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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第19話 ビルネンベルクへの道

ここから第3章です。

お師匠様がかつて滞在した小さな町での出来事が書かれています。


 朝が明ける前には一度、ケンタを収納して、自分も亜空間に入ったフロリアは女怪盗もどきの格好から気楽な部屋着に着替えて、のんびりと休むことにした。

 夜通し走る途中で、街道筋で休んでいる旅人たちの見張り番に気づかれないように遠回りしたりしたので、ずっと騎馬で走ったにしては距離を稼げてはいないが、それでももしフロリアを追いかけようとする者が居ても、フロリアが徒歩で移動したと仮定したなら決して捜索範囲に入れないぐらいの距離にはなっていた。

 その野営していた旅人というのが、フロリアが帰還を待っていた商業ギルドのギルドマスターの一行だったのだが、それは知るよしも無いことだったし、今となっては、もはやギルドマスターに会う必要もなくなっていた。


 ぐっすり寝て、午後になってからフロリアは亜空間から出て、今度は徒歩で街道を進む。日が落ちてから、小さな町に着いたがもう入れない時間なので、そのまま野営して翌朝に入城。ここがクレマンがフロリアを売ろうとした貴族の領有する町なのであったが、フロリアに知る由も無い。

 親切そうな門番のおじさんが居たので、どこかで地図が手に入らないか、と尋ねると、冒険者ギルドか商業ギルドに売っていると教えてくれた。

 いずれのギルドの会員も近隣の町まで行商に出たり、その行商や交易隊の護衛に付いたりするので、地図は必須なのだった。幾つもの国にまたがるような大きな地図は領主の館にでも行かないと見られないが、フロリアにとってもそれは不要。

 フロリアは礼を言うと、冒険者ギルドの方に顔を出し、窓口の女性に地図を尋ねる。


「どこまでの地図が欲しいの?」


「ビルネンベルクという町までの地図があると良いのですが」


「これが良いと思いますよ」


 窓口係が出してくれた地図は1銀銭であった。

 フロリアは高いなあ、と思いつつもそれを購入すると、隣の買い取り窓口に行って、肩から提げた大きすぎるカバンから薬草を出す(フリをして)と、平均的な宿泊代3泊(2食付き)分ぐらいで買い取って貰う。

 冒険者ギルドも商業ギルドも、どこの町に行ってもだいたい同じような場所に建てられ、同じような造りになっている場合が多い。特に冒険者ギルドは、その傾向が強く、それは初めて他の町から来た冒険者が戸惑わないようにという配慮からである。

 商業ギルドの場合は、露天商や荷担ぎの行商人でも、最低限の読み書きと計算はできるので(さすがに出来ないと商売にならない)ギルドの場所を看板等で探し出すことができるのだが、冒険者だと割りと高ランクになるようなベテランでも読み書きが出来ないケースがあって、ギルド側でもこうした配慮が必要なのである。


 レソト村で、これからどうするのか問われて、思いつきでアシュレイが昔住んでいた町を訪れてみると答えたのだが、後から考えてもそれは良いアイディアに思えてきた。

 それで、あまり大きくは無いがハオマという珍しい薬草が採れる町だとアシュレイから聞かされていたビルネンベルクを目指すことにしたのだ。

 

 市場を少し冷やかしてから、屋台で軽食を買って、それを前世で言うところのイートインのようにテーブルと椅子が多数、置かれた広場に行き食べる。

 その後で、買ったばかりの地図を確認してみたら、この町からだと、街道まで戻ってまっすぐ進み、途中で幾つかの小さな町を経由して進むようだ。

 地図に記載された距離が正確なら、フロリアの足で10日から15日といったところか。

 お腹も膨れたので、すぐに町を出る。

 せっかくの入城税がもったいないが、特に見るべきものがあるような町でもなさそうだし、あまり遅い時間になると門番が外に出すのを渋るようになる(親切から言ってくれているのは判るのだが)。

 それで、そのまま町を出たのだ。

 領主は金に汚く、クレマンから良さげな魔法使いが居ると言われて人身売買じみたことに手を出そうとする程度には犯罪じみたことも平気な人物であるが、このほんの短時間だけ立ち寄った少女が危ない目に遭うことは無かったのだった。


 それから、ビルネンベルクを目指してフロリアは街道を歩いた。

 途中で幾つかの町や村があったのだが、小さなところは入城税がもったいないのでスルーしたが、ある程度の大きさの町では中に入って、町の見物をして、冒険者ギルドで薬草を買い取ってもらって、市場で買い物をした。

 しかし、もちろん町に泊まることはしないで夕方になる前に町を離れ、先に進んだ。それでものんびりした旅程であったので、当初の計算10日目になってもフロリアはまたビルネンベルクからは遠い場所にいた。ようやく、分岐の町というところを過ぎて、後はビルネンベルクまで一本道の街道が続くというところまで来たところである。


