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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
252/477

第252話 キーフル観光

 慶事に多くの人が浮かれているキーフル。常に大勢の人で賑わう、大陸屈指の都会であるが、今は特に周辺から多くの人が集まってきていて、お祭り騒ぎがずっと続いているような状況だった。


「モルドル河の船着き場の周辺は何度も行っているでしょ。キーフル名物の橋は渡ったことがあるんだよね。町のそとの丘の上から見るとまた違った見え方がして面白いよ」


 キーフルの町は現在では、河をまたぐように新市街、キーフル国時代からの旧市街に分かれているのだが、さらに古い時代には旧市街から少し歩いた小高い丘の上に町が作られていた。

 丘陵になっている地形をたくみに利用して建てた城と、その周りの平地を人家が囲んで町を形成するという、日本の平山城とその城下町のような成り立ちをしていたそうだが、時代が下がって、モルドル河の河運を利用することの方が大事になって町自体が移動してきたのだ。

 現在のキーフル、特に貴族が住む新市街は、町の周囲を掘割が巡り、モルドル河の水を引き入れて城壁と掘割が守る町になっている。

 

 丘陵は今では城の廃墟が残るだけなのだが、その上から見下ろす景色は絶景で、特に眼下にひろがる、橋の威容は語り草になるものであった。

 キーフル橋が正式名称なのだが、町の市民はみな、愛着を込めて、七大転生人の1人、フランク・ライトが架けた巨大な橋を単なる「橋」という普通名詞で呼んでいた。

 フロリアは、以前にキーフルを訪れた時に、近くの森に行くのに河を渡る必要があって、マジックレディス一行と徒歩で渡ったのだが、延々と坂を上り下りしたという印象しかない。ただ、橋のもっとも高いところまで登って、横を見ると、長蛇のようなモルドル河の流れがはるか地平線の彼方に霞むまで続いているという絶景が楽しめたが。


 フロリア達は、この丘陵まで歩いて登ることになった。

 マジックレディスのメンバーも、アドリアはじめキーフルには幾度となく訪れた経験があったが、いずれも仕事の為であって、この丘の上まで登ったことがあるのは歴史好きのルイーザだけ。それも10数年前に一度だけ、ということだった。

 町の混雑を避けて、皆で丘の麓まで歩いて、そこから登る。

 散歩というにはけっこうな距離だが、それに音を上げるようでは冒険者にはなれない。フロリアももちろん、足取りも軽く丘を上っていく。

 

 朝のうちは曇っていたが、昼が近づくにつれて雲がとれていき、彼女たちが丘の頂上につく頃には快晴になっていた。

 そろそろ初春から春本番になる3月の陽気では汗ばむこともなく、気持ちのよい風が丘の上を吹き渡っている。

 有名な絶景スポットなので、丘の上までの道は整備されていて、マジックレディス以外にもたくさんの観光客が登っている。

 

 みな、それぞれに眼下にひろがる大河、その河を挟んで分かれるキーフルの町。そして大河に架かる美しい弧を描く橋。モルドル河には大小様々な船が行き来している。町から伸びる街道を行く交易隊の車列。これまでフロリアが見知っている荷馬車10台ぐらいの隊商とは違い、30台ほどの荷馬車が一列に連なって居る。


「これで、何かが空を飛んでいたら絵になりそう」


 ソーニャの言葉に反応したモルガーナが、フロリアに「大鷲を出してよ。一緒に乗って、空中散歩をしよう」と言い出して、ルイーザに「騒動になるからやめなさい」と叱られている。


 商魂たくましく、この丘の上まで飲み物や軽食、果物を運び上げて、駅弁の立ち売りのように首から提げた紐で、商品を並べた箱を腹の前で固定して売っている子供達がけっこう居る。

 マジックレディスは魔法の収納袋を持っているので、食べ物も飲み物もたくさんあるし、何ならルイーザは本格的なお茶セットまで出せるぐらいなのだが、アドリアは野菜を挟んだパンを買って、少し大目にチップを渡してやっている。

 

 そろそろ昼近くになっているので、適当な場所にシートを広げて、食事をする。屋外での食事は、マジックレディスも、護衛の白き閃光も慣れたものだ。というよりも、普段はこんなにのんびりと食事など出来ない状況ばかりなので、ちょっと変な気がする、といって笑うぐらいだった。


 そうしたフロリア達を付けているグループが複数、確認出来ている。こちらへの敵意を感じないので、敢えて対応はしない。もともと、フロリアは敵対勢力の眼を惹くためにこの町にやってきたのだから、こうして見張りがつくのは想定の範囲内のことである。

