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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第12章 フライハイトブルク時代
241/477

第241話 坑道へ

 翌朝。

 坑道の入り口を塞いでいる、木材の覆いを外す。

 普段はこんなもので塞いだりしていないのだが、かなり強力な魔物らしいということで、錬金術ギルドの方で用意したのだった。

 

 錬金術師は魔法使いでもあるので、中には攻撃魔法が使える者も居るのだが、魔道具の町で職人で生きていくことを選んだような者は性格的に戦闘向きではない。

 今回、マジックレディスに同行する鉱山技師も1人は魔力持ちで、もうひとりは魔法使いであった。

 だから最低限の自衛は可能であると、冒険者ギルドのギルドマスターから言われては居るが、だからといって護衛しないわけにもいかず、面倒である。


 坑道を入って数分経つと、「そろそろかな。フロリア、明かりを頼む」というアドリアの指示に従って、フロリアはライトを呼び出す。

 ライトは光の精霊で、今は全身が赤っぽい光で包まれていて、それが一行の眼の前を浮かぶと、中々良い感じである。


「こ、これは精霊ですか。ライトとは珍しい」


 技師のうちの1人が呟く。すでに大鷲を召喚する少女の噂はこの町まで流れているが、従魔だけではなく精霊も召喚できるとは。


 フロリアはかねてからの相談通り、ニャン丸を呼び出すと、先導役を命じる。


「でも、魔物が出たらすぐに戻ってきて教えてね。戦ったりしちゃダメだよ」


「ニャニャ。おまかせするニャア」


 ニャン丸はあっという間に坑道の闇の奥に駆けて行く。


 トパースも眷属の猫科の猛獣を4頭呼び出すと、パーティの前後に2頭ずつ配置した。


 ライト以外にもマジックレディスは懐中電灯式の魔道具で足元を照らしながら、慎重に進んでいく。

 彼女達は豊富な魔力を誇るが、それでも周囲を明るくするためだけに魔力を使うような真似はしない。魔道具で十分対応できるところは魔道具に任せて魔力の節約をはかるのだ。


 3時間後、途中で1回の休憩を挟んで、大きな空洞になっている地点に出た。

 懐中電灯の明かりを上に向けても、天井を照らす事はできず、ただ地中に驚くほど広大な空間が広がっていることだけが判る。

 この場所は通称「地下宮殿」と呼ばれ、地下のベースキャンプ的な場所になっているのだそうだ。

 地面には鉱石を運び出すためのトロッコがあちこちに放置されていて、敷地内を縦横に線路が敷かれていた。木造の掘っ建て小屋はトイレだろうか。食事を作るための煮炊きをするスペースもあった。

 

「もっと深いところから堀り集めた鉱石をここで一旦集めて、大きなトロッコに載せ替えて、地上に運ぶのです。いちいち、外に出なくとも、ここが坑夫達の休憩場所や、忙しい時などは宿泊場所にもなっています」


 鉱山技師が説明してくれた。

 

 しばらく2人の技師は色々と調べ回っていたが、


「この地点には特に異変はありませんね」


とのことであった。


 ニャン丸が戻ってくると、「あっちがにゃんだか、変にゃ気配がするですにゃあ」と指指したのは、幾つもあるもっと地下への坑道の中でもひときわ大きなものであった。半分は自然に出来ていた道を切り開いて広げたといった感じだ。


「そこは、この数年、集中して掘り進めている坑道ですね。特に品質の高いコバルトがとれるのだそうです」


「あらそう。ここらあたりがヤバそうってのは、私の探知魔法でもなんか感じるよ。そろそろ敵が近そうだ。みんな、気を引き締めていくよ」


 最近、集中的に掘り返しているというのなら、地中で寝ていたなにかやばいやつを刺激した、といったところなのかも。


 この地下宮殿までは坑道は結構広くて高さもあって、地面には出口まで続くトロッコのレールが敷かれているほどで、女性ばかりのマジックレディスは余裕を持って歩けたのだけど、ここから先はやや幅は狭くなっている。

