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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第1章 旅立ち
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第2話 森の中で2

前回の続きです。よろしくお願いします。

 前世の記憶が8歳ぐらいの時から徐々に戻り始めるのと軌を一にして、フロリアの魔法やスキルの才能が、師匠であるアシュレイが「ちょっと信じがたい」というぐらいに開花した。

 昨日まで使えなかった魔法が、今日、朝起きたら当たり前に使える様になっていた。そんなことが何度もあった。  

 そして魔法だけではなく、自分でも驚くぐらい、趣味嗜好を始めいろいろな点が変化してきたのだた。

 特にお風呂好きになったのは自分でも意外だった。前の人生では高校生で死んだのだけど、そこまでお風呂好きだった記憶は無い。

 ただ、あまり長湯をするな、と時々お母さんに怒られていたぐらいかな。

 

 それが今では毎日、できれば朝晩にお風呂に入らないと我慢できなくなっている。特に今みたいに森の中で一日中、発掘とか採取とかしていると、汗が体にまとわりつくようで、お風呂がありがたい。


 亜空間では、内部で発生させたお湯をどうするかという問題があったのだけど、結局はどんどん収納袋に入れて定期的に外に捨てる、という力技で解決することになった。

 同様の方法で、おトイレ問題も解決した。これでせっかく安全な亜空間に居るのに、一旦外に出て無防備な状態になる必要も無くなった。

 今のところ、自分以外にはお師匠様のアシュレイ以外は入れたことがないし、今後も入れる積りは無いのだけれど、それでももし万が一、気になる男の子でも中に入れる機会があって「なんかウ○コくさい」と思われたら、もう生きてはいけない。


 さらに中ではあまり煮炊きはしないようにしているけど、煙や匂いもある程度は換気扇に似た魔道具で集めて、収納に入れてしまえば大丈夫だと分かってきたのだった。


 フロリアはさっさと服を脱ぐと、ブラウニーに洗濯は任せることにして、すぐお風呂に入る。

 ブラウニーは、フロリアが使役する精霊の一人で属性は無く、家に付くという性質がある。家事全般をやってくれるので、ありがたい限りである。特にこの亜空間がお気に召したみたいで、フロリアが通常空間に出ている時(つまりは接続が切れている時)でも送還されずに中で家事をしていてくれる。


 お風呂の準備もブラウニーがしてくれてある。

 お風呂スペースは個室になっておらず、一応は簡単な柵が目隠し代わりに建てられているが、便宜的なものなので、あまり目隠しの用をなしていない。だが、フロリアは別に気にせずにお風呂を楽しむ。寝床で丸くなっているトパーズは、時折フロリアの方を見るが、別に少女の体に興味も示さずにあくびをして、また目を閉じてしまう。


 この聖獣は本来はアシュレイの従魔なのだが、最近はフロリアが借り受けていることが多い。黒豹の姿をしていて、口の構造も豹のものなのだが、何故か流暢に言葉を話せる。渋い中年男性の声である。

 

 お風呂上がりに、姿見に全身を映す。フロリアは、前世でいうところの西洋人っぽい人種であるので、11歳になった今ではやや胸が膨らみ始めてはいるが、スラリとスレンダーな体型である。

 フロリアはブラはつけずに下穿きだけ穿いて、脇や襟元が大きく開いたタンクトップを着て、リラックスした格好になる。

 アシュレイ師匠が見たら、はしたない、と怒られそうだけど、今はトパーズとブラウニーしかいないので問題無い。


 食事は、中での煮炊きは対策したとは言っても、けっこう匂いが残るので、数日前にたっぷり作ったシチューとパンで済ませる。時間が停止している収納スキルのありがたさで、出来たてのアツアツである。

 

 食事の後は、先程の魔物の魔石を収納から出すと、魔晶石に変換していく。


「フン、フン……」


 フロリアは前世でファンだった男性アイドルグループの曲を鼻歌で口ずさみながら、魔晶石を作っていく。簡単に作っているように見えて、錬金術師が見れば驚くほど見事な結晶化をおこなっている。

 

 魔石というのは謎の物質で、この世界の魔物と呼ばれる動物の体内には必ず魔石がある。逆に言えば、魔石のある動物が魔物と呼ばれるようになった、とも言える。

 

 そして、強い魔物ほど、大きくて品質のよい魔石を持っていて高く売れるので、冒険者は魔物討伐すると必ず魔石を持ち帰る。ちなみにトパーズのような聖獣は魔石を持っているのか、不明である。一度「解剖して確かめたい」と言ったら、その前にお前を食ってやる、と脅かされた。


 魔石はそのままでは何の役にも立たないのだけれど、魔晶石作りの職人の手によって結晶化されることで、魔晶石になる。

 魔晶石は様々な魔道具の作成に欠かせないし、ゴーレムづくりにも必要不可欠なのだが、やはりレアスキルである錬成スキルが無いと作ることができない。

 フロリアは錬成スキルどころかその上位スキルの創造スキルまですでに発現していて、これは錬金術師系統の魔法使いの中でも頂点に立つと言われるゴーレム職人ですら憧れるスキルである。


