第177話 ギルドの動き
家宰に呼ばれたギルドマスターは取るものもとりあえず、すぐに領主館に赴いた。
ギルドは独立組織として、国家や貴族には従属していないものの基本的には協力体制を維持することを伝統的な方針として掲げている。
このチェルニー子爵家は代々、それほど覇気のある領主ではなかったので、ギルドとの関係も薄く表面的なもので、ギルドの既得権益に手を突っ込んでくることも無かった。
しかし、今度の若い余所者の家宰は一癖ある人物だ、ということはギルドマスターにも分かっていたので、十分に警戒しつつ、領主館に急いだのだった。
そして、家宰の言葉に戸惑うことになる。
この家宰は若くやり手らしいという話だが、ギルドマスターの眼には、薄っぺらで胡散臭い男という印象である。
言葉遣いは丁寧なのだが、どこか相手を小馬鹿にしているのを感じる。
その家宰の用件とは、子爵家としてギルドに依頼をしたいので、信頼できるパーティを推薦しろ、というものであった。
もとより、冒険者ギルドを良く使う貴族家もあって、そうした家では"目を掛けている"パーティというのがあって、そのパーティを指名依頼するのだが、チェルニー子爵家はそうした貴族ではなかった。なので、ギルドマスターに推薦を頼むのは別におかしなことでは無かったのだが、その条件があやふやな上、どうも危なげな匂いもするのだ。
家宰の出した依頼内容とは、領都の中を誰にも悟られずに人探しをして、当該人物を発見したら、速やかに家宰の元まで連れてこい、というものであった。
この"誰にも"というのは衛士達や、他のお屋敷の方々(チェルニー子爵家家中)にも、という意味ですか、というギルマスの念押しに、家宰は渋い顔をして曖昧にうなずくように見える……という動作をする。
かなりあやしげな依頼である。
その時点で断って帰りたくなったが、さすがに領主の家宰にそんな態度を取るわけにもいかない。
ギルドマスターは現在、領都に居るパーティの中から腕利きで口が堅いものを2つほど紹介すると約束せざるを得なかった。
かなり急ぎの依頼らしいのに、パーティを領主館によこすこともせず、家宰自らが夜になってからギルドを訪問するので、それまでにパーティを押さえておけ、ということであった。
「あ、それから、冒険者の方々にも、依頼者の名前を明らかにしないで頂きましょう」
「……それは依頼の手続きに不備が生じます。失礼ながら、その条件では依頼を受けるパーティは1つもないと存じますが」
「融通の効かないお方ですな。……だったら、子爵家の筋の依頼だということは匂わせて頂いて結構。だが、はっきりと口にするのはやめてもらいましょう」
「どちらにしても依頼書を作成する際に、依頼主の名前は明記する必要がありますが」
「……分かりました。依頼書は今晩、そちらに伺った時に書きましょう。依頼主はその時までに決めておきます」
自分の名前を表に出さないつもりか。
金持ちや貴族などはデリケートな依頼内容のときには、当人の名前を出さずに家臣が一存で冒険者ギルドに依頼を出す、というカタチを取るケースもあるのだが、この家宰様は主人の名前でも使うのだろうか。
「それと、最近、ギルドに少女が薬草などを納品に来たりしていませんか?」
「少女? 薬草採取などは未成年の冒険者のしごとなので、もちろん貧しい家の子などはしょっちゅう持ってまいりますが」
「いえいえ、これまで見たことが無い娘ですよ。成年まではあと数年ありますが、かなりの美人で身なりも小綺麗にしているということですが。銀色の髪をしているとも」
「さて。私は普段は買い取り窓口には居ないのでなんとも……。窓口の担当者に聞けばなにか知っているかも知れませんが」
「ああ、それではその件は結構。誰にでも迂闊に聞かないでください」
……ギルドマスターが家宰の元を辞して、ギルドに戻ってから銀色の髪の少女について、なにか知らないかと受付嬢に聞くと、あっさりと「数日前から薬草やツノウサギの素材などを納品に来ている。ただ、本日、町の大門の前で騒ぎを起こしたらしく、逃げてしまったらしい」との情報を教えてくれた。
