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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第10章 マジックレディス
203/477

第203話 金色熊1

 ここからは後日談になるが、こうして無事に首都キーフルに帰り着いたロッテとカーヤ、それに護衛してくれた冒険者パーティはすぐにギルドに顔を出してギルドマスターに面会を求めた。

 ギルドの冒険者が、他の冒険者に犯罪行為を働き、あわや人死にが出ようとした、となると結構な事件である。

 冒険者の規範以前に、キーフル市民としても犯罪にあたるので、ギルドの取り調べ、水晶での尋問などで容疑が固まった時点で衛士隊に突き出され、後はキーフルの法に従って処罰され、数日の後には犯罪奴隷として鉱山送りが決定して、売却資金がギルドにもたらされた。

 ギルドでは、その売却資金と、あとはギルドから些少ながら報奨金が出たのだが、いずれもロッテとカーヤの申し出に従い、マジックレディスの口座に振り込まれることになった。

 ちなみに、マジックレディスの口座というが、正確にはアドリアの口座になる。

 冒険者ギルドではあくまで各自の冒険者証に付随して預金口座を作ることが出来るのであったが、パーティを組んだ際の便宜を図るため、パーティリーダーに限り、第2口座的な扱いでパーティ名の口座を別途作ることが許されていたのだった。

 このパーティ口座は、個人名の口座と同じように振り込みをしたり、他者の振り込みを受け入れたり、借金も可能で返済はパーティに報酬が入るたびに分割返済を指定することも可能であった。

 そして、パーティ解散に伴い口座も抹消して預金を皆で分けるということも特に珍しくは無かった。

 また、パーティリーダーが死亡したり引退した際には、残りのメンバーが一定の手続きをとることで、新しいパーティリーダーの元に口座を移動したり、現金を引き出して口座抹消手続きも可能であった。


 ただし、ギルドから報奨金や依頼達成の依頼料、素材買い取りの代金を受け取る際には必ず当人(パーティの場合はパーティメンバーのいずれか)が窓口に来る必要があった。商業ギルドでは当人が居なくとも書類が整っていてば、口座経由で現金のやり取りが可能なのだが、このあたりが冒険者ギルドとの違いになるのだろう。

 

 そうした訳でギルドに顔を出したくはないフロリアは、報奨金と売却代金を受け取ることが出来ず、代わりにアドリアがギルドの窓口に顔を出した時に、ギルドで預かっていたお金をマジックレディスの口座に振り込むという形になったのだ。

 

 ロッテとカーヤは迂闊な採取行に出て危険な目に遭ったことは深く反省をしたが、オーギュストが帰ってくるまで大人しくしている積りも無く、それでギルドから紹介して貰った複数名の女性がメンバーになっているパーティに声を掛けて、合同で薬草採取をすることにした。

 採取した薬草から準魔法薬を作成しても、その儲けは同行したパーティと山分けという約束なので、儲け額自体は減っていたが、やはり安心感が違うのだった。

 ところが、そのためにアドリアが7日ほど経った時にギルドに顔を出した時には行き違いになってしまい、「元気にやっている様子で安心した。今後も気をつけて」という言付けだけが残っていたのだった。


 命の恩人に再会出来なかったということで、特にロッテはガックリ来ていた。


 さてオーギュストであるが、かつての仲間の死に目には間に合い、その後、さらに友人たちと旧交を温めてから、キーフルに戻ってきた時には15日も経っていた。途中で一度、多少予定が延びる旨の手紙を送っていたので、特にロッテとカーヤは心配することは無かったのだが。

 

 オーギュストが帰還した時点で、合同採取は予定通り終了となり(相手のパーティはすごく残念がっていた)、またオーギュストの人探しを手伝うことになった。


 自分たちがあわや死亡しかけたという事件について、報告すればオーギュストを心配させそうだったが、黙っているのも騙しているようで気分が悪い、ということで、大まかな事実をオーギュストに話した。

 そこで、フロリア当人には内緒にしてくれ、と頼まれていたが、オーギュストにだけは教えた方が良いだろう、口の固い人だから他に漏れる心配は無いし、また出会うことがあればオーギュストからも礼を言いたいだろうから……ということで、2人はフロリアのことを話した。


 死亡寸前のロッテをあっという間に癒やした、超絶スゴイ治癒魔法の使い手の美少女。フィオリーナという名前で、銀色の髪で10代前半。トパーズという喋る黒豹を連れていて、マジックレディスという冒険者パーティと行動を共にしているが、この町で彼女らと出会うまでは1人で旅をしていたらしい……。


