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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第2章 ニアデスヴァルト
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第17話 反撃1

 こうして数日が過ぎ、フロリアの元には情報が集まってくる。

 ケットシーの他にもシルフィードに情報収集を頼んだが、「あの猫、嫌い」と言って隠れてしまったので、やむを得ず、ケットシーにだけ頼んでいる。

 シルフィードは亜空間で呼び出して、時間を掛けて慰めて、ようやく機嫌を直したが、当分偵察任務は無理っぽい。


 しかし、クレマン以外にも撃退したが市場の3人組に複数の冒険者パーティから狙われているとなると、迂闊に町の中に入るのも憚られる。

 そもそも、チカモリの薬草の自生状況がこれでは、在庫の薬草を買い取り窓口に持っていくだけでも怪しまれるであろう。あまりに他の見習い冒険者が持参する薬草と品質も量も違いすぎる(品種だけはさすがに最初からありふれたものに抑えたのだが)。


 それで、もう町の中に入ることもせずに、時間を決めてケットシーからの報告を聞くために外に出る以外は亜空間に籠もっている。

 亜空間内のフロリアは、唐辛子攻撃の予想以上の効果に気を良くして、唐辛子の栽培強化に乗り出している。具体的にはプランターを増やしたのだが。

 後は、胡椒が手に入れば、料理も対人攻撃の幅も広がるのだが、あれはあまりに貴重品でこの地方では全然見かけない。そのうちに自由都市連合の交易隊が定期的に来る町まで行けば、いろんなものが手に入るかも知れない。


 トパーズは「せっかくのよい機会なのだから、冒険者ギルドに行けばよいのに」という。

 

 それで、多くの不良冒険者が引っかかってくれば、ちょうどよい対人戦闘の訓練になると言うのだ。


「フロリアは甘いことを言っているからな。いくら力があっても、相手を殺すのをためらったために負けることもある。アシュレイもそうだったが、必要があれば躊躇なく同族を殺せるのが生き延びるコツなのだ」


「ちょっと絡まれたぐらいで殺しちゃったら、さすがにこちらが犯罪者として追われることになるじゃない」


「ふん。アシュレイもそんなことを言っていたが、どこか森の奥にでもおびき出せばよかろう。誰かに見られたら、そいつも殺せば良いだけの話だ」


「トパーズ、乱暴すぎ」


 そして、14日になる。

 翌日はギルドマスターの帰還予定日である。

 この世界での旅行はそれなりに難事であり、予定が数日程度ずれるのは普通のことなのだが、さすがに商業ギルドのギルマスともなれば良い護衛をつけているし旅慣れている。旅先も、行き慣れた場所だということで、明日(15日)帰還する可能性はかなり高い。

 それで、クレマンはかなり焦っていた。

 フロリアが見つからないままだからだ。

 フロリアがギルドマスターと面会して、クレマンとの経緯を話すと、色々とギルドマスターに隠れて不正をしているのが暴かれるきっかけになりかねない。

 クレマンは、魔道具を預かる際に適当な預り証であっさり騙された小娘を小馬鹿にする発言を、手下のドニに対してしていたけど(その発言内容を聞いたとき、フロリアは真っ赤になって怒っていた)、今となってはその偽の預り証自体がクレマン不正の証拠になりかねないという訳である。

 名前などは故意に筆跡を変えているけど、使用している用紙は通信用途は言えギルドで使っているものに間違いないのがどうもまずいらしい。

 ギルドの透かし等は入っていない汎用品なのだがそれなりに高級品で、大きな町だと商家などでも使う場合もあるのだが、ニアデスヴァルトでは商業ギルドぐらいにしか出回っていないのだ。

 

 クレマンも迂闊なことをするものだが、ギルドマスター帰還前にフロリアを懐柔するか、それが無理なら拉致監禁して他の町に移すつもりだったので、預り証が問題になるとは思っていなかったらしい。

 

 そのクレマンの焦りっぷりをケットシーから聞いたフロリアは、馬鹿にされていたのがよほど腹に据えかねたらしい。 


「それじゃあ、クレマンさんにこっちから会いに行きましょうか」


「お、殴り込みだな。私にまかせておけ」

 