「大門だと?」
「ああ、その娘が騒いだ訳じゃなくて、怪しい男が城内に入ろうとして門番と揉めているときに、その娘の顔を見た男がなにか叫んでいたそうですよ。娘の風体を聴くと、多分、同じ子ですね」
さすがに受付嬢は耳聡い。
既に、大門の噂も知っていて、その怪しい男は衛士が引っ張っていった。娘は衛士が数名追ったのだが、見失ったそうだ。
「その娘、納品していたのなら、登録証を持っている筈だな。調べて見てくれないか。あ、この件は内密にな。それと、今すぐ連絡が取れるパーティはどこがある?」
「そうですね……」
受付嬢は、ちょっと宙を見上げて考える。
「『剣の絆』、『ドラゴンスレイヤーズ』、『4つの魂』……あ、あとホルガーとフーベルトのうちホルガーだけが帰ってきています」
ギルドマスターは渋い表情になる。
ギルドの看板パーティは出したくはないが、あまりにたちの悪い連中も推薦するわけにはいかない。ある程度、世知に長けていて、家宰のスタニスワフの依頼を適度にいなしつつ片付けてくれるようなパーティが居てくれたら良かったのだが……。
「『乙女の誓い』はどうした?」
「しばらく前に交易隊の護衛依頼を受けています。おそらくはあと2週間は戻らないと思います」
「『蒼き風雲児』は?」
「もう2ヶ月以上見かけません。首都に行く交易隊の片道の護衛依頼を受けてそのままですから、本拠地を変えたのではないかと……」
『剣の絆』は荒っぽいばかりで、冒険者という職業を根本的に勘違いしている連中である。とてもお貴族様とまともに付き合える連中ではない。アイツラが家宰に無礼討ちされるのは別に良いが、逆にうっかり家宰を斬ったりしたら……。
ホルガーとフーベルトも問題外である。特にホルガーしか居ないとなると……。
「……仕方ねえ。『ドラゴンスレイヤーズ』と『4つの魂』を呼んでくれ」
「はい」
一旦、受付嬢はギルマスの執務室を出ていったが、しばらくすると戻ってきて、フロリアの登録情報を検索したものを記録した紙を提出した。
「あと2パーティとも連絡が付きました。どちらも30分ほどでやってくるはずです」
「そうか」
ギルドマスターは、フィオリーナという登録名の少女の記録を見る。バルトーク伯爵領の一番、国境沿いの町で登録してすぐに薬草を納品しているが、それからしばらく何の動きもない。
とおもったら、その伯爵家から1金銭もの振り込みがある。振り込み理由については情報がない。ギルドを通さない依頼でも受けたのだろうか? それにしても、まだ未成年の娘っ子が1金銭もの報酬とは?
そして、またしばらく間が開いて、今度はこのチュルクでの薬草や素材の買い取り。
2日前だ。額は5銀銭程度で、子供一人の納品としては大きな額ではあるが、極端に高額という訳でもない。
考えているうちに30分は過ぎ、また受付嬢が来て「パーティが2つともやってきた」とのことで、この執務室に通すように命じたのだった。
ギルドマスターの部屋に通されるのは、冒険者にしてみれば、深刻な叱責を受けるか、大げさに称賛されるか……。どちらにしても"普通"ではない事態が発生したということである。
それで、さすがに彼らは緊張した面持ちである。
「ああ、あまり硬くならなくて良いぞ。別に悪い話じゃない」
『ドラゴンスレイヤーズ』は、厨二病という言葉があれば確実にそう呼ばれているような連中で、そもそもオオトカゲすらスレイしたことないのに御大層なパーティ名にしたものである。
『4つの魂』は、この町に流れてきた時点で3人組のパーティであった。誰かに残り1人のことを聞かれると、「冒険者にはつきものの事故があってな。詳しいことは話したくねぇ」と鎮痛な表情で答えるのが常であった。実際には、ポンコツ3人組にたまたま、低レベルであるが攻撃魔法と治癒魔法を持った魔法使いが加わった4人で活動開始し、その魔法使いにおんぶに抱っこだったのだが、1年もしないうちに他のパーティに魔法使いを引き抜かれて……というのが真相であった。
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