないので、まずはそのイソメを集めるところから。

 エンマのレクチャーですぐに10匹ほど集めることが出来た。


 そして、やはりエンマのレクチャーに従い、釣り針にイソメをつけて、いよいよ釣りの開始である。

 エンマから、磯のどのあたりを狙えば良いのかなど、教えてもらいながら釣りを始める。


 仕掛けを遠くに投げるのが気持ち良いし、魚が掛かると竿に手応えがあるのが面白い。 今回は別に食用の魚を釣り集めるのが目標ではなく、釣りという行為そのものを楽しむのが目的なので、もちろん魔法を使ったりしない。


"いや、何とかの魔導師をおびき寄せるのが目的なのだろ?"

 

"あ、そういえばそうだっけ。まあ、引っ掛かったら、ネズミさん達が教えてくれるでしょ。それまではのんびりしようよ"


 未だ焔の魔導師の気配はない。どうやら跡をつけられなかったようである。あまりにわかり易く行動すると、罠だってバレるから、そこそこ隠密気味に町を出たのだけど、それをちょっと間違えたみたいで、本当に彼らをまいてしまったらしい。

 宿の前には、焔の魔導師のメンバーの誰かが、いつも貼り付いていたのは、ねずみ型ロボットの報告で判っていたのだが……。

 その張り込みをリーダーのアンガスがやらないで、魔力の薄いメンバーに命じてやらせているので、こちらが手加減した積りでも、対応できずにまかれてしまったのだろう。


「うん、こうなれば、釣りを楽しもう」


 フロリアがそう独り言を言うと、エンマが「そうだね。今日は人間の方は釣れなかったみたいだね。いつもはしつっこく付きまとう癖に肝心な時には……」と応じる。


 その後、釣りに飽きると、持ってきたお弁当を食べる。エンマとはすでにすっかり馴染んでいたが、こうして2人だけでゆっくりと話をするのは始めてだった。

 お昼を食べながら、フロリアのこれまでの冒険の日々を話し(もちろん、話せないことも多かったのだが)、そしてエンマの冒険者になった経緯を聞いた。

 エンマが生まれ故郷の漁村から出たときのことは、かなり重たい話なのだが、「魔法使いとしちゃ、ありふれていると言えばありふれているのかな」とエンマ本人も語ったように、フロリアにもある程度の心当たりはある話だった。


「さ、暗くなっても仕方ない。気分を変えて、今度は磯の生き物を捕まえましょ」


 釣りのポイントから少し歩いて、岩場に行った。磯の潮溜まりや岩のくぼみにはたくさんの種類の生き物が隠れているのだ。


 ちょうど干潮になったところで、満潮の時に海の下になっている岩場が現れている。


「こういうところには貝とかいろんな生き物がいるから少し捕まえよう。あ、でも毒があるものもいるから、気をつけてね。鑑定魔法を使ってちょうだい」


 フロリアが鑑定魔法を使えることを知っているエンマは、そう念押しする。

 これが非魔法使いのただの少女なら、エンマも細かいことを言わなければならないが、フロリア相手にはごく基本的なことだけを教えて、後は本人任せである。


 前世でいうところのヤドカリやカニ、エビの類いにヒトデ、多くの貝類……。

 干潮になる時に逃げ遅れた魚もたくさんいる。


「ああ、それはハゼの仲間だね。そっちはメバルだね。あ、そのカサゴは毒があるから気をつけて! うん、たべると美味しいんだけどねえ」


 などと、エンマに魚の種類を教えてもらいながら捕まえていく。


 フライハイトブルク近隣のマングローブとはまた違った生き物が多く、面白い。

 

 エンマもウツボや鯛の仲間も何種類もつかまえている。


 1時間ほど経つと、十分な収穫があった。


「ここは漁師もあまり獲りに来ないらしいんだよ。けっこう町から遠いから面倒みたい。お陰でこんなに大量になったよ。今の季節だと珍しいかな」


 そして、十分に磯遊びを満喫したフロリアとエンマは、それぞれ収穫物を仕舞うと、引き上げることにした。

 そして、また岩場を登って岬の上の道に出たところで、待機していたマジックレディスの面々と合流する。


「ちぇ。一日まるまる、張り込みなんてつまんなかったよお」


 モルガーナが口を尖らせたのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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