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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第2章 ニアデスヴァルト
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第18話 反撃2

 クレマンが見ていたのはどうやら帳簿と、なにかの一覧表だった。

 ところが帳簿らしきものは2つあって、1つは革表紙のかなり立派なノートで、いろんな筆跡で数字が書き込まれている。

 それに対して、クレマンが目の前に置いていて、頭の下になっていたものだから、無理やり引っ張り出した方の帳簿は薄く、文字は同じ筆跡だがかなり崩れていて読みにくい。

 でもなんで帳簿が2つあるのだろうか?

 しばらく両方の帳簿を見比べて、同じ日に同じ会員に販売した同じ品目の同じ分量の品物が値段が違うのに気がついた。

 よく見ると、あちこちで同様のことが記載されている。

 高く売ったり、安く買っていたり、単価が同じでも数が違っているケースもある。


「あ、これ、刑事ドラマで見た裏帳簿だ」


 やっと気がついたフロリアはすっかり興奮していた。


 テレビを見ていて、「なんで、悪いことをした証拠を残しているの?」とお兄ちゃんに聞いたら、「帳簿をつけておかないと、何をどれだけ悪いことをしたのか分からなくなるじゃないか」と返されたものだった。


 一覧表の方は、ギルドで持っている在庫の一覧のようで、やはり表の在庫表と裏の在庫表があった。

 裏の在庫表の方には、フロリアの預けた魔道具も記載されていて、評価額も記されていた。その合計額を計算したフロリアは思わず「うわっ」という声を上げた。

 これだけのお金があれば、国の南方の大きな町まで行って、和の調味料や食材が一杯買えそうである。

 

 フロリアは、サンドマンに「この人を明日のお昼ぐらいまでぐっすり眠らせてね。すごく疲れているみたいだから」と術を重ねがけさせて、裏帳簿と裏在庫表を持って、廊下に出る。ギルドマスターの部屋は、以前に何度かアシュレイと一緒に訪れた際に通された部屋であろう。二階に登ると、見覚えのある部屋の前に立ち、鍵がかかっていたが、探知魔法で鍵穴の内部構造を調べて、即席で合鍵を作るとあっさりと開ける。

 魔法防御されていなければ、フロリアの前では鍵など意味をなさないのだ。


 ギルマスの部屋は前半分に応接セット、後ろに窓を背に大きなデスクが置かれている。デスクの引き出しは一番上が鍵がかかっていたが、やはりたちまち開けると、印章やら契約などに使う魔道具、メガネ式の鑑定の魔道具、そして重要そうな書類が入っていた。

 フロリアはそこに裏帳簿と裏在庫表を入れると、鍵をしめ直し、部屋を出て、部屋の鍵も締め直す。

 もう一度、クレマンの様子を見て、変わりないことを確認したら、商業ギルドを後にしたのだった。


「これで終わりか? いったい、何をしているのだ?」とトパーズが影から囁く。


「ギルドマスターに見られたらクレマンが困るものを、ギルドマスターの机に入れたんだよ」


「それが齧られるよりも痛いことなのか?」


「とっても痛いと思うよ」


 次にフロリアはドニ達が潜むヤサに向かう。彼らは安酒場の2階をたまり場にしていて、そこを根城にいろいろと悪さをしているようであった。

 ケットシーにはクレマンを中心に探って貰っていたので、ドニ達については、そのたまり場程度しか判っていない。


 彼らはクレマンの指示でフロリアを追い、うまく捕まえることができたらクレマンに引き渡したことだろう。

 しかし、フロリアの魔法やスキルが優れていたお陰で、彼らはその行為を現実に行うことができていない。

 だからフロリアにとっては、そこまでの迷惑を掛けられたという訳ではないのだ。

 そのため、彼らについてもフロリアは特に厳しい対応はしないつもりではある。

 だが見逃しもしない。どの程度、彼らを困らせるかはこれから決める。

 

 今度は、大きめの酒場1つまるごと、ザントマンに眠りの砂を撒いて貰う。

 酒場はもう閉店していたが、まだ中には従業員もいたし、ドニ達の情婦も居た。それをまるごと眠らせたのだった。

 

「やったよ、フロリア。すごいでしょ。皆、ぐっすり!」


 ザントマンはくるくると周りながら喜びを全身で表現する。

 