 眷属を出して以降はフロリアの影に引っ込んでいたトパーズが顔を出すと、「私も少しは運動しよう」と言って、横に並ばれたフロリアは一層狭さを感じることになった。


 先行しているニャン丸。ライト。2匹の猫科の猛獣。アドリア、モルガーナ、フロリアとトパーズ、技師2名、ソーニャ、ルイーザ、そして殿は2匹の猛獣、という一列縦隊になって坑道を進む。

 30分ほど進んだところで、アドリアが小休憩を宣言する。隊列は崩さずにそのまま腰をおろす。剣や武器も手から離すことはしない。ソーニャの槍は坑道内では使いにくいのでは無いかと思っていたのだが、いつの間にか短い手槍に取り替えていた。こうした時に収納袋持ちは便利である。


「精霊召喚は、なかなか居ないのに凄いですね。他にも色々と召喚できるのですか?」


 技師の1人がフロリアに話しかける。

 別につっけんどんにすることもないが、自分の秘密をペラペラと喋るつもりもない。この技師が知りたがっているのは、コボルトを召喚できるかどうかだろう。

 フロリアは「ええ、まあ」と曖昧に答える。

 なおも、追求しようとする技師に「冒険者は自分の武器は知られないようにするものだ、と言われています」と答えておく。


「さ、そろそろ行くよ」


 フロリアの返答の直後に、アドリアがピシャリと休憩の終わりを宣言する。技師にも、これがアドリアの牽制だということは分かっただろう。これから先は、こうした詮索は行われなくなった。


 また10分ほど歩いた後、アドリアがサッと手を上げて全体を止める。ニャン丸が駆け戻ってきたのだ。


 アドリアの処まで戻ると、「にゃにかが死んでるにゃ。剣とかひじあてとか落ちてるにゃあ」と言った。


 全体に緊張が走る。

 

「どこに落ちてるんだい? ネコちゃん」


「にゃにゃ分ぐらい、まっすぐ歩いたところにゃ。ゴブリンの臭いとあと知らにゃい臭いがするにゃが、今は何もいにゃい」


「分かった。行こう。そこまで一本道だったかい?」


「そうにゃ」


 ここから先はアドリアの命令でニャン丸は先行はせずに、アドリアのすぐ前で道案内することになった。

 そして、ニャン丸の言う通り、7分ほど歩いたところで少し広くなった場所に出ると、そのあたりに武器などが散乱していた。


 トパーズはグルルと喉の奥で唸ると、もう数匹眷属を呼び寄せて、アドリア達が調べる間、通路の前後に散って警戒につとめさせた。


 死骸は酷く食い散らかされていて、もはや残骸状態であった。これならばアンデッド化する危険も無かろう。

 装備や剣なども傷んでいるし汚れている。だが、遺族のために持ち帰れるものならば持ち帰るのは冒険者の嗜みである。


「あ、ギルド証も残っているね。これも持っていってあげよう」


 モルガーナが半分に千切れたカード状のものを地面から拾うと収納にしまった。


「もう少し先で襲われて、ここまで逃げたけど力尽きた、って感じですね」

 

 足跡を調べているルイーザが言った。坑道内は岩が露出していて基本的に足跡はつかないのだが、ルイーザは魔物の魔力的な痕跡を「足跡」として認識できるのだった。


「確かにゴブリンの足跡です。それとかなり大きな獣か魔物の足跡。四足だけど前足がすごく大きいですね」


 それから、何かに気づいて、フロリアにライトを地面の一箇所を強く照らすように言った。

 その通りにすると、ルイーザはそのあたりを慎重に調べ直して、


「ゴブリンはゴブリンですが上位種もいます。ゴブリンジェネラルかゴブリンキング。かなりの群れですね」


といった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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