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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第10章 マジックレディス
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第208話 金色熊3

 その翌日も快晴で、地面も乾いてきているので、森の中でも動きやすい。

 相変わらず、これだけ森の奥に居ながら、魔物も野生動物の気配も無い。


「ということは、金色熊を恐れて逃げたと解釈すべきです。皆、十分に気をつけて」


とサブリーダーのルイーザ。


「それと、フィオちゃん。トパーズを常に周囲から離さないで。私達も気をつける積りだけど」


「分かりました」


 おそらくトパーズの方が、人間の護衛よりもよほど役に立つのだろうな、と思いながら、フロリアは別に異を唱えたりはしない。

 今回の冒険は、あくまでマジックレディスの金色熊討伐を見学するという形で、フロリアとしては戦う積りは無いし、彼女たちもフロリアを戦わせる積りは無かった。

 そもそも見習い冒険者を実戦に出すのはルール違反である(カーヤとロッテ救出は止める間もなくフロリアの先走りだった)し、不慣れなメンバーを入れて、いきなり実戦など出来るものではない。


 フロリアはこうして皆が外に出ている間に、亜空間内の模様替えをセバスチャンに頼んである。

 ただ、途中の休憩時にマジックレディスの一行が、金属製のスリムなボディのセバスチャン達を見たら大騒ぎになるだろうから、時間を区切って、皆が外に出ている時間に少しずつ改装することにした。


 まずはなによりも現在、1つしかないトイレを2つに増やすこと。ベルクヴェルク基地の持ち主になる前はトイレは収納袋にどんどん汚物を貯めて、定期的に外に捨てる、という方法であったが、基地から定期的に亜空間内の清掃にロボットに来てもらう様になってからは、もっと高性能な収納用のボックスに貯めて、持ち帰って貰うことにした。

 結局のところ、水洗方式ではなく汲み取り方式なのが不満ではあるが、この世界の水準を考えれば、比べようもないぐらい清潔で快適である。

 

 それとお風呂も簡単な衝立程度だったのを、小さな小屋を立てて、その中で入るようにした。風呂自体の大きさは数人が一度に入れる程で、そのために魔力を消費せずとも豊富な熱いお湯が出る魔導具を設置してある。


 そして、寝場所。

 やはり明るいと寝にくいので、セミダブルのベッド5つが入る、大きなテントを立てることにした。

 この大きさだと外で立てると風で飛ばされそうであるが、亜空間内は常に無風なので問題ない。この場所では頑丈さは要求されないのである。


 10時過ぎに一度、亜空間に戻った時には、セバスチャンたちは一旦、引き上げていたが、トイレは2つに増えていて、すでに使用可になっていた。


 ブラウニー達、精霊に頼んで改装を進めているのだ、という説明にマジックレディスの面々は納得せざるをえない。

 とても、精霊だけでこんな事ができるとは思えない、と言いながら。


 お茶を飲みながら、朝一番の探索の結果を検討し、アドリアが12時のお昼の休憩までは二手に分かれて探索する、と決断した。

 アドリアとソーニャ、ルイーザとモルガーナのコンビである。大人組のアドリアとルイーザが一緒に行動しないのか、とおもいきや、ソーニャ、モルガーナの若年組はいずれも前衛タイプなのでバランスを考えるとこうなるのだそうだ(ちなみにルイーザは後衛タイプ、アドリアは前後衛ともにこなせる)。

 フロリアとトパーズはルイーザ、モルガーナの組についているようにとのことであった。


 互いの連絡は、アドリアが持つ魔導具を使うことになった。

 アドリアとルイーザは探知魔法が互いに使えるのだが、その範囲外に出た時にはいつもこの魔導具を使うのだそうだ。

 自由都市連合の老舗魔導具工房の力作だそうで、登録してあるルイーザやモルガーナの魔力のパターンに反応して飛んでいってメッセージを伝えるというもので、鳥ではなくトンボっぽい昆虫をモチーフにしている。

 ただし、このトンボ型ゴーレムとでも言うべき魔導具は、連絡がとれるまで数分以上掛かるので、緊急の場合ば空に大音響と光を発する光魔法の玉を打ち上げる。黄色い光は緊急の救援要請、青い光は注意しつつ合流のために接近せよ、などである。


