第160話 魔法使いとの戦闘2
そのゾルターンの叫び声に呼応するかのように、ようやく戦闘が行われている場所まで到達したフロリアは急停止して、騎士たちの頭の上を飛び越えて、ゾルターンと騎士達の間に割って入るようにふわりと着地した。
その拍子にドレスの裾がめくれて太もものかなり上のほうまで見えてしまっていたが、今のフロリアは戦闘モードに入っていて、気がついていない。
「また、あなたですか? 悪いけど、忙しいからすぐに終わらせますよ。と言うか、あなた、囮ですよね。領都で暴れているのは、あなたの仲間?」
フロリアは、モンブランとねずみ型ロボットからの緊急連絡で領都でも同時発生的に緊急事態が起こっていることを把握していた。
「気がついたのか? 驚いた娘だ。そうとも。俺がうまくお前をおびき出して時間稼ぎをしている間に、仲間が領主館に乗り込むという計画だ。あいつは従魔使いでとんでもない数のゴブリンを召喚することが出来る。こうしている間に、領主館はゴブリンに攻め落とされるという寸法だ。
ここで俺と遊んでいて良いのか? 町に戻ったらどうだ?」
魔剣の攻撃を凌いでいる間に、フロリアの到着を招いてしまい、逃げる機を逸してしまったゾルターンは、今度は口撃ですこしでもフロリアの気を引いて、油断や焦りを誘おうとした。
この小娘とまともに戦っては勝ち目はない。
しかも、こちらに急行しながら、領都の様子も把握しているとは、いったいどんな魔法を駆使しているのか?
まだ、手の内を全然晒していない、と思うべきだろう。
「すぐにあなたは拘束して、魔法を使えないようにします。それで町に戻れば間に合うから大丈夫です」
娘はそう言うと、更に何本もの魔剣を中空から出して攻撃してくる。
今やゾルターンを囲んで攻撃を仕掛けてくる魔剣は20本を超える。
操剣魔法を使う魔法使いはこれまでにも見たことがあるが、せいぜい2~3本を操るのみで、これほどの本数をこれほどの速度で、これほどの正確さで操るなどとても信じられない。
ゾルターンとて、真面目に冒険者家業をしていれば、Aランクの上位のほう、運良く大物の魔物討伐やギルドに貢献する依頼をこなせば、Sランクだって夢ではないほどの魔法使いである。
それが、事実上の1対1で、完全に防戦一方。
まともな手段で勝てないし、逃げることもできないとなると、不意打ちしかない。魔力の9割以上を防御魔法に費やしながら、ごく僅かの魔力を地面に流して、ゾルターンはフロリアの足元からロックランスを打ち出そうとしていた。
いくら優れた魔力の持ち主でも、自分の足元数10センチからいきなり攻撃されれば避けられるはずがない。
ましてやこの本数の魔剣を操作しているのだ。その他に防御魔法まで使えるとは思えない。
20秒ほどの膠着状態のあと、さあ次の瞬間、奇襲発動だと思った瞬間、フロリアが
「あ、その手は無駄ですよ」
軽く一言発する。
この娘の足元の地面はいつの間にか凍りついいる。それも魔力を伴った氷で、ゾルターンが地に這わせていた魔力は絡め取られ、へし折られてしまった。
「クッ!!」
声にならない唸り声を上げるゾルターン。
その瞬間、防御魔法の一部が薄くなり、そこに数本の魔剣が殺到して、とうとう防御魔法を破った。
更に思わず、その魔剣を防ごうと前に出した右手の平に1本が刺さり、次の1本が手首を斬りつけ、さらに次の1本が……。
これらの魔剣には麻痺魔法を付与してあるので、手の平に魔剣が刺さった瞬間にゾルターンは身動きができなくなったのだが、そこに数本の切れ味鋭い魔剣が襲って、ゾルターンが地に倒れるまでの数秒で、彼の右腕はひじと手首の中間ぐらいからすっぱりと切れ落ちてしまったのだった。
他の防御魔法も砕け、勝負はついた。
フロリアは魔剣を回収しながら、蔓草を収納から出して、ゾルターンに投げる。蔓草は豆の状態からスルスルと蔓を伸ばして、ゾルターンを縛り上げていく。
