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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第11章 自由都市連合
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第216話 キーフルからの旅立ち

 ヴィーゴ商会からの帰り。フロリアはスキを見つけて、近くに散らばっているねずみ型ロボットを遠隔で収納した。もう当分、ここに来ることも無いだろうから、今やっておかないと収納のチャンスが無い。

 アドリアが何かを感じたのか、フロリアの方を見ていたが、特に何も言わなかった。アドリアはかなり酔っていたので、あるいはただ単にボーっとしていただけなのかも知れない。


 宿に馬車で送ってもらってから、改めてフロリアは意思確認をされ、マジックレディスに付いて、フライハイトブルクへ向かうことを了承した。

 それならば、明日は朝一番でフライハイトブルクに向けて出航する川船に乗るので、今日は早く出立することになる。

 もう、夜更けである。


 翌朝は晴天で、気温も低いせいもあって、下町の真ん中にいるとも思えないほど空気が澄んでいた。

 キーフルでは毎年、年末は晴天が続くことで知られていた。


 フロリアはマジックレディスの後に付いて、町の門を抜けて波止場を目指す。

 川面を渡る風が強く、割りと浅く被っていたフードが外れて、フロリアの銀色の髪が朝日にキラリと輝く。


 すぐにフードをかぶり直したのだが、その髪に注目した幾組かの目が有った。

 1つは"特性の無い男"ウルリヒが、"根付き"のアーチボルトに頼んで見つけてきた孤児や町の浮浪児達。ここのところ、キーフルの町の門のすべてを交代で見張らせていたのだが、その目ははっきりと珍しい銀髪を捉えたのだった。


「兄貴」


「おう。すぐにアーチボルトさんに知らせにいけ。俺はもうちょっと後をつけて見る。あ、アーチボルトさんを案内してくるのは駄賃をちゃんと貰ってからだぜ」


 そしてもう一組はバルトーク伯爵家の首都詰めの家臣たちである。

 当初は領主の末弟ミクラーシュにまかせていたが、ちょっと頼りない、ということでフランチェスカ嬢の命令で、家臣たちを町の各出入り口に配置していたのだ。

 こちらは、フランチェスカの嫁入り準備で大忙しのところ、無理やり人員を割いたので、人手不足のため、知らせ役、見張り役と分担することが出来なかった。


「ここの門から出たということはこのまま波止場からフライハイトブルク行きの船に乗る積りなのだろう」


と判断した家臣は、思い切って持ち場を離れて、伯爵家が旧市街に内密に用意した隠れ家へと急ぐのであった。


***


「あーあ。これでまた何日間も退屈な水の上かあ」


 乗船の順番待ちをしながら、モルガーナがため息をつく。


「水の上なのは別に良いけど……」


 ソーニャがモルガーナの嘆息を引き取って、船の客室を眺めながらつぶやく。


「どうにも、フィオちゃんのあれに慣れちゃうと、船の設備って」


「ああ。それもそうだよね」


 キーフル、フライハイトブルク間を運行している船は基本的に貨客船である。川船としてはこの世界で作れる最大級の大きさであるのだが、貨物が優先で客は空いたスペースに詰め込むようになる。

 もちろん、マジックレディスの面々は高価な船賃を払って、1等船室に入るが、それでもトイレも狭く、風呂はもちろんシャワーも無い。

 フライハイトブルクの議員や各ギルドのギルマスレベルになると、河を遡って他の町を訪問するのは一種の外交のようなものになるので、豪華な客船を使うのだが、幾らS級冒険者でも冒険者ではそんなものを使うことなど出来ない。


「姐さん、いっそ陸路で帰ろうよぉ。 ほら、馬車を使えば」


「馬をどうする積りなんだい? 私だって船室のあれはちょっと……かなりイヤだけど、今はもうゴーレム馬は無いんだ」


「安い馬を買うとか……」


「夜中はどうするんだい? 放置も出来ないし、まさかフィオちゃんのあれを馬糞臭くする積りじゃないだろうね」


「それは、そうだけど……」


「あ、あの」


「ああ、気にしなくともよいですよ。モルガーナのいつものワガママですから」


「いえ、そうじゃなくて、ゴーレム馬なら私、持っています」


「ええっ!! それじゃあ、馬車も動かせるのかい!?」


「はい。普通に出来ます」


 そんなことをヒソヒソと話していると、係員が「お姉さん達、乗るのかい、乗らないのかい?」と急かす。


「ああ、ごめんよ。ちょっと急用ができたんだ」


 マジックレディス一行は列から離れて、波止場に戻っていったのだった。


***


 船着き場を離れて、街道の方に向かった一行は適当にひと目が少なくなったところで立ち止まり、アドリアが収納袋から馬車を出す。

 荷馬車ではなく、人を乗せるための馬車。乗員は6名までと、御者席に2名乗れる。

 バルトーク伯爵家がフランチェスカが近隣の町を往復するのに使っていた馬車よりも更に高級品である。いや、見た目自体はバルトーク家の馬車の方が細かい装飾やらが豪華であったが、足回りが違う。


 普通の荷馬車は単純に車軸受けに車軸を通して、車輪を嵌めているのだが、この馬車は複雑なサスペンションが採用されている。七大転生人の1人、ゴーレムマスターの敷島博士が書き残したという設計図から発展したもので、魔法金属を一部に使った合金のスプリングや板バネを複雑に組み合わせたもので、一流の魔導具師が精魂込めて製造した足回りである。

 しかも車輪にはゴムタイヤが使われていた。この世界ではラテックスが無いようで、天然ゴムは存在していなかった。

 しかし、ゴーレム製造を始め様々な用途にどうしてもゴムが必要だと感じた敷島博士は結局、創造魔法のゴリ押しでこの世に存在しないゴムを作りだすという力技でゴム製造技術を確立した。

 確立した、とは言っても、一流の創造魔法使いが汗水垂らしてごく僅かな量のゴムを作る、というものでゴムはとんでもない貴重品であった。

 敷島博士の残した膨大な覚書にあったのでゴムタイヤの概念も知られていたが、とにかくゴムタイヤなんか使う馬車は超々高級品だけであった。

 

 アドリアの馬車は、見た目は普通の乗り合い馬車よりややオシャレな感じ、といった程度であるが、足回りは唯一無二と言っても良いほどの高級品でシャーシーやボデぃ骨格は魔法金属合金を惜しげもなく使用。各部に強化魔法も施され、攻撃魔法もある程度なら弾き返す程で、フロリアの前世で言うところのVIPカーというべきか、軍用車と言うべきか……。


 この馬車は魔導具の町ジューコーの魔導具工房ポンツィオ工房の力作で、アドリアが工房の危機を救った時に、報酬とは別に礼代わりに作ったものであった。もし、注文制作をしていたら、白金銭が何枚も必要になるレベル(数億円)であった。


 それを「幾ら高級品でも使わずに仕舞っていたら意味がない」とばかりにアドリアはパーティの移動に使っていたのだが、その当時はゴーレム使いの能力を持つクラーラが居て、ゴーレム馬で牽いていたのだ。

 しかし、そのクラーラが独り立ちする日が来て、アドリアは気前良くクラーラに預けていたゴーレム馬を独立の引き出物として渡してしまった。

 他にゴーレムを使えるスキル持ちがいなかったので仕方ないことであったが、それからこの馬車は収納袋の肥やしになっていたのだった。

 生きている馬に引かせれば良さそうなものだが、それだと常に馬の世話をし続ける御者が必要になる。森の奥に入って何日も出てこないような生活をしている冒険者にとって馬を使うのはなかなかハードルが高いのだった。


「立派な馬車ですね」


 さすがにフロリアは素朴な見た目に騙されず、その足回りに着目して、「あ、コバルト合金ですか。ミスリルも少し使っていますね。これだと板バネの粘りが増して、突き上げを吸収するから乗り心地が良くなりそう」などと呟いている。


「フィオちゃんは魔導具も判るのかい? それで馬は?」


「ああ、これです」


 久しぶりにフロリアは収納袋からケンタウロス型ゴーレムのケンタとケンジを出した。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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