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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第10章 マジックレディス
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第188話 古都へ

新章突入です。

 フロリアはまた、体調が悪くなって数日寝込む羽目になった。

 以前、多くの人間の死体を上空から従魔越しに見て、体調を崩して発熱して寝込んだことがあった。

 寝込んだのは、その時以来だった。

 その時には調子が戻るまで数日掛かったのだが、その後、バルトーク伯爵領でのいくつかの争いの際には体調を崩すことはなかった。

 

 だが、今回はまたこうして寝込む。"人を殺すと意識して殺す"、"人が死ぬことになるのをなかば分かっていながらねずみ型ロボットに攻撃命令を出す"……やはりそうしたことがフロリアの精神に負担になったのだろうか。


 だが。


 トパーズは、


「なんでフロリアは、大丈夫だったり、こんな風に倒れたりするのだ?」


と不思議がっている。


 フロリア自身にも判らない。 

 その時の調子次第としか言いようがない。

 もうちょっと大人になったら、いろんなことが平気になっていくのだろうか?


 そんなこんなで10月後半にはチェルニー子爵領領都チュルクを出たフロリアであったが、11月に入ってもあまり行程を稼げていなかった。


 シュタイン大公国はヴェスターランド王国に比べるとだいぶ南下しているので、11月とは言え、まだそれほど寒さは本格化してこない。

 しかし、確実に冬は近づいている。


 トパーズはフロリアの体調が思わしくない間は亜空間やベルクヴェルク基地のフロリアの私室でつきっきりであったが、快方に向かうと「退屈なので、外に出せ」と言って、フロリアを亜空間で寝かせておいて、自分は外を駆け回り狩りをして楽しんでいた。


 例によって、街道を外れて森に入り、さらには山を登っていたので、本当に人気の無いあたりをフロリア達は旅をしていたのだった。

 

「この辺は、なかなか魔物の影が濃いな。大物も多いし、良い気晴らしになったわ」


 夕方になって戻ってきたトパーズは待ち合わせ時間に亜空間から出たフロリアにそう言って、大量のオークや魔狼の他に、フロリアがあまり見かけたことのない牛系の魔物や鳥系の魔物を収納袋から大量に出して見せるのであった。


「また血抜きが大変だ」


 などと言いながら、それを自分の収納スキルにしまうフロリアだが、最近はベルクヴェルク基地に持ち帰って、ロボットたちに血抜きと下ごしらえをやらせるというズルを覚えているのであった。


 ――こうして、ようやくフロリアがシュタイン大公国の首都キーフルに着いたのは、12月も終わり頃であった。

 各国とも首都のことは王都と呼ぶ習慣があるが、シュタイン大公国の場合は君主が王ではなく大公なので首都と呼んでいるのである(アリステア神聖帝国では聖都であった)。

 少女の脚とは言え、ここまで完全に日数が掛かりすぎで、フロリアを追っている複数の勢力はそのために計算が狂ってしまうのはいつものことであった。

 

 王都に着くまでのエピソードとしては、あまり大きくない町で、フロリアと猟師姿のトパーズが魔物や野生動物を冒険者ギルドの窓口に出して売った時にちょっとしたトラブルを起こしたことが挙げられる。

 けっこうな量ではあるが、不自然ではない量(とフロリアが考えるだけの量)の獲物を出して、買い取りを依頼すると、窓口係はこれだったら冒険者登録したほうが買値が高くなるので、そうしろ、とトパーズに勧めた。

 自分のギルド証は出さずに猟師の娘という体で同行していたフロリアは、そこで窓口係に以前に考えた復讐の旅をしているので云々という設定をもっともらしく話したところ、窓口係はたちまち胡散臭そうな顔になり、「ちょっとまってろ」というとギルドの職員や冒険者の"若いの"を何人も連れてきて、フロリア達を囲んで、「奥に来い」と言い出した。


 どこを間違えて疑われたのか判らないフロリアであったが、大人しくギルドに連れ込まれる手はない。今回は新たに作ったフィオリーナという自分の冒険者登録を明らかにしていないし、姿かたちに顔立ちは強力な偽装魔法と隠蔽魔法で守られて別人のように見えている筈である。

 このまま立ち去れば後腐れが無い。

 そう判断したフロリアの「逃げよう」の一言で、トパーズは相手が大怪我をしない程度に殴り、フロリアは香辛料爆弾を使って、残りを全員戦闘不能にすると、あっという間に遁走した。

 すぐに2人を見失ったギルドの窓口係は門番の元に走って、そういう風体の父娘は門から出すな、と言ったのだが、それっきりいつまで経ってもその父娘は門に来ることはなく、小さな町で隠れる場所も無いのに、町中探し回っても発見することが出来なかった。