 急ぐ旅ではないので、良さそうな森を見つけると分け入って、薬草を採取したり、動物や魔物を狩ったりしていたためである。

 魔物を狩るのは主にトパーズが運動不足解消を兼ねて走り回って狩っていたのだが、フロリアも操剣魔法の練習も兼ねてオークを何頭か狩った。

 フロリアのメインウェポンである投げナイフは、かつてアシュレイと一緒にニアデスヴァルト町に行った時に買ってもらった投げナイフを見本に、コボルトと一緒に精錬した鉄を使って自作したものだ。プロの鍛冶師ではないので、切れ味などはそれなりだが、しっかりと魔法を付与してあり、いわゆる魔剣に当たる。

 投げナイフは空をツバメのように飛び回り、オークを前や後ろから襲いかかり、あっという間に倒していく。オークならば一度に3頭までなら同時に相手できるようになってきた。

 また、狩りをしない日でも、朝起きて亜空間から外を見ると小雨が降っていたりすると、そのまま亜空間に戻って、昼寝の日にしてしまった。こうして休んでみると、自分でも気が付かない疲れが溜まっていたようで、その日はずっと熟睡してしまった。

 普通の旅人なら、土砂降りならともかく小雨程度ならば強行軍になる。どうせ野宿なのだから、小雨なら先に進んだほうが楽である。

 

 他の方面とビルネンベルクとの分岐の町で、多少ビルネンベルクの情報を仕入れてある。

 ビルネンベルクは領地貴族のハイネスゴール伯爵が領有しているが、いわゆる領都ではなく、伯爵から代官が任命されて町を治めているそうだ。

 辺境伯ならばともかく、伯爵レベルの領地で領都でもない町となると、普通は田舎町丸出しになるのだが、キチンと3つのギルド支部がある珍しい町らしい。

 背後に大きな山脈を背負っているような位置にあるので、このビルネンベルクで街道は終わり。後はハイネスゴール領の領都を目指す脇街道があるだけである。


 そのビルネンベルクへの一本道を進んでいく。

 街道とは言っても、それまでのように馬車が交差できるような幅がある訳ではなく、せいぜい大きめの岩を撤去して、道を均した程度。

 それでも、地面に轍が残っているので、夜中に進んだりしない限りは迷ったりはしない。道を行き交う旅人も見かけなくなり、数時間に一度程度、前方から荷馬車がやってきたりするだけ。


 そうして進んで行くと、前方に同じ方向に進んでいる荷馬車を見つける。数台の荷馬車でキャラバンを組んだ、いわゆる交易隊なのだが、それが街道の真ん中で停止していて、男たちが1つの馬車の脇に集まっている。

 このまま進むと、交易隊のそばを歩いて通り過ぎるようになる。

 彼らが進み出すまで待つか、大回りするか……少々考えたが、大規模な商隊の人たちがあまり変なことをするとも思えないので、そのまま進む。

 

 近寄ると、荷馬車が6台で編成された交易隊であり、そのうち前から3台目の馬車の周りに男たちが固まってなにか相談している。

 女性たちもその周囲に数名居る。

 その女性の中の1人、30代から40代ぐらいの冒険者っぽい服装の女性がフロリアを見つけて手を振る。

 フロリアは少し頭を下げて、彼らに近づいていく。


「珍しいわね。あなたみたいな娘が1人で旅しているなんて。危ないわよ」

 

「慣れているので大丈夫です」


「そう。悪いけどちょっと遠回りして行ってね。荷馬車が轍に嵌っちゃってねえ」


 その冒険者っぽい女性の他に、女性では、もう少し若い冒険者風の人、15歳ぐらいの町娘っぽいお姉さん、赤ちゃんを抱えた若い奥さんっぽい人がいる。

 もう一人の冒険者風のお姉さんはかなり前の方に居る。男性陣が固まっている間、周囲の警戒をしているということなのだろう。

 赤ちゃんを抱えた奥さんっぽい人は、レソト村でもよく見かけた農家のお嫁さんといった風体で、不安そうな顔をしている。

 町娘っぽいお姉さんの方は、私を見ると「ね、どこまで行くの」と声を掛けてくる。


「ビルネンベルクです」


「そりゃそうよね。一本道なんだから」


と笑う。


 男性陣が固まっているところまで進むと、荷馬車が派手に傾いていて、巨大な樽が一つ、道端に除けられていて、周囲の地面は水(多分)が盛大にまかれたみたいに濡れている。

 荷馬車が傾いた衝撃で載っていた樽が落ちて、中身がぶち撒けられたといったところのようだ。


「仕方ない。一度、積荷を下ろしてから、皆で荷馬車を持ち上げるしか無さそうだな」


「へいへい」


 皆で手分けして荷物を下ろそうとし始める。


「トパーズ、どう思う」


 おそらく、放っておけ、と言われるかと思いながらトパーズに尋ねると、"助けてやれ"との返答。戸惑ったが、トパーズに何か考えがあるのだろう。


「あの……」


とその男性達に声を掛ける。


「どうしたのかね、お嬢さん」


 男性達の中で、商人風の人がフロリアに答える。


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