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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第11章 自由都市連合
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第221話 フライハイトブルクのギルドマスター

 金色熊の素材の注文を出した金持ちの自宅を訪問したアドリアとルイーザは、収納スキルから素材を出して、その金持ちと剥製職人の検品を受ける。剥製職人は元々、これまでもマジックレディスの狩った素材で製品を作り、各国の大貴族や王室に納入してきた実績があり、今回も毛皮を傷めずにきれいに倒してあるのを確認して称賛した。

 金持ちは、金持ちらしく特に値切ることもなく、気前よく依頼終了確認書にサインをした。これで証明書をギルドに持ち込めば委託してある依頼料がマジックレディスに支払われる。


 たるんだ顔に下卑た欲望を隠しもせず、アドリアに今度、ゆっくりと夕食でも、と誘うがその辺を適当にいなすのはもうアドリアの得意技の1つでもある。


 さっさと金持ち宅を引き上げて、冒険者ギルドを訪れると、建物の中には多くの冒険者が昼間からたむろしている。

 そのうちのひと組のまだ若い冒険者パーティが声をかける。


「姐さん、しばらく見かけなかったけど、遠征ですか?」


「おや、あんた達。キーフルまでちょいと熊退治に言ってきたのさ。

 それよりもあんた達は何をサボってるんだい? 今が売り出し中なんだから、どんどん依頼を受けて、名前を売らなきゃ」


 そんな軽口を叩きながら、受付に行くと受付嬢に依頼の達成証明書を出して、ギルドに預託してある依頼料を、パーティ名義の口座に一旦入金してから、各メンバーの口座にそれぞれの取り分を移す。

 さらにフロリアの取り分は、現金で用意してもらうが、金色熊の討伐自体はフロリアは基本的に活躍していないので参加料程度である。

 すでにキーフルで受け取りルイーザが保管しているフロリア分とあわせると結構な金額になるのだが。


 精算が終わった時点で、「ギルドマスターに面会をお願いしたいんだけどさ」とアドリアが言うと、「はい、執務室でお待ちです」とのこと。

 やはり昨日、町に戻った時にギルドへは門番から連絡が行っているので、アドリアが顔を出したら、案内するようにと言われていたそうだ。

 もっとも、Sランクの特権でアポ無しでギルドマスターへの面会を求めてもめったに断られることなど無いのだが。


 さすがに自由都市連合の盟主フライハイトブルクのギルド本部であり、同時に国際冒険者ギルドの本部でもある建物だけに、かなり大きい。

 だがギルドマスターの執務室は、特別大きいということもないし、内装はむしろ他国の大都市のギルド支部の執務室に比べると質素と言っても良いほどであった。

 

 受付嬢に案内されて入ると、ギルドマスターのオリエッタの他にマルセロもいた。

 マルセロは、国際的な冒険者ギルドのネットワークである冒険者ギルド連合会の会長を務めていて、要はゴンドワナ大陸のギルドのトップに君臨している女傑である。

 フライハイトブルクの議会の議員も務めていて、町の有力者の1人である。

 フライハイトブルクは王族・貴族はいないのだが、いわゆる名家は厳然として存在し、その権威や権力は小国の王以上であると言われている。

 マルセロはそうした名家の出であるが、若い頃に家を飛び出すと自ら冒険者の道を選び引退後にギルドの運営に関わり始めたのだった。

 若い頃はずいぶん実家を嫌っていたそうだが、中年になる頃には自分の好悪は別として、使えるものは使う、という方針に転換にして、ギルド内で政治的にのし上がっていくのに、大いに実家の権勢と財力を使ったらしい。

 そして今の地位と冒険者ギルドの妖怪ババアの異名を勝ち取ったのであった。

 この世界には妖怪という概念は無かったのだが、有名な転生人の1人、川端漱石の著作の影響で深謀遠慮に長けた老政治家を時にそう表現するようになったのだった。


「これはマルセロさんまで。お久しぶりですね」


 アドリアは特に緊張した様子もなく、勧められるままにオリエッタとマルセロという冒険者ギルドを支える両巨頭の前のソファに腰掛ける。

 ルイーザは遠慮したようにそのソファの後ろに立つが、「なあに、あたしらの仲で護衛じみたことなんかしなくても良いのだよ」とマルセロに言われて、アドリアの隣に座ることになった。

 実際、オリエッタとマルセロの後ろには護衛も何も立っていないのだから……。


「さて、アドリア。無事に秘密の依頼の方も成功してくれたみたいだね」


 オリエッタは満足そうに頷いた。この年齢不詳の艶やかな美女は、アドリアの華やかさとはまた違った、大人の女性の魅力に満ちていた。


「はい。まったく聞きしに勝る才能の娘でしたよ」


 そして、フロリアとマジックレディスの出会いから、フライハイトブルクに戻るまでのことを大雑把に話した。

 そこで問題になるのが、フロリアの亜空間のことである。


 フロリアという稀代の魔法使いの娘が現れたという噂を入手した国際冒険者ギルド連合会では、その各国の軍事バランスさえ崩しかねないほどの少女の動向を追っていたが、シュタイン大公国に現れたという情報を得るや、彼女を自由都市連合に取り込むべく、その秘密依頼をマジックレディスに頼んだのであった。

 直接の依頼主はオリエッタの方になっているが、オリエッタはあくまでフライハイトブルクのギルド本部のギルドマスターである。本当の依頼は国際冒険者ギルド連合会から出ているのは、アドリアにも明白なことであった。


 そして、連合会が得ているフロリアの能力についての情報は、実際の任務にあたるアドリアにも開示されていたのだが、その中に亜空間については一切触れられていなかったのである。

 戦闘力抜群の黒豹の従魔や、優れた治癒魔法の能力はあらかじめレクチャーされていたことを確認しただけなので、報告に問題は無かった。うま型ゴーレムは情報に無かったが、オーガのスタンピードを押し留める程の人型ゴーレムの一隊を保有しているぐらいなのだから、別にうま型を持っていても、それほど違和感は無い。


 しかし、亜空間は違う。

 アドリアは冒険者の仁義として、迂闊にこのフロリアの秘密をたとえ依頼主であるとは言え、オリエッタとマルセロに話すことは出来なかった。

 オリエッタは依頼する時に、"各国の政治バランスを崩して、自由都市連合の交易の邪魔になりかねないフロリアを連れてきてくれさえしたら、後はマジックレディスの一員にしてしまって構わない"と約束している。

 だが、それはフロリアの能力がその時点で把握していたものだという前提に立っての話であって、亜空間という伝説級のスキル持ちで、さらにまだなにか隠していそう……ともなってくると、その程度の口約束は反故になりかねない。

 ギルドで直接囲い込みたい、あるいは町自体がフロリアを軍事力として使いたい……程度のことは考えても不思議はない。


 もちろん、この2人の目は節穴ではない。

 アドリア達が、川運の貨客船で戻らず、敢えて陸路をとったことにすぐに違和感を抱き、「なぜ、気楽な船を使わなかったのかね」と聞いてきた。


 誤魔化そうかと思ったアドリアであるが、腹芸ではこの2人に敵う筈もない。


「それは言えません」


とだけ答えた。マルセロ達にはこの一言だけで、冒険者の仁義の問題なのだとわかる。


「それじゃあ、質問を変えようか。あの子は転生人だと思うかね? あくまでもアドリアの受けた感触を答えてくれれば良いよ」


 アドリアは、転生人マニアのルイーザの顔をちらりと見ると、ルイーザがわずかにうなずく。


「そうですね。私達はあの娘は転生人かも知れない、という思いが頭にちらついています」


 ギルド側の2人の女性は軽くうなずくと、もうそれ以上は何も聞かなかった。

 彼女たちにしても、下手に追求して、現在のフライハイトブルクの金看板の1つである雷撃のアドリアとの仲にヒビが入るのは、利口なやり方ではない。

 それよりも親しい関係が維持できれば、また聞けるかも知れないチャンスはいくらでも訪れる。


 彼女たちはアドリアに断られたことを全然、気にしていない様子で話題を金色熊に振った。

 近年では、なかなかお目にかかれない珍しい魔物の筈が、割りとすぐに見つかったという話に、「そういえば、チュニス連合王国では地龍が出たという話だし、魔物が活発に動き回る時期に差し掛かっているのかも知れないねぇ」とマルセロが眉をひそめる。


 アドリアは実は金色熊を討伐したのは若手のモルガーナであり、いまだ経験不足とは言え、その才能はあるいは自分以上かも知れないと話した。

 先読み能力に身体強化魔法の使い方の見事さ、さらに攻撃魔法を連射・速射出来るのも大きい。攻撃魔法の威力がさほど大きくないことだけが欠点だが、それを埋める何らかの手段を手に入れれば、将来はSクラス冒険者としてフライハイトブルクを代表する魔法使いになるだろう、とアドリアは語った。


 この後は雑談になり、何事もなく会談は終わった。

 だが、アドリア達が執務室を辞する前に、なんでも無いことのように「ああ、そういえば一度、ギルドにフィオリーナのお嬢さんを連れて来なさいな」とオリエッタ。


「マジックレディスのメンバーに登録するのなら、本人が出頭しなくちゃならないからね。それに、フィオリーナとフロリアと、違った名前で2回、登録してるみたいだし、その辺は整理しておきましょ」


「分かりました。明日にでも伺います」


 アドリアの元に置くのは承諾したが、ギルドとしてもしっかりと接触はしておく、ということか。

 手元に飛び込んできた小兎を簡単に逃がしてしまうようなら、妖怪などというあだ名で奉られることはない。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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