***


 キーフルは、キーフル王国時代からの首都で現在では町の中央を貫流しているモルドル河を境に町は東西に分かれている。


 西側は旧市街で古くはキーフル王国時代からの街並みが広がっていると言われていて、そこには古い教会、大きな広場、各ギルド支部、活気のある市場、商家が立ち並ぶ区域、その商家や各国の大商家の支店が立ち並ぶ中を縦横に走る運河、そして胡散臭い迷路のように入り組んだ庶民の住居地区……。

 エネルギッシュで猥雑で古い時代からの町とは思えない躍動感があるのだった。


 東側は猥雑な西側とは違って、最初からシュタイン大公国の首都として建設された貴族街であり、軍事都市でもある。

 小高い丘をまるごと使った王宮と、そのまわりを囲むように大小立ち並んだ貴族の邸宅、そして、軍人が住まう区域が最外周に広がっていて、それを囲っているのは旧市街よりもずっと背が高い壁。さらにその壁に沿ってモルドル河から引いた外堀が深い水を湛えている。

 経済の中心地である西側に対し、重厚で壮大な建物が立ち並び政治、軍事の中心地となる東側は現在のシュタイン大公国になってから作られたもので、同じ都市でありながら、西側とは全く雰囲気が違う。


 シュタイン大公国はこのキーフル周辺に大きな穀倉地帯を抱えていて、小麦を中心に、大麦、ライ麦などを生産している。

 この11月は収穫が終わり、次の種まきまでの農閑期にあたり、何も植えられていない麦畑は見通しもよくさっぱりとした感じである。


 ここの麦はシュタイン大公国を食料需給の面で支えているだけではなく、輸出されて外貨を稼ぎ、外国の物資を買う資金にもなっている。

 そのシュタイン大公国にとってもっとも大きな交易相手は自由都市連合になる。


 大きな面積を持つ国家ではなく、一つの町とその周辺地域からなる都市国家の連合体である自由都市連合は、モルドル河の河口にあるフライハイトブルクを中心に、数十もの都市国家が一大勢力を成している。

 モルドル河を始めとする船運や陸上交通の要衝にあるだけではなく、遥か大海に乗り出して、海の向こうとも交易をしているし、ガイア大陸の文物もフライハイトブルクを経由してゴンドワナ大陸へともたらされているのだ。

 そればかりか、傘下の多くの都市国家は、それぞれに特色があって、金属加工の得意な職人が集まる町、錬金術師の工房が集まる町など、ここで作られた製品も交易品として大陸中に拡散される。

 冒険者ギルド、商業ギルド、錬金術ギルドの国際本部があるのもフライハイトブルクで、地理的には海沿いで大陸の端にある町だが、文化的・経済的には大陸の中心の一つと言っても良い。


 キーフルは、そのフライハイトブルクとは距離は離れているものの、大河で結ばれた関係にあり、そのことがこの古い町に常に新しい血をもたらして、シュタイン大公国そのものの国力も支えているのだった。


「確か、フライハイトブルクって、ベルクヴェルク基地から陸路で2万キロ、直線距離だと1万7千キロだっけ」


 フロリアから見て、世界の果てにある、という印象のベルクヴェルク基地だが、具体的に都市の名前が出てきて、そこからの距離も判ると、なんとなく近くなったような気はする。


「でも、2万キロってどのぐらいの距離なんだろう? お兄ちゃんがいればすぐに聞けるのに」

 

 おそらく兄が居れば、赤道一周で4万キロだからその半分だと即答しただろう。フロリアの前身の女子高生は地理は(も)あまり得意ではなかった。


 ――フロリアがキーフルに到着した12月末は、町は新年を眼の前に控えて、沸き立っていた。特に今年は新年早々に、皇太子とバルトーク伯爵家令嬢のフランチェスカ嬢との結婚を控えていて、例年以上に町は浮ついた雰囲気に包まれていたのだった。


 フロリアが入城したのは、もちろん町の旧市街にあたる西側の方であった。

 この大陸のどの国も町の作り方というのはさほど違いがなく、基本的に大門を入ってすぐに大広場になっていて、商業地区が取り囲んでいる。

 そして、その商業地区内に各ギルドの支部が設置されていて、さらに言えば支部建物の配置やデザインまでよく似ている。

 アリステア神聖帝国のみはそうした形式を守っていない(そもそもギルドと敵対している)ので、例外になっているが、もう一つ、このシュタイン大公国首都キーフルも独特な構成をしている。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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