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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第13章 海辺の町
259/477

第259話 ポートフィーナへ

ここから新章に突入です。

海辺のリゾート地で楽しく怠惰な休日を過ごすはずが……。


 ポートフィーナは、自由都市連合を形成する町の1つで、このゴンドワナ大陸でも有数の観光地、保養地として知られていた。

 海辺の町で大きく大海に向かって突き出た岬の陰の湾に作られている。その岬と沖合いには小島が点在していて、そのあたりは良い漁場として古くから知られていた。

 その海の幸を求めて、フライハイトブルクの金持ち達が別荘を構え始めてからすでに長い。

 現在では別荘だけではなく、一流旅館が軒を連ね、和食の鋼人として有名な転生人の料理人が開いたという有名な料亭を頂点として、フレンチや中華(を再現した)のレストランも名店ぞろい。

 現在では、自由都市連合の商人たちだけではなく、近隣のフラール王国やカイゼル王国の商人たち、さらに両国の貴族達もお忍びで訪れるようになっている。

 更には遠くシュタイン大公国の貴族も見かけたとか見かけなかったとか……。

 

 ――フラール王国とカイゼル王国は、両国の国境を流れるモルドル河の安全を重視するフライハイトブルクとシュタイン大公国の牽制もあって、今のところは表面上穏やかである。

 しかし、国の成立時点の経緯によって、両国はずっと潜在的な敵国の関係にあり、大っぴらに外交をすることは、国内の過激派の強硬な反対もあって、事実上不可能であった。

 もちろん、隣国なのだから外交自体はあるのだが、あくまで儀礼的なものに限られている。何らかの外交交渉で少しでも相手に何かを譲ろうものなら、その政治家は過激派の突き上げで政治生命が終わりかねない。

 お互いにそうなのだから、どんな外交交渉も一方的に自国の言い分をぶつけ合うだけになってしまい、利権の取引や共同で何かの事業を行う、不測の事態が起きた時の落とし所を作る、などという交渉が正規の外交ルートでは不可能なのだ。


 しかし、さすがにそれでは不便であるし、近隣のフライハイトブルクやシュタイン大公国にとっても、心配の種になる。両国の間を流れるモルドル河の河運が停まることはどの関係者にとっても非常に大きな痛手になるのだ。


 という訳で、国内の過激派達の眼の届かない外交交渉の場が必要になる。

 その1つがポートフィーナなのである。


 この町を訪れる大部分の金持ちや貴族、その御婦人やご令嬢たちは、美しい景色や潮の香り、美味しい料理に舌鼓をうちながら、優雅に休日を過ごす場所であるが、ごく一部の貴族や政府の関係者にとっては、神経をすり減らす外交交渉の場でも有るのだった。


 ――そのポートフィーナにマジックレディスが遊びに行くことになった。

 ヴァルターランド歴558年7月1日にフライハイトブルクのパーティホームを出発して、4日か5日には到着の予定であった。

 

 シュタイン大公国の皇太子夫妻の婚礼の儀を見届けた後、一行は3月半ばにはフライハイトブルクに戻り、依頼は完了し、事件は終結した。


 そして、ほぼ4ヶ月間の間、フライハイトブルク近くのマングローブで採集をしたり、徒歩で1日以上掛かる森まで行って、久々の薬草採取をしたり……。

 マジックレディスとしての遠征が無かったもので、割りと平和な日々を送っていた。

 フライハイトブルク周辺での活動の場合は、パーティメンバーが揃って動くばかりではなく、各人思い思いに動くことも少なくはない。

 フロリアは基本的にモルガーナに引っ張られて、色んなところに連れ回されることが多かったが、そのモルガーナも以前にパーティメンバーで現在は独立した魔法使いと一緒にでかけたりすると、1人で動くことになる。

 アドリアとルイーザからは「基本的に1人で動いちゃいけないよ」と言われていたが、フロリアの隠蔽魔法と偽装魔法がさらに堂に入ってきたこと、眼につかないようにしているだけで常にトパーズが一緒にいることが判ってくると、あまり煩く言わなくなった。

 

 それに、亜空間に籠もって作業に没頭することも少なくは無かったし。

 フロリアが、現在は冒険者であるが、気質的には錬金術師に近い部分もあって、様々な魔道具を作ったり改良しているのを知って、数日程度亜空間に籠もっても特にお小言を貰うことは無くなった。

 特にケンタウロスモチーフの馬型ゴーレム、ケンタシリーズに代わる、馬型ゴーレムを作成した時には、「器用なものだね。ジューコーのゴーレム工房で作るときだって、集団で作るものなのに」と呆れられた。


「この技術も隠しておかなきゃね。馬ゴーレムとはいえ、1人でゴーレムを作れるなんて、魔道具師に知られたら、嫁に来い、って煩いわよ」


 アドリアは感心しきりだった。


 2,3月にキーフルまで往復した件では、もともとの依頼の報酬は大したことが無かったが、一流旅館への宿泊代と食事代がギルド持ちであったことを考えれば悪くなかった。さらに言えば、おそらくは口止め料込みだと思うが、バルトーク家から冒険者ギルドのフロリアの口座に1金貨を振り込んできた。

 アドリアに聞くと、「前回の分を考えれば、まだまだ安いもの。そのまんま貰っておきなさい」ということなので、そうすることにした。

 

