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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第10章 マジックレディス
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第191話 マジックレディス1

「何事だ!」


 衛士たちが人混みを割って入ってくるが、すでにチンピラたちは逃げてしまった後。

 衛士たちは、特に細かい事情を調べるまでもなく、簡単にまわりの状況を見て、騒動の原因を作った連中は逃げてしまった後だと判断すると、子供にさっさと屋台を片付けろ、と命じ、まわりと取り囲む市民たちに「散れ、むやみに集まるんじゃない!!」と怒鳴って、それで終わりである。

 

 チンピラたちを特定するような手間を掛けないし、もちろん今後もこの屋台の少年を気にかけて巡回を増やしたりもしない。しないので、事情を聞くことすら無いのである。

 以前のフロリアは前世の警察官と衛士を同一視していたので、こうした衛士の行動にひどく違和感を覚えたのだが、今となっては衛士とは主君の治める町の治安を維持することが使命であって、その町に暮らす市民一人ひとりの生活などどうでも良いのだ、とようやく理解することが出来ていた。


 だから、衛士隊はこの少年をことさらに目を掛けて助けることなどしないのだ。


 ようやく体を起こした少年は崩れて地面に散らばった果物を拾い集め始める。

 フロリアは、それを手伝っていると、先程の女魔法使いも黙って手伝ってくれた。

 町の人間も、騒動が終わったのでそれぞれ散って、自分の買い物に戻っていく。


「ありがとう、姉ちゃんたち。……くそ、柱が壊れちまってる」


 商品を置く台は無事だが、屋台を覆う屋根を支える木製の柱が無惨に折れている。


「これなら簡単に直せるよ」


 フロリアはそう言うと、折れた柱を手で支えてまっすぐに伸ばすと草木属性の魔法を掛ける。すでに生きた木ではなく木材になっているにもかかわらず、折れた部分の両端から新芽が伸びてきて、互いに絡み合い、ガッチリと固定する。


「これで大丈夫だよ」


「すげえ、姉ちゃん、魔法使いなのか?」


「ほんとにスゴイわね。草木系の魔法は使える子が少ないから重宝されるわよ」


 女冒険者もそう言って、直した場所を手で触って確認していた。

 改めて、この冒険者の顔を見ると、驚くほどきれいな人だった。年齢はどのぐらいだろう。フロリアは大人の年齢が良く分からないのだが、30歳は過ぎているように感じる。動きやすさ重視の冒険者らしい服装だが、その素材はかなり上質っぽい。


「私はアドリアっていうの。「マジックレディス」というパーティのリーダーをしてるわ」


「あ、ごめんなさい。私はフロ……フィオリーナです。この前、見習い冒険者になったばかりです」


「そう。ソロで活動してるの?」


「はい。この町はさっき着いたところです」


「あらあら、1人で旅してるの? あなたの年で冒険者稼業を始めること自体は珍しく無いけど、普通は一人前になるまでは自分の町で経験を積むものよ」


 あまり突っ込まれるとボロが出そうなので、フロリアは少年に話し掛けることにする。フロリアよりも2歳ぐらい年下だろうか。田舎育ちだったフロリアの同じ年頃よりもかなりしっかりした雰囲気がある。


「君が屋台の店主なの? お父さんは?」


 聞いてみると、少年(名前はアメデオだそうだ)の父親が組合の権利を購入して、この屋台の主だったそうだが、前の冬に父親が感冒で急死して、母親のマリーナも同じ感冒に感染して倒れたのだそうだ。

 アメデオ少年は無事であったので、権利を相続して(特に相続税などは無い世界なので、組合に登録の変更をすればすんなり未成年でも登録できた)商売を引き継いで行っていた。

 しかし、母親の治療費と最初の頃の仕入れ代金などが足りなくて、父が親しくしていた屋台仲間のおじさんに借金したのだというが、その借金を返せ、と地廻りが難癖をつけてきたのだ。


 屋台仲間のおじさんは、父親が若い頃に世話になったそうで、快く貸してくれたのだったが、それでもアメデオは「借金はキチンとしなきゃならない」という父親の言葉を覚えていて、組合の人に頼んで証文を書いてもらうと、契約魔法を取り交わして正式なものにしていた。

