第192話 マジックレディス2
手近な宿屋の1階の食事処で。
"なんで私はこんなところにいるんだろう"
"珍しくフロリアはぼんやりしていなかったようだが、うまく連れ込まれたな。なかなか、油断の出来ない女だ。だがまあ悪気は無さそうだから良かろう。しばらく様子をみてみるか"
フロリアとトパーズは相変わらず従魔契約を結んではいなかったが、トパーズが影の中に潜んでいるときにはほぼ念話と同等程度に意思疎通を為すことが出来た。フロリアは口の中で呟くようにトパーズに話しかけるのがすっかり癖になっていて、このときも自分が感じたことを呟くと、トパーズから返答があった。
アドリアたち4人プラスフロリアが席に着くと、ちょっと忙しないぐらい活発なモルガーナが「ハイ、ハーイ」と両手を振り回して、ウェイトレスの女の子を呼んで、さっさと川魚のフライと、川ガニと川海老の唐揚げを適当に頼む。
何が食べたいとか、食べられないものはあるのか、などという確認は無し。
それで、料理が着くまでに改めて互いに自己紹介することになった。
そこでもモルガーナが仕切って、「私達はね、「マジックレディス」っていう普段はフライハイトブルクを根城にしている冒険者のパーティなんだ。Sランクパーティで、最近売出中の美人揃いの女だけ、魔法使いだけのパーティだぜ」とのことだった。
丸テーブルの上に身を乗り出すと、やはりでかいのが目立って、フロリアは劣等感を刺激される。だが、私はまだ成長期。これからである。
モルガーナは身体強化魔法をメインに使う軽戦士で、攻撃魔法も「けっこう使うんだぜ」とのことだった。南の方の出身らしく、浅黒い肌の色をしている。淡い金髪の髪はショートにしていて、癖っ毛であちこちに跳ねている。
「で、その黒髪の娘がソーニャ。まだ成人したばかりだけど、結構な実力者で槍使いなんだ。もちろん、魔法も一通り使える」
ソーニャはさらさらの黒髪ロングで、前世でいうお嬢様風。こちらは親近感を持てる大きさであったが、北欧美人といった雰囲気の佇まい。
「よろしく」
と年少のフロリアに頭を下げる。
「で、こっちのお堅い雰囲気の人はルイーザ。後衛で遠距離攻撃魔法が得意な便利な人。あ、それとテキトーなアドリア姐さんの代わりにパーティのお金の管理をしたり遠征に出る時に必要なもん揃えてくれたり、パーティになくてはならない人」
ルイーザは軽く頷いてみせる。
20代後半ぐらいだろうか。
自儘な性格の多い魔法使いだが、ソーニャと並んで、生真面目な雰囲気。
アドリアとモルガーナが奔放そのものなので、良いコントラストになっている。
「で、アドリア姐さん。このパーティ自体はAランクだけど、姐さんはSランク。お陰でSランクパーティって言われているんだ。正式には違うんだけど、ま、相手が勝手に勘違いしているんだから訂正はしてないんだよね。
とにかく"雷撃のアドリア"って言えば、その界隈じゃあ知らぬものも無い有名人なんだぜい。
ていうか、姐さんが連れてきたんだから、知ってるよね」
「はあ……。実は初耳です」
「へ? 姐さんと知り合いじゃ無かったの?」
「ああ、その娘とはついさっき知り合ったところだよ」
「ええ?! それで連れてきちゃったんですか!! ……ま、いつものことか。
で、名前は何だっけ」
「フィオリーナです。フィオと呼ばれてます」
「可愛い名前だねえ。ウヒヒヒ、フィオちゃん、お姉さんに色々と教えてね。まず、好きな女の子のタイプは?」
「モルガーナ。変なこと言うから、怖がってるじゃない」
だらしない笑顔を浮かべるモルガーナをソーニャが牽制する。
そこにフライと唐揚げがやってくると、「尋問は一時ちゅーし!」とモルガーナはその直前までフロリアに迫っていたのをころっと忘れたように唐揚げにがっつく。
「ちょっとモルガーナ。それで5人分なのだよ」
「早く食べないとあなたの分もなくなりますよ」
