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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
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第242話 地下のゴブリン

「ゴブリンの群れですか!」


 技師たちが不安そうな声を上げた。


 彼らは魔力は使えるとは言え、攻撃魔法は使えないし、そもそも戦闘経験は無きに等しい。

 これまで来た道を振り返る。もちろん、ライトが照らしていないので漆黒の闇でしかない。


「大丈夫ですよ。私達がついているのだから、簡単にはやられたりはしません。それに、もし危なくなりそうなら、ギルドの危険度の見積もりが違ったという理由で引き返しますから」


 アドリアが、技師たちを宥めるように言った。


「わ、判っています。私達も一刻も早く、採掘を再開しないと大変なことになります。どうか、マジックレディスのお力でなんとか」


 少々、声が震え気味だが、まだ怖気づいてはいないようであった。


 回収できる分だけ回収すると、地面に土魔法で穴を掘って遺体(の残骸)を入れて埋める。後で場所が判るように折れた剣の先だけを地面にさして墓標代わりとする。


「坑道に入ったのは2組だったね。これは4~5名分ぐらいだから、最初のひと組の可能性が高い。二度目の組は2パーティの合同で10名ほどだったそうだから」


とアドリア。


「でも、そうなるとふた組目はどこに行ったんでしょうか? ここを通ったのなら、これを見て素通りするとは思えませんし、あの地下宮殿から他の枝道に入ったのかも」


「ルイーザ。それなら、ふた組目は何も発見できずに戻ってくる筈じゃないかい? それとも別口の魔物が居るとでも、――ああ、そういえば、長虫みたいな魔物を見たっていう坑夫が居たんだっけ」


「ええ。この辺には這いずったような跡はありませんでしたよ、姐さん」


「ふむ。どうやら別口が居ると思ったほうがよさそうだねえ。とりあえずは先に進もうか」


「にゃにゃにゃ。先行しますにゃ」


「いや、待って――フロリア。そろそろあれを出してくれないかい」


「はい」


 フロリアは昨夜、相談したように土の精霊ノームと金属の精霊コボルトを召喚した。


「ノーム、コボルト、お願い。この坑道を調べて何かいたら、教えて欲しいの」


「うん、分かった、フロリア、分かった」


 ノームもコボルトも久しぶりの召喚に意気揚々と飛び出していった。

 どんな魔物だろうが、精霊をどうにかできるものではない。襲われそうになっても自分で自分を送還してしまえば良いだけの話である。


「ニャン丸は、いったんさっきの大きな広間(地下宮殿)のところまで戻って、別の臭いがする枝道がないか、よく調べておくれ。もし怪しい枝道を見つけたら、中に入ってみて。だけど、ほんのちょっとでも危険を感じたら、すぐに出てきて、大広間のところで私達が帰ってくるのを待つんだよ」


 アドリアが猫にそう指示すると、ニャン丸はフロリアの方を振り向いて見る。


「うん。いま姐さんが言ったようにしてちょうだい。あんたも影に潜めるから大丈夫だと思うけど無理はしないでね」


「にゃにゃにゃ。任せるにゃあ」


 ニャン丸はもと来た道を駆け戻っていった。


 そして、一行は再び行軍を開始する。技師の2人は何も言わないがフロリアの背中を穴が開くほど見つめている。

 精霊は基本的に召喚術師が優秀であればあるほど、人に近いかたちで召喚される。この町で雇っている召喚術師が呼べるコボルトはどこか小型の犬みたいだったり、異形の小人であったり。

 このフロリアのコボルトのように美しい少女の姿というのは、コバルト鉱山に携わって長い技師たちにとっても始めて見るほどであった。

 これだけのコボルトであれば、どれほどのコバルトを生成できることだろうか。


 当初想定していたよりもずっと多くの魔物が、この坑道の暗闇に潜んでいるらしい。それらと危険を冒して戦わなくとも、とりあえずは外に戻って、この少女にコバルト生成をしてもらって時間を稼ぎ、その間に大部隊を編成して……、