 フロリアはスッと酒場の中に入り、慎重に各部屋を見て回り、ドニの仲間の1人が情婦とベッドインしているのを見て、顔を赤らめる。

 ドニは、寝酒を飲んでいたらしく、部屋中にグラスからこぼれた酒精分の強い酒の匂いで溢れている。

 そうした部屋を見て回ったが、今度はクレマンのようにちょうどよい犯罪の証拠など無い。さて、どうしようか。


 と、思っていると2階の一番端の部屋は厳重に鍵が掛かっている。開けると、部屋の中に縛られた7~8歳ぐらいの少年が床に転がされ、椅子に座って少年を見張っていたと思しき男がいずれもそのまま寝込んでいる。

 男は椅子から転げ落ちそうになっていたので、床に落ちた拍子に目を覚まさないように、体を抱えて静かに床に寝かせる。


 少年はかなり良い身なりをしている。何処かから攫ってきたのだ。


 フロリアの目がきらりと光る。


「トパーズ」


「何だ?」


「お願い。この子を運んで」


 トパーズは影からスルリと出てくると、体を低くして、「背中に載せろ」と言う。


 フロリアの細腕ではけっこうたいへんであったが、変に魔法を使って載せようとすると、力が強すぎて少年の体に傷をつけそうだったので、なんとか自力だけで載せたのだった。


「それでどうするのだ?」


「衛士の詰め所の行きましょう」


 フロリアは先になって、背中に荷物を背負ったトパーズを先導しようとするが、「階段は狭くてたまらん」と言って、フロリアに部屋の窓を開けさせると、そこからひらりと飛び降りた。

 7~8歳の少年というと、それなりの重みがあるだろうに、それを感じさせない跳躍で、地面に降り立つ。

 

「さあ、その詰め所に案内しろ」


 フロリアの方は、階段を使って降りると、あちこちのドアは開けっ放しにしておく。

 後で衛士が突入しやすいようにである。


 酒場からの去り際にザントマンに「この人達も朝までぐっすり寝かせて上げてね」と頼む。あと、酒場の入り口にかかった看板が大きめのまな板程度の大きさだったので、それを外して持っていく。


 詰め所は、不寝番の衛士が居たので、正面までは行かないで、すぐ近くの物陰で少年を下ろす。

 ザントマンに「この子は起こして上げて」と頼み、少年の脇に酒場の看板を置くと、フロリアとトパーズは更に遠くの物陰まで移動する。

 

 数分で目覚めた少年は、最初は状況がわからなかったようだが、すぐに大声で助けを求め、衛士が駆けつける。

 あとは素早かった。衛士は仲間を呼んで、少年の縄をほどき、状況を聞くと、すぐに看板の酒場にも人を走らせる。


 また、ケットシーを召喚して、様子を探らせると、どうやら少年はこの町を訪れた大きな商会の跡継ぎだったようで、昼間行方不明になって、衛士隊で捜索していたということらしい。

 すぐに酒場に踏み込んだ衛士達は、寝込んでいる中の人間をどんどん拘束して、家探しすると、一番奥の部屋に少年の持ち物が残っていて、これが決定打になったようだった。

 それにしても、私を拉致監禁しようと探す片手間に別口の誘拐もしていたとは、仕事熱心な悪者だ、とフロリアはちょっと呆れ気味に思った。

 とにかく、これでこの町でのやるべきことは終わった。


「トパーズ、もう行こう」


 フロリア達は、夜中に騒がしくなった大門周辺は避けて、住宅街の方の壁際まで廻って、また風魔法で飛び越える。音を聞きつけて市民が出てくるかも知れないが、それまでには壁の外に降りて、遠くへ去れば良い。

 防御魔法、隠蔽魔法、虚偽魔法の3つを重ねがけした状態で、小走りで町から離れる。

 十分に町から離れてから、ゴーレムケンタウロスのケンタを出して乗ると、ゆっくりと走らせ始める。

 月のある夜だったので、その月明かりの下、ケンタウロスを駆る少女の姿は幻想的ですらあった。

この話で第2章はお終いです。

次の話から新しい章に入ります。今度の町にはけっこう長く滞在しそうです。

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