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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
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第254話 面倒事に首を突っ込む

「私は、フランチェスカさんを助けたいと思っています。

 フランチェスカさんは今、窮地に立っています。またもや、魔道具による呪いに似た攻撃を受けていて、現在のままだと結婚式で皆の前に立つことは出来ない状態なのです」


と言った。


 マジックレディスの一同は顔を見合わせた。

 

 アドリアが代表して口を開く。


「そうかい。なぜ、それをフィオが知っているのか、問いたださない方が良いんだろうね。で、フィオはそれを何とか出来るっていうのかい?」


「はい」


「だが、その皇太子妃さんがそんな状態なら、うまく解決出来ないかもしれない。出来なかった場合、下手をするとフィオの所為にされるかも知れない」


「判っています」


「一国の皇太子妃様の話なんだ。このシュタイン大公国だって解呪に長けた魔法使いは居るだろう。そういった者に任せておく訳には行かないのかい?」


「おそらく、すでにそうした人たちは一通り失敗しているのだと思います」


「そんな、難しい解呪をフィオは出来るんだね」


「はい」


 ルイーザが口の中で「転生人」と呟いたが、それは誰にも聞こえなかった。


「そうかい、分かった。フィオがそう決めたんだったら、それで決定だ。

 それじゃあ、フィオがうまくやれるように手伝おうか。どんな手順でやるか、考えているのかい」


「はい。まずは宿の表で頑張っているレオポルトさんを屋敷に戻さないと……」


***


 やっと体の自由が戻ってきたレオポルトは宿の出入り口の近くに陣取って、微動だにせずに奥を睨みつけている。

 この旅館は宿泊客だけしか入れないということはなくて、食堂にはキーフルの金持ち商人はもちろん、お忍びで新市街の貴族まで訪れることが珍しくはないのだが、国境近くのバルトーク伯爵領で暮らしてきたレオポルトには、そうした道理がわかることは無かった。

 それにさすがに旅館内でつかみ合いにでもなったら困るという意識もあったのだ。


 それで、堂々と旅館の入り口を睨んでいるという羽目になったのだが、旅館側もこんなのに絡まれて、大迷惑である。

 かと言って、どうやら貴族階級の者と思われるレオポルトを安易に追っ払う訳にもいかず困惑していた(さすがのレオポルトも、バルトーク伯爵家の家中だとわかる紋章つきの胴などはつけて居なかった)。                                                          そのレオポルトの耳元で「おい、交通の邪魔だ、バカモノ」という声がした。


 レオポルトは周囲を見回すが、誰もいない。


「どうなっているのだ?!」


 さすがに騎士らしく、狼狽えても大声を出したりはしなかった。だが、すでに十分に目立っている。

 

「このまま、私の言うことをよく聞いて、その通りにしろ。間違えたら、こんどこそ本当にフランチェスカは助からぬぞ」


「あのこむす……フィオリーナの従魔の黒豹か?」


「ふふ、声を覚えておったか。ならば話ははやいわ」


 そして数分後、レオポルトは通行人たちの注目を集めながら、旅館の前を立ち去っていった。ホッとした表情になるホテルの従業員と、一見するとまるで無関心のようでいて、その実興味津々の各国の密偵機関に見送られながら。


 その後で、マジックレディスの一行は、食後に夜の散歩にでかけた。フロリアも一緒である。

 女性たちだけなので、呑みに行く訳ではなく、町馬車に乗ってヴィーゴ商会を訪れたのだった。

 もちろん、各国の密偵はそれを追う。旅館に居残る組も居るが手薄になったため、屋根の上に現れた人影に気がついた者は居なかった。

 その人影は黒ずくめだが唯一、肩の上にシロフクロウを乗せている。自前の偽装魔法と隠蔽魔法を使った上に、ベルクヴェルク基地作成の魔道具であるペンダントに付与された魔法までフルに使って、プロの密偵達の目をごまかして、屋根から屋根へと新市街に向かったのだった。


 馬車は冒険者ギルドの支部に着くと、一同はそのままギルドの建物に入る。

 驚く受付嬢に


「あ、いやなに、ちょっと時間の余裕が出来たんで、何か武器を見せてもらえないかと思ってね。急に思い立ったんだよ。

 ええと、武器屋は隣だったっけね。……いや、ギルドマスターを呼び出さなくても良いよ。こちらの都合で忙しい人に時間と取らせちゃ悪いからね」


 このマジックレディス一行の後ろに無言でくっついているフロリアはもちろんトパーズの変化した姿である。

 例の"不気味の谷"はベルクヴェルク基地の魔道具によってかなり改善されていて、近くである程度の時間、会話をしない限り、違和感に気がつく人間は居ないであろう。たとえ、プロの密偵であっても。


 このアリバイ作りには、トパーズは大反対した。

 こちらでいくらうまく隠しても、他のところからフロリアがこれから行おうとしている活動がバレる可能性がある。

 だったら、これから危険が伴うかもしれない場所にフロリアを単身で行かせるなど納得出来るものではなかった。

 その説得がとても大変であったが、結局はフロリアがモンブランを召喚して帰還するまでその傍を離れない、という条件で納得したのであった。


 ――数時間後。


 コンコン、コンコン、と2回続けて控えめなノックの音。

 すぐにその扉は静かに開かれる。


「他に誰も居らぬな。よし、早く入れ」


 扉の向こうでノックの音を待ち受けていたのは、バルトーク伯爵家の領地の騎士隊長レオポルトであった。

 場所は、首都の新市街のバルトーク伯爵邸の裏門。


 レオポルトは、白いフクロウに目をやって何か言いたそうにしたが、何も言わずにそのまま暗い廊下を先に立った。


 フロリアはすでにねずみ型ロボットの報告と探知魔法によって、目的の場所が何処なのか知っているので、案内など不要であったが、フランチェスカが意識を取り戻した後の伯爵家内の対応にレオポルトが必要なのだ。

 特にこの屋敷内にはフロリアと面識も無いのに、居丈高な手紙を寄越した家宰の準男爵が居るはずである。

 名前が何だったか覚えてすら居ないが、その家宰あたりと顔を合せると厄介である。


 レオポルトには、旅館の前でトパーズが因果を含めた際に、屋敷内の他の人間とはできるだけ顔を合わせないように手配しろ、特に家宰と顔をあわせた場合はどうなるかわかったものではないぞ、と脅しておいてもらった。

 その時、レオポルトはその準男爵とは反りが合わないらしく、あの男はみすみすお嬢様が危難に陥るのを看過したような能無しだ、手柄を立てさせるような真似はしないので心配はいらないと答えたのだった。


"手柄"の意味が、ちょっと使える魔法使いを屋敷に取り込むのに成功したことを指すのか、お嬢様を無事に解呪させる段取りを組んだことを指すのか、フロリアは聞いてやろうか、と思ったのだが、本番の前につまらないことで時間を取ることもない。


 しばらく、屋敷の中を歩く。

 婚礼の儀を控えて忙しいハズなのに、ほとんど人気が無い。お嬢様の異変に、厳しい箝口令が敷かれ、情報が外に漏れないように屋敷の使用人も最低限の警護の人間だけを残して、使用人部屋に閉じ込めてあるのだ。

 それは、すでにねずみ型ロボットが潜入して調べて報告されていたので、フロリアが不審に思うことは無かった。


「ここだ」


 ようやく1つの扉の前で、レオポルトが立ち止まった。

 扉の外には騎士が2人、武装した状態で立っていた。

 見ると、顔に見覚えがある。バルトーク伯爵領でレオポルトの配下についていた騎士である。

 彼にとっては信頼のおける腹心といったところなのだろう。

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