 実は同じようなことをアドリアも考えないでは無かった。

 しかし、今更そんなことをするぐらいなら入坑前にフロリアにコバルトを生成させている。

 そうしたら、この町の関係者達はフロリアには上に残ってもらい、他のメンバーで坑道内の探索をしろと言い出すだろう。

 それはダメだ。

 あくまでマジックレディスは1つのパーティである。こちらの都合で分かれて行動するのは"アリ"だが、依頼主の勝手な都合には従わない。たとえ、フロリアがまだ見習いメンバーであろうとも、だ。

 

 ここですごすごと立ち戻れば、最初からフロリアを置いていったのと同じように、町の関係者は必ず、人数を整えての再びの坑道潜入のときにはフロリアを一緒に潜らせようとしないであろう。そして、事態が無事に終息した後になっても、フロリアを手放そうとせず、マジックレディスと町とのケンカで済めば良いが、最悪の場合はフライハイトブルクとジューコーとの政治的闘争にまでなりかねない。

 そうなれば、フロリアもフライハイトブルクに居づらくなるだろうし、ここはさっさと本来の仕事を終えて、帰りがけにコバルトを提供したらすぐに帰還の途に就く、というのが良いのだ。


 それにそもそも相手の全体像が分かる前に、「勝てない相手」と判断して撤退するなど、マジックレディスの名折れである。

 全体像が判った時点でもう撤退も手遅れの可能性もあるのはわかっているが、そうならないように"こと"を進めるのがベテラン冒険者の腕というものである。


「姐さん、そんな難しいこと考えてないで、たとえいろんな精霊を召喚できる術師でも、コボルト召喚ができるのってけっこう稀なのでしょ。すっとぼけておけば良くない?」


 モルガーナの言う事も一理あると思うが、ここで町の関係者達が困りきっているのに、コバルト生成をしなかった場合、後々までフロリアがコボルトを召喚できるということは内緒にし続けなくてはならない。

 普段よりちょっと高値で買わなきゃならない、程度なら放っておけば良い。町や工房の信用問題になるほど困っているのに、助けられるのに助けなかった……。そうなると、後でコボルト召喚ができると判ると怨みを買いかねない。

 かと言って、召喚できることをいつまでも秘密にするならするで、今度は、フロリアの活動の幅を縮めてしまう可能性があるのだ。


 この町へ到着するまでの馬車の中で、フロリアの召喚できる精霊の内容を聞き取りしながら、以上の基本的な対応を決めたのだが、実際にジューコーに着いてみたら、予想以上に追い詰められていて、こちらも神経質にならざるをえない。


 アドリアは、イケイケでとにかく強い魔物の討伐依頼をどんどんこなしていた頃の自分と比べて、ずいぶんと細かいことを考えるようになったもんだ、と自分の変わりように自分で可笑しくなっていた。

 珍しい才能の持ち主のパーティメンバーが入るたびに色々と学ばされたものだが、フロリアほどのレアなのも始めてだ。

 化け物じみた魔力量もさりながら、レアスキルのデパートみたいな女の子だ。七大転生人ってこんな感じだったのだろうか、といつの間にか考えているほどであった。


「姐さん。ノームがゴブリンを見つけました」


 フロリアがごく小さな声で囁いた。

 小さな声だが、一行の耳には明瞭に届く。風魔法の応用だ。


「距離はここから徒歩15分ほど。地下宮殿ほでではないですが、かなり広い空洞になっているところにゴブリンの群れがいます」


 そして、確認できたゴブリンの個体がだいたい50以上。その他、上位種が4体。キングが1体と後はジェネラル。……いや、ゴブリンメイジも1体います」


「へえ、メイジって珍しい」


 モルガーナが呑気な声を出す。風魔法を使うかまいたちみたいに、魔法を使う魔物は珍しくはない。だがゴブリンは基本的に魔法を使えないタイプの魔物である。

 それがゴブリン内の変異種になるのであろう、稀に魔法使いのゴブリンが誕生する事がある。それがゴブリンメイジである。


「それと、……モグラのお化けみたいな魔物を馬代わりにしています」

いつも読んでくださってありがとうございます。



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