表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第11章 自由都市連合
227/477

第227話 新しい生活

 一行が階下に下りると、受付嬢からお仲間は個室に居ると、案内された。

 モルガーナとソーニャ、そしてカーヤとロッテは、それぞれ年齢も近いということですっかり意気投合してはいたが、カーヤたちはオーギュストのフロリア連れ戻しに付き合っている、という点で曇りが無いではなかった。


「オーギュスト、どうなったの?」


 ロッテの質問に、オーギュストは肩をすくめて、「振られちまったよ。フロリアは当分、マジックレディスと一緒にこの町で行動する」と告げた。


 どう反応して良いのか、微妙な空気になる4人をオーギュストは軽く笑い飛ばす。


「なあに、元々が昔の仲間の弟子が困ってんじゃねえかって、探しに来ただけだ。1人で立派にやれてるとなりゃあ、俺の出番は無いさ。こうなれば、後は国に帰る前にこの有名な町をたっぷりと楽しむぞ」


 ホッとした表情になったカーヤが、


「それじゃあ、ケンカにはならなかったんですね」


「大丈夫だ。もとからケンカなんかするつもりもなかったしな」


「それじゃあ、一緒にあちこち回ろうよ。フィオちゃんも連れて。で、フィオちゃんってフィオリーナじゃなかったけ?」


 モルガーナの言葉に、ルイーザが「今日からフロリアですよ。愛称はフィオのままで良いでしょう」と答え、モルガーナもソーニャもそのあたりは追求しないでそのまま受け入れるのだった。


「ともあれ、町の観光も良いが、正直そろそろ路銀が底をつきそうでもある。この町で依頼を受けるか、素材の採取でもするぞ」


 オーギュストの言葉に、そっちが先かぁとカーヤが笑う。


 こうして、個室から皆で出てくると、窓口係に礼を言って、後はフロリアのギルド証の確認をして帰ることになった。


 オーギュストたちの依頼については、この時間になるとめぼしい依頼は残っていないので、それよりはルイーザが比較的高価で常時買取の対象になっている素材の採取地を後で教えるというので、それを明朝に採りに行くことになった。


 ギルド証が有効であることを確認し、次いでに口座の金額を見てもらったフロリアはその額に驚きの声をあげた。

 自分で把握している額よりもはるかに多く、4金貨と5金銭程にもなっていた。


「額は言わないで下さいね」


 思わず、どうしてこんなに増えたのか聞こうとするフロリアを窓口嬢は制止した。窓口はオープンスペースにあるのだ。近くに他の冒険者はいないとは言え、"聞き耳"の魔法を持っている者が建物内にいないとは限らない。


「分かりました。でも、こんな額になったのはなせか調べられますか?」


「私達、窓口係の権限で見ることが出来るのは現在の残高だけです。本人のあなたなら、取引履歴を見られますよ」


 窓口係の指示通りにギルド証をかざした魔導具を操作して、履歴を見ていく。

 ビルネンベルクから逃亡した日付の後で報奨金や魔物の素材の代金の名目で大金が入金されている。スタンピードを止めた報奨金ということか。素材の代金はあの時に放置した魔物はアンデッド対策でほぼ燃やした筈だが、そういえばあの人達は魔石は回収していたみたいだった。

 それと、何回かに渡って「野獣の牙」からの同額の振込がある。これはなんだっけ?

 最後に、「ハオマ草権利分」として商業ギルドから毎月1日と15日に振込がある。これが相当な金額になっている主原因と言っても良いだろう。


 この時は内容をざっくりと覚えておいて、後で経理や財政などに詳しいルイーザに聞いてみたところ、フロリアが町を立ち去る前に再発見したハオマ草の群生場所を商業ギルドのギルドマスターのイザベルに教えたことが大きいのだろう、と推測を話してくれた。


「そのハオマ草は、薬草1つで町1つが栄える程、高値で取引されますからね。発見者の権利として利益の一定の割合支払われれば、そのぐらいの金額になっても不思議は無いですよ。

 ただし、フィオ、事情を聞くとその発見者があなたであることははっきりと証明出来ない状況みたいだから、ギルドマスターのイザベルという人が強欲だったら支払われなくとも、文句が言い難いお金です。しかも、このままあなたがギルド証を復活させなければ、3年間で本人の活動なしということで登録抹消してお金は宙に浮くところでした。その危険が分かっていながら、こうした処置をしてくれたのは、イザベルという人はよほど義理堅いか、あなたのことを気に入っていたのでしょう。