 ところがこの証文が屋台仲間のおじさんから地回りに流れたのだ。そのおじさんは酒好きでけっこう博打も好きだったのだが、どうも博打で負けて借金の形に渡したらしい。らしいというのは、その後おじさんが行方不明になってしまったので、判らないのだそうだ。

 

 証文には利息は取らないことが明記されていたのだが、まずいことに返済の期日が書かれていなかった。おじさんとすれば、返せるときが来るまでずっと待つ積りだったのだろうが、この国の法律では期日が書かれていなければ、貸主が好きな時に返済を要求できることになっている。

 少年は意外と商才があって、今は組合が調達を世話している中から売り物を探しているだけなのに、その限られた中から売れ筋を探し出して売ることに長けていた。

 母親も病気が治ると再び近所の職人の家の家事を手伝う仕事を通いで始めていて、多少生活にも余裕が出来て、おじさんへの借金は順調に返していた。

 先程、地廻りのチンピラに言っていたように、あと2ヶ月も返せばすべての借金を返し終わるところまで来ているのだそうだ。

 

 しかし、チンピラはただちに耳を揃えて借金を返せ、さもなくば、屋台の権利をよこせ、と強引にねじ込んで来ている。

 この場所は市場の中でもかなり良い場所で、普通に組合から買うとなると、借金の残金の数十倍はするのだという。

 

「そりゃあ、完全にはめられたね。だけど、そんなふうに権利を手に入れたって、ここで商売はやりにくいだろうに」


「どうせ、他に転売するんだよ。この場所を欲しがっているやつはいくらでもいるから……」


「あの……。その残額だけ、組合か他の知り合いから借りることは出来ないの。それでチンピラたちにはお金を返して証文をチャラにすれば良いのに。それで新しく借金した分は2ヶ月で返せるんでしょ」


「探したんだけど、誰も貸してくれないんだ」


 アメデオは左右をみるが、その左右の露天商は目をそらして素知らぬ顔をする。


「組合はお金を貸してくれないし……」


「ああ、商業ギルドの組織じゃないのね。ここの組合は。商業ギルドに加わっていたら、ギルドから事業資金は借りられるのに」


 フロリアはよく知らなかったが、商業ギルドは各国どころか1つの国内でも各領地ごとに少しずつ守備範囲が異なっていて、町間を行き来する交易隊や大商店はほぼ商業ギルドに加わっているが、こうした露天商は加わらないところが多いのだ、と後で聞いた。

 領主が、自分が直接支配できる領域が減ることを嫌がり、露店レベルだとギルドには入れさせない(ただし、税金をいちいち取り立てるのも大変なので、独自の屋台組合を作らせて最低限の管理と税金の取り立ての代行をさせる)のだ。

 ギルド側も主な構成員である店舗を構えた商人たちは、露天商がギルドに入るのを嫌がる傾向が強い。ギルドの資金が露天商などに流れるのを警戒しているのだ。


「へえ、面白くなってきたじゃないの」


 アドリアは意味深に笑った。


「あ、姐さん。また騒動を起こしてるんですか?!」


 人混みの後ろから、陽気な声が掛かる。


「なんだい、モルガーナ。人助けだよ」


 やはり冒険者らしい10代後半のお姉さんが笑いながらアドリアのもとに走り寄り、話しかけたのだった。淡い金髪で浅黒い顔。いたずらっぽい笑顔。そして、無駄に胸部装甲が大きかった。

 その後ろには仲間らしい2人の冒険者がやはり呆れたような顔をしている。


「あ、そうだ、モルガーナ。良いところに来た。あんたたちに紹介したい娘がいるんだ。ここじゃあ、商売の邪魔だから河岸を移そうか。坊や、あんたはこのまま店番しておいで。今日はもうあいつらは来ないだろうからね」


「うん。もちろんそうするけど」


「それで、後でもう一度、ここに戻ってくるから、待ってなさいな。うまくすれば、あんたにお金を貸してくれる人を紹介してあげるよ」


「本当に?」


「うまくすれば、だけどね。この町の商人で信用できる人を知ってるんだ。あんたが本当に2ヶ月でお金を返せれば、割りと頼りになる人と繋がりができるってものさ。

 それじゃあ、行こうか。小腹も空いたしね」


 そう言うと、アドリアはごく自然にフロリアの手を握った。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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