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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
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第248話 ふたたび、キーフルに

「ちょいと厄介なことになるかも知れない依頼だから、ゆっくりと話してから決めようか。

 あ、それでもしちょっとでも不安に感じることがあるのなら、遠慮なく断って良いからね。ギルドのお偉いさんからの依頼だからって、受けなきゃならないってことはないんだよ」

 

 翌日、マルセロに詳しい内容を問い合わせて戻ってきたアドリアは、そうフロリアに言った。 

 依頼内容は、キーフルまで行って、皇太子殿下とフランチェスカの婚姻のお祭りまで町に滞在して帰還する、というもの。このちょっと騒がしい時期に、話題の魔法使いが現れて、他国の諜報組織の目が集中しているスキに、自由都市連合の密偵たちが動きやすくなるのを期待したものだそうだ。

 なんだか、こじつけ染みた理由ではあるが、バルトーク伯爵家のゴリ押しに負けたという訳では無いのだ、とアドリアは断言した。


「もし、そんなことをしてきたら、逆にフライハイトブルクの総力を挙げてでも、反撃するところです」


と話すルイーゼによると、フライハイトブルクを盟主とする自由都市連合はいずれも貿易で食っている町ばかりであるのはたしかだが、だからといって――だからこそ他国の無理強いに応じてはならないのだ、と言う。


「色々と買ってもらうのだから、多少の無理強いぐらいは聞かなきゃならないのかと……」


「逆ですね。無理強いすれば通るって、相手に思われるのが一番よくありません。最初は1人の見習い魔法使いを寄越せ、という要求でも、それを呑めば、すぐに次の要求をされるようになりますし、他の取引先からも足元を見られます」


 ということは、今回の依頼は何かの別の事情が発生したために持ち込まれてきたもの、ということになる。

 

「フライハイトブルクの情報機関が何かつかんだのかも。この町は交易で食べているのですから、上層部は情報の大切さは良く判っています」

 

 ただでさえ、ギルドという国際的な組織は情報収集機関としては優秀である。それに加えて、フライハイトブルクでは専門の諜報担当の人員も相当数、抱えているらしい。

 

 らしい、というのは、さすがの情報通のルイーゼでも詳細は判らないので、噂段階の話しか出来ないのだ。


「それだけじゃありません。以前からマルセロは優れた時間魔法使いを抱えていて、その予知が彼女の政治に影響を与えているという噂もあります。

 今回も、なにかフロリアがキーフルに居ることが必要な事情が発生するという予知があったのかも」

 

「実を言うとね、その予知魔法使いのことはマルセロに直接、聞いてみたんだ。ま、いつも通り誤魔化されたけどね。だけど、今回は珍しくけっこう踏み込んで教えてくれたよ。確かに婚姻の儀式の数日前にはフィオにキーフルに居てほしいそうだ。ただ、その理由はマルセロにも、その魔法使いにも判らないと言うことだ。

 何が起こるかわからないから、その場で私達がどんな判断をしようとそれに対して、マルセロは文句を言わないと確約したよ。つまり厄介そうなら見過ごしても良いってことさ。

 それに確実に何かが起こるとも限らない。フィオが行くことによって、運命が変わり、何も起きないということだってけっこうな確率でありうるのさ。ともあれ、フィオにキーフルに行ってほしい、もちろんマジックレディス全員の旅費と報酬も出る」


 アドリアの一言にすぐに食いついたのがモルガーナである。


「それって、私達も依頼ってこと? 依頼料は出るの?」


「もちろん。魔物討伐や戦闘が想定されてない依頼としては破格の依頼料だったよ。別途、交通費と滞在費も出る。ただ、1ヶ月程度はこの町を留守にしなきゃならないけどね」


「受けようよ、姐さん! 皇太子の結婚式というのなら、町もお祭り騒ぎになるだろうし、いかない手は無いよ!」


「あなたは遊び回りたいだけでしょ」


「ルイーゼだって、お金貰って遊んでられるんだったら、その方が良いでしょ!」


 モルガーナはお気楽なもので、すっかり盛り上がっている。


「ソーニャさんはどうなのですか?」


 試しに聞いてみると、口数の少ないソーニャは「次期国主の結婚式なんて滅多にあることじゃないし、行ってみたい」と珍しくはっきりと口にした。


「だけど、今回の"何か"って、起こるとすれば政治的なしがらみが付随することですよね。下手をすると、ただでさえ目立つフィオが更に色んな勢力から目をつけられるようになる危険があります。