 アシュレイの前身はごく一部の人にしか名前を知られていないが、その実力は当代屈指のゴーレム職人であり、本名はサンドルという名前だった。

 その伝説のサンドル(アシュレイ)の目から見ても、フロリアの才能は異常であった。既に一番業績を残していた時期のアシュレイの実力を遥かに超えている。

 この数年間、師弟2人でゴーレムを共同開発しているのだが、生み出される成果はアシュレイがコッポラ工房で作っていたものよりも遥かに洗練されていたり、アイディアだけはあったけど実現不可であったアイディアが現実のものになっていたり……。人数も2人きり、ろくな道具もないと言う状況を考えると、ほぼあり得ないような出来事であった。


 そもそもアシュレイが工房から逃げたのは、まともな人間扱いされないような境遇の上に、自分の成果物を人々を不幸にするために使われていることがわかったからであって、アシュレイは本質的に職人気質。この数年間はずっとできなかったことが出来るようになって充実した日々を送っていた。

 しかし、彼女は同時に自分が"調子にのってやり過ぎてしまい、弟子を危険にさらしてしまった"ことにも気がついていた。

 ゴーレム、それも高性能なゴーレムは、主に開墾や土木作業、建設作業、輸送といった前世の重機的な使われ方をすることが多い。そして軍事利用にも転用されがちである。

 かつてゴーレムマスターとか七大転生人と呼ばれた、ゴーレム職人にとっては憧れの的になっている敷島博士と呼ばれる転生人もその事を憂慮していたにも関わらず、アシュレイは同じ轍を踏んでしまっていた。しかも弟子のフロリアを巻き添えにして。


 フロリアの作るゴーレムは、そのいずれの用途にも飛び抜けた性能を発揮することは間違いなかった。

 通常、ゴーレムなどという複雑で特別な魔道具は、一人の錬金術師が作るものではない。才能のあるゴーレム職人達の周りには多くの弟子や、彼らの世話をする家政婦、資材を調達したり外部との交渉を行うマネージャーなどが集まり大きな工房ができ、さらにはこの大工房に部品を納めるための小工房が周りに点在するようになり、そこに商人が集まり……といった感じで一つの町が出来上がってしまうこともあるのだ。

 豊田市や日立市のように。

 そうして出来上がった車や航空機にも比すべき工業製品のようなゴーレムが、森の中のちっぽけな工房で作ったフロリア達のゴーレムの足元にも及ばない。

 転生人のとてつもない能力の高さが良く分かることであった。

 

 自身もこの世界には転生してきたアシュレイは、年若い弟子に「まるで、レアスキルーのデパートですね。あなたは、ト○タ自動車と三○重工と建設機械のコ○ツを足したぐらいの力があります。それが悪い人たちに知られたら、碌な事にはなりませんから、隠せるだけ隠すのです」と教えていたが、どこまで弟子に伝わっているのか、心もとないところがあった。

 この弟子は、前世は呑気な女子高生で死亡したのだが、オタク趣味の強かった父親と兄の影響で、サブカル方面の知識はそれなりにあるのだが、どうもあまりニュースを読んだり聞いたりする習慣は無かったようなのだ。

 

「コ○ツって、おじいちゃんの芸人でしたっけ?」などと言っている始末である。


 それでも、自分が狙われかねない力を持っていることは理解してくれたようではある


 転生人は、人並み外れた魔力とスキルに恵まれる、という言い伝えがあり、アシュレイ自身、確かに本来であれば歴史に残るほどの錬金術スキルの持ち主であったが、フロリアは今の年齢で、そのアシュレイを大幅に凌いでいるのだ。

 そして、もう一つ。転生人は、姿かたちが人も羨むほど美しい、という言い伝えもあって、アシュレイの若い頃はもちろん、フロリアにもすでにその片鱗は見えている。あと数年もすれば、魔法やスキル目当てではない男たちも、大量にフロリアに惑わされることになるだろう。


 ……フロリアは魔晶石造りが一段落したら、今度はポーション造りを始める。

 こちらも"外"に出しても良いと言われているのは故意に大幅に効き目を落としたものだけ。師匠からは「全力を出さないと実力が上がらないから、最高品質のポーション作成を目指すのは良いですが、それはもったいないですが、誰にも売らないようにしなさい。他の人に売るのはせいぜい下級から中級品の下までですよ」と言われている。さらにそのポーションの売り先はレソト村に限っていた。

 時々、もっと大きなニアデスヴァルト町まで足を伸ばすこともあるが、そこの商業ギルドでは単純な魔道具を売るだけにしていた。


 そのレソト村で村長が亡くなったというニュースをフロリアが1人で出かけた時に聞きつけてきて師匠に報告すると、その次の訪問の時にはアシュレイが「珍しく体調が良いので」と同行した。

 フロリアが、村のおばあさんたちを治癒魔法の練習台にしている間に新村長となにかを話していたのだが、帰宅するとアシュレイは、これからは訪問も慎重にしましょう、と言い出したのだ。


 でも、そろそろ小麦の在庫も乏しくなってきたことだし、こうして下級ポーションを適当な数、作って持っていき、小麦に替えてもらおうとフロリアは考えたのだった。これまでもレソト村なら何度か1人で行ったこともあるし、今回はこの場所から帰るのなら、ほんの少し寄り道するだけだ。


 翌朝。朝食の時に、トパーズに


「もう素材はいっぱい集まったから、そろそろお師匠様のところに帰ろうよ。あ、でも途中でレソト村に寄らなきゃ」


と提案したら、トパーズはすぐに首肯した。

 アシュレイがあまり元気が無かったのが気になっていたという。

 それで予定よりは2日ほど早めに引き上げることにしたのだった。 


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