ゾルターンから数メートルの位置まで近づき、右腕にごく効果の薄い治癒魔法を掛けて出血を止め、ついでにひじの上から蔓草できつく縛っておく。
それから状態異常の魔法を掛けて、しばらく脳の状態を混沌にして、魔法を使えない状態にしたのだった。
これはアリステア神聖帝国の秘薬エンセオジェンの効果を見ていて思いついたオリジナル魔法で、実証したわけではないが、当分は効果があるはずだ。
フロリアは、くるりと振り向くと、「終わりました。これでこの魔法使いはしばらく動けないし、魔法も使えません。伯爵様。お怪我は無いですか?」と聞く。
半ば、あっけに取られている騎士達の後ろから、「あ、ああ……、大事無い」という声が聞こえて来る。
「それじゃあ、怪我した騎士さん達に治癒魔法を掛けますね」
ゾルターンから離れて、騎士たちの集まっている場所へ小走りで駆け寄る。
斃れている騎士を助けなきゃ。しかし、一箇所に集めて一人ひとり治癒魔法を施して、というのは時間が掛かる。領都の方も気になる。
フロリアは一旦はしまっていた魔導書を再び出すと、魔法の効果を一定の範囲に広げる魔法陣が描かれたページを開き、斃れている騎士たちを包む程度の(しかし、ゾルターンまでは包まないように)範囲魔法を展開し、同時に治癒魔法も流す。
ファイヤーボールを受けて倒れ、まだ煙がくすぶっている騎士の体を消火し魔法の残滓を排除して皮膚の再生をはじめる。口から食道、内蔵まで焼けただれている者も1人いるが、これも修復。
ロックランスで貫かれた騎士からはそのロックランスを抜くと同時に強力な止血を施し、内蔵組織を再生していく。
フロリアの全力に近い治癒魔法で範囲内は光りに包まれて、一種幻想的ともいる光景になっていて、騎士たちはもはや言葉もない。
そのまま放置しておいたら、全員死亡しただろうが、これで何とかなるだろう。完治までするかどうかは定かではないが。
「さあ、怪我をした人の鎧を脱がせて! 手当をしてあげてください。みんな、命に別状は無いから大丈夫です」
そう言うと、フロリアはさらに収納からポーションを4本出して、一番身近にいた騎士に近づき手渡しにわたす。
「これを1本ずつ飲ませてあげて」
そう言うと、「それじゃあ、伯爵様。先に領都に戻ります、この辺にはもう魔法使いの気配は無いから大丈夫です」というと、またシルフィードを呼び出す。
血なまぐさい現場を嫌うシルフィードだが、今はなんとか我慢して貰うしかない。
「ま、待て!! 小娘!!」
怒鳴り声。
「俺も連れて行け! ここが安全なら、領都が心配だ!!」
レオポルトの声である。
「え?」
驚くフロリアの前に飛び出してきたレオポルトは、その前でくるりと振り返り、
「伯爵様! どうか身勝手をお許しください!!」
そして、騎士のうち、3名に逃げた馬を4頭まで回収したら、すぐに伯爵を守って領都に駆け戻り、残りの騎士は怪我をした騎士と魔法使いの捕虜の見張りをして、応援がくるまでここで待て、と命じた。命じられた3名はバネじかけのようにぴょんととびあがると、すぐに馬が逃げたほうに駆け出す。
さらにまた反転してフロリアの前にたち、その巨体で少女を見下ろしながら、「俺も一緒に魔法で領都につれていけ。領都が心配だ!!」と怒鳴る。
「魔法使いが目を覚ましたら、どうするの? 伯爵様の近くにいたら?」
「お前が当分、身動きできないというならそうなのだろう」
人を連れて空を飛んだことはないし、仮にできたとしても遅くなるだろうから、1人で戻りたいところだが、このレオポルトの真剣な表情を見ていると、無碍にもできない。
フロリアのお人好しの一面が出て、
「それじゃあ、私にしっかり掴まってください。途中で振り落とされたら、地面におちてペッチャンコですよ」
と言ったのだった。
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