 2人の話を聞きながら、オーギュストはなんとも形容し難い顔つきになったのだったが、数分経ってから「で、その娘……マジックレディスはどうしたんだ?」と聞いた。


「えーと、依頼を達成して町に戻ってきたけど、一日居ただけですぐにフライハイトブルクに行っちゃったよ。私達とも行き違いになって、町で会えなかったのが残念。

 もう少し早く帰ってくれば、オーギュストも会えたのに。美人揃いのパーティだから、オーギュストもきっと気に入ったと思うよ」


***


 時間はもとに戻る。


 金色熊。

 魔物の一種だが、他の地域ではまず見かけることがない、このシュタイン大公国の首都まわり一帯にだけ生息する固有種である。

 体内に魔石を持たない普通の熊や、魔物の熊であっても茶色や黒い毛の熊はゴブリンやオークほどありふれてはいないが、大陸の随所に生息している。

 北の方、アリステア神聖帝国の北部からさらに人跡未踏に近い場所には全身が白い毛の熊も生息しているという。

 しかし、金色の毛をもつ熊は他にいないのだ。


 成獣になると体長は4メートルを超える。オークが成獣で2メートル程度、オーガが5メートルといったところなので、オーガよりはちょっと小柄。

 しかも2足歩行をして腕で武器を持つことができるオーガとは違い、基本的に4足歩行。

 と書くと、オーガよりは与し易い相手のように思うが、鈍重で何事にも力任せで頭脳の出来もいまいちなオーガに比べると、単体では金色熊の方がずっと強かった。

 

 マジックレディスはあらかじめ、金色熊については調査してその内容はメンバー各位に叩き込まれていたが、フロリアも加わったことであるし、改めて実戦前に復習することにしたのだった。


「金色熊は魔法を使う個体が存在します。その魔法は基本的に爪をふるう前方に風魔法を発生させて、獲物を斬り裂くという方式です。

 フィオちゃんのトパーズさんも似た魔法を使うんでしょ」


 リーダーのサポート役でもあるルイーザが、最終ブリーフィングの司会を担当している。


「ふん。私の風魔法は熊ごときとは格が違う」


 トパーズは鼻を鳴らしながら返答する。


「それはごめんなさい。でも、トパーズさんは今回は基本的に戦わないで、フィオちゃんの護衛をお願いします」


 もともと、フロリアはパーティの正式メンバーではないし未成年ということもあり、今回の討伐は、安全な場所で見学という約束であった。

 それでも、その安全に配慮しなくてはならないと考えていた一行だったが、フロリア自体の戦闘力とトパーズという従魔が居ることが分かり、4人の中から護衛役をつけることは止めたのだった。

 ただ、誰もフロリアを戦闘に参加させようとは主張しなかった。

 チームプレイでは素早い意思の疎通が不可欠で、いくら単体の戦闘力があっても、フロリアをチームに組み入れるべきでは無かったのだ。


「そして、ごく稀に混沌魔法系の幻惑魔法を使う個体が居るという報告があがっています。ただ、その報告をしたのが、あまり練度の高くないパーティなので、何か他の事象を勘違いした可能性の方が高い、というのがギルドの見解です。

 ただ、魔物の中には一部の龍のように、存在そのものの威圧感の他に獲物を威圧魔法で金縛りに掛けるというモノも存在します。

 精神攻撃の可能性も頭の片隅に置いてください」


 ルイーザの話は続く。


「そして、魔法よりも気をつけなければならないのは、その悧巧さと勘の良さです。単純に武器を振り回すオーガに比べ、頭1つ以上小柄な金色熊ですが、バックトラックなどの罠も使う悧巧さがあり、勘が鋭く、魔法攻撃はことごとく避けられるか、急所をカバーして肉の分厚いところで受ける戦い方をした、という報告が数多く上がっています。

 だからこそ、きれいな毛皮の価値が一層高まるのですが……。

 それから一度狙った獲物は決して諦めない執念深さもあり、金色熊の怨みを買ったパーティが逆に何日も追跡されて、壊滅状態になったというケースもあります。

 ただ単純に倒すだけであれば、これだけ強い魔物であっても私達なら問題ありません。 しかし、なるべく毛皮に傷をつけないように倒さなければならない、となると正直、難事です」


「なあに、私らだったら楽勝、楽勝。熊公よりも早く動いて、急所を突いて即死させれば良いんだよ、いつも通りにね」


 モルガーナは気楽に笑う。

 彼女も実際には厄介な相手と分かっていて、いつもの景気づけに言っているだけで、決して金色熊を軽んじている訳ではないのは、緊張している気配が伝わってくることで皆にはわかっているので、一行は誰もモルガーナをとがめたりはしなかった。 


いつも読んでくださってありがとうございます。

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