 そして、フライハイトブルクの錬金術ギルドから、グレートターリ帝国の魔道具を入手出来た報酬として5銀貨が出た。

 こちらはもし、破損無しの完品をフロリアが入手して売却したのなら、1白金銭でもおかしくはないというのがルイーザの見立てだったが、今回はフロリアは間接的に情報を流しただけで実際に動いたのはフライハイトブルクの工作員達だし、一番肝心な部分はねずみ型ロボットに破壊されていたので、この報酬額であった。


 ファーレンティン大魔道師からは、「もっと詳しく教えてくれたら、ギルドの予算が破綻しようが、いくらでも支払う」と言われたが知らぬ存ぜぬで通した。


 後々、セバスチャンに聞いたところ、本来のあの魔道具の使い方は対象を眠らせることではなく、ここぞと言う時に判断を狂わせ、こちらの思い通りに動かすことなのだという。

 スランマン大帝は、その立志伝の始まりの頃には近隣の部族連合の傘下に入り勢力を伸ばしていたが、その部族連合の中核を占める大きな部族の将軍が政治的ライバルであった。その将軍に魔道具を使っていたのだが、その将軍は自分の思うがままに決断して行動し、敵国の軍と戦っているつもりでいた。

 いや実際に9割方、そのとおりだったのだが、ある時、大きな会戦に際して魔道具が介入して普通ならば絶対にやらない作戦を断行させたのだった(本人は自分の意志で判断していると思いこんでいた)。

 将軍の側近たちは、その非常識な決断に大反対したのだが、結果は敵の裏をかくことになり大戦果を挙げた。その後も小さな戦いでは将軍の指揮は真っ当なものだったが、今後を左右するような大きな戦いではまた奇策を用いて、それが奏功して……と続いた。

 こんなことが数回続くと、側近達も将軍の"神の啓示"を受けたかのような、非常識な決断に異を唱えることが無くなった。

 もちろん、幾度も大戦果を挙げられたのは、スランマンの仕込みである(敵方の指揮官にも魔道具を使っていた)。

 そしてスランマンは自分の私兵を損なうことなく、その将軍に外敵を排除させた(その過程で将軍の配下の兵は少しずつ損耗していた)。次に国の英雄となってスランマンと次代の指導者を巡るライバルとなった将軍との内戦に突入。

 その内戦の最大の戦いで、将軍はまた奇策を用いたが、側近たちは誰も異を唱えなかった。結果、スランマンは大勝利を収め、将軍一派を殲滅して国内の絶対的な支配権を確立したのだった。


 それ程迄に繊細で微妙な使い方が出来る魔道具だったのだが、その使用法をスランマン大帝は残しておらず、今になって魔道具を引っ張りだしてきたのは良いが、対象を昏睡させてしまい、誰の眼にも異常が発生しているとわかるような事態になってしまったのだ。

 スランマンのやったように、フランチェスカが婚姻の儀を無事に終え、皇太子妃として子供もなし、国内で重要な地位をしめるようになってから、魔道具を使われていたらシュタイン大公国は下手をすれば存亡の危機に陥っていたかもしれない。


「よく、そんな危険なものを提供したわね」とセバスチャンに言うフロリア。


「あの時点では、状態異常を防ぐ魔道具のレベルがあそこまで衰退していたとは、認識が甘かったのです。長らく、前のご主人様であるガリレオ・ガリレイ様の命令により、外界の情報収集は最低レベルだけでしたので……」


 それで、大したものを提供したつもりが無かったのだが、それがスランマン大帝の偉業を支えるアーティファクトとして大いに効果があったのだという。


「他にはスランマン大帝に何か、あげた?」


「はい。魔物を操り、使い方によってはスタンピードを発生させる機能を持った笛を提供しております。調査をしましたところ、グレートターリ帝国の帝室宝物庫にはありませんでした。あの笛はどこへ消えたことやら」


 セバスチャンは平然と答えた。いや、ロボットなので、常に平然としているのだが、フロリアとしては、その金属製のボディをひっぱたいてやりたくなるような返答であった。


「もう壊れちゃったのなら良いけど……。一応、ねずみ型ロボットさん達が、大陸中を情報収集するのなら、一緒に探してみて」


「かしこまりました」


 ゴンドワナ大陸は広く、そこに住まう人々はすべて合わせると10億人は軽く超える。笛は作動した時に近くにねずみ型ロボットが居れば、感知することが出来るそうだが、作動しなければ、見た目はただの特徴の無い笛。

 それを探し出すのは、砂漠の中の砂の1粒を探し出すようなもので、とても不可能であろう。

 そうは思うのだが、捜索を指示せずにはいられないフロリアであった。


 このとき、フロリアが2年前にビルネンベルクでオーガキングのスタンピードに関わったときのことを思い出さなかったのは不注意のそしりを受けてもやむを得ないだろう。

 後に、オーギュストからそのスタンピードは、ビルネンベルクの町の代官の座を狙う男(エドヴァルド・ハイネという名前までは知らなかったが)の仕業であったのに、まさにそのハイネからフロリアが冤罪を掛けられたという経緯があったのに……。


 このとき、ハイネがスタンピードを巻き起こした手段こそが、どういう経緯を辿ったのかは不明であるが、スランマン大帝が使った魔物を操る笛であったのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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