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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
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第249話 キーフル着

 3月1日の朝一番。

 キーフルの船着き場の脇の街道から入る門に、マジックレディス一行は辿り着いたのだった。

 

「し……しんどかった」


 ふらふらになりながらの到着である。

 この世界では、旅行の際の予定というのはかなり大雑把である。交易隊などでは5日で到着する予定であっても、倍の10日ぐらいまで掛かるのは許容範囲のうちである。

 そのぐらい、馬車の旅というのはちょっとしたトラブルで遅延するのである。長雨が降った、街道に盗賊が出た、馬車の車軸が折れて取り替えるのに丸一日掛かった……。


 だから、到着日が指定されている、今回のマジックレディスの旅の様な場合、比較的予定がズレにくい船運を利用するのが定石である。

 それを(快適さを求めて)あえて馬車の旅を選んだからには、遅れたら面目丸つぶれである。

 当初は十分に余裕があるはずであった。

 

 日が落ちてからしか進めない、とは言え、馬型ゴーレムのケンタ、ケンジは本物の馬とは違い、疲れも見せずに馬車を牽き続ける。

 人間の方は数時間に一度の休憩を必要としているが、ケンタとケンジだけならば日没すぐに働き始めて、翌朝の日の出までずっと時速30キロ以上の速度で馬車を牽く能力があるのだった。

 そして、御者というかゴーレムの制御であるが、魔法の特性的にフロリアがずっとやらなければならなかったのだが、フライハイトブルクに居る間に修正を加えて、かなりの自動制御が可能になっていた。

 命令を与えれば、フロリア自身は馬車の中で遊んでいても、自動的に動き続けるのである。

 それで、マジックレディスのそれぞれが緊急停止の権限のみを持って、交代で御者席に座るようになったことで、フロリアの負担は激減した。

 もちろん、道の分岐があるとか、曲がりくねったところを抜ける時などはフロリアが制御するのだが、そうした場面は少なかった。


「これはとんでもない革新です」


とルイーゼが感嘆の声を上げたものであった。

 

 これまではどんなに実力のある魔法使いであっても、ゴーレム使いの才能に恵まれなければ、ゴーレムを操ることは出来なかった。

 逆に言えば、どうにか魔力持ちと呼ばれる範囲に引っ掛かっている程度の者でも、ゴーレム使いの才さえあれば、ゴーレム馬車の御者はもちろん、様々な作業用ゴーレムの使い手として仕事があった。

 しかし、このフロリア(とベルクヴェルク基地の遺産も活用しているのだが)の改良は、将来のゴーレム馬車の常識を変える第一歩になるかもしれなかった。


「きっと、ジューコーのピーノ親方あたりがしったら、目の色を変えるだろうね」


「黙ってなきゃダメですよ、モルガーナ」


「判ってるって。それにしてもフィオって、あれだけの戦闘力がありながら、本当の適正は錬金術師の方かもね」


「まあ、個人で……おそらくは彼女のお師匠様と2人で、なのでしょうが、ゴーレムを作ってしまうなんて、聞いたことがないレベルですからね」


 そんなことを話しながら、昼間は亜空間でのんびり休んで、日が落ちてから馬車で順調に進んでいたのだが、それがつまずいたのが出発して9日目のことだった。

 

 あと2日で、余裕をもってキーフルに到着するというところで、街道の一部ががけ崩れで埋まっているのに行き当たったのだった。

 お陰でずいぶんと遠回りしなければならなくなり、キーフル到着はギリギリになった。


「フィオ。今度はゴーレムを、ええと、ケンタロスだったっけ? 首から人の上半身が生えてるようなデザインにせずに、遠目だと馬と変わらないようなデザインに改良するか、新しく作るかしてちょうだい。

 それで昼間も気にせずに走れるようになったら、ずいぶんと楽になる筈だから」


 さすがのアドリアもよれよれの姿で弱音を吐くのだった。

 フロリア自身も、確かにもう少し、日のあるうちに走れたらずっと楽だった、という思いはある。

 ケンタウロス型のデザインは気に入っているのだが、時間が出来たら、普通の馬型のゴーレムも作ってみよう、と思ったのだった。


 ともあれ、一行は前回のキーフル滞在のときにも使った、旧市街の一流旅館に足を運んだのだった。

 5日の婚礼の儀を控えてお祭りムードの中、もしかして満室になっているのでは……という懸念があったのだが、窓口係がアドリアの顔を見るや、すぐに部屋を確保してくれたので助かった。

 このあたりは有名Sランクパーティならではの特権である。


 こうして部屋を確保出来たので、今度は冒険者ギルドへ顔を出さなくてはならない。おそらく、キーフルのギルドマスターも腕利きで知られた人物なので、現在のようにお祭り騒ぎの時には町への人の出入りはチェックしているだろうが、見落とされていたら面倒である。

 あれほど苦労したのに、間に合わなかったと勘違いされてはがっかりである。


 マジックレディスとして受けた依頼ではあるが、本来はフロリアに向けた依頼である。アドリアはフロリアを連れて冒険者ギルドへ向った。

 残りのメンバーは宿で待機することとなった。

 いつも元気なモルガーナあたりは普通ならば、早速お祭り騒ぎで賑わう町に繰り出すところなのだが、今回は流石に気力が保たないようで、生あくびを噛み殺しながら、「それじゃあ、姐さん、フィオ、いってらっしゃーい」と言うと、さっさと部屋に引っ込んでしまったぐらいである。


 そのモルガーナの後ろ姿を恨めしそうに睨んだフロリアは、仕方ないのでアドリアに従ってギルドへ向かう。

 数ヶ月前に訪れた時にも、キーフルはさすがはゴンドワナ大陸有数の都市としての賑わいを感じさせたのだったが、今回はさらに人が増えて賑やかで、華やかな雰囲気であった。

 その雑踏の中を冒険者ギルドにつくと、ギルドの中も以前よりもたむろしている冒険者達が多くなっている気がした。

 アドリアはまっすぐに受付窓口に行くと、フライハイトブルクのギルドから預かってきている書付を渡して、この町に到着した旨を報告した。

 今回はギルドからの直接の依頼で訪れたもので、名目はキーフルの治安状況の視察という何だかよく判らない内容の依頼になっていた。

 

 ともあれ、こうしてギルドに顔を出せばマジックレディス、そしてフロリアがこの場所に居ることは、フライハイトブルクが想定している"相手方"にはすぐに伝わるだろう。

 受付嬢は、ギルドマスターがお会いしてご挨拶をすると思いますのでお待ち下さい、と言い出すが、アドリアは残念ながら急ぎの用事があるので失礼します、当分は滞在しますので、後日またご挨拶に来ます、と半ば無理やり断って、ギルドを後にした。

 彼女にしても、眠気を我慢しながら、儀礼的な挨拶のやり取りをするのはさすがに辛すぎたのだった。


「終わった、終わった。さあ、宿に戻るよ、フィオ」


 アドリアはギルドの建物を出た途端に、そう言ってあるき出す。フロリアももちろん、異論が無い。

 一応、探知魔法を掛けながら宿にまっすぐ戻るが、人が多すぎて良く分からない。あからさまにこちらに悪意を向けてくる者が居れば、トパーズが警告してくれるはずなので、とりあえずは大丈夫そうだった。


 宿の部屋はアドリアとルイーザ、モルガーナとソーニャとフロリアで2部屋確保していたが、フロリアが自分たちの部屋に入るとすぐにアドリアから呼び出しがあり、半ば寝ぼけていたモルガーナ、ソーニャと共に、アドリアの部屋に行くと、「さ、亜空間に入りますよ」というルイーザの一言。

 せっかくの古都キーフルでも最高の宿の最高の部屋なのに、そのまま使われなかったのだった。


 その日の夕方。

 それぞれぐっすりと寝て、体力気力を取り戻した一行はようやく階下の食堂に降りる。

 昼夜逆転の生活を送っていたので、時差ボケのような状態になっている。それを元に戻すために、食事をしたら、また翌朝まで眠るつもりであった。


 宿のフロント係から、アドリア宛に2通、フロリア宛に1通の連絡が来ているとの知らせがあった。アドリア宛はヴィーゴ商会と、フロリアには聞き覚えがあるのだが、誰だったか思い出せない名前からである。


「ほら、カーヤとロッテが近くの森から町まで送ってくれた冒険者パーティですよ。その中の魔法使いのミリヤムさんが、昔マジックレディスのメンバーだった……」


 モルガーナに聞いても覚えて無くて、隣のソーニャが教えてくれた。

 そういえば、確かに最初にカーヤとロッテに知り合ったのはその時だった。魔力持ちの若い女性2人組で森に行って、柄の良くない冒険者に襲われた時にフロリアたちが助け、ただ町まで送ることが出来ないのでどうしようか、という時に行き合わせた人達だ。

 あの時は、その後でかまいたちの襲撃があって、ソーニャが重傷を負うなどのトラブルがあったため、すっかり頭から飛んでいってしまったのだった。



いつも読んでくださってありがとうございます。



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