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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第9章 チュルクにて
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第174話 それぞれの旅程2

 オーギュストは、カーヤとロッテを連れて街道を外れ、馬上からでも見えにくい場所に身を潜めると、さらに説明を続けた。


「もちろん、こうした国境近くにも大規模な盗賊団が出たり、強力な魔物の群れが出たりで、冒険者の手に余るもので、兵士を動かして討伐しなきゃならないことがある。

 そうした場合には、"上の方で"あらかじめ相手に話を通しておいて、下手な刺激をしないように気をつけるものなのだ。国境の町ならどこでも、相手方と非公式なパイプを持った町の顔役がいて、こうした時に折衝役を勤めるのだ。

 その上で討伐隊を編成するときにも故意に大っぴらにやって、町の住民の噂になるようにするのさ。もちろん、相手側にもその噂はあらかじめ伝わるから、相手――この場合はシュタイン大公国だな――も人を出して国境近くを封鎖して、こちらの兵士の動きを監視して牽制するんだ」


「そんなに大っぴらに準備してたら、魔物相手ならともかく、盗賊団とかだったら、どうせ町に誰か忍ばせているだろうから、兵士が来るまでに逃げちゃうんじゃない?」


「そうだよ。だが、とりあえず、それで街道の安全は回復して、商人達の国を超えた取引は続けられる、って言うわけだ。

 もちろん、逃げた盗賊団は他の土地で迷惑を掛ける訳だから良いことじゃないが、軍にしてみれば、不測の事態が起こって戦争になるよりも、盗賊団に逃げられる方がまだまし、という訳なんだ」


 そうした訳で、こんなふうに2~3騎の騎馬が国境へ向けて早駆けに駆けてくるなど、軍がやるわけが無いのだ。何らかの策略を行おうとしている、そう勘ぐられて、紛争の火種になりかねない。

 

「だから、そんなこと気にせずにやるとしたら冒険者なのだよ。今のところ、このあたりには別に盗賊団が出たって話も聞かないしね」


「私達を追っかけてきて、結果として下手したら、他の国と戦争になりかねないような真似をしてるってこと? あいつら、馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、本気で馬鹿だったのね」


「このまま行かせる訳にもいかぬよなあ……」


 オーギュストは嘆息すると、2人には隠れているように命じて、1人街道の方に戻っていく。

 旧友のアダルヘルム王の胃にダメージを与えるようなことを見過ごすほど、オーギュストは冷たい男ではなかった。


 馬が近づいてくると、確かに昨夜の男たちであった。

 結構、痛い目に遭わせた筈だが、馬に乗って追いかけてくるとは、なかなか元気だ。

 馬は2頭で、先頭は1人乗り(たしかジュードとかいうヤツだ)だが、2頭目はごつい男が2人乗っている。3頭目が手に入らなかったか、乗馬できないのか?

 まあ、そんなことはどちらでも良い。


 街道で待つオーギュストに気が付いた男たちは馬を常歩に落としてゆっくりと近づき、10メートルほど離れて馬を止める。


「何をしてる? そんな馬、どっから手に入れたんだよ」


「てめえには関係ねえことだ。それよりもあれだけの恥をかかされてそのまま逃げられると思っていたのか? あの娘達はどこに行った?」


「さあな。昨夜は一緒に旅するって言ってたが気が変わったみたいで、今朝別れたよ。今頃、町の近くの森で薬草採取でもしてるんじゃないのか」


 オーギュストの言葉に男たちは顔を見合わせる。

 しかし、男たちにはオーギュストが本当のことを言っているのかどうか、見破る術は無かった。


「と、ともかく、お前はここで死んでもらうぞ。娘らはその後でじっくり探せば良いんだ」


「おいおい、冒険者ってのはいつから馬泥棒や殺人が仕事になったんだ?」


「うるせえ。覚悟しろ」


 剣の勝負では分が悪いと見たらしいジュードたちは今度は弓を用意していた。背中にまわしていた弓を取ると、オーギュストに狙いを定めようとする。

 だがなれない馬上で弓を引いて射つのに手間取り過ぎた。特に2人乗りしている2頭目は体が絡まってまともに弓をひけてない体たらくだ(後ろに乗った3人目は素早く飛び降りなくてはならないのに)。