「トパーズに任せると、クレマンさんを食べちゃうから駄目。自分でやるから」


「あまいやり方になりそうだな」


「トパーズにはそう見えるかも知れないけど、人間は直接、齧られる以外にも色々とやられるとキツイことがあるんだよ」


「ふむ。まあ危険になるまでは好きにやれば良い。だが、フロリアが危ないと思ったら、私も勝手にやるぞ」


 そのような会話をしながら、夜を待ち、フロリアは静かに亜空間を出ると、町に近づく。すでに日付が変わりそうな時間帯で、夜が早いこの世界の人間はもう寝ているである。

 フロリアはいつもの服装とは違い、全身黒ずくめで、動きやすいように体の線がけっこう出るような格好をしている。フロリアは、お父さんが若い頃に流行った泥棒三姉妹のリスペクトしているつもりだが、だいぶ露出は少なめだし、あれほどセクシーな凹凸は無いのが残念なところである。


 フロリアは大門には向かわずに、町の土壁の上にジャンプする。

 7~8メートルもある土壁にはもちろん、自力で飛び上がれる訳もなく、風魔法を使ったのだ。自分の足の下に防御魔法をお椀を伏せたような形で発現させると、それを下から風で押し上げたのだった。

 アオモリの中で何度も試した技であるが、この静かな夜にやると、けっこう大きな音がしてギクリとする。土壁の上は人が登るように作られておらず、足場が悪いのだけれど、フロリアは四つん這いで掴まって、しばらく時間を過ごす。音を聞きつけて集まってくる衛士などは居ない。


 ホッとしたところで、今度はドライアドの眷属の蔓草に下までロープ代わりに垂れてもらう。すぐに隠蔽魔法と偽装魔法を使って、他者から認識されにくくすると、その蔓草を伝って地面まで降りて(結構怖いが、普段から森の中で走り回り、飛び回ることがあるので慣れていた)、小走りに商業ギルドを目指す。

 クレマンはなにか用事があるらしく、今日は遅くまで残っているのは、ケットシーの聞き込みで分かっている。

 ギルドの裏口のドアは鍵がかかっているが、昼間の間にケットシーが合鍵をくすねて来ている。

 範囲魔法で消音して、ドアを開き、スルリと中に入ると、ドアを閉める。

 探知魔法を使うまでもなく、1つだけ明かりがついた部屋にクレマンは居る。1人きりである。


 フロリアは目的の部屋の前に立つと、召喚魔法でザントマンを呼び出す。


「フロリア! 久しぶりだね。もっと呼んでよ、フロリア!」


 ザントマンが叫ぶ。消音していなければ、ぶち壊しになるところだ。


「しー! ザントマン、あの男の人を眠らせて」


「うん、いいよ。すぐに眠らせるよ」


 そう言うと、眠りの精霊ザントマンは、ドアの向こうに溶け込むように消える。

 数分で、ドアを通り抜けて戻ってきたザントマンは「眠らせたよ。眠らせたよ!」と報告する。


「ありがとう、ザントマン。しばらく帰らないでね」


「うん。帰らないよ。フロリアと一緒に居るんだ!」


 ザントマンは闇魔法系の眠りの精霊で、人々を眠りに陥らせることができる。前世でのドイツあたりの民間伝承では大きな砂袋を背負った男の姿だそうだが、このザントマンは身長が10センチほどで、土色のワンピースを来た、やはりコケティッシュな感じの美少女である。

 何故か、フロリアが呼び出すとみんな美少女になってしまうのだ。


 他に眠りを司る精霊には、淫夢で有名なサキュバスとインキュバスもいるのだが、フロリアはそもそも淫魔を呼び出すという発想自体が無いので、これまで召喚を試みたことが無い。

 フロリアが召喚したら、応じただろうか? 


 部屋のドアは鍵がかかっていなかった。フロリアは静かにドアを開けると、クレマンがなにか書き物をしている最中に寝落ちして机に突っ伏してしまっているのを確認する。


 机の上にはフロリアが預けた魔道具が置かれている。近寄って置かれたものを確認すると、預けたものが全てそのままここに置かれているようである。


「良かった。それじゃあ、返して貰いますね」


 そうつぶやくとフロリアは魔道具を一つ一つ破損などしてないか確認しつつ、収納していく。最後に、預り証を出すと、机の上に置く。


 そして、クレマンが何をしていたのか、調べてみることにする。

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