そんなことを言いながら、みんなで、食事の取り合いを始める。ルイーザやソーニャも大人しそうに見えたのだが、別に物静かなだけで大人しいわけではなく、モルガーナに負けじとバリバリと食べる。
もちろん、アドリアも。
「フィオリーナ。魔法使いは普通の人間よりもずっと体力を使うからね。遠慮してちゃダメだよ」
とフロリアに声を掛けながらも、しっかり自分の分はキープしてる。
狂乱の15分が過ぎて、この女性陣の食事っぷりにまわりが若干引いているので、フロリアはちょっと恥ずかしくなったが、マジックレディスの面々は平然としている。
フロリアの兄がここに居たら、薄いミリオタぶりを発揮して「雷撃」は雷(電気)による攻撃じゃない、それだったら「電撃」だ、と難癖を付けたところだろうが、のほほんとした女子高生だったフロリアはもちろん言葉の意味の違いなんか気が付きもしなかった。
「で、フィオちゃんはどんな魔法が得意なのさ?」
モルガーナの言葉に、ようやく落ち着いた面々は再びフロリアを注目する。
「え、あの……」
「私らはこれでも魔法使いを見れば、判るからね。特にフィオちゃんぐらいの魔力があれば、隠していたってわかるもんさ。何しろ、私達はいつも魔法使い同士でつるんでるからね」
アドリアが涼しい顔で続ける。
「それで、このお姐さんは可愛い女の子の魔法使いを見つけると攫ってくるという癖があるのよ、あなたのようにね」とルイーザ。「まあ、あなたは連れも居無さそうだし、魔法使いの子供が1人でいると危ないからね
何ができるのかは、いますぐ話さなくても良いよ。まあ、魔法使いは自分の魔法を内緒にするもんだから、今ここで話さなくてもいいけどね。そのうち、信用できてからで、ね。
――それで姐さん、さっきは何を揉めてたのさ?」
「ああ、あれかい。あれは地廻りのチンピラが、子供がやってる屋台の権利をぶんどろうとして騒いでたんだよ。それをこのお嬢ちゃんが助けようとしてたもんで、一肌脱いだって訳さ」
「へえ」とモルガーナが感心したような声をあげる。「子供なのに勇気あるじゃない。ま、チンピラごとき魔法でどうとでも出来るからだろうけど」
「まあ、そうだろうね。だけど、あんまり自分の腕を過信しちゃいけないよ。どんなにスゴイ魔法使いだって、失敗するときにはするものだからね。フィオは、見たところ冒険者みたいだけど、まだ年齢的に見習いでしょ。あんたさえ良ければ、私達がこの町にいる間だけでも一緒にいると良いよ。
魔法使い同士は助け合わなきゃね」
「というようなことを言われて、私もモルガーナも気がついたら、パーティメンバーになっていたの。でも、保護者の居ない女の子の魔法使いなんて、変な連中にとっては美味しい餌にしか見えないし、アドリア姐さんに拾われて幸運だったと思っている」
平坦な口調でソーニャもそう付け加えた。モルガーナのようにテンションが高くないだけに、逆に説得力がある。
「ま、とりあえずはあの坊やの件から片付けなきゃ。それじゃあ、私とフィオでヴィーゴ商会のところに行ってくるよ。あんたたちは町見物もいいけど、体を十分に休めときなよ」
「はあい。でも、ヴィーゴさんが屋台と何の関係があるの、姐さん?」
「あの商会は屋台とは関係ないよ。ただ、ちょいとお金が必要なんだよ。大した金額じゃないんだけど、すぐに返ってくるわけじゃないから、私が貸すわけにもいかなくてね。ヴィーゴさんなら、この町の商人だからたとえ本人が他の町に出かけていても、商会にお金を持っていけば良いんだしね。
それにヴィーゴさんが絡んでるとなれば、下手なチンピラは手出ししにくくなるしね」
「ヴィーゴさんですか?」
「そうそう。この町で魔法金属を扱う大きな商会の商会主なんだよ。以前から、懇意にしてるのさ」
"おい、フロリア。ヴィーゴと言うのは確か"
"うん。びっくり"
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