 オーギュストはもちろん、それをのんびり待ってやるほどお人好しではない。いつの間にか背中の雑嚢から取り出して手に隠し持っていたかんしゃく玉をジュードが乗った馬の鼻面をめがけて投げる。その昔、アシュレイに作り方を教わったもので、人間相手であっても気をそらすのに何度も役に立ったものである。

 ましてや神経質で臆病な馬が相手なら絶大な威力を発揮する。


 パーンッという乾いた音に馬は棒立ちになって、弓を持つために両手を離していたジュードは地面に強かに叩きつけられる。

 もう一方の馬も、一緒に驚いて、こちらは棒立ちまでいかないものの上に乗った2人の男を振り落とそうと暴れる。

 

 それだけの時間があれば十分である。

 オーギュストは一気に距離を詰めると、馬上の2人の腕を素早く斬って地面に落とし、ようやく立ち上がろうとしたジュードの顔面に蹴りを入れて、腕を斬る。


 オーギュストは、フロリアとは違って別に殺人に対してアレルギーがあるわけではない。これまでの冒険者人生でもやむを得ない場合には、相手の息の根を止めてきた。

 しかし不必要な時まで相手を殺して来たわけではなく、今回は既に勝負はついていた。

 

「おーい。2人ともコイツラを縛り上げるのを手伝ってくれ」


 オーギュストが声を掛けると、カーヤとロッテは隠れていた物陰から立ち上がる。

 ロッテは剣を握りしめていたが、それは無駄になったということだった。


 3人とも為す術もなく腕を斬られたことで、心が折れたらしく、尚も抵抗する気概も逃げ出す気力も無くなっていた。

 あっさりと縛り上げられる。


「せっかく、ここまで来たのが無駄になるが、いっぺん町まで引き返すぞ。コイツラをギルドに突き出して、罰してもらおう」


「分かった。でも信じてくれるかな」


「大丈夫だ。こいつら、もともと馬は持ってなかっただろ」


「そういえば、たしかに」


「冒険者ってのは馬みたいに不経済なものは持てねえんだよ。馬なんぞ使えるのは馬を従魔にすることに成功した召喚術師ぐらいだ」


 常に馬を使い続ける御者業ならともかく、依頼によって護衛であったり、採取であったり、討伐であったり、町中での依頼もない訳ではない冒険者は馬を維持し続ける経費が無駄になる。

 Sランクになるような稼げる冒険者ならともかく、通常は旅が多い稼業ではあるが、徒歩の旅が基本だ。

 ジュード達レベルの冒険者が馬を持っている訳はない。それが馬で追いかけてきたということは、町の商人か御者から馬を"かっぱらってきた"に違いない。もしかしたら、衛士や騎士の詰め所から盗んだ可能性すらある。

 

 今頃は一種の指名手配を受けていて、手すきの冒険者達が追手になっているかもしれない。その彼らを連れ帰れば、当然犯罪者を連れ帰ったものとして扱われる。

 昨夜の経緯も知れているのだし、こちらが彼らを一方的に襲ったとは思われないだろう。

 

 オーギュストはそのように説明すると


「それに万が一にでも、こっちが疑われるようなら、俺が身分を明かすまでだ。ここはまだヴェスターランド王国内だからな。

 ま、身分がバレたら、国境を超えるのを全力で反対されるだろうが、おおかたそれは必要無いだろうから心配するな」


 オーギュストの読みどおり、縛り上げた彼らを歩かせて、自分たちは馬で町に戻る途中で、町からの追手と行きあった。

 冒険者がしでかした不始末ということで、ギルドマスター直々に若手の冒険者を数パーティ引き連れての追跡隊であった。


 そこでジュード達を引き渡して終わりにしたかったが、馬を盗んだ先が何と町の役所だったそうで、けっこう大きな問題になっていて、直接の説明を求められ、町まで戻らなければならなかった。

 彼らが疑われることはなかったのだが、詳しい事情聴取が必要で、オーギュスト一行がようやく町をでたのは3日後のことであった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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