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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第8章 国境沿いの伯爵家
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第158話 急行

 フロリアは自室に戻り、すぐに普段の冒険者の服に着替えて、もうこの屋敷を出ていくつもりだったが、どこで見ていたのか中年のメイドが当然のようにフロリアの部屋に一緒に入ってきて、「お召し替えを手伝います」という。


 またフランチェスカの小さくなったドレスだろうが、爽やかなグリーンのドレスを持ってきている。


 このままこれ以上、伯爵家の思惑に乗っていても仕方ない。


「あ、もうドレスは結構です。これまでお世話いただきありがとうございます。本日で、お屋敷を出て町の中の旅館にでも泊まることにします」


 中年のメイドは全く顔色も変えずに、


「それは伯爵様のお許しが出てからにして下さいまし」


と返答する。


「それでは、伯爵様に取り次いで頂けますか」


「それはどなたか執事の方にお願い致します。私には伯爵様にお取次ぎする立場にございません」


「そうですか。それじゃあ、近くの執事さんを探します」


 そのまま、フロリアはもう一度、部屋を出ていこうとするが、「汗をかかれているので、お召し物を替えてくださいまし」と中年のメイドは引かない。


 結局、根負けしたフロリアはやや濃い目のブルーのドレスに着替えさせられる。白いレースがあしらわれていて、正直、身動きしにくいドレスだが、これでも貴族の令嬢にとっては普段着にすぎない。


 着替えさせられている最中、モンブランが眷属の鳶からの報告として、10数騎の騎馬が町から出ていったとのことであった。同様の報告がねずみ型ロボットからもあった。

 鳶のうちの1羽をその騎馬の監視に出し(ただし、町から数キロ程度離れたら戻ってくるように)、ネズミ型はそのまま町の周囲の警戒にあたるように命じた。


 さて、それでは執事を探しに行こうかと思ったところ、下働きらしいメイドがやってきて、中年のメイドに何かを囁き、中年のメイドが「伯爵様はお忙しいようです」と伝えた。


 フロリアはちょっとムッとして「いつ、お時間が空くのですか?」と聞くが、「存じ上げません」との返答。

 実際、伯爵の身の安全をはかるため、一部の者にしか細かい予定が知らされていなかったので、答えようが無かったのだ。

 決してフロリアを困らせようとしている訳ではない。

 この中年のメイドは、無感情で淡々と仕事をしているが、内心はまだ未成年であるこの少女が、大人の男から何度もしつこく絡まれていることに同情的であったのだが、彼女にはどうすることもできなかったのだ。


 もし、伯爵が町の外に出かけているという情報を得ていたら、フロリアは伯爵自体にはそれほど不信感を抱いている訳ではないので、そのまま鳶の監視を続けさせるように命令を変更しただろうが、この時は程なく鳶は戻ってきて、騎馬の集団は監視から外れてしまっていた。


 フランチェスカの方は、ダンスのレッスンの後は着替えてから、今度は文学の授業についていた。

 フランチェスカとしては、度重なる失点で不信感を抱いているであろうフロリアのフォローをしたいところであったが、しばらくやみ蛇の呪いを受けていて、これ以上の授業の遅れは容認できなかったのだ。


「こうしたことは男であるお父様ではどこまで上手に出来るかわからないし、義姉様にお願いできないかしら」


 跡継ぎの長男の夫人は、長兄よりもかなり若くてまだ20歳前で、フランチェスカとはけっこう仲良くしていたのだったが、これまでフロリアとはあまり接点が無い。

 もどかしく思いながら授業を受けていると、集中力に欠けて、家庭教師から叱責を受けてしまう……。


***


「フロリア。結局、出ていかぬのか? ずいぶんと流されておるではないか」


 トパーズはちょっと呆れたような、どこかフロリアをからかうような声で尋ねた。


「うん。なんかはぐらかされちゃうな。やっぱり貴族ともなると、この手のことは上手なんだろうなあ……」


 変な大人の男に絡まれるのは嫌だし、ニャン丸に聞かされたフィオリーナ囲い込み作戦も不快であったのだが、貴族家の暮らしが少し面白くなってきたのだ。

 足元がスースーするドレスも何日か経つと、これはこれで悪くないとなと思いはじめてきたのだった。


「でも、食事とベッド、それとお風呂は自前で用意したいかな」


 そんなことを考えていると、「フィオリーナ様!!」と中年のメイドが走ってくる。これまでの謹厳な態度が崩れ、かなり焦っているのが判る。


「フィオリーナ様、伯爵様に危難が迫っています。助けてください」


 何事かと思っていると、伯爵の跡継ぎとフランチェスカも数名の取り巻きを連れて走ってくる。


「フィオリーナちゃん、大変なの。お父様が魔法使いに襲われているの、お願い、助けて!!」


 フランチェスカが涙声で叫ぶ。


「魔法使い!? いったいどこで?」


「今日は視察に出ているのだ。そこで襲撃をうけ現在戦闘中なのだ」


 跡継ぎの長男が言葉を続ける。フランチェスカの時と同じく、伝書鳩が急を知らせたのだという。


「伯爵様はどこに居るのですか?」


「水道橋って判る?」


「知りません」


「この町から南西の方角に3キロほど行ったところだ。水路が分かればそれに沿っていけば着く」



「その水路は空から見て分かりますか?」


「ああ、もちろん。すでに騎士を応援に出しているが、時間が掛かる」


 地上を行くのだと、まずは大門を出てからだから、無駄に時間が掛かるのだろう。


「分かりました。間に合うかわかりませんが、できるだけのことはします」


 あっさり見捨てれば良さそうなものだが、このあたりがフロリアの人の良さというか、甘さであった。


「それじゃあ、ここから行きます」


 庭園になっている庭の数メートルほど高くなったところから飛び降り、その瞬間に足の下に防御魔法をクッションのように出現させると同時にシルフィードの魔法で上空に舞い上がる。

 あっという間に屋敷の屋根を越えるほど高く飛び上がるのだが、その瞬間、自分がドレスを着たままだったのを思い出す。


「わ、下から見えちゃう」


 ちょっと後悔したフロリアだが、今更降りて着替えてる暇がもったいない。高く上がれば逆に見えないだろうと、そのまま南西方向に町の建物の上空を飛び越え、壁も超える。


「あれが水路か」


 確かに水が流れる川が見える。一直線に走り、左右を土塁で固めているのが自然の川とは違うのだと判る。

 

 シルフィードは大空の下、最高速で飛ぶのが気持ちよさそうで、「どんどんいくよぉ、フロリア――ッ!!」と機嫌が良さそうであった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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