 ともあれ、発見者の権利は条件によって違いますが、5年から10年は続く筈です。その間にも、かなりの金額が貯まると思いますよ」


 そして、イザベル宛に、これまで無沙汰をしていた経緯(自分のギルド登録は凍結されていたと思いこんでいた)を説明し、謝罪と感謝を込めた手紙でも書いたらどうですか? と勧められたのだった。


***


 マジックレディスのパーティホームに皆で戻る。

 そして、3人を加えての食事がパーティのようになっていった。オーギュストは大勢の女性に囲まれて、男といえば、使用人頭の男の子だけ、という状況はさすがにあまり居心地が良くなかったようだった。

 オーギュストにとって有り難かったのは、トパーズが居たことで、女性陣が盛り上がっているのをしり目に、昔話に花を咲かせたり、アシュレイとオーギュスト達が別れてから、互いにどんな暮らしをしていたのか、などを話すのであった。


 もっとも、女性陣の方はオーギュストを意識しすぎないでリラックスして食事をしていたのだが。

 食事が終わった後で、今度こそモルガーナとソーニャがフロリアを連れて、町の見物に出るというのでカーヤとロッテも同行することとなった。彼女たちは数日前にフライハイトブルクに到着していたのだったが、ギルドに缶詰になっていたので、このゴンドワナ大陸でも屈指の都市を見物していなかったのだった。

 

 昼食の際に、モルガーナがどうせ明日も一緒に行動するのなら、今夜は泊まっていったらどうか、と言い出したのだが、オーギュストはさすがにそれは遠慮した。自分はともかく、マジックレディスに妙な噂が立っては申し訳ない。


「だが、お前たちは泊めて貰ったらどうだ。せっかく旅の空で仲良くなった相手なのだ。話したいこともいくらでもあるだろう」


 最初は躊躇したカーヤとロッテだが、やはり珍しく仲良くなった同年代の女性であるし、この世界ではたとえ身軽な冒険者といえども、別の国の友人といつでも気軽に会える訳ではない。

 一期一会という言葉が、フロリアの前世の日本よりも重たい意味を持っているのだ。

 せっかく共に語り合う時間を得たのなら、少しでもその時間を大切にするべきである、とオーギュストは知っていた。

 それに少々、計算高いことではあったが、彼女たちによってフロリアのヴェスターランド王国に対する印象が少しでも良くなって欲しいという思いもあった。


 今回、フロリアを連れ帰ることはもう諦めていたが、フロリアの経験を知るに、彼女は自分の命を盾にビルネンベルクの町を救ったのに理不尽な冤罪を受けて逃亡せざるを得なかったのだ。

 それ以前にも彼女にとっては親にも等しいアシュレイの遺体を、生まれ育った家ごと燃やされている。それも彼女たちがポーションを提供したり、精霊の祝福を与えたりと、ずいぶんと面倒を見た村の人間に、ということもあった。

 こうした経験からヴェスターランドの人間に嫌な思いを持っているかも知れないので、それをカーヤとロッテによって少しでも和らげてほしかったのだった。


***


 その日は、主にモルガーナが先導して市場を回るよりも、服屋や装飾品の店、そして女の子らしからぬ武器の店を巡った。

 夕食の時にはオーギュストはすでにパーティホームを辞していたが、カーヤもロッテも昔からこの家で暮らしていたかのようにリラックスしてなじんでいた。

 ただ、客とはいえ何日も世話になるのに金を出せないのを心苦しく思っていて、明日からしっかりと稼ぐことを心に誓うのであった。


 夜は、フロリアは一人部屋に引っ込むことは許されず、モルガーナとソーニャの4人部屋に引っ張り込まれた。

 モルガーナは、カーヤとロッテも同じ部屋で寝ることをさっさと決めて、「ベッドが1つ足りないけど、フィオちゃんは私と一緒に寝ればいいもんね」と笑う。


 フロリアの秘密は、モルガーナもソーニャも触れないが、すでにロッテたちが知っている治癒魔法や収納魔法の凄さについては、おおいに羨ましがられる。


「あんなスゴイ治癒魔法は話で聞いた国軍の従軍治癒魔法使いぐらいしか知らない」


というカーヤの弁である。

 

 彼女自身、魔法使いとまでは言えない魔力持ちで、準薬師。ポーションは作れなくとも、準魔法薬は作成可能で、それだけに本物の魔法使いの治癒魔法には大いに興味があったのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