「ちなみに赤い光の時は、別組のことは気にせずに逃げろ! という意味。ま、これまでそんなことになったこと無いけどね。

 遠距離でも視覚や聴覚を共有してくれる従魔がいると助かるんだけどね。」


とはアドリアの言葉である。

 フロリアにはトパーズという従魔がいるにも係わらず、他にそうした従魔の有無を聞かなかったのは、後でルイーザが「まだ、姐さんはフィオちゃんに遠慮があるっぽいね。もし、そういう手段があるなら、フィオちゃんの方から申し出てくれたらありがたいかな」との理由を教えてくれた。

 実際には、この時にフロリアがモンブランを呼び出し、眷属をそれぞれに配置する手段があると言っても、これまでの実績があるトンボ型魔導具の方を採用しただろうが。


 本当にマジックレディスの一員になって活動するのなら、ケットシーのニャン丸はもちろん、ねずみ型ロボットを使うことを教えても良いかも。

 いや、やっぱりねずみ型はオーパーツ過ぎるかな。


 アドリア、ソーニャ組と左右に分かれて、数十分も森の中を進んだころ。そろそろフロリアの探知魔法もアドリアの居場所特定の限界を超えたあたりで、トパーズがぐるぐると唸り声を上げた。


 同時に前を歩いていたルイーザも立ち止まると、小声でモルガーナを呼び止め、「大きな魔物の反応。1時方向前方2.5キロ。多分、一頭だけ。まだあちらは気がついていません」


 フロリアもそちらに探知魔法を向けると、確かになにか居る。かなり大物の魔物である。金色熊は魔法を使える。探知魔法を逆探知されるといけないので、フロリアはそれ以上、探るようなことはせず、また全方向探知に切り替えた。


「あちらも、こちらに向かって歩いてくる最中ですね。すぐに気づかれます。どうやら姐さんに連絡する余裕は無さそうですね。このまま片付けましょう」


「わかった」


 普段の騒がしいモルガーナとはうってかわって、最小限の返答だけを口にすると、特に緊張する様子も見せずに歩き始めた。


 そういえば、この世界では時計というものは大金持ちか貴族が懐中時計を持っている程度で、後は町の広場に柱時計が立っていたりする程度である。

 なので、多くの冒険者は時計を持っておらず、これまでフロリアがわずかに行動を共にしたことのあるビルネンベルクの「剣のきらめき」でも、時間についてはかなり大雑把だったものだが、「マジックレディス」はアドリアとルイーザがそれぞれ懐中時計を持っていて、正確に12時のお昼の休憩まで別行動、というような行動計画を立てられるし、方向を示すのにも「○時方向」という言い方が可能になっている。


 さらに5分ほど歩くと、モルガーナも何かを感じたのか、両腰にさげた短刀を同時に両手で抜く。

 刃渡り20センチも無いような短刀を両手に持ち、時に逆手で振るうアサシンスタイルがモルガーナの戦い方である。

 巨大なものをお持ちなのを感じさせないしなやかで鋭い動きで敵の攻撃を交わして、その急所にナイフを突き立てるというのが得意技であるが、もちろんそれだけの技ではマジックレディスに入ることはない。

 モルガーナの戦闘術は、豊富な魔力を身体強化魔法に回して常人を超える速度と動きが可能な点もさりながら、空間魔法系統よりもさらに珍しい時間魔法系統の適正があって、先読みが可能なのであった。

 先読み自体は1秒からせいぜい2~3秒程度で、大げさな予言や予知といった時間魔法に比べると初歩的ではあるが、戦闘で精神が高揚すると自然に発動して、モルガーナ自身、半分無意識のうちに使いこなせるのが大きなアドバンテージになっている。

 そして、短刀を握った拳から、魔力弾を撃つことができるのもモルガーナの奥の手になっている。

 威力自体は低く、無属性で射程も短いのだが、攻撃魔法を繰り出す下動作をせずにアサシンスタイルで構えながら、魔力弾を撃つのである。それも詠唱無しで短時間に連射もできる。

 なによりも、短刀で切り結びながら、同時の魔力弾を撃つことができるので、この技はアドリアから「初見殺しも良いところだね。よっぽど親しくなった人以外に、こんな手を持ってるって教えちゃダメだよ」とお墨付きを貰っているぐらいであった。


 なので、相手がオーガ並の体力で頭もよく、魔法も使う、という恐るべき魔物でありながら、普段どおりの戦い方(つまりルイーザの魔法で機先を制して、モルガーナが接近戦でとどめを刺す)で十分に勝機はあると判断していた。

 慎重にはなっているし、緊張もしているが、それはどちらかというと、後で見学している美少女の魔法使いにかっこよいところを見せたいという気持ちからと、毛皮をできるだけ傷つけないように倒さなきゃならないという縛りのせいであった。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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