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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
244/477

第244話 戦闘終了

 空洞の壁の何もなかった場所がいきなり、ボロボロと崩れ始め、そこから円形に口を開けた魔物が顔を覗かせた。かと思うと、そのままさらに壁を崩しながら、体を空洞内に入れていく。


「あれが長虫?!」


「砂漠に出るサンドワームの亜種ってところでしょうね」


 さすがに戦闘なれしているマジックレディスは前もって警告されていたこともあり、特に慌てた様子は無かった。


 ルイーザが、「あれは私とソーニャが対応します。モルガーナはゴブリンの始末を!」


「分かった!!」、「了解です」


 2人とも、簡単に返事をすると、フォーメーションを入れ替えて新たな敵に戦力を振り向ける。


 長虫はまだ全身が空洞内に出て無いものの、胴体の前部を左右上下に振りながら、目の前の敵を攻撃してくる。

 顔にあたると思われる一番前の部分は、ポッカリと丸い穴が大きく空いていて、その穴をぐるりと一周囲むようにギザギザの犬歯が生えている。それも一周だけではなく、奥の方まで何列もびっしり生えていて、禍々しさを増している。


 ルイーザがその穴めがけて、土魔法の槍を撃ち込むが、槍があたる寸前に、ピタっと穴が閉じられて、槍は弾かれる。

 目も耳も鼻も無いようで、どうやって攻撃を察知して口を閉じたのか不明であるが、面倒な相手ではある。

 それではとばかりに、ルイーザとソーニャがそれぞれに水魔法のウォーターカッター、風魔法のエアカッター、土魔法の槍を撃ち込むが、柔らかそうに見える外皮を破る事ができない。


 長虫は体をくねらせるのをやめようともしない。だがそれが苦痛によるものなのか、どうなのか。


 あまり知能は高そうな魔物ではないが、それなりに厄介な相手である。

 

「ソーニャ。何とか口を開けさせます。固定してください」


 火で炙る訳にはいかないので、自分の身を囮にして近づき、相手が口を開けて攻撃してくる瞬間を狙うのだ。


「気をつけて、ルイーザ」


 ルイーザはソーニャの方をチラリと見ると、後は静かに長虫の方に近づいていく。今や胴体全体も穴から出てきて、長虫は自在に暴れることができるようになった。

 そして、ポッカリと空いた穴の向こうからもゴブリンが空洞内に入ってくる。


 そのゴブリンはどうやらゴブリンの中でもエリートらしく、上位種では無いものの体は他のゴブリンよりも一回り大きく割りと新しめの剣を持っている。


 フロリアは見てろと言われたが、さすがに黙視もできない。収納スキルから数本の短剣を出すと、そのゴブリンめがけて操剣魔法で剣を投げた。

 短剣は吸い込まれるようにゴブリンの頭部と腹に刺さって、ゴブリンは倒れる。

 

 そんな戦闘に気がついた風もなく、長虫はルイーザに向けて大きな口を開いた。


 掛け声も呪文も予備動作もなく、縦長の岩が数個、ソーニャの前に出現すると、それを長虫の口に向けて飛ばした。

 岩は激しく頭部を振るミミズの口を違わず捉える。口の中に飛び込んで縦のまま、口を閉じさせないようにつっかえ棒の役割を果たした。


 驚いた長虫は、一層早く激しく左右に首振りをするのだが、ルイーザはその首振りから避けざまに魔法を発動。

 つっかえ棒の僅かな隙間に、エアカッターを放つのだった。


「すごい!!」


 単純な魔法の威力だけなら、ルイーザはフロリアに遠く及ばない。

 しかし、こうした緻密で繊細な魔法の使い方に関しては、まだルイーザに一日の長がある。


 数秒後、内蔵を奥深くまでズタズタに斬られた長虫は、今まで以上に激しくのたうち回るのだが、それはもはや断末魔の足掻きであった。


 次第に動きは遅くなり、やがてまったく動かなくなった。


「こっちもおー終い! っと」


 モルガーナが魔法と両手に握った短剣で、ゴブリンとモグラの魔物を全滅させていた。


「こっちもだよ。思ったよりも骨が折れたねえ」


 アドリアも立ち上がる。


 その後ろにはゴブリンの上位種の死骸が折り重なっているのだった。


 ……その後、マジックレディスの一行は魔物の死骸を収納しつつ、討ち漏らしが無いかどうかをじっくりと調べる。ゴブリンの死骸は魔石が安く売れる程度の旨味しか無いが、こんなところに放置するとアンデッド化する可能性があった。


 技師たちは、ゴブリンが荒した採掘現場の様子や、バラバラにされて放置してある採掘用の機械などを点検していた。

 修理できれば良いが、新たなものを設置するとなると時間も経費も跳ね上がる。


 ニャン丸が長虫が出てきた穴の向こうから顔を出して、この枝道を辿る途中で、やはり冒険者の装備品を発見したとの報告をした。先程のときよりも多かったというので、ふた組目の2パーティ合同の調査隊の可能性が高い。

 結局、ほとんど戦闘の機会が無かった、トパーズの眷属の何頭かに技師たちの護衛を頼んで(技師たちはすごく怖そうにしていた)、残りは散らばって、なおも討ち漏らしの捜索を続行した。

 土の精霊ノームに調べてもらえばすぐに判るのだが、さすがにこの血腥い現場に呼ぶと、ノームが恐れて、その後召喚に応じて貰えなくなる恐れがある。


 それで、魔法使いの探知魔法と、獣の嗅覚に頼って、調べたがまずは大丈夫であろう、という結論になった。


 技師たちは立ち上がると、「だいたい分かりました。採掘用の機械は木材と鉄を組み合わせた掘削機などで、ゴブリン達の気を引くようなもので無かったのが幸いです。壊されてはいますが、修理は可能なようです」とのことであった。


 それで、外に戻ることになったが、今度は長虫が出てきた方の枝道に入って、まずは地下宮殿を目指す。途中でニャン丸の言うように、冒険者の装備品や武具、肉片が散らばった地域に出たので、やはり穴をほって埋めてやり、回収できるものは回収した。


 地下宮殿で一休みしてお茶と軽食。

 清浄魔法で血糊や汚れを落として食べる。マジックレディスは皆、特に食欲不振になることも無いのだが、技師たちはげっそりとした顔をしていて、お茶だけどうにか流し込むのであった。


 坑道を出ると、外はすでに夕方になっていた。

 

「出たぞ。戻ってきたぞお」


 見張っていた坑夫達が騒ぎ、すぐに町の顔役やギルドのお偉方が飛んでくる。


「坑道内に居た魔物は全て駆逐しました。詳しい報告はギルドの窓口でします。あと、技師さんたちも見ていましたので、そちらの報告と突き合わせてください」


 アドリアがそう言い、ルイーザがその詳しい報告の為、冒険者ギルドの職員と同行してギルドの建物に行く。


「いやあ、助かりました。これで採掘を再開できそうです」とお偉方は、明るい顔になるのだが、それもつかの間。

 技師が「壊された機械を修理し、坑道内を清掃して採掘再開するまでには少なくとも2週間は必要だと思います」と言うと、たちまち暗い顔に戻った。


「なんだって! それじゃあ、まだ2週間もコバルトが手に入らないのかよ」


 工房の親方達が肩を落とす中、アドリアが「コバルトの原料にするつもりの鉄くずや何かは、置いてあるのでしょう」と商業ギルドの担当者に聞く。


「はい、それは商業ギルドの方の中庭にありますが……」


「それを原料にコバルトを生成したら買ってもらえますか?」

いつも読んでくださってありがとうございます。



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