 セバスチャンは密かにねずみ型ロボットを展開していて、それぞれの正体はある程度、突き止めていて、フロリアに報告していた。

 シュタイン大公国の軍の密偵(ヴィーゴさんの仲間)、フライハイトブルクの密偵(ギルドから出した者では無く、町の議会が抱えている密偵のようだった)、ヴェスターランド王国の密偵(国王直属の"暗部"ではなく、軍の密偵組織の者らしい)、そして極めつけはアリステア神聖帝国の密偵。

 アリステア神聖帝国は、大陸一の魔法金属産出と、それを利用したゴーレム製造を誇っていて、その金属とゴーレムを輸出する見返りとして、正統アリステア教の教会を作ることを交換条件にしていた。

 それで、以前に滞在していたビルネンベルクの町でも、正統アリステア教の神父に絡まれて嫌な思いをしたことを思い出してしまった。

 彼らは、正統アリステア教の教皇皇帝である国のトップが、教義が真っ向から対立するグレートターリ帝国と密かに手を結んでいることを知ったらどう思うのだろう。

 うまく知らせて、信じさせる手段を思いつけないのがちょっと残念なところだった。


「ま、嫌なことは忘れて、景色を楽しもう。細かい事はセバスチャンにやらせれば良いんだ」


 そんな独り言を言いながら、壮大な景色を愉しむフロリアだった。


***


 そのセバスチャンから連絡があったのは、帰りの道筋だった。割りと急坂になっているところを降りながら、報告を聞く。


"魔道具?"

 

"はい。スランマン大帝と呼ばれている転生人に我々が供与した魔道具を、キーフルで使っています"


"それって、どんな影響があるの? 何処で誰が使っているの?"


"全て調査済みでございます"


 そしてセバスチャンの詳しい報告を受ける。

 これまで、キーフルの町にうごめく、各国の密偵たち、諜報機関の動向を調べて貰っていたのだが、そういえば肝心のフランチェスカや大公、皇太子の状況を調べてなかったことを思い出したフロリアは昨夜ぐらいから、セバスチャンにその追加調査も命じたのだった。

 実際には、忘れていた、というよりも、今回の自分の仕事は密偵組織の誘引役で、自分が何らかのアクションを起こすのは守備範囲外のことだとして、特に調べさせなかったのだ。

 だが、昨夜の報告でグレートターリ帝国とかアリステア神聖帝国とか、良い噂を聞かない国や、自分が実際に悪意を体感した国の名前が出てくるにつれて、少々心配になってきたのだ。


 おせっかいをするつもりは無かった。

 無かったけど、やはり状況を把握しておいて、巻き込まれそうになった時にどんな行動を取ればよいのか、判断の材料としたくなったのだ。


"フロリアはいつもそんなことを言いながら、結局は変な巻き込まれ方をしているではないか。今度こそ、放っておけよ。別に命に別状は無いのだろう"


"うん。直接には別状はないってセバスチャンは言ってたけど……"


 国中、いや近隣国全てが注目している結婚式をぶち壊しにしてしまったら、本人に責任が無いとは言え、それはやっぱり別状があるのだろうな。


 バルトーク伯爵家に対しては、伯爵はあからさまにフロリアを取り込もうと画策するし、一時は1金銭の報酬を貰えて嬉しかったけど、後でアドリア達から本来貰うべき報酬の1割程度だと知って、足元を見られたことに気が付いてからは、良い印象を抱いていなかった。

 さらにやたらとフロリアを敵視した挙げ句に、それでも主家のために一生懸命なのだと思って手助けしたら、いきなり結婚を申し込んでくるおじさんの騎士隊長のレオポルト。ストーカーと化して、次の町まで追っかけてきたマレク、いやらしい目で見てきた伯爵の末弟の何とか(名前を忘れた)。

 思い出すと、かなり嫌な人ばかりが揃った貴族家だったけど、その中でフランチェスカは割りと友好的であった。

 フロリアの意志を斟酌せずに、気に入った玩具のように手放そうとしないわがままっ娘みたいなところがあったけど、フランチェスカには不思議とあまり悪意は感じなかった。

 本当にちょうどよい妹分が出来たので可愛がっていた、という感じがしている。


"でもなあ……"


 ちょっかいを出すのは良いが、確かにトパーズの言うように後に遺恨を残しそうなのである。



いつも読んでくださってありがとうございます。



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