 私達は冒険者なのだから、強力な魔物を討伐に行く、という危険ならいつものことだと思います。フィオはまだ未成年だけど、これだけ強力な魔法使いなのだから。

 でも今後、政治的な厄介事に巻き込まれる危険は避けるべきだと思います」


 アドリアはうなずくとしばらく黙考した。


「たしかにソーニャの言う通りだね。

 ――フィオ。今回の件はあんたが決めて良いよ。断ったからってペナルティは無いし、現地まで行って物見遊山以外の行動が必要になってもその時点で断ったってかまわない。何しろ、ギルドの依頼は何処ぞの密偵組織のひと目を引きつけるってところまでなんだから」

 

 フロリアは翌朝、返答することにしてもらい、その日は解散した。

 こうしたことではトパーズはあまりあてにならない。魔物の強さの見立てなどであればともかく、人間同士のしがらみやら思惑やらが入り乱れると、理解力が追いついてこないのだ。トパーズは決して愚かではなかったが、脳の構造が人間とは決定的に違うのであった。

 

 ともあれ一晩、考えた挙げ句、フロリアは翌朝、依頼を引き受けたいとアドリアに返答した。

 それが利口なことなのかどうかはフロリアには判らなかった。だが、時間魔法系の魔法はそれほど秀でていないフロリアであったが、今回は何だかキーフルにいかなくてはならないという予感がしたのだ。モリア村の裏山の遺跡を詳しく調べなくてはならないという不思議な予感におそわれて以来のことであった。


 アドリアがギルドに受諾の返答を持っていったところ、ギルドではできるだけ早く行ってほしいようで、翌日には出発することになった。慌ただしいことだが、その程度のことに対応出来ないのなら、冒険者など出来ない。

 それに各自が魔法の収納袋をもち、フロリアも収納スキルを持っている。旅支度なら普段から出来ているようなものであった。


 ――その夜。

 フロリアは、ベルクヴェルク基地のセバスチャンを呼び出して、キーフルにねずみ型ロボットを多数配置して情報収集を頼んだ。せっかく独自情報を仕入れる手段があるのだから、使わない手はない。

 

 翌朝。

 アドリアは、使用人頭のパメラさんにごく簡単な予定を伝えただけで「あとはよろしく」とだけ言って、パーティホームを出発した。


 水龍を討伐してからモルドル河の船運の安全は取り戻されていて、旺盛に大型船が行き来している。

 そうした船に乗って、キーフルまで行くのが定石であり、マジックレディスも前回、キーフルに遠征した時にはそうしていた。

 しかし、すでにフロリアの亜空間の快適さに篭絡されていた面々は誰も船で行こうなどと言わなかった。

 高価な1等船室であっても、スペースの限られた船の上ではトイレなどは決して広くて快適なものにはなり得ないのだから。

 

「それでも、今回は向こうに着くのがあまり遅くなって、結婚式に間に合わないと困るからね」


 婚礼の儀式は3月5日の予定で、その前の3月1日までにはキーフルに着くという約束になっている。

 現在、2月17日。この世界での暦は大の月、小の月はなく、1ヶ月は全て30日なので、14日目にはキーフルに着かなくてはならない。

 一行はルイーゼが急ぎで手配した馬車で出発した。出来るものならフロリアのケンタとアドリアの超絶乗り心地の良い馬車で移動したいところだが、ケンタの目立つことを考えると、前回同様、主に夜の移動をすることにしたのだった。

 ただ、初日にいきなり夜まで亜空間に籠もって時間を無駄にするのも勿体ない、ということで、いち日で行けるところまでは普通の乗合馬車を貸し切って走らせたのだった。

 午後の遅い時間だが、まだ日暮れまではちょっと間がある、という時間にアドリアは馬車を止めさせて、ここまでで良いと言った。


 帰る馬車を見送ってから、マジックレディスはフロリアの亜空間に潜った。今のうちに寝ておいて、日が落ちてから出発の予定だ。まだ、夜が長い時季なので、日の出まで走れば相当な距離が稼げるハズであった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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