第213話 キーフルに戻る
翌日の午後になる前に、マジックレディス一行は首都キーフルに帰還した。
今回の金色熊討伐の依頼は、フライハイトブルクで受けたものなので、ここで納品はしない。だが、森の入り口付近で捕まえたならず者達がどうなったか確認する必要があるし、かまいたちの買い取りはここでやってもらう積りであった。
それに、ヴィーゴ商会のヴィーゴとの約束もある。
町へ入るには、出るときと同じようにモルドル河の波止場近くの門から入る。
その前に壮大な橋を徒歩で渡るが、この橋を作った人の話を聞いた後だと、また違った感慨があるフロリアであった。
念のためフードを目深に被って門をくぐったフロリアであったが特に門番に止められることもなかった。Sランクパーティ、マジックレディスに同行しているお陰であろう。たとえ国は違っても、Sランクの御威光は健在である。
旧市街に入った一行はマジックレディスがこの町に来た時に定宿にしている宿に前回同様、投宿して、そのまま昼食をとる。
しばらく、亜空間内で食事してばかりだったので新鮮である。
その後、フロリアとモルガーナ、ソーニャを残して、アドリアとルイーザが冒険者ギルドに向かった。
「フィオちゃんは、例のバルトーク伯爵の使いと顔をあわせると面倒だから、行かないほうが良いと思う。報酬は受け取ってきてあげるよ」
というアドリアの言葉に従ったのだった。
アドリア達が報酬額をごまかす可能性も有ったのだが、この数日、行動を共にした結果、そんなことを心配しても仕方ない、という結論に至っていた。
フロリアにとっては、"亜空間持ち"という秘密中の秘密を明かされる方が、多少の報酬を誤魔化されるよりもよほどダメージが大きい。
市場にいってみると、アメデオ少年の屋台がしっかりと商売をしていた。フードを少し上げて顔を見せて声を掛けると、
「あ、お姉さん。この前はありがとう!! おかげで、あれからチンピラにも絡まれないし、商売も上々なんだ。うまくすれば、予定よりも早く、借金も返せそうだし、母ちゃんも喜んでいるよ!」
明るい声で報告をしてくれた。
アドリアはどうしたのか聞かれたので、別の要件でギルドの方に行っている、と答え、ちょっと予定が詰まっているので、ここに会いに来られるか判らないけど、元気でやっていることは伝えておく、と答えておいた。
「そうか。あのお姉さんにも直接、お礼を言いたいな。あ、そうだ。これを持っていってよ」
と売り物の果物をいくつか袋に詰めて、フロリアに渡してきた。
その果物は、冬のこの時期だとキーフルのあたりではほとんど採れないが、南のフライハイトブルクであれば、一年中収穫できる果物であった。
だが、アドリアは素直に貰ったことを喜ぶであろう。
***
アドリアとルイーザが、キーフルの冒険者ギルドを訪れた時、アドリア達に助けられたカーヤとロッテの2人の女冒険者は、2人だけで行動して危険な目に遭ったという反省を活かして、ギルドで紹介してもらった信頼できるパーティ(複数名の女性メンバーが居る)と合同で薬草採取のために森に行っていた。
お陰でマジックレディスとは入れ違いになってしまい、後でそれを知って、再会できなかったことを大いに悔やんだのであった(その後で合流したオーギュストのまた違った理由での落胆ぶりは見ものであったらしい)。
また、カーヤとロッテを町まで送り届けたパーティ(元マジックレディスメンバーであったミリヤムが加入しているパーティ)もこの時には別の町を目指す交易隊の護衛を引き受けて町を留守にしていて、こちらもアドリアとの再会はならなかった。
ミクラーシュはずっと娼館に流連けていたが、そろそろ本気で仕事をしないと兄の伯爵の怒りを買う、とばかりにその数日はギルドに詰めていた。このあたりの鼻の利き方は、ミクラーシュが単なる遊び人というだけではないことを示していた。
冒険者登録自体は犯罪者でなければ、基本的に誰でもできるので、ミクラーシュも登録だけは以前からしていた。そして、冒険者である限りは別にギルドで昼間っからたむろしていても不思議は無い。
ミクラーシュのナヨっとした体つき、気障な仕草、割りと高価そうな服装、どこか荒んだ雰囲気などから、金持ち貴族一家のハグレモノだろうと、まわりの冒険者は割りと正確にこの男の素性を見抜いていた。
そして、まだ高価そうな服装をしているということは実家から完全に見放された訳でも無さそうなので、うっかりちょっかいを掛けて、その実家からの仕返しを受けたら溜まったものじゃない、とばかりに放置されていた。
という訳で、ギルドの冒険者のたまり場で1人で昼間っからエールを飲みながら、ダラダラと過ごしていたが、年齢不詳のすげえ迫力の美人と20代後半ぐらいでビシッとした雰囲気だが、これはこれでソソる部分のある女冒険者の2人組が入ってきて、窓口でなにやら話しているのを目で追っていて、「未熟な果実のフィオリーナも悪くないが、あと最低、数年はかかりそう。このぐらいの美人の方が、すぐに愉しめて、こっちが目標だったら言う事無いんだがなあ……」などと、エールで霞がかかった脳みそでくだらないことを考えていたのだった。
ヴェスターランド王国の"暗部"の"渡り"ではエース格である「特性のない男」ウルリヒ(この時には冒険者、ブレンドンという役柄を演じていた)とそのウルリヒの護衛をしているアーチボルト達「真紅の絆」の一行もこの時には、ギルドの冒険者のたまり場に居た。
もう一度、珍しい薬草を探しに森の奥まで採取行をするための打ち合わせ、という名目であった。
ウルリヒは、戦闘能力はいまいちだが、薬草学者にも負けない知識の持ち主で、森の奥まで遠征して珍しい薬草を採取する冒険者という役柄で、そのため冒険者でありながら、自分の護衛を他の冒険者に頼んでいるのであった。
そして、その護衛を請け負った「真紅の絆」はリーダーのアーチボルトが実は"暗部"の"根付き"で、ウルリヒの任務をそれとなく援助しているのであった。
他にもヴェスターランドの手のものが潜んでいて、銀色の髪の少女魔法使いを追っているのだが、中々手がかりが見つからない。
実は、この日も町の各入り口にはそれぞれ、見張りが居たのであるが、フロリアは目深にフードを被って銀髪を隠していたし、単独で行動しているという前情報のため、女性だけの冒険者パーティの1人として動いていると、気づかれにくいのであった。
それに、特に出入りの際にはアドリアがさり気なく、周囲に虚偽魔法を使っていたのだった。フロリア自身の隠蔽魔法と虚偽魔法は自分自身の見た目を目立たなくする効果に集中していたが、アドリアは逆にパーティ全体をくっきりと目立たせて、強く見せる類いの虚偽魔法で、この相反する魔法が変な効果を生み出して、熟練の見張りの目もごまかしてしまったのだった。
***
アドリアが窓口嬢にギルド証を提示して、溜まっている筈の報奨等を受け取りたいと申し出たところ、すぐに窓口嬢は個室に案内してギルドマスターに繋いだのであった。
取り立てた用事がある訳ではないが、どこの町でもギルドマスターが会いたがるのが有名人の宿命である。
ギルドマスターとの儀礼的な挨拶が終わり、後は窓口嬢と報酬の受け渡しになった。
カーヤとロッテを襲った4人の男は、鑑定水晶を使った尋問(拷問)で、彼女たちの申し立てが間違い無いことが確定し、罪を得て犯罪奴隷に貶されたのであった。
フロリアの麻痺魔法で捕らえたので、欠損や怪我もなく、奴隷としては高く売れた。
その売却代金と、武器や装備を売り払った金、さらに彼らの口座に入っていた金(大した金額ではなかった)、ギルドからの報奨金(ギルドの冒険者がやらかしたのだから、ギルドからいくらかの報奨がでたのだった)、最後に重傷だったロッテに治癒魔法を施した代金はロッテから支払われていた。これらを、あわせると結構な金額になったのだが、アドリアはその詳しい明細を要求した。
「はい。それはもちろん」
あと、一部のみ現金で貰うようにして、そちらはルイーザが預かった。
「それと、森の奥でちょっとめずらしいかまいたちの魔物を討伐してね。20匹はいるんだけど、ここで買い取りはできるかい?」
それを聞いて、窓口嬢はあの危険な魔物を20匹も! と大いに驚いて、すぐに買い取り窓口に繋いだのであった。
かまいたちは1匹だけのハグレならば、それなりの冒険者であれば、パーティ全員で寄ってたかって討伐する、という方法もとれるのだが、たいていは毛皮も肉もボロボロの状態で、魔石の買取価格だけになる。
だが、アドリア達が持ち込んだのは20匹。
「さすがはSランクだ。普通はかまいたちの群れに襲われたら、生きて帰ることすら難しいってのに、この人達は怪我ひとつ負っちゃいねえ」
と、買い取り窓口のおやっさんは大いに驚いた様子であり、また雷撃のアドリアに新しい逸話が生まれそうである。
かまいたちもトパーズが倒した8匹分はきれいに一撃で倒していて、買い取り価格も高くなっていた。
アドリア達が倒した分は黒焦げになっていたり、毛皮に幾つも穴が空いていたりと状態はそれなりであったが、トパーズの分はいずれもスパッと一撃で急所を斬り裂いていて即死させてあり、その技量の差にアドリアは密かに舌